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告白9消えゆく命を前にすがってくるイヌクの心を、受け入れることもできず、しかし拒むこともできないスジョンだった。やがてゆっくり、朝陽が差し込んでくる。「今日、ジェミンが病室に移ったのを見届けたら、俺は消えるよ。だから心配するな・・ジェミンに知れることも、もうないだろう。」「消えるって・・・何処に行くの?」「心配してくれるのか?嬉しいな・・。」イヌクは寂しそうに笑った。二人ともただじっと天井を、見るともなしに見ていた。「おまえがバリを出てから、もうこんな日は来ないと思っていたよ。おまえを苦しめたな・・・すまなかった。」「イヌクさん・・・一人で・・・」スジョンは、あとは言葉にならなかった。「大丈夫だよ。おまえが最後の想い出をくれた・・・だから、もう思い残す事はない。あとはジェミンと幸せに暮らすと約束してくれ。」やがてジェミンも集中治療室から、病室に移ってきた。イヌクが用意した部屋はVIP用の病室だった。スジョンは大きく息を吸い込み、ジェミンに悟られないようにジェミンの枕元に行った。ジェミンがうっすらと目を開けスジョンを見た。「あなた・・」スジョンが声をかけると、にっこり笑った。その弱々しいジェミンの笑顔に、スジョンは後ろめたさを感じていた。ジェミンの頬にそっと手を当て泣くスジョンに、「心配かけたな・・」と優しく言った。スジョンはジェミンに甘えたかった。何もかも忘れて甘えて、その胸で泣きたいと思った・・。この幸せをどうして手放せるというのだろうか。スジョンは点滴の針がついた腕の手を握り、自分の頬につけて泣いていると、ジェミンはもう一方の腕でそっと抱きしめた。「あなた・・ジェミンさん・・ジェミンさん」スジョンは目の前にいるジェミンの存在を、確かめるように何度も名前を呼んだ。「あぁ・・可愛い人。もう泣くな・・。」ジェミンはいつものように、少しおどけた口調でいった。「心配かけたな・・俺はおまえをおいて何処にも行かないから・・心配するな」そう言いながらスジョンの髪を何度もなでていた。ジェミンの目から、幾筋も涙が枕に落ちた。するとスジョンの後ろからイヌクが顔を出した。「大丈夫か?」「あぁ・・・」そのとき看護婦がスジョンを呼びに来た。「ちょっと行ってきます・・。」スジョンが部屋を出ると、イヌクがベッドのそばの椅子に座った。「夢を見ていたよ・・・ずっと。」ジェミンが言った。「どんな?」「おまえと会うまえの俺は、ただおもしろおかしく遊び回っていた・・・会社でも仕事もせずにただ一日が終わって、遊びに行くことばかり考えていたよ。」ゆっくり・・思い出すようにジェミンは話し続けた。「それがスジョンを愛し、おまえという男に逢って、俺は変わった。」「そうか・・・」イヌクも又懐かしそうに思い出していた。「おまえのおかげで、仕事に興味を持ったよ。おまえを何とか追いつめようと必死だったからな・・。」「そんなこともあったかな・・・」イヌクが静かに目を閉じて答えると、「これでおまえに借りを返せたな。」と、ジェミンが苦笑いをしながら言った。「なんの借りだ?」「いつか、スジョンが働く店の前で喧嘩になったとき・・・おまえに助けられた・・。」イヌクも思い出したように、ふっと笑って言った。「いいや、俺達を助けたのはスジョンだった」するとジェミンも笑った。「そうか・・そうだったな・・」二人の心に同じ時間が流れていった。
Jan 31, 2008
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告白8スジョンは、イヌクに背を向けて泣いていた。「どうして・・こんなひどいことを・・」素肌の肩を震わせて泣いているスジョンを、イヌクが後ろから抱き寄せた。「すまない・・・ゆるしてくれ。」スジョンはもう抵抗をする気力もなく、抱き寄せられたまま泣いていた。もう・・・あの人のもとには帰れない・・。あの幸せだった時間を、取り戻す事ができない・・。あの人の笑顔には・・・もう逢えない・・。ジェミンへの愛を誓った心が大きく傷つき、そこからすべてが流れ出そうとしていた。あれほど愛してくれているジェミンに嘘をついて生きることは、スジョンにも辛い選択だった。しかし、ジェミンとの別れを思うと胸が張り裂けそうに、なお苦しい。絶望の中に堕ちていく運命をただ恨んで泣いた。「私・・・初めてあなたを憎いと・・思ったわ。」スジョンがイヌクに言った。イヌクは静かに目を閉じると、涙が次々に頬を流れた。静かな沈黙の時間が流れていった。そして、愛さずにはいられなかった気持ちを、スジョンに伝えたいとイヌクは心に決めた。「スジョン・・俺を憎んでも良い・・だから俺を忘れないでくれ」そう言うと、イヌクはスジョンを強く抱きしめて泣いた。スジョンは、驚いてイヌクの顔を見た。イヌクもスジョンの顔をじっと見つめて、スジョンの涙をぬぐいながら静かな声で言った。「俺の命がもうじき・・・尽きるそうだ」スジョンは目を大きく見開いて、イヌクを見つめた。今イヌクが言った言葉の意味が理解できず、心の中で何度も繰り返していた。「い・・いま、なんて言ったの?」イヌクは涙を浮かべながら「末期の肝臓ガンだ・・・だからもう、おまえ達の邪魔はしたくてもできないよ・・・心配するな」と、言った。「俺の命がもうじき尽きると知った時、無性におまえに会いたくなった。そんなときニューヨークに来て、逢えるはずのないおまえにまた偶然に会えた。神様からのプレゼントだと思ったよ。」イヌクは天井をじっと見つめながら話をしていた。スジョンに腕枕をするように、片腕にスジョンを抱きかかえていた。「俺は、もう故郷にも帰れない。誰も知らないこの地で誰にも看取られず逝くのかと思うと、急に恐くなった。こんな事なら、おまえに憎まれても良いからおれのそばにいて欲しかった・・・・だから、おまえをこれほど苦しめてしまった・・。許してくれ。その変わり、もう二度とおまえ達の前に現れないから・・・約束をするから・・・俺を許してくれ。そして・・・俺を・・・忘れないでくれ。おまえの憎しみの中にでも、そっとしまっておいてくれ・・おれの生きた証を、おまえの想い出の中にしまっておいてくれ・・」イヌクは言葉を詰まらせながら、スジョンに想いを伝えた。今までで初めて見るイヌクの悲しく切ない姿だった。いつも強い意志を持って生きてきたイヌクの、弱い姿をスジョンは初めて見た。孤独の中で死と向き合い、誰にも助けを求められず苦しみもがいてきた真実をスジョンは知らされた。「ジェミンがこんな事になって・・俺は恐ろしかった。あいつに何かあったらおまえが一人になってしまうと・・それが恐ろしかった・・。消えるのは俺だけで良い・・。」スジョンはイヌクの愛の深さを知った。しかし、その愛の深さを知れば知るほど、その愛にこたえられない苦しみが募るばかりだった。これも運命なのだろうか・・・スジョンはイヌクの心を思うと、抱いた憎しみが静かに哀れみに変わっていくのだった。「スジョン・・・お願いだ。今夜だけでいい・・俺の腕の中で眠ってくれないか・・明日になったら、おまえを今度こそ手放すよ。だから・・・今夜だけで良い・・俺のそばにいて欲しい」そう言ってイヌクはスジョンを抱きしめた。スジョンは泣いた。3人に与えられた運命を呪って泣いた。
Jan 30, 2008
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告白7「良かった・・・本当に、良かった・・」イヌクはジェミンが回復したことを知って、心から安堵した。ひとつ間違えばジェミンが、自分の身代わりになって死んでいったかも知れない恐怖を、イヌクは嫌と言うほど味わったのだった。その一方で、スジョンと共に過ごしたこの数日が尊い時間だったことを思っていた。明日からはもうジェミンのもとで眠るであろうスジョンを思うと、切なく胸が痛んだ。(もうスジョンとは・・お別れか・・。)空しさと寂しさの中で、イヌクは部屋に帰るとワインを開けた。「ワインなんか・・」スジョンが断ると「目が覚めたお祝いだ。それからおまえも少し眠った方がいい。明日から、ジェミンの世話も始まるだろう。俺にできることがあったら必ず言ってくれ」そう言ってグラスにワインを注いだ。スジョンはほとんど3日間眠らずにいたので、一杯のワインですっかり酔いがまわってしまった。激しい睡魔に襲われたスジョンは、ソファにもたれかかっていつしか深い眠りにおちていった。イヌクはそんなスジョンの姿を、自分の心に焼き付けるかのようにじっと見つめていた。(もう・・・こんなおまえを見ることもないな・・)と思うといたたまれないほどの淋しさを感じた。スジョンを暫く見つめ、やがて静かに抱き上げベッドに運んだ。(何度おまえをこの手でベッドに運んだかな・・・)スジョンを眠らせたベッドに腰掛け、スジョンの寝顔に手を添えながら考えていた。(おまえを抱こうとした時、ジェミンがおまえの部屋を訪ねてきたことがあった・・。あのとき、おまえを抱いていたら、おまえはおれのものだったのだろうか?)今となっては、遠い過去の出来事だった。疲れ果てて眠りについたスジョンを見つめていると、イヌクは自然と涙が溢れてきた。(愛しい・・スジョン・・俺の・・スジョン・・このまま自分のそばにいてはくれないだろうか・・・せめて、少しの時間だけでも・・。)イヌクはそう思うと切なさのあまり、眠るスジョンにそっと口づけをした。すると、想い出が次々によみがえり、懐かしさと愛おしさがたまらなくイヌクを襲った。(なぜ・・おまえを愛したのかな。どうして、おまえは俺から離れていったのだろうか。)いつもスジョンを守っているつもりだったあの頃、ジェミンがスジョンを求めるまっすぐな情熱が疎ましかった。(ジェミンのように何不自由なく育った人間にはわからない苦悩を、俺とスジョンは共有していたはずだった・・・。それなのに・・結局財産をすべて捨てた男についていくなんて・・)イヌクはそう小さな声で話しかけながら、もう一度キスをした。すると夢でも見ているのか、スジョンがにっこりと微笑んだように見えると、バリで過ごした幸せな日々が、イヌクの心によみがえってきた。(あのときに戻りたい・・・そしたら、今度はおまえを放さない・・。)そう思うと、イヌクはスジョンへの熱い思いがこみ上げてくるのを、我慢する事ができなくなった。「俺を許してくれ・・」とささやいて、イヌクは静かにスジョンを愛し始めた。優しくブラウスのボタンが、ひとつずつはずされていった。スジョンは夢を見ていた。ジェミンに抱かれる夢だった。温かく優しく・・・やがて、スジョンはジェミンの腕にしがみついて眠ろうとしていた。うつうつと目を開けると、スジョンはイヌクの腕にしがみついている事に気がついた。慌ててイヌクから離れようとすると、イヌクに力強く押さえつけられた。「いやぁ~~」スジョンの声が、広い部屋に悲しく響いた。
Jan 29, 2008
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告白6やがてイヌクが戻ってきた。「かなり傷が深かったようだが、手術は成功した。数日は集中治療室で様子を診る事になりそうだ。」スジョンに説明しながら、イヌクは苦悩の色を隠せなかった。「本当にすまない・・」手術が成功したときき、スジョンは少しほっとして聞いた。「どうして・・こんな事に・・」疲れ切ったスジョンの様子に、イヌクの心も痛んだ。「ソフィアの仕業だ・・。俺のせいで、おまえにもジェミンにも苦しい思いをさせた・・・すまない・・。」「彼女もあなたを愛していたんだわ」「ああ・・そうかも知れない。だが、俺にとっては淋しさを紛らわすための・・それだけの女だった・・。」「それなのに何故・・・」「あいつとは場末の酒場で知り合った。バリを離れ、ロンドンで仕事を始め1年半前にニューヨークに来たとき、仕事が次々にうまくいって周りの誰もがちやほやし始めた。作り笑いも嫌になって、一人で場末の飲み屋で飲むのが俺の息抜きだった。ある晩酔いつぶれた俺を介抱してくれたのがソフィアだった。」イヌクは冷蔵庫から水を取り出して、一口飲んだ。「気がついたとき、俺はあいつの部屋にいた。いつかおまえがバリで住んでいたような粗末な部屋だった。」スジョンは黙って聞いていた。「俺が目を覚さますと、あいつは俺をのぞき込んでいた。その胸元に、おまえがいつもしていたようなクロスのペンダントが揺れていた・・・そして俺は・・・。」とぎれとぎれになるイヌクの言葉に、スジョンは目を閉じた。「あいつもまた、貧しい女だった。心のどこかで、おまえにしてあげたかったことを、変わりにしていたのかも知れないな・・。」気を取り直すように、水を飲んだ。(ソフィアを愛せたら、俺もすくわれたのだろうか・・)イヌクの心にふとそんな思いがよぎった。スジョンは、自分たちが過ごした幸せな時間に、苦しみ続けていたイヌクの存在があった事を、改めて思い知らされたのだった。そのとき電話が鳴った。「本人は眠っていますが、少しだけ会えますよ」看護婦からの電話だった。二人は急いで集中治療室に向かった。ジェミンが酸素吸入器をつけたまま静かに眠っていた。スジョンはそっと額に手をやり、「いたかったでしょ?」とささやきかけた。イヌクは小さな声で「何故俺なんかのために・・・」と言って、言葉を詰まらせた。何事もなかったかのように静かに眠るジェミンの顔が、二人の胸に切なさを増していった。そのとき一人の医師が近づき「ミスター・カン、お話が・・」と言って、二人は出ていった。スジョンは許された時間までジェミンの手を取りじっと見つめていた。そして改めて、ジェミンへの深い愛を確認したスジョンだった。「あなたがいなくなったら、私も生きていけない・・・。」そう思うと、涙が自然と伝って落ちた。それから2日間ジェミンは目覚めることがなく、スジョンは3日間控え室にイヌクといた。「たまには少し横になったらどうだ・・」イヌクはジェミンに後ろめたさを感じつつ、スジョンと共に過ごせる時間と、スジョンの世話をやける事が嬉しかった。そのとき電話が鳴って、ジェミンが気付いたと知らせがきた。二人は慌ててジェミンのもとに駆けつけると「やぁ・・」と力なくジェミンが笑っていた。「あなた・・」スジョンはジェミンに抱きついて泣いた「あっいたぁ」スジョンは驚いて「ごめんなさい・・」と離れると、「壊すなよ・・」力のない声で、笑って言った。イヌクはほっと肩をなでおろした。「明日から一般病棟に移りますよ・・。」看護婦の言葉が嬉しかった。
Jan 28, 2008
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告白5「スジョン・・大丈夫か」何も応答しないスジョンに、イヌクは大声で呼びかけた。スジョンは床に座わりこんだまま呆然と(夢であって欲しい・・・夢であって欲しい・・)と、祈りながら全身の震えを押さえることができなかった。やがてサムがスジョンを迎えに行き、病院まで送り届けると手術室の前でイヌクが椅子に座って静かに目を閉じていた。「あの人は?何処にいるの?どうして?」スジョンは半狂乱のようになって、手術室のドアにしがみつき中に入ろうとしていた。イヌクが急いで後ろから抱きかかえ、「今手術中だ・・」と言った。泣き叫ぶスジョンを振り向かせて、イヌクは抱きしめた。「すまない・・・こんな事になるとは・・。」「いや・・放して。」スジョンはイヌクの腕をすり抜けて、震えながら椅子に座った。次々に流れ落ちるスジョンの涙が、イヌクの心の傷に深く染み込んでいった。愛を求めたが故に、狂いだしてしまった運命だったのか・・イヌクは、自分が裁かれているかのように思った。長い、長い時間が静かに過ぎてゆく。放心状態のスジョンと、手術室に入ったままのジェミンを、ただじっと見守るしかないイヌクであった。悔やんでも悔やみきれない後悔が、イヌクの心に押し寄せていた。暫くするとサムがやってきた。そっとイヌクに耳打ちをすると、二人はスジョンから少し離れたところで話を始めた。「どうやらソフィアが、あの男に指示したらしいです・・・」「そうか・・」あの事件以来、ソフィアにマンションの権利書と、まとまった金を渡して別れを告げたイヌクだった。『絶対にあなたを許さない・・・』別れ際に言ったソフィアの言葉がよみがえった。愛という名の狂気がすべてを狂わしていくのだろうか・・・イヌクの乾いた心がいっそう空しく感じられた。「それでソフィアはどうした?」またいつ誰かに危害を加えかねないかと、イヌクは心配になって聞いた。「ええ、あの男の供述でソフィアも捕まりました。」イヌクは静かに目をつぶって、大きなため息をひとつついた。「それで、あの方の傷の方は、どうですか?」イヌクは静かに首を横に振って「まだわからない・・」と言った。「そうだ、病室の手配を頼む。」「はいわかりました。」サムはそう言って席を立った。やがて明け方になって、手術中のサインが消え、痛々しいジェミンが運び出された。「あなた・・」スジョンがジェミンのそばに近づこうとすると、「もう暫くお待ちください」と看護婦に言われ、ジェミンを見送ることしかできなかった。「これから集中治療室に入ります。」医師がイヌクにそう伝えた。スジョンはイヌクと集中治療室の向かいにあるVIP用の特別室に移っていた。ベッドやリビングもあり、集中治療室からも直接医師と話が出きるようになっていた。「少し休めよ・・」言っても聞かないと思いつつ、痛々しいスジョンを気遣わずにいられなかった。暫くすると電話が鳴り、主治医から呼ばれた。「俺が行って来るから、おまえはここで休んでいろ。」「いいえ・・私も行くわ」そう言ってスジョンが立ち上がろうとしたとき、めまいを起こし思わず倒れそうになったのを、イヌクが支えソファに座らせた。「今は俺が行く。その後でまた話を聞こう」そう言ってイヌクが部屋を出て行った。ここ数日の出来事で、スジョンは心身共に疲れ切っていた。しかし、ジェミンを思えば眠ることすらできないスジョンだった。「あなたに会いたい・・」スジョンは途方もない暗闇に、つつまれていく不安を感じていた。
Jan 27, 2008
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告白4ジェミンはあきれたように答えた。「おまえ、自分が何を言っているのかわかっているのか?」イヌクは窓に目をやり、相変わらず美しい夜景を暫く見つめていた。ジェミンの心のゆとりが羨ましく、悲しかった。以前であればすぐに自分に向かってきたジェミンが、自分のプライドのために闘いもせず、再び何もかも捨ててニューヨークを去ると言い切る力が妬ましく思われた。「本当におまえは変わったな・・・牙のない虎か?」イヌクはジェミンを挑発するように言うと、ジェミンはただ苦笑いをするだけだった。「逃げ出すのか・・おまえらしくもない」「おれらしい?何がおれらしいのかな?」「プライドだけで生きていただろう・・・あの頃は」するとジェミンはきっぱり言った。「すべてを捨てた俺だ。今はスジョンと生きることしか考えていないよ。」暫く静かな時間が流れたあと、イヌクがぽつりと言った。「何故・・・同じ女を愛したのかな・・」ジェミンは、イヌクの嘆きはひとつ間違えれば自分の嘆きでもあったかも知れないと・・ふと思った。「とにかく、俺とスジョンはこの街を出る。だからおまえももう忘れてくれ。頼む」ジェミンがそう言って立ち上がり部屋をでると、イヌクも追って部屋を出た。「まてよ、まだ終わっていないぞ」イヌクの言葉に振り返ったジェミンは、廊下の影に隠れていた男がイヌクめがけて飛びかかるのを見た。「危ない」と叫んでジェミンはその男に突進した。イヌクが振り返ると、スジョンを連れ去ろうとしていた男がナイフをもって襲いかかってくるところだった。ほんの一瞬の出来事だった。イヌクをかばってジェミンが刺され、その場に倒れ込んだ。イヌクはその男を殴り飛ばし、大声で叫んだ。「誰か来てくれ・・誰かぁ・・」ジェミンが倒れた絨毯が、次第に赤く血に染まっていった。スジョンは帰りが遅いジェミンを心配しながら、荷物の整理を始めていた。ニューヨークに来て初めて二人で買い物をしたのが、ペアのコーヒーカップだった。そのコーヒーカップを揃えてテーブルに並べ、スジョンはこの3年間を思い起こしていた。安物ではあったが、スジョンが気に入ったこのカップを買ったのだった。そのときジェミンは小さな声で「ごめん」と言ったのを、スジョンは聞こえないふりをし、嬉しそうに笑って見せた。たくさんの思い出が詰まった部屋になっていた事を、スジョンは改めて思うのだった。ひとつひとつ、そのどれをとってもジェミンとの想い出が込められていた。幼い頃両親を亡くし孤児として兄と二人、貧しさと苦しさの中で生きてきて、やっと巡り会えた幸せだった。「孤児・物乞い・寄生虫・ゴミ」そう呼ばれありとあらゆるいじめに遭いながらも、自分と兄を守るために必死に生きてきて、お金さえあれば幸せになれると信じて疑わなかった頃。ジェミンに近づいたのも、最初はP財閥の御曹司だったからだ。しかし、いつしかジェミンの素直な情熱に心惹かれ、何もかも財産を失ったジェミンを心から愛するようになっていた。今の幸せを守るためなら、地の果てまででもジェミンと共に歩いていこうと思うのだった。そのときスジョンの携帯が鳴った。見るとそれは、ジェミンの携帯からだった。「もしもし・・遅いから心配したわ」スジョンが言うと暫く返事がなかった。「もしもし・・」「俺だ・・」それは紛れもなくイヌクの声だった。(何故・・イヌクさんから・・)スジョンの鼓動が大きく高鳴った。「今すぐ迎えをやるから、その車に乗って来るんだ。ジェミンが刺された」イヌクの声が緊迫していた。スジョンは全身が震え、気を失いかけた。思わず携帯が手から滑り落ちると、テーブルにおいていたコーヒーカップにあたって落ちた。カップが割れる乾いた音が、想い出の詰まった部屋に空しく響き渡った。
Jan 26, 2008
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告白3「パク先輩が心配だ。ここまで苦労してきた会社を、奴らの思いのままにして欲しくない。俺とおまえがいなくなれば、あいつももうパク先輩の会社にも興味がないはずだ・・。」「ええ・・・そうね。いつ出るの?」「なるべく早いほうが良いだろ・・。」「そうね・・」二人がこのニューヨークからでることによって、また平穏な日々が送れるのなら、初めからやり直しても良いと思っていた。「ごめんなさい・・・」スジョンはすべて自分の責任だと思っていた。貧しさの中で必死に生きてきたスジョンは、金持ちをはめて復讐することを望んでいたが、やがてイヌクを愛しはじめ心の支えとしながらも、まっすぐに向かってきてくれたジェミンの愛に心を許した。自分の幼さと迷いが傷を深くしたのだと、後悔していた。「この3年はあっという間だったな・・」スジョンに腕枕をしながらジェミンは言った。「ええ・・本当に。」「今だから話すが、俺はおまえを幸せにしてやれるかどうか、心配だった。」「どうして?」「何もかも捨ててきたから、おまえにしてやりたくてもできなかった・・・。」「たとえば・・・バッグや靴やドレスを思う存分買うって言うこと?」ジェミンはそんなこともあったと、思い出して笑った。「あぁ・・そうだな。家だってそうだ。もっと大きくて、メイドもいて・・・。」スジョンがジェミンの口を指で押さえた。「私は、とっても幸せだわ。あなたといれば何もいらないの。あなたはいつも私を守ってくれた・・。そして二人で作った幸せが、私は何より大切だわ。」やっと築いた幸せの場所を離れて、新たな場所を求めさすらうことを決めた二人だった。数日後ジェミンは再度イヌクを訪ねた。「まぁ座れよ」今回はイヌクと話し合うつもりで来ていたので、ジェミンはイヌクと向かい合って座った。「俺とスジョンはおまえの前から姿を消すよ」イヌクは思った通りだというような顔をした。「それで解決できると思うか?」「俺達は何も望んではいない。今となってはP財閥だろうが何だろうが、俺には関係がない。ただ今の会社に手を出すのはやめてくれ。勿論、俺から今回の上場をやめるように説得もするが・・」「ふっ」とイヌクは小さく笑った。「おまえ達が何処に行っても、必ず捕まえることができるさ・・・」「どういう意味だ」「何処までも追っていくよ。もう、あの苦しさはごめんだ」ジェミンは、イヌクの真意がわからなかった。「おまえのねらいは、いったい何だ?俺達への復讐か?」「俺達?俺はおまえに興味はないよ。復讐?そんな事は思ってもいない。ただ俺がスジョンを愛する気持ちを、大切にしたいだけだ。」「お前はスジョンを、まだ苦しめるつもりなのか?」イヌクは両手を握りしめた。「苦しむ?俺はこの3年間苦しんだ・・。忘れよう・・・忘れようと、思えば思うほど、この腕があいつを求める。この胸があいつのぬくもりも求めるんだ・・わかるか?俺だって、苦しんだ。」ジェミンは何故か、イヌクの気持ちが分かった。自分もあのときは同じだった。すべてを捨ててスジョンを迎えに行ったとき、スジョンはすでにイヌクとバリに旅立っていた。そして翌日、イヌクが投資会社と結託して3000万ドル横領したと知り、スジョンもイヌクの計画に荷担していたらしいと聞いたとき、どれほど苦悩したことだろうか。それでもスジョンを愛する心を、捨てることができなかった。スジョンをイヌクに奪われるくらいなら、自分のこの手で殺そうと思い詰め、二人の部屋に入り込んだのだ。あのとき、イヌクが「おまえの勝ちだ」と言っていなければ、スジョンと過ごした幸せな3年間はなかった。もしも俺だったら・・・おれもスジョンを忘れることはできないだろう・・と、ジェミンはふと切なさに胸が痛くなった。「ひと月でいい・・スジョンを俺のそばにおいてくれ・・。」イヌクは寂しそうに笑って、ジェミンに言った。
Jan 25, 2008
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告白2憤りと不安を持ったまま、ジェミンはイヌクの部屋をあとにした。『いいや・・・これも運命だ・・おれの気持ちを察して、神様が巡り合わせたのかな。』『スジョンを・・・おまえの女を、俺にくれないか』いつまでもイヌクの声が、耳からはなれない。ジェミンは漠然と暗雲が二人を包み込み始めている予感がし、スジョンが待つアパートに急いだ。「お帰りなさい」ジュリがリビングでテレビを見ながら言った。「ああ、遅くなってすまなかった」「スジョンはずっと寝ているわ」ジェミンはそっと寝室を開け、静かに眠るスジョンの顔を見て安心した。「ありがとう・・」立ち上がって帰ろうとしたジュリが、ジェミンに小さな声で聞いた。「いったいあなた達に何があったの?スジョンはどうしたの?」「何でもないよ。大丈夫だ・・。」無理に笑って答えるジェミンを見て「何かあったらいつでも言って。できるだけの事はするわ・・あっ、それからキッチンにピザがあるわ。さっきショーンがもってきてくれたの。食べるときはオーブンで温めてね。それじゃぁ・・」とジュリは言って帰っていった。ジェミンはジュリを送り出すと、ソファに沈み込んだ。イヌクにはもっと言いたいことが山ほどあったはずなのに、何故か言葉がでなかった。『ああ、わかっているさ。その変わり、P財閥の株をすべておまえに返してやる。今の会社からも勿論手を引かせる・・。だから、スジョンの前から姿を消してくれ。』イヌクの言葉が重くのしかかってきた。(今のあいつはおそらくそれだけの力を持っているに違いない。俺が捨ててきたものにはなんの未練もないが、パクの会社は何とかしなければならない・・。俺達のことで迷惑はかけられない・・)そう思った時、スジョンが何故イヌクと会ったことを電話で告げなかったのか理解できた。(スジョンもきっと、同じようにイヌクに脅されていたのか・・。)一人でどれほど苦しんだことだろうか・・・そう思うと、ジェミンはスジョンが可哀想でならなかった。(やはりもう一度あいつとは話さなければならないな・・・。)そのときスジョンが目覚めた。「起きたか?」「ええ・・良く眠ったわ・・」「そうか、良かった。ショーンがピザをもってきてくれた。食べようか?」「ううん・・まだいいわ。」ジェミンはベッドに腰掛けてスジョンの頬をなでた。「スジョン・・・何があったか、話してくれるか?でも、もしも嫌なら無理をするな。」スジョンは目を閉じ、暫くじっと考えていた。「もういいよ。無理するな・・・。」ジェミンが言うと、スジョンはゆっくり起きあがって、ベッドの背もたれに寄りかかった。まっすぐジェミンを見つめながら、イヌクに出会ったことから話し始めた。リジュンの名前で車に乗せられホテルのラウンジに行ったこと、どうして良いかわからず、思わず橋から身を投げようかと思ったときにイヌクに止められ、気を失って気がついたらイヌクの部屋にいたこと・・そしてソフィアのこと。ソフィアに呼び出され、そして連れ去られたことを話した。そこまで話をすると、スジョンは泣き出した。「もういい・・もういいよ。」と言って、ジェミンはスジョンを抱き寄せた。「スジョン・・・俺と、このニューヨークをでようか」スジョンは涙をためた瞳で、じっとジェミンを見つめ、そしてゆっくりうなずいた。
Jan 24, 2008
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愛再び~告白1倒れ込んだイヌクは、切れた唇を押さえながらゆっくりと立ち上がった。「すまなかった・・・」イヌク自身、スジョンがあのまま連れ去られるのではないかと恐怖を覚えた事も事実だった。考えただけでも、そら恐ろしく自分の力のなさを恨んでいた。ジェミンはイヌクを睨み付けながら聞いた。「いったい何があった・・・」イヌクはテーブルに酒を出して、ふたつのグラスに注ぎ「まぁ、座れよ」と、ジェミンに言った。「結構だ・・・それより、きちんと説明をしてもらおうか」ジェミンはわき上がる怒りを抑えている。イヌクはグラスを一気に飲み干して「おまえは変わったな・・」とジェミンに言った。「なにぉ」「愛の力か・・・」イヌクは自嘲するように笑いながら言った。以前のジェミンなら、何が何でも自分の気がすむようにしたに違いない。もう一度酒を注ぐと、イヌクはグラスをもって立ち上がり、窓に寄り添って美しく光る夜景に目をやった。「スジョンを呼び出したのもこのホテルだった・・・今夜みたいにきれいな夜だったよ」「おまえがスジョンを呼び出したのか・・」「スジョンは俺が呼び出したことを知らないで来た。おまえをイギリスに行かせた晩だった」ジェミンはやはり今回の件は、イヌクの策略だったと確信した。「おまえ、いったいスジョンをどうするつもりだった」ジェミンはいらだたしそうに聞いた。「おまえから奪うつもりだ・・返してくれないか俺に」「何だと・・・これ以上、スジョンを苦しめるのか」ジェミンはイヌクに近づき、イヌクの胸ぐらをつかんで詰め寄った。するとイヌクはじっとジェミンを見つめ、静かに言った。「おまえは幸せか?」ジェミンは、イヌクが何を言いたいのかがわからなかったが、イヌクから手を離して、答えた。「幸せだ・・・だから何だ」イヌクは小さくふっと笑い、ソファに腰かけた。「俺はおまえに言った。俺は金を手に入れて愛を失った。おまえは財産を失って、愛を手に入れた・・と」ジェミンがスジョンを連れ去るときのことだった。ジェミンもふと、そのときの事を思い出していた。「おまえ・・・あのとき何故俺を撃たなかった・・・」イヌクはか細い声で、目を潤ませながらジェミンに言った。「あのとき俺を撃っていれば、いまさらスジョンにこれほど苦しい思いをさせずにすんだんだ・・。」ジェミンが答えないでいると、イヌクはさらに続けた。「そして俺も・・・これほど苦しまなくて良かった・・。あのとき、心からスジョンの幸せを願ったまま・・・何もかも捨てたかった。」ジェミンはそのときを鮮やかに覚えていた。自分がイヌクを殺そうと二人の部屋に忍び込んだとき、スジョンが自分の前に立ちはだかり、大きな涙を流しながら必死で止めた。そのとき、イヌクが「おまえの勝ちだ」と言ったのだった。「今更なにを言っているんだ。おまえが二度とおまえの前に現れるなと言ったから、俺とスジョンはバリを離れてニューヨークに来たんだ。それなのにおまえは、俺達を追ってきたのか?」「いいや・・・これも運命だ・・おれの気持ちを察して、神様が巡り合わせたのかな。」イヌクが寂しそうに微笑んで言った。「スジョンを・・・おまえの女を、俺にくれないか」ジェミンはあきれたように笑って答えた。「おまえ・・・いったい自分が何を言っているのかわかっているのか?」「ああ、わかっているさ。その変わり、P財閥の株をすべておまえに返してやる。今の会社からも勿論手を引かせる・・。だから、スジョンの前から姿を消してくれ。」ジェミンはこれ以上話をしていても仕方ないというように、ドアに向かって帰りかけ、振り向きざまに言った。「スジョンが俺の女だと?あいにくだな・・・あいつは俺の命だ」勢い良く閉まるドアを見つめてイヌクが静かに目を閉じた。
Jan 23, 2008
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葛藤10スジョンは食欲がなかったが、ジェミンが心配そうにのぞき込むのでフォークを手に取ると、その様子を見てジェミンが察して、フォークをとりオムレツを一口スジョンの口に運んだ。「食べなきゃだめだ」スジョンは小さくうなずき、ジェミンの手からオムレツを口に入れてもらうと、優しい味が口の中に広がり、急に胸が熱くなって何故か涙が溢れた。ジェミンは驚いて「どうした?まずかったか?」と慌ててたずねた。スジョンは首を横に振って「ううん・・おいしいわ」と答えると、ジェミンは嬉しそうに笑い「そうか・・おまえが泣くほどおいしかったんだな」いかにも満足そうに、エプロン姿で胸をはってみせた。スジョンはジェミンに愛されている幸せをかみしめていた。その幸せが涙となって、とめどなく・・・とめどなく溢れてくるのをとめられなかった。「どうした」ジェミンはスジョンを喜ばせたい一心で作ったオムレツだったが、それを食べて泣き出してしまったスジョンを前にとまどっていた。「どこか痛いのか?」スジョンは思わず、ジェミンの首に手を回して抱きついて言った。「幸せだから・・・涙が出るの」ジェミンは、心が締め付けられるほどスジョンを愛しいと思った。一日も早くスジョンを、悪夢から救い出したいと心から願い、ジェミンも強く抱きしめた。「さぁ、今日は俺が掃除をしよう。暫くおまえは休んでいろ」食事を運んだトレーに乗せてある赤い花を、スジョンの髪に挿しながら言った。寝室のドアを開けたまま、ジェミンが洗い物をする音や、掃除機をかける音が聞こえてくる。スジョンはベッドに横たわったまま、いつかジェミンが言った言葉を思い出していた。『掃除は他の人間にやらせろ』『だって私の仕事が掃除なのに』『俺の女らしくしろ』そう言っていたジェミンが、今はエプロンをつけて自ら掃除をしている。スジョンは幸せを感じながらも、何不自由のない生活を捨ててしまったジェミンに申し訳のない気もしていた。「シャワーを浴びるか?」暫くするとジェミンが寝室に顔をのぞかせて、スジョンに聞いた。ジェミンはスジョンのために何かをすることが嬉しかった。自分のそばにいてくれる幸せを実感していたのだった。夕暮れになって、スジョンが眠りについた。疲れ切った精神状態の中で、やっと少しだけ心安らいできたように思えた。スジョンの寝顔を見ながらジェミンは、イヌクと会わなければならないと心に決めた。ジェミンはジュリに電話をかけ、少しの間スジョンを見て欲しいと頼んだ。「どうしてもやらなければならない仕事があるんだ。2時間ほどで戻るから」そして、ジェミンはイヌクのホテルに向かった。フロントで確認をして、イヌクの部屋のチャイムを鳴らす。「俺だ」暫くしてイヌクがドアを開けた。「入れ・・スジョンはどうしている」と、開口一番にイヌクが聞いた。すると、ジェミンはいきなりイヌクを殴りたおした。「これ以上あいつを苦しめるな」ジェミンの顔は怒りに満ちていた。
Jan 22, 2008
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葛藤9スジョンはここ数日間の出来事を、ジェミンの胸で癒されていくように、安堵の中で深い眠りにおちていた。ジェミンはスジョンを起こさぬように、そっとベッドから抜け出しリビングに行き酒を出し一人飲み始めた。もう陽が暮れかけている。長く苦しい時間だった。やっと安心して眠りについたスジョンをみて、全身の緊張感が抜けていくようだった。痛々しいスジョンを思うと、イヌクに対して沸々と怒りと憎しみがこみ上げてくるのを押さえきれずにいた。命を懸けて手に入れた幸せが、儚く消え失せてしまいそうな不安に襲われたジェミンは、何度でも命を懸けて守ってみせる・・・と、心の中でつぶやいた。グラスを一気に飲み干して深くため息をついた。そして一日も早く、スジョンの心の傷を癒してあげたいと願った。寝室に戻ると、スジョンは疲れ切って深い眠りについているようだったが、引き裂かれたブラウスがあまりにも痛々しく、ジェミンは思わず目を背けた。明日目覚めたら、せめて夢だったと思わせたい・・ジェミンは静かにスジョンを着替えさせ始めるのだった。そっとブラウスを脱がすと、隠れていた傷やあざが目に入り、ジェミンは自分の傷以上に傷みを覚えていた。肩に残った大きなあざにそっとキスをして、静かに泣いた。イヌクはホテルのプールサイドに一人いた。泣き叫ぶスジョンの痛々しい姿を思い出すたびに、自分を責めていた。愛されないとわかっていて、それでもなおスジョンを求める自分の心が、おぞましくもまた意地らしく、切なさに身を焦がすようだった。スジョンとの思い出が浮かんでは消えてゆく・・。バリでともに過ごしたわずかな時間が懐かしく、愛おしかった。プールサイドで日がな一日、スジョンと過ごした日々も思い出された。ホテルの室内プールと違い、まぶしい太陽が燦々と降り注ぐ中で愛したスジョンは、すでに遠い・・遠い存在になってしまったと感じていたが、それでもなお、スジョンを愛する心がイヌクの中で生きたいともがいているのだった。スジョンを忘れるには、イヌク自身もこの3年間であまりにも深く傷つき過ぎていた。愛は罪か・・・愛されない愛は罪なのだろうか・・。イヌクの頬につっと涙が流れると、イヌクは急いで立ち上がりプールに飛び込んだ。涙がプールの水に溶け込んでゆく・・・部屋で一人泣くには、あまりにも辛い涙であった。誰にも気付かれず・・願わくは自分自身でさえも気付かぬように、溢れる涙を涸れるまで捨ててしまいたいと、いつまでもイヌクは泳ぎ続けていた。翌朝、スジョンが目覚めるとすでにジェミンが起きていた。一瞬、何が夢で何が現実なのかスジョンは混乱し、そしてすべてが現実であったことを思い出していた。少し痛む腕を見ると、いつの間にか着替えていることに気付いた。「あなた」スジョンがジェミンを呼ぶとジェミンが答えた。「起きたか?今行く・・」すると、ジェミンがなんとエプロンをつけて現れたので、思わずスジョンは吹き出した。「どうしたの?」「どうだ、似合うだろ・・」ジェミンはスジョンの前で一周回って見せた。そしてベッドに腰掛けスジョンにキスをし「おはよう・・良い朝だ」と明るく言った。「いったい何事?」スジョンが聞くとジェミンは笑って答えた。「飯にしよう・・・ここで待っていろ」そう言って、ジェミンは寝室を出ていくと、両手でトレーを抱えて戻ってきた。ベッドの中でスジョンに朝食を食べさせようと、朝早くから準備をしていたのだった。「さっ、起きあがって食べろ。うまいぞ・・」スジョンはジェミンにされるまま起きあがり、トレーに並んだ料理を見た。オムレツとパンとミルクとフルーツが並び、小さな一輪の赤い花が添えられていた。「これをあなたが・・?」「あぁ・・朝からショーンに電話をして教えてもらったから、味は保証付だ。心配しないで食べろ」スジョンは可笑しくて笑った。「心配したわ・・グラーシュだったらどうしようかと思って」「おまえ・・それは昔の話だ」とジェミンはわざとすねたように言うと、その様子が可笑しくてスジョンが笑った。スジョンの笑顔を見て、不安で乾ききったジェミンの心が潤ってくるのを感じていた。「あなた・・ありがとう」スジョンの笑顔に一筋の涙が伝っていった。
Jan 21, 2008
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葛藤8イヌクは目の当たりに、スジョンとジェミンの愛の深さを知った。狂ったように泣き叫ぶスジョンを抱き寄せ、スジョンを守ろうとするジェミンの愛が、スジョンを正気に戻したのか・・・。スジョンへの愛・・ジェミンへの愛・・・この間には何者も入り込めないことを、イヌクは寂しくも受け止めていた。ジェミンの一点の迷いもない愛に、3年間の長い時間が折り込まれていることをイヌクは感じた。イヌクは空しさと淋しさと安堵と・・・自分の心が何処に向かっているのかがわからなくなっていた。ただ、スジョンが正気に戻れたことが、唯一の救いだった。ジェミンはその場に座ったまま、眠るスジョンを抱きかかえていた。乱れた髪を優しくなで、唇の傷をそっと指でなぞり、ジェミンはスジョンを愛おしそうに抱きしめていた。スジョンはジェミンの上着にしがみつくように、しっかり握りしめたまま眠っていた。もう離れまいとするかのように・・・。「俺が悪かった・・・おまえを一人にしたから・・恐かっただろうな・・許してくれ」ジェミンは、眠るスジョンに優しくささやいた。そしてイヌクに言った。「もう・・俺達を放っておいてくれないか」イヌクは何も答えられなかった。「こいつは今でも夢を見て、おまえに謝っている・・そんなスジョンに、これ以上どうしろというんだ・・・おまえは何をしたと言うんだ・・。」ジェミンは沸々とわき上がる怒りを抑えながら言った。イヌクは黙って天を仰いだ。すると、ジェミンは携帯を取り出し、ジュリに電話をした。「悪いがショーンと迎えに来てくれないか・・スジョンが見つかった」連絡がとれなくなったスジョンを、ジュリもショーンも一晩中探してくれていたのだった。それを聞いたイヌクが言った。「今動かすのは可哀想だ。スジョンは一睡もしていない・・・。このまま少し落ち着くまで、寝かせてやってくれ」ジェミンが静かに・・・しかし強い口調で言った。「この部屋でか?スジョンが恐ろしい目にあったこの部屋で、休ませるのか」あらゆるものが散乱し、スジョンがどれほど恐ろしい目に遭ったのかがジェミンでさえわかるのだ。やがてジェミンの携帯が鳴って、ジュリたちが迎えに来た事を知らせた。ジェミンは自分の上着でスジョンを包み込もうとしたが、スジョンが上着を握って放さなかった。破れたブラウスのままでは車に乗せるまででも、不憫でならない。その様子を見てイヌクが、落ちているスジョンの上着をかけようとするとジェミンが言った。「俺のスジョンにさわるな」上着を受け取り、自分の手でスジョンを包み、抱き上げた。「もう・・・俺達を忘れてくれ」出口に向かって歩きながら、ジェミンは静かに言った。イヌクはただ黙って二人を見送った。迎えに来たジュリは驚いてスジョンの様子を見た。ショーンはジェミンに大丈夫かと聞いた。二人はスジョンを気遣い、アパートの部屋まで送ると帰っていった。スジョンをベッドに寝かせると、まだジェミンの上着をしっかり握っていた。仕方なくジェミンはスジョンの指をそっとはずしていくと、今度はジェミンの指を握りしめた。おまえに恐い思いをさせた・・・許してくれ。ジェミンは流れる涙を止める事ができなかった・・スジョンが起きないように、声を殺して泣いた。「やめて・・・助けて・・」夜中にスジョンがうなされていた。「スジョン・・・俺だ。もう心配するな・・・」眠らずにスジョンを見守っていたジェミンが、優しく髪をなでながら言った。スジョンはうっすら目を開け、目の前にいるジェミンを見つめた。涙がとめどなく溢れ、ジェミンの顔がにじんで見えた。「あなたなの?帰ってきてくれたの?」スジョンはジェミンの顔を指でなぞった。「あぁ・・王子はお姫様を助けに帰ってきた・・・もう、何も心配するな」少しでもスジョンの心に負担をかけないように、わざと明るく言った。「あなた・・・ジェミンさん・・」スジョンは声を上げて泣いた。ジェミンの温かな胸の中で、思い切り泣いた。果てしなく苦しかったこの数日が、ジェミンの優しさに癒されていくのだった。ジェミンはスジョンをしっかり抱きしめた。「スジョン・・俺のスジョン・・・可愛い人・・もう心配するな」そう言ってジェミンは優しくキスをした。何もかも忘れさせるかのように・・。
Jan 20, 2008
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やがて長い夜が明け始めた。スジョンは一晩中震えながら、膝を抱えて座り込んでいるままだった。少しナイフで切ったと思われる腕から血がにじみ、頬は赤くはれあがり、唇にも切れた血の痕がある。引き裂かれたブラウスが赤く模様をつけたように、血の痕を残している。イヌクが優しい声で言った。「スジョン・・・大丈夫か」そう言っただけで、スジョンはびくっと驚き、逃げようとしていた。(このまま・・・スジョンは狂ってしまうのか・・?)イヌクは身を引き裂かれるよりも、辛かった。いっそ狂ってすべてを忘れ、自分のもとに帰って来てくれたら・・・そう 心の隅で思いつつも、あまりにも痛々しいスジョンの姿を目の当たりにして、イヌクも泣いた。(俺のせいだ・・)そのときスジョンの携帯が鳴った。ジェミンからだった。イヌクは意を決し電話をとると、いきなりジェミンが大声でどなった。「何で電話をとらなかった・・あれほど出かけるなと言っただろ。今どこ にいる・・」スジョンと暮らし始めて3年の間に、スジョンに対して、これほどいらだった声を出したことがなかった。イヌクは静かに目を閉じて言った。「俺だ・・・」ジェミンの声色が不安と怒りに満ちていった。「おまえ・・・何をしている。何故スジョンの電話を・・・」「今、何処だ」「残念だったな・・もう帰ってきたよ。スジョンはどうした。」語気を荒げてジェミンが聞いた。イヌクは何も説明せずに、ソフィアのマンションに来るよう言った。ジェミンから血の気が引き、不安で今にもわめきだしそうになるのを必死 でこらえるのがやっとだった。昨夜から連絡がとれず、一晩中探し回っていた。タクシーに飛び乗り、すぐさま教えられたマンションに向かった。「俺だ」ジェミンの声に、イヌクがドアを開けた。「スジョンは何処だ。」イヌクを睨み付けながら聞いた。(無事でいてくれ・・)祈るような気持ちだった。イヌクは隣の部屋を目で教えた。ジェミンは急いでその部屋に入ると、スジョンの変わり果てた、あまりの姿に絶句した。部屋の片隅で膝を抱えてうずくまるスジョンは、ブラウスが引きちぎられ、胸もとがはだけ、唇や腕からも血のにじんだ痕がある。頬も赤く張れ、やつれ果てていた。なにが起きた・・・?たった三日間でこんなに変わり果てた姿を見ようとは、ジェミンは夢にも思っていなかった。一気に溢れる涙をぬぐいもせずに、スジョンのもとへ近づこうとした。「スジョン・・・」ジェミンが肩に手を触れた途端、スジョンは又狂ったように泣き叫び、おびえ逃げまどっていた。「ずっとこうだ」イヌクが言った。ジェミンは変わり果てたスジョンを、暫く呆然と見つめた。「おまえ・・・俺のスジョンに・・何をした?」ジェミンは泣きながらイヌクに聞いた。イヌクはうなだれ、「すまない。俺のせいだ」と一言いった。今すぐにでも殴りかかりたい気持ちを押さえて、ジェミンはスジョンを 見つめた。どれほど恐ろしい目に遭ったというんだ・・。「スジョン・・・俺だ・・スジョン」優しく声をかけてまた近づいた。逃げまどうスジョンを、たまらずにジェミンは思い切って抱き寄せた。「俺だ・・」ジェミンの腕の中で、暴れ狂うスジョンを必死で抱きしめ、スジョンが抵抗しジェミンをどれだけたたいても、ジェミンはスジョンにたたかれるがまま、それでも抱きしめた。そして、暴れるスジョンの頬を両手で押さえ、無理矢理キスをした。長く優しくキスをした。暫くもがいていたスジョンがやがてふっと正気を取り戻したようにジェミンを見つめた。「あなた・・・?」「ああ・・・俺だよ」ジェミンはスジョンが安心するように、優しく笑って答えた。ジェミンを見つめる目が涙で溢れ、スジョンの指先がジェミンの顔をゆっくりなぞった。そして、安堵したかのようにフッと小さく息を吐き、しがみつくようにジェミンの胸のなかで気を失った。 「スジョン・・スジョン・・・もう心配するな・・・」ジェミンは強く、強く抱きしめた。
Jan 19, 2008
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葛藤6鳴り続ける携帯を手に握ったまま、片手でソフィアの腕をつかむと、恐ろしい形相でイヌクが言った。「スジョンに何かあったら・・おまえを殺す」ソフィアは急に恐ろしくなった。「あなたを愛しているのよ・・」震える声でソフィアが言うと、イヌクが詰め寄った。「良いから早くスジョンの居場所を教えろ!」ソフィアはそれでも顔を背けて言った。「あの女さえいなければ・・あなただってもう苦しむこともないじゃない」携帯が鳴りやんだ。スジョンの事が急に恐ろしく心配でたまらなくなったイヌクは、ソフィアに懇願した。「頼む・・・おまえの望みを叶えてやる・・だから早く教えろ」イヌクの体が震えていた。イヌクはサムに連絡をとって、ソフィアのマンションに向かった。スジョンが気がつくと、暗いベッドルームに寝かされていた。何があったのか暫く思い出せない。そして車に連れ込まれた事を思い出すと、慌てて起きあがりドアを開けようとしたが、隣の部屋で話をしている男の声がかすかに聞こえた。「今更何を言っているんだ・・金?もう金だけの問題じゃねえよ」そして、静かになったかと思うと足音が近づいてきた。スジョンは恐ろしくてドアを押さえた。「何をしてる・・」と言うと、その男はドアを一気に蹴りあけた。その勢いでスジョンは倒れ込むと男がにやりと笑いながら覆い被さってきた。スジョンは必死に声を上げながら逃げ回った。手に当たるものすべてを男めがけて投げつけ、逃げだそうともがいた。しかし男に足を掴まれ、また倒れ込んでしまった。「いい女だな・・・」スジョンのブラウスを引きちぎり、不気味に笑った。それでも暴れるスジョンを殴りつけ、両手を押さえ込んだ。「誰か・・助けて」無理矢理キスをする男の唇を噛んだ。男は少しひるんで、唇の血を舐めるとスジョンを睨みつけて言った。「たまらねぇな・・」スジョンはじりじりと、部屋の片隅に追い込まれて行った。「おもしれぇ」男はスジョンを力一杯抱き寄せた。「やめてぇ」イヌクがソフィアの部屋のドアを勢い良く開けると、スジョンの叫ぶ声が聞こえ、イヌクはすぐに寝室のドアを開けた。驚いて男が振り返ると、イヌクが言った。「やめろ」すると男は「ちっ」と舌打ちをして、いきなりスジョンの腕をねじ上げて立ち上がらせ、ナイフをスジョンの首筋に当てた。「そこをどけ」スジョンは恐怖に顔をゆがめ、頬には幾筋もの涙が伝っていた。「金ならやる・・好きなだけ。だからその女を放せ」すると男は、フンと鼻で笑った。「もう金じゃないさ。こんな上玉、俺様にしたらもう一生拝めねえよ。この女が欲しいだけだ。」イヌクが飛びかかろうとすると、ナイフをスジョンの首にいっそう近づけた。イヌクは出口を開けた。男はスジョンの首にナイフを付けたまま、少しずつ後ずさりしながら出口に向かった。そのときドアの近くで身をひそめていたサムが、いきなり後ろから男の腕を押さえつけた。ナイフが床に落ちスジョンが倒れ込んだ。怒りに震えるイヌクが、狂ったように男に殴りかかった。いつまでもいつまでも男を殴り続け、見かねてサムが止めに入った。「彼女を・・」イヌクはサムに促された。「そいつを連れていけ・・・」サムは、男を連れだした。「スジョン・・・」イヌクが近づいてスジョンを抱き起こそうとすると、スジョンは狂ったように逃げまどった。「助けて・・・助けて・・」大声を張り上げ、叫び声をあげ、イヌクは近づくことさえできなかった。部屋の片隅に膝を抱えて座り込み、ただ震えて泣いている。長く美しいスジョンの髪の乱れが、痛々しかった。イヌクが近づこうとすれば泣きわめいて逃げまどう・・・一晩中、それを繰り返すばかりだった。部屋の片隅で震えながらうずくまるスジョンを、イヌクはただ・・・見守ることしかできずにいた。スジョンの携帯には、何度もジェミンから電話が入っていた。イヌクはじっと、スジョンの携帯を見つめた。(おまえならスジョンを助けられるのか?)
Jan 18, 2008
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葛藤5翌日、スジョンがまだベッドの中でまどろんでいると、携帯が鳴った。ジェミンからだった。「良いかスジョン、良く聞け。俺が帰るまで絶対に外出はするな。いいな。」「どうしたの?」ジェミンはスジョンに不安を与えたくなかった。そして、スジョンはジェミンがすでに何かを感じていることを知った。「頼むから俺の言うとおりにしてくれ。また、連絡をする。」心配でたまらずいらだつ心を押さえて、ゆっくりと話をしているのがわかった。「わかったわ」電話を切ると、日常の中に戻ってきたような気がした。優しいジェミンの声で心がすくわれる。(夢であってほしい・・・)窓辺に差し込む陽ざしが、少しだけスジョンの心を穏やかにしていった。いつもジェミンが座る椅子に腰掛け、静かに目を閉じた。「もしもし・・スジョンさんね」スジョンの携帯に、ソフィアから電話がかかってきたのは夜の9時過ぎだった。何故スジョンの携帯番号を知っていたのか、スジョンは不思議でならなかった。「あなたのことはあの人から全部聞いているわ」「なにかご用ですか?」「良いことを教えてあげる・・・会いましょう」「いいえ・・そのつもりはありません」「あなたの彼の会社がどうなっても良いのかしら・・・。」スジョンが心配していたことだった。「どういうことですか・?」「あの人の企みを教えてあげるわ・・・今ならきっと間に合うはずよ。」スジョンは迷っていた。「私はどちらでもかまわない。ただ、昨日のことあなたに謝りたいから・・・。」それでもスジョンは黙っていた。「イギリスにいる彼に、すぐに連絡をしないとあの会社は乗っ取られるわ・・」「なんですって・・」「詳しい話を教えてあげる・・。出てきて・・今、あなたのアパートの前にいるわ」そして電話が切れた。『俺はジェミンの会社を思い通りにできる・・』イヌクの言葉がよみがえった。自分のためにみんなを不幸にできない・・・スジョンは不安でたまらず、出かける決心をした。「何処にも出かけるな・・」ジェミンの声を思い出しながらも、行かなければならないと思った。ソフィアはアパートの前でスジョンを待った。ソフィアはサムに嘘をつき、スジョンの事を聞き出していた。イヌクと知り合って1年半の間、いつもイヌクが求めていた女がスジョンだったと気がつき、ソフィアはスジョンに憎しみさえ抱き始めていた。あの女がいなくなれば・・・。やっと手に入れた豊かな生活と、愛されていないとわかっていても、イヌクのそばで過ごすわずかな時間がソフィアにとって生まれて初めて味わう幸せの時間だった。もう二度とあの場末に戻りたくない・・・ソフィアは必死だった。暫くするとスジョンが出てきた。「こんばんは」ソフィアが嬉しそうに笑った。「話を聞かせてください」「ええ、良いわ。」そのとき目の前に止まっていた車からいきなり一人の男が現れて、スジョンの口をふさぎ車に押し込んだ。あっという間のでき事だった。スジョンが落とした携帯電話を慌ててバッグにしまい込み、走り去る車を嬉しそうに見送った。ソフィアはその足でイヌクの部屋を訪れていた。何とかイヌクの機嫌をとりたかったのだ。「何しに来た。呼んでないぞ・・」いつも通りの冷たいイヌクだった。この冷たいイヌクが、スジョンに対してだけみせた愛しさが屈辱的でもあった。「謝りに来たの・・もう二度と、あなたの邪魔はしないわ・・。」イヌクは知らぬふりをして酒を飲んでいた。イヌクにまとわりつくソフィアを疎ましく、思わずソフィアの手を払いのけると、その勢いで倒れ込んだ。テーブルに置いたバッグが落ち、中に入っていたスジョンの携帯がイヌクの足下に滑り出た。慌てて隠そうとしたときに、スジョンの携帯が鳴った。イヌクはいつもと違うソフィアの着信音に、何気なく足下に落ちた携帯を見ると、それはなんとジェミンからの電話だった。イヌクの形相が変わった。「おまえ・・・スジョンに何をした!」
Jan 17, 2008
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葛藤4「どういうつもりだ」イヌクはソフィアに向かって大声で叫んでいた。「いったい私はあなたのなに?」イヌクは冷たく笑って言った。「都合のいい女だ」ソフィアの顔色が青ざめていく。「あなたと知り合ってもう1年半になるわ。いつも私はあなたに忠実だった・・。それなのに私は都合のいい女だけだったの?」「ああ、そうだ。それはおまえも同じだろう。俺の金を目当てに一緒にいるだけだ、今さらどういうつもりだ。」どれだけ尽くしても、都合のいい女にしか思われていなくとも、ソフィアはそれでも幸せだった。たとえ都合のいい女でも、イヌクには自分しかいないという思いだけでソフィアは満たされていた。ソフィアとイヌクは場末の飲み屋で知り合った。やけになっていた頃、イヌクはよく場末の飲み屋に通っていた。酔って眠り込み、それを介抱してくれたのが、飲み屋で働いていたソフィアだった。それから女にマンションを買い与え、生活を見るようになっていったのだ。ソフィアも貧しい暮らしの中で、すさんだ生活から救い出してくれたイヌクをいつしか愛し始めていた。イヌクもまた淋しさを紛らわすのに都合が良く、寂しいときは呼び、めんどうくさければ会わずにすむ・・そんな関係だった。ソフィアはやっとつかんだ幸せを、スジョンのために奪われたくなかった。自分の生活を奪われるかも知れないと言う恐怖が、ソフィアを逆上させていた。「こんどあいつに何かをしたら・・・俺は絶対におまえを許さない。いいか、わかったな。それから今後、俺が呼ばない限り、ここには来るな。」今までに見たこともないイヌクの姿だった。(これほど自分には冷たいのに、何故あんな女に・・・。今に見ていて・・)ソフィアは嫉妬に満ちた表情で部屋を出ていった。「もしもし・・サム?ミスター・カンからの依頼よ」ソフィアが情報屋のサムに電話をした。ジェミンはパクとともにイギリスの投資会社に赴いていた。心の奥でずっと何かが引っかかっていることに、ジェミンは苛立ちを感じていた。何かが霧の中で見え隠れしているような、そんな思いだった。「待って・・・私ね・・・本当にあなたを、愛しているわ」スジョンの電話の声にも、ジェミンは不安を抱いていた。初めて離ればなれに過ごす時間が、果てしなく緩やかに流れていくように思えた。「良い提案をもらったな。次の事業展開も大幅に見込めるし、パートナーとしては最高のランクだろう」会議を終えてパクとジェミンはエレベーターに乗って話をしていると、途中階で止まった。そこで来客を案内するかのように乗り込んできた、一人の男を見た途端、ジェミンの脳裏に浮かび上がった場面があった。「あのときの男だ・・・あのときの男が何故?」P財閥の流通部門に投資を申し出たという投資会社の2人の社員が、交渉に来たときにジェミンは同じエレベーターに乗り合わせた。そしてそのとき彼らを案内していたのはイヌクだった。その時の男に間違いがなかった。「何かがある・・・」ジェミンは力を込めて拳を握り、唇を噛んだ。そしてスイヌクの顔が浮かび、スジョンの事がなおいっそう気がかりになった。気がつくと、もう陽が沈んでいた。スジョンは電話をもったまま、ただじっと座り込んでいた。何を考え、何を思っていたのかさえわからずに、まるで心を失ってしまったかのように呆然としていた。この先の歩まねばならない漆黒の闇を思うと、涙が頬を伝った。そして一人で過ごす2日目の夜が明けていった。
Jan 16, 2008
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葛藤3「どういう意味ですか」スジョンはイヌクを見つめて聞いた。「俺はジェミンの会社を思い通りにできる・・」スジョンの脳裏に、社長のパクやリジュンや仲間のボブの顔が浮かんだ。何も持たずにジェミンとスジョンが、パクを頼りにニューヨークに渡ってきた時、パクは何も聞かずリジュンとともに優しく迎え入れてくれた。アパートを探し、少しずつ買い足していった家具や食器・・・ひときれのパンを分けあって食べた夜もあった。一枚の毛布に二人でくるまって眠ったこともあった。財閥の御曹司として何ひとつ不自由なく暮らしてきたジェミンが、すべてを受け入れて、ただお互いを守ることに必死だった3年の幸せな月日だった。ジェミンと幸せに暮らせた3年間が、彼らのおかげであったことを片時も忘れたことはない。この3年間の幸せは、もしかしたら自分にとって一生分の幸せだったのかも知れない・・・と、スジョンは思うのだった。優しく笑うジェミンの顔を思い浮かべると、スジョンの胸は張り裂けそうに痛んだ。彼らを苦しめることはできない。イヌクの言葉が決して脅しではないことを、スジョンは感じていたのだ。「どうすれば・・・いいの?」「おまえ次第だ。」スジョンの手が握っていたドアのノブから力なく離れた。とそのとき、部屋のチャイムが鳴った。イヌクはいかにも迷惑そうな顔をして出ようとはしなかったが、立て続けに何度も鳴るので仕方なくドアを開けた。「昨日は待っていたのに・・・」と言いながらいつもイヌクのそばにいる女、ソフィアが入って来るとスジョンを見つけて言った。「どういうこと・・」イヌクはドアを開けたことを後悔した。ソフィアは嫉妬に満ちた表情で、いきなりスジョンの頬をたたいた。「何をする」イヌクがすぐさまソフィアの腕を引き寄せて、突き倒した。そのときスジョンはイヌクの部屋を飛び出した。「スジョン」イヌクの呼ぶ声が背中に響いた。スジョンを追いかけようとするイヌクに、ソフィアがしがみついていた。スジョンはホテルの前からタクシーに乗り込み、イヌクが追って来るのではないかと、後ろばかりが気になりながらも家に帰った。部屋に入り震える手で鍵をかけると、その場に座り込んでしまった。長く苦しい夜だった。しかし、それは終わりではなく、始まりに過ぎない夜だった事をスジョンにはわかっていた。部屋の中には、ジェミンとの幸せな思いでが溢れていたが、それがすべて幻の様にさえ思えてくるのだった。そのとき、携帯が鳴った。ジェミンからの電話だった。スジョンは、迷ったが出なければ心配するだろうと、大きく息を吸い込み声を整えた。「もしもし・・」「あぁ、俺だ、今着いたよ。おまえ飯は食べたか?」懐かしくて温かなジェミンの声が、気丈に悟られまいとするスジョンの心を一気にうち砕いた。「どうした・・何があった?」電話の向こうで泣いているスジョンの様子に、ジェミンの顔色が変わった。「おい・・どうした」思わずジェミンも声を張り上げた。スジョンは、どれほどジェミンが心を痛めているかがよくわかっていた。このままではいけない・・・。「だって・・・あなたに会えないから・・」ジェミンはふ~っとため息をつき、そして嬉しそうに「馬鹿だな・・・すぐに会えるよ。」「ええ・・」「いいか、あまり外に出かけるな。出るときはジュリと出かけろ。良いな」「わかったわ・・・」「また電話するよ」「待って・・・私ね・・・本当にあなたを、愛しているわ」ジェミンは嬉しそうに笑って照れながら言った。「俺も、愛しているよ。じゃあな」スジョンは、切れた電話を長い時間ただじっと見つめていた。
Jan 15, 2008
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葛藤2スジョンは大通りから裏道を抜けてゆっくりと歩き、やがて橋をゆっくり渡りだした。車のライトがまぶしく行き交う中を、まるで夢遊病者のようにおぼつかない足下で歩いている。やがてスジョンは立ち止まり、橋の下を流れる川をじっと見つめ、今にも身を投げるかのように見えた。驚いたイヌクは慌ててスジョンに走り寄り「何をしている」と、スジョンの腕をつかみ抱き寄せた。その途端スジョンは、イヌクの腕の中で意識を失った。イヌクは驚いてスジョンを抱き上げ、タクシーを停め自分の部屋へと連れて帰った。ベッドに寝かせると、イヌクはスジョンの乱れた髪を掻き上げた。頬に残る涙のあとが、スジョンの苦悩をくっきりと映し出している。スジョンを哀れとも思いながら、それでもスジョンのそばにいられる時間に幸せを感じるイヌクだった。ベッドに眠るスジョンを、静かにそして愛しそうに見守った。(それでも俺は幸せだよ・・・。おまえのそばにいられたら、それで良い。このまま目を覚まさずにいてもかまわない。泣いているおまえを見るくらいならいっそ、このまま記憶をなくしてくれればいいとさえ思うよ。俺のことを忘れても良い・・・だから、あいつのことも忘れてくれ・・)スジョンを見つめるイヌクの目にも涙が溢れ、手を優しく握りながらイヌクはそう祈り続けた。やがて空がうっすら明るくなってきた。一睡もせずにイヌクはスジョンのそばに寄り添っていた。(朝よ・・来ないでくれ・・・このまま二人を闇のなかに隠して欲しい)いつ目覚めて立ち去るかわからないスジョンを思うと、イヌクは心の中でそう繰り返し願うのだった。スジョンはジェミンが何度も「何処にも行くな」と叫んでいる夢を見ていた。ジェミンの手を握ろうと懸命に手を伸ばすのに、どんどんジェミンの手が遠くなっていく。やがて、「何処にも行くな・・・何処にも行くな」と、いうジェミンの声だけ聞こえ、スジョンは両手を差しだし懸命にジェミンを探し回っていた。そのとき、ジェミンの手を握れないように腕を掴まれてもがいた。「放して・・・放して」スジョンは自分のうわごとで、うっすらと目を覚ました。イヌクがスジョンの頬にながれる涙をそっと拭いていた。スジョンは驚いて飛び起きた。「どうしてここに・・」「気分はどうだ?」慌てて立ち上がろうとしたスジョンは、ふらついてイヌクの胸に倒れ込んだ。「もう少しここにいろ」倒れ込んだ スジョンを抱きかかえてベッドに戻そうとすると、スジョンが言った。「その手を放して・・・もう、私はあなたとは同じ道は歩けないの。だけど、あなたが私を許してくれないのなら、私はあの人とも別れるわ。それで良いでしょ」イヌクの傷の深さを嫌と言うほど思い知らされたスジョンは、すべて自分のせいだと責めていた。「それで昨日はあんな事をしたのか?」スジョンは、静かに目をつぶって答えた。「それで、あなたの苦しみが消えるなら・・・それで、あの人を苦しめることがなくなるのなら・・・いつでも、死ぬわ。すべての罪は、私にあるから・・」そう言うと、スジョンはふらつきながらイヌクの腕を静かに振り払い、ゆっくりと離れていった。見るからに疲れ切っているスジョンのやつれた頬が、朝の光の中でいっそう青白く浮かび上がった。そのやつれた顔が、イヌクの胸を締め付けた。長く苦しい一夜だった。「おまえの幸せを願っていたよ・・・ずっと。だが、おまえが不幸であって欲しいとも思った。どこかで俺に助けを求めて泣いてはいないだろうか・・・おまえの姿を探し求めたこともあった・・。」思わずスジョンは立ち止まった。「それが罪か?愛する女をこの手に抱きたいと思うことが罪なのか?愛してくれとは言ってない。せめて、あいつのいない時間だけでも、俺のそばにいて欲しい。」「さようなら」「帰れるものなら帰れ。あいつの会社がどうなっても良いのなら・・。」ドアのノブに手をかけたスジョンが凍り付いた。
Jan 14, 2008
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愛再び~葛藤1イヌクの言葉に、スジョンは泣き崩れた。「帰ってこい・・・俺のもとに・・・帰ってきてくれ」イヌクが泣き崩れたスジョンを、抱きおこしながら言った。するとスジョンの体が震えていた。切なく、愛しく、哀れで、イヌクの胸が痛んだ。「俺が・・・恐いか?」スジョンを思い続けてきたイヌクの3年間と、スジョンがジェミンと幸せに暮らした3年間の大きな隔たりを、イヌクはスジョンを抱き起こした腕で感じた。その途端イヌクは狂ったように、スジョンを抱きしめた。こみ上げてくる感情を、もう押さえることができなかった。「お願い・・やめて・・ジェミンさん・・助けて」泣き叫びながら必死でジェミンの名を呼ぶスジョンに、イヌクの力が失せた。「何故、俺じゃなかった?どうして俺を愛さなかった・・・」そう叫んで、グラスを手に取り壁に向かって投げつけた。愛したが故の苦しみと、愛されたが故の悲しみが出口のない部屋に押し込まれた。放心したようにスジョンは座り込んだまま、身動きできずにいた。ただ涙だけが、スジョンの瞳から溢れて止まらない。イヌクが両手で顔を覆いながら言った。「どうすればいい?こんなにおまえを愛してしまった俺は・・」ジェミンは寝付かれず仕事の資料を作っていると、ふとスジョンが自分を呼ぶ声を聞いた。ジェミンは胸騒ぎがした。するとすぐにあの晩、スジョンを見つめるイヌクの顔が浮かび、ジェミンの顔に苦悩の影が差した。久々に見せる、ジェミンの苛立ちの顔だった。急なイギリス出張のタイミングに、ふとジェミンの不安は大きくなっていくばかりだった。戻れるものなら、戻りたい・・と心の中で繰り返していたが、空の上では何もなす術もなかった。スジョンの笑顔が見たい・・離れて数時間しか経っていないとわかっていても、ジェミンは、ただスジョンの笑顔が見たいと心から願った。「このままおまえを、誰も知らない世界に連れ去ろうか・・・・たとえそれが地獄であっても俺はいとわない・・・。このまま生きるより、その方がましだ。」床に座って泣くスジョンを、イヌクは悲しく見つめながら言った。暫くして、スジョンは顔を上げてイヌクを見た。泣きはらした目が、イヌクの心を痛め胸に突き刺さった。「どうするつもりですか・・」スジョンが聞いた。「どうしたい?」「どうすれば、許してもらえますか」「許す?誰が誰を?俺はただ・・・おまえを取り戻したいだけだ。」黙っているスジョンにイヌクは聞いた「こんどは俺が聞こう・・・どうすれば、おまえを取り戻すことができるんだ?それを知りたい。」スジョンは大きく見開いた目に涙をいっぱいためながら、まっすぐイヌクを見て言った。「あなたのもとには、もう帰らない。」イヌクが寂しそうに笑った。「残念だな・・・それなら、俺がこの手で手に入れようか」絶望と言う名の扉が静かに開いていくのを、スジョンはもう止めることができないと悟った。スジョンは、半ば放心状態で静かに立ち上がってドアに手をかけた。ふらつく足下をかばいながら、何も持たず部屋を出ていった。その様子を見て、イヌクはスジョンのバッグをもってゆっくり後を追った。『あのころのように、こんなときはおまえを優しく抱きたい・・』イヌクは傷ついたスジョンを優しく抱きしめた昔を、懐かしく思い出していた。自分の胸で泣くスジョンに「泣くな・・」と言いながら、髪を優しくなでたあの頃に戻れるものなら・・・すべてを捨ててもかまわないと、思いながらイヌクはスジョンの後を追った。
Jan 13, 2008
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再会10スジョンは意を決したように、イヌクの腕をふりほどき 「どういうことですか?」とイヌクを睨んで聞いた。イヌクはそれに答えず「気が強いのは、変わっていないな」と言いながら、優しくスジョンの頬を指でなでた。「帰らせて」スジョンはバッグを手にして帰りかけたが、イヌクが腕を強くつかんでもう一度スジョンを抱きしめた。「やっと会えたんだ・・・。3年もかかったよ」イヌクは静かに目を閉じてスジョンを抱きしめると、その頬に涙が伝った。「少しで良い・・・時間をくれないか」イヌクはスジョンをソファに座らせ、テーブルにセットされているワインをグラスに注いだ。イヌクの涙を見て、スジョンの心が張り裂けそうに痛んだ。イヌクを裏切った過去が、いつも胸の奥底に渦巻いていた。今の自分が幸せであればあるほど、イヌクへの罪深さに胸が押しつぶされそうだった。「ごめんなさい・・・本当に、ごめんなさい。」スジョンの頬にも幾筋もの涙が流れた。その姿を見て、イヌクが悲しそうに笑った。「あの日も、おまえはそう言った・・・」あの日・・・それは、ジェミンに心を残してきたと、言ったときのことだった。苦しみを紛らわすようにワインを飲み干して、イヌクが言った。「俺はあの日以来、何故おまえを手放したのかと・・・ずっと後悔してきたよ。おまえが幸せになってくれれば、それで良いと思っていた。いつかはおまえを忘れられるだろうと・・・。だが、時が経てば経つほど、おまえが恋しくてたまらなくなってくる。会えないと知れば知るほど、苦しみに身を焦がされる。この腕の中にいたおまえを、夢の中でさえ捜し回っていたよ。毎日眠ることさえ恐れ、生きているのが辛かった・・。あのときいっそジェミンに撃たれていたら・・・何度そう思ったことかわからない。俺がどれだけおまえを愛しているのか・・・おまえを失って初めて気付いた」イヌクはまたワインをグラスに注いだ。スジョンはじっと耐えていた。物語を語るかのようにイヌクが言った。「バリにいた頃、寂しくて鳥を飼ったことがあった。ある日鳥かごが壊れて、鳥は飛んでいった・・・おまえのように・・。しかし、翌朝その鳥は窓辺で鳴いていた。俺を呼ぶかのように・・・鳴いていた」小さなため息をひとつついて続けた。「俺は考えた・・・なれない鳥でさえ一緒にいれば俺を頼りに帰ってくる。たとえおまえに嫌われていても、おまえをこの腕にずっと抱いていれば、いつかは俺を頼りにしてくれたかもしれないと・・」そしてワインを飲み干して、イヌクが声を押し殺すように言った。「わかるか?この苦しみが・・」スジョンは身をかたくした。「そして、それ以来俺は考えた・・欲しいものは、最後まで手放すものじゃないと。そして、欲しいものはどんな手段をつかってでも、手に入れようと・・・決めたんだ。」イヌクは立ち上がって窓辺に立ち、夜空を見上げて言った。「今の俺は、昔の俺じゃない。ジェミンを思うように動かせる。イギリスに行かせたようにな」静かに笑うイヌクを見て、スジョンに旋律が走った。体のふるえを止めることができなかった。「お願い・・彼を苦しめないで。あなたを裏切ったのは私だわ。だから・・・お願い・・・あの人を・・苦しめないで」スジョンは、すがる思いでイヌクを見つめて言った。「あいつを苦しめるな?」イヌクは、静かに目を閉じて天を仰いで泣いた。「俺はこの3年間・・・ずっと苦しんできた」
Jan 12, 2008
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再会9「いいか、俺がいない間はあまり出かけるな」出発寸前まで、ジェミンは同じ事を繰り返し、一緒に見送りに来たリジュンに帰りは必ず送ってくれるように頼んでいた。いつになく、スジョンのことが気がかりでならなかった。「本当にミスター・チョンはあなたを愛しているのね」半ばあきれ顔でリジュンが笑った。「さぁ、約束どおり送るわ。でも食事をしましょうね。私は久々に羽を伸ばせて嬉しいのよ。」二人はリジュンの行きつけのレストランで食事を楽しんだ。「それじゃ帰りましょう・・送るわ」「いいえ、ここからならタクシーで帰れますから。」スジョンは遠慮がちに言った。「だめよ。ミスター・チョンに怒られるわ。」そのときリジュンの携帯が鳴った。「ええ・・そう。じゃぁ今から行くわ。」「どうかしましたか?」「ええ、秘書からの電話で渡したいものがあるそうなの。」「そうですか。それなら早く行ってください。もうここまで来たら、ちゃんと帰れますから」リジュンは、少し迷いながら「それじゃあ、ごめんなさい。でも、ミスター・チョンには内緒よ」と笑って先を急いだ。スジョンがタクシーを止めようと大通りに出ると、一台の車がスジョンの前で止まった。「イ・スジョン様ですか?リジュン様のご依頼です。」運転手が外に出てきてドアを開けた。今別れたリジュンが何故?少し迷っていると「どうぞ、会社からの連絡でスジョン様もご一緒にとのことでした。」と言って、スジョンを車に乗せようと背中を押した。(何かあったのかしら?)不安になったスジョンは、急いで車に乗り込んだ。「こちらです」案内されたのは、先日のパーティーが行われたホテルのラウンジのVIPルームだった。「あの・・リジュンさんは?」と聞くと「もう暫くお待ちください」と言って出ていった。コーナーの窓からはニューヨークの街が、輝いて見えた。スジョンは夜空を見ながら、今頃ジェミンはどのあたりを飛んでいるのだろうかと考えていると、さっきまで一緒にいたジェミンの笑顔が懐かしく浮かんだ。「元気そうだな・・」そのとき、突然スジョンの背後から声がした。驚いて振り返ると、そこにはなんとイヌクが立っていた。言葉を失ったスジョンは、ただじっと立ちつくしイヌクを見つめた。何が起きているのか、夢なのか現実なのか・・・理解できずに呆然とイヌクを見つめていた。イヌクもただ黙って、スジョンを愛しそうに見つめた。静寂が輝く夜景にととけ込んでいく・・・。いつしかスジョンの頬に幾筋も涙が流れ、それを見たイヌクはゆっくりスジョンに近づき、そして抱きしめた。(このままではいけない・・・)スジョンは心でそう思いながら、身動きすることができなかった。「会いたかった・・」イヌクが静かにスジョンの耳元でつぶやいた。なつかしい・・イヌクの匂いがした。
Jan 11, 2008
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再会8数日後、ジェミンが出社すると「ミスター・チョン、社長がお呼びです」と秘書が声をかけた。「あぁ・・わかった」毎日の仕事は多忙を極めていたが、ジェミンは充実した日々を送っていた。「何かご用ですか?」社長室に行くとパクは笑って迎えた。「いやぁ・・毎日お疲れさまだな。スジョンさんは不平を言っていないか?毎日忙しいからな・・」「いいえ、大丈夫ですよ。それで何か?」「あぁ、実はイギリスの投資会社から打診があった。今度の上場に関して資金を出しても良いと言ってきた。そこでだ、是非君と一緒にイギリスに行って慎重に話を見極めたいんだよ。」「イギリスですか?」「急な話で申し訳ないが、明後日から一週間ほどのスケジュールになる」ジェミンの心に、言葉にはならない重いものが入り込んでくるのを感じていた。しかし、仕事では断ることもできない。「わかりました。ご一緒しましょう。」「忘れ物はないわよね」「ええっと・・・ひとつあったな」「まぁ、なにかしら?」「おまえだよ」出張を明日に控えて、スジョンがスーツケースを何度も開けては閉めて確認をしている姿を、ジェミンはベッドに横たわって眺めていた。「もう・・・」とスジョンは、笑ってすねたように言った。「そんなことばかり言って、本当になにか忘れても知らないわよ」「悪かった・・・でも、初めて離ればなれになるな。今まで一日もおまえと離れたことがなかった。寂しいか?」スジョンがベッドに腰掛けながら言った。「ええ・・・でも仕方がないわ」ジェミンが懐かしそうに言った。「スーツケースを見ると胸が痛むよ・・」「何故?」「おまえがスーツケースをもって、あの部屋から出ていったときのことを思い出す。」スジョンも懐かしそうに笑った。「あのときは私も悲しかったわ・・・やっと幸せになれそうな気がしたのよ。覚えている?あの朝、あなたが作ってくれたグラ・・?」「グラーシュか?」「そう・・・グラーシュ」ジェミンはスジョンを抱き寄せながら言った。「あんなにまずいもの、おまえはずいぶん食べたな・・・」「嬉しかったのよ。お料理もしたことがないあなたが、本を見ながら私のために作ってくれたんですもの・・・。」「それじゃあ、イギリスから帰ってきたら又作ってあげようか?」「いいえ、もういいわ。」二人は笑った。今このときが幸せだからこそ、想い出が懐かしくよみがえってくるのだった。「あのときあなたは言ったわ。私なんかのどこが好きって聞いたら、私なんか・・・って卑下するなって。俺まで安物になるからって。」「あぁ・・そんなことも言ったかな」ジェミンも懐かしそうに答えた。「でもね・・・今でも時々同じ事を思うの。こんなに愛されて・・・私なんかのどこが良かったのかしらって・・。」するとジェミンが、スジョンの耳元でささやいた。「教えてあげようか・・」いたずらっぽく笑って、やがて真剣な眼差しでスジョンを見つめて言った。「おまえのすべてだ・・」そして、ジェミンはスジョンを強く抱きしめた。会えない時間を迎える淋しさを同じように感じながら、二人の時間が過ぎていった。
Jan 10, 2008
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再会7イヌクは帰っていく二人の背中をじっと見つめていた。スジョンの首筋やイブニングドレスをまとった素肌と、穏やかな笑顔を恋しく・・ただ恋しく思うイヌクだった。そこにサムがやってきた。「お元気ですか」サムはイヌクがニューヨークに来て以来、便利に使っている情報屋だった。「やぁ、遅くにすまないな」「何か急なご用でも?」「あぁ・・」イヌクはジェミンとスジョンの事を調べるように依頼した。スジョンがシャワーを浴びている間、ジェミンはイヌクの視線を思い出していた。鋭く・・しかし懐かしさと愛しさをもって、スジョンを見ていたイヌクの顔が脳裏に焼き付いていた。グラスに注いだスコッチを飲みながら、ジェミンは苦悩の色を隠せなかった。(あいつが何故ニューヨークに?)ジェミンの脳裏に浮かんだのは、あの日のイヌクの言葉だった。「もう二度と俺の前に現れるな・・」(あいつが言った言葉なのに、何故、今頃俺達の前に現れた?)ジェミンは心の中に渦巻き始めている不安をうち消すように、一気にグラスを空けた。「あぁ・・気持ちが良かったぁ」バスローブを身にまとい、洗い髪をタオルで包みながら、スジョンがシャワーからあがってきた。「あなたも疲れたでしょ」少し元気がないように見えるジェミンを気遣った。「おまえも飲むか?」ジェミンはスジョンにも、氷を入れたグラスにスコッチを注いだ。スジョンは乾杯するようにジェミンを促して、グラスを合わせた。『こっちに来いよ』ジェミンは目で合図をし、向かい合わせに座ったスジョンを隣に座らせ、ジェミンはスジョンの肩を抱いた。そして洗い髪を包んでいるタオルをとり、スジョンの濡れている髪をなでた。「あぁ・・可愛い人だ」ジェミンがおどけるように言うと、スジョンは吹き出しそうになりながら「あなた・・・やっぱり今日は可笑しいわ。なにかあったの?本当は私に秘密があるのね」と言った。「そんなものはないよ」わざとオーバーに言ってみせた。「あぁ・・・わかった。やっぱり同じ会社の女子社員と・・・何かあったのね」スジョンも負けずにわざと言った。「おいおい・・あるわけないだろう・・・そんなもの」さすがにジェミンはムキになって言った。「嘘・・白状しなさい・・・だって、本当におかしいわ」と真顔になったスジョンが言うと、ジェミンは嬉しそうに笑い出した。「なぁに?何が可笑しいの」少しすねたスジョンを、抱きしめてジェミンは言った。「いいや・・おまえがやきもちを妬いてくれたのが、嬉しかっただけだよ」スジョンは照れ笑いをして、ジェミンの肩にもたれかかった。幸せな時間だった。ジェミンは、こんな他愛のない会話ができる平凡な時間が、永遠に続いて欲しいと心から願っていた。二度とスジョンが傷つくことのないように・・・そればかりを祈っていた。
Jan 9, 2008
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再会6やがてパーティーが終わりジェミンとスジョンはロビーにいた。 「疲れたか?」「大丈夫よ」「コートをとってくるから、ここで待っていろ」ジェミンはそう言ってスジョンを座らせて、クロークに向かっていった。そこにジェミンの会社の社長夫妻が通りかかり、スジョンは立ち上がって挨拶をした。「本当にきれいだわ・・」社長夫人も韓国人なので、なおさらスジョンをかわいがっていた。「これじゃ、いくら他の女に言い寄られても見向きもしないはずだよ。」社長のパクが言うと、妻のリュジンがたしなめた。「あなたと違ってチョンさんは愛妻家なのよ」そこにジェミンがスジョンのコートをもって戻ってきた。「何か悪いことでも言っていますか?」「いいや・・君が女子社員に人気者だと教えていたんだよ」「スジョン、本気にするなよ」少しおどけてジェミンが言うと、スジョンも笑った。「それじゃぁ・・・あっ、ミスター・チョン」帰りかけたジェミンを呼び止めた。「君には本当に感謝をしているよ。君が来てからの我が社の成長は目を見張るものがある。今後ともたのんだよ。」ジェミンは嬉しそうに笑って、握手を交わした。「良かったら、一緒にラウンジで少し飲まないか?」しかし、ジェミンは一刻も早くこのホテルから離れたいと思っていた。エレベーターの人影が、何故か気になって仕方がなかったのだ。するとスジョンが「私は大丈夫よ」と言って、ジェミンの腕に自分の腕を絡めた。「あぁ・・・それなら少しの時間だけ」と言って、4人はラウンジへとあがっていった。ニューヨークの夜景が一望に見えるラウンジは、見事に美しかった。「それじゃあ・・改めて乾杯だ」飲み始めてまもなく、ジェミンの携帯が鳴った。「ちょっと失礼・・」ジェミンはラウンジの入り口まで行って、電話をとった。「やぁ、ショーンか・・何だ?今終わったよ・・今から?今日はやめておくよ・・ああ・・スジョンも疲れているから、又にしよう。ジュリにもよろしく言ってくれ。ああ・・お休み」席に戻ろうと振り返ったときに、カウンター越しにじっとスジョンを見つめる男が目にはいった。それは紛れもないイヌクの姿だった。ジェミンは暫く凍り付いたように立ち止まり、スジョンから視線をはずさないイヌクを見つめていた。暫く考え込んでいたが、意を決したジェミンは何事もなかったように席に戻り「申し訳ありませんが、急用で呼び出しが・・今夜はこれで失礼します」と言って、スジョンを促してラウンジをあとにした。スジョンは大きく目を見開き急なジェミンの態度に驚いていた。あっけにとられる社長夫妻がただ呆然と見送っていたのだった。「どうしたの?急に・・失礼だわ・・急用って何?」ジェミンは悟られまいと作り笑いをしていった。「ショーンたちがパーティーの帰りに店に寄らないかって・・。」「そんなこと?」スジョンがあきれて笑った。するとジェミンは「本当は早くおまえと二人になりたかっただけだよ」とおどけるように言って、スジョンを抱き寄せた。エレベーターを待つ背中で、イヌクの視線を感じながら、ジェミンは平静を装っていた。
Jan 8, 2008
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再会5「今日は5時からだ。迎えに来ようか」10周年のパーティーにスジョンとともに出席するため、ジェミンは確認をしていた。「大丈夫よ。あなたも準備で忙しいでしょ・・。」「そうか、すまない・・それなら車を回すよ」「ええ、ありがとう」「それじゃあ後で・・・あまりきれいになって来るんじゃないぞ」といたずらっぽく笑いながら出かけていった。やがて時間がせまりスジョンは髪をアップにすると、ドレスに着替えコートをはおった。少し痩せたスジョンは黒のイブニングドレスがよく似合い、いっそう細身に美しくスジョンを引き立てていた。ジェミンが手配した車に乗り、会場のホテルに着くと、ニューヨークに来て洗練されたスジョンの、東洋人の美しさがひときわ人目を惹いた。クロークにコートを預け、エレベーターホールに行くと丁度エレベーターが止まっていた。中にはすでに12.3人も乗っていただろうか、次のエレベーターにしようかと迷っていると「やぁ、スジョン。どうぞ」と声をかけられた。見るとジェミンの会社の役員だった。スジョンも同じエレベーターに乗り、ドアが閉まった。「今日はまたいっそう美しいね。これじゃ、ジェミンが心配するはずだな。さっきから君がまだかとうろうろしていたよ・・パーティーの準備も上の空だ」「まぁ、ボブったら・・。」と笑った。そのエレベーターの後方に一組のカップルがいた。女が男の腕にからみつくように寄り添い、男は驚きを隠せないようにただ黙ってスジョンを見ていた。それは・・・イヌクだった。イヌクはその女の腕をふりほどき、スジョンを抱きかかえて連れ出したい衝動を拳を強く握って耐えていた。手を伸ばせば届くスジョンにふれることもできずに、イヌクはただじっとスジョンを見つめていたのだった。後ろから見るスジョンの襟足が愛おしく、イヌクの胸が高鳴った。6階に着きドアが開くと、ドアの前で時計を見ながら立っているジェミンが見えた。「あなた・・ここよ」スジョンがエレベーターを降りるとジェミンは、「遅かったな・・心配したぞ。」と言ってスジョンの手を取り、頬にキスをした。イヌクはエレベーターの奥からその姿をじっと見つめていたが、ジェミンが顔を上げた途端、視線が合いそうになり思わず顔を背けた。と同時にエレベーターのドアが静かに閉まっていった。ジェミンは一瞬、イヌクを見たような気がして眉をひそめた。「さあ・・行こうか」ボブの声で会場に向かった。スジョンの肩を抱くジェミンの手に、思わず力が入っていた。部屋に戻ったイヌクはソファに深々と腰掛け、両手で顔を覆っていた。「どうしたの?」女がイヌクにまとわりついてくると、「帰れ・・帰ってくれ」と静かな声で言った。女はすねたように「嫌よ・・今日は泊まって良いって言ったでしょう」とイヌクに抱きつこうとすると、その腕をつかんで突き倒した。「良いから・・帰れ」強い口調に女は驚き、悔しそうに帰っていった。するとイヌクはすぐにフロントに電話をかけ、6階の催しは何かと聞き出していた。「そうか・・わかった。ありがとう」ジェミンの会社の10周年のパーティーだと知ったイヌクは不敵に笑って受話器を置いた。「やっと見つけたよ・・スジョン。きれいになったな・・」イヌクはグラスにバーボンを注ぐと、ニューヨークの街並みを見下ろしながら、何故か乾杯をするようにグラスを上げて、そして飲み干した。
Jan 7, 2008
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再会4イヌクはホテルのスイートをリザーブし、そこを拠点として仕事をしていた。イギリスに本社のある投資会社の役員になったイヌクは、暫くイギリスで仕事をしていたが数ヶ月前からニューヨークに来て、精力的に仕事をこなしていた。イヌクの顔は少しやつれてますます精悍さが備わり、業界では「凄腕の奴」と異名をとるほどになっていた。「ねぇ、明日ティファニーで買い物がしたいの。」イヌクの隣で横たわる女が甘えた声を出した。「好きにしろ」イヌクは目を閉じたまま答えた。「ほんとうに?嬉しいわ。」女が何か話しかけているうちに、イヌクはうとうとし夢を見た。街を歩いているとショーウインドゥの中のマネキンがイヌクを見て笑っている。よく見ると、それはマネキンではなく確かにスジョンでイヌクに向かって手を振っている。イヌクは急いでその店に入ろうとするのだが、何故か人混みに押されてなかなかたどり着くことができない。やっと店に入りカードを出して買おうとすると「たった今売れました」と冷たく店員に言われてしまうのだった。イヌクは何故もっと早くこの店に来なかったのかと後悔をし、「今度見つけたら、その途端に奪ってみせる」と夢の中で何度もつぶやくのだった。「ねぇ・・どうしたの?」女の声で目が覚めた。「なんだ?」「うなされていたわ・・」イヌクは自分の頬に涙が流れているのに気づき、そっと拭った。「もう・・今夜は帰れ」女はイヌクを怒らせまいと、言われるままに帰っていった。「スジョン・・どうした?」『ごめんなさい・・・本当にごめんなさい』寝言を言いながら泣いているスジョンを、ジェミンは起こした。ジェミンの腕の中で眠っていたスジョンが目を覚まし、ジェミンにしがみついた。ジェミンはしっかりと抱きしめ「どうした?夢でも見たのか?」と聞いた。スジョンはこっくりと頷き、目を閉じた。「あいつの夢か・・?」スジョンは黙って答えなかった。「もう終わったことだ・・忘れろ」ジェミンは優しく言った。しかし、スジョンは夢の中でイヌクが最後に行けと手で合図した情景が、目から焼き付いて忘れられなかったのだ。「おまえを自由にしてあげたい・・鳥のように」あの時の悲しげなイヌクの瞳が、幸せであればあるほどスジョンの心に重くのしかかってくる。イヌクの心を深く傷つけた罪悪感が、時としてスジョンを打ちのめすことに気付くのだった。「ねぇ・・あなたは本当に、あのとき彼を撃つつもりだった?」暫く考えてからジェミンは言った。「ああ・・。あいつも殺しておまえも殺すつもりだったよ・・そして、俺も死ぬつもりだった。」「そう・・」スジョンは、ジェミンの強い愛を感じていた。「不思議なものだな。こんなにおまえを好きになれたのは、イヌクのおかげかも知れないと思う事さえある。あのときはただ憎くてたまらなかったが。」「ごめんなさい」「いまこうして、おまえが俺の中にいるから・・・俺はそれだけで幸せだ。」ジェミンはスジョンの頬にキスをした。「覚えているか?俺が初めておまえの作った料理を食べたときのことを」「ええ・・・確かあなたが酔いつぶれてイヌクさんの部屋に泊まった時ね。」「ああ、朝飯を食べに行こうと誘ったら、今食べているというから・・」「そうそう・・俺の分もあるか?なんて言ったのよ。あのときご飯も少ししかなくて・・それでも良いと言って、あなたはおいしそうに食べていたわ」「うまかったな・・・本当に。俺は母さんの料理を食べたことがないだろ。それなのにおまえの作った料理が、何故か懐かしかったな。」「その後携帯を買いに行ったわ」ジェミンも懐かしそうに笑って答えた。「ああ・・カップルで申し込んだな。何とかおまえと連絡できるように考えていたんだ。今思えば、あのころ俺は幼くておまえをずいぶん苦しめた」ジェミンはこの3年の間に大きく変わっていった。もう我が儘な世間知らずの財閥の息子という片鱗さえないほど、心の大きな男へと変わっていた。仕事でも信頼され、愛するスジョンと穏やかに暮らすことで大きな自信を持つようになっていたのだった。「でも今は幸せだわ・・。あなたがいつも愛してくれるから」「いいか・・もう何も心配するな」ジェミンは命を懸けて手に入れた愛を、必死で守ろうとしていた。しかし心の奥底ではジェミン自身、同じように夢でうなされることもある。イヌクがスジョンをいつか連れ戻しに来るのではないかと、ふと不安がよぎることもあったのだ。それを決してスジョンに悟られまいと思うのだった。そして二人は静かに眠りについた。
Jan 6, 2008
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再会3「すまない・遅くなったな」ジェミンは店に入るなり、スジョンのテーブルに小さな花束を置くと、スジョンは嬉しそうに笑って「ありがとう」と言った。「ハーイジェミン、今日もお熱いな」カウンター越しにショーンが笑った。「それよりも腹ぺこだよ」「OK、今作るよ」二人は顔を見合わせてワインを飲むと、椅子に置いてある紙袋に気づいてジェミンが聞いた。「それが新しいドレス?」「ええ」「そうか・・早く見たいな」二人は食事をすませて、アパートへ帰った。ジェミンがキッチンからワインをもってきて、着替えているスジョンの分もグラスに注いだ。そのとき、新しいドレスに着替えているスジョンが「お願い、ファスナーをあげて」とジェミンを呼んだ。ジェミンはファスナーをあげると、後ろからスジョンを抱きしめた。「きれいだな」「ドレスが?」「おまえが」「ドレスは?」「よく似合うよ」「ありがとう」するとジェミンはさらに強く抱きしめて言った。「ごめんな・・」「何が?」スジョンは驚いて聞いた。「もっとおまえにしてやりたいことがたくさんあるのに・・・。今の俺の力ではこの程度だ。」スジョンは振り返ってジェミンの首に腕を回しキスをして、言った。「これ以上の幸せなんてないわ・・あなたは?私のせいで、何もかもなくしてしまったことを、後悔していない?」「後悔したことなんて一度もないさ。あのころの俺は、金は持っていたがいつも寂しかったような気がするよ。寄ってくる女も金目当てばかりだったしな。俺自身も、愛なんて信じてなかった」「私も初めはその一人だったわ・・」スジョンが少しすねて言うと、ジェミンが優しく笑って「でも俺が一番愛した女だ。そしておまえも俺を愛してくれた。これ以上望むものはないが、もっとおまえを喜ばせたいと思っている」と言った。「もう少し待っていろ。今、会社を上場する話があるんだ。それがうまくいけば、この小さなアパートからもおさらばだ」「どうして?私はこのアパートが好きだわ。ここにはあなたとの思い出がたくさん詰まっているもの」ジェミンはスジョンを抱き上げるとリビングのソファに連れていった。「乾杯だ」「ドレスが汚れるから、着替えてくるわ」「いいや、このままで良い。今度のパーティーでは他の男達もこの姿を見るのかと思うと、悔しいな。だから今夜は俺だけのためにドレスを着ていてくれ」「わかったわ。それじゃあ・・何に乾杯?」「ああ・・おまえとの幸せに・・乾杯」二人はゆっくりとワインを楽しんだ。「ひとつ聞いても良い?」「何だ?」「あのとき、私を許してくれたのは何故?」ジェミンは遠い昔を思い出すように窓の外に目をやった。「俺だって、ヨンジュと結婚をしておまえを苦しめた。ヨンジュと結婚をして、俺も初めて本当におまえを愛していたと気付いた。回り道だったが、それも運命だ。今、ここにおまえがいてくれればそれで良い・・・だから、もう何処にも行くなよ。」スジョンはジェミンの胸に顔を埋めて目を閉じた。「お花をありがとう・・」ジェミンはスジョンの髪を優しくなでた。
Jan 5, 2008
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再会2夕方スジョンは出かけようと支度をしていると、ジェミンから電話が入った。「すまない、遅れそうだ」「いいわ、それじゃぁ今日は家で食べましょうか」「いいや、せっかくだからジョンの店に行こうよ。8時には行けるから」「わかったわ。それじゃぁ、ジュリの店でドレスをとってから行くことにするわ」「ああ、わかった。でもあまり一人でうろうろするな」心配そうにジェミンは言った。「大丈夫よ。じゃあね」スジョンは約束の時間よりも早めに出て、友人のジュリの店に立ち寄った。彼女は韓国人の母とアメリカ人の父をもつハーフで、幼い頃韓国にいたことを懐かしく話していた。アメリカに来た頃、スジョンが偶然買い物に来て知り合った、初めての友人であった。彼女は自分で小さなブティックを経営していたのだった。「注文のドレスがはいったわ」「ありがとう」スジョンは来週催されるジェミンの会社の10周年記念パーティーに、ジェミンと出席することになっていた。「新しいドレスを買えよ」と言われ、ジュリの店で注文をしたのだった。「わ~~っ、よく似合うわ、スジョン」シンプルな黒のイブニングドレスが、スジョンをいっそう美しく魅せていた。「これじゃぁダーリンもいちころだわ」「まぁ・・・ジュリの彼だって素敵じゃない」ジュリの彼は彼女の店から数分のところで、レストランをやっていた。今夜はその店でジェミンと待ち合わせをしていたのだった。「ジュリも一緒にどう?」「結構よ・・・またあてつけられるだけだわ」「そんなことないわよ」スジョンは嬉しそうに言って笑った。「どうする?ドレスは明日届けましょうか?」「いいえ、持って帰るわ。今夜彼に見せたいから」「オーケイ、今包むわ」スジョンは大きな窓越しに立ち、混み始めた道路を見つめていた。そのとき通りかかった一台のリムジンが、ジュリの店の前で停まり静かに窓が開いた。「スジョンできたわ」ジュリの声に振り返り、スジョンは店の奥に戻っていった。(幻だったのか・・・)「出してくれ」走り出したリムジンには、シートに身を沈め目を閉じて自嘲するかのように笑う、イヌクの姿があった。
Jan 4, 2008
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愛再び~再会13年後~ジェミンはスジョンを抱き、腕を絡ませて二人仲良く眠っていた。やがて朝陽が射し込みジェミンが目を覚ますと、自分の腕の中で眠るスジョンを幸せそうに見つめていた。思わずスジョンを抱き寄せ、おでこにキスをするとスジョンが目を覚ました。「う~~ん・・おはよう」スジョンが甘えた声で言った。「起こしたな・・ごめん」「今何時?」時計を見ると7時を回ったところだった。「そろそろ起きなくちゃ・・」起きあがろうとするスジョンを、ジェミンは抱き寄せた。「もう少しこのままでいよう」スジョンは、笑ってジェミンの腕枕に身を委ねるのだった。「幸せか」ジェミンが言った。「ええ、とっても・・」ジェミンは嬉しそうにスジョンを見つめた。ジェミンはアメリカに留学をしていた頃の先輩を頼って、3年前にスジョンとニューヨークに来ていた。先輩が経営をするIT関連の会社に入社し、今ではマーケティング部の部長まで上り詰めていたのだった。ジェミンはイヌクへのライバル心から、マーケティングに興味を持ち始めていたので、誰よりも熱心だった。わずかばかりの財産でアメリカに渡ってきたために、ジェミンもスジョンのために必死で働いてきたのだった。今では先輩の社長も、ジェミンが良き相談相手となっていた。「今日は外で飯を食おうか・・」「良いわよ。でもどうして?」「忘れたのか?今日はおまえを取り戻した記念日だ」スジョンは少し意地悪そうに言うジェミンの腕をつねった。「いたた・・冗談だよ。たまにはデイトも良いだろ」そう言って出勤していった。スジョンはジェミンと暮らす、この小さなアパートが気に入っていた。「欲しいものを何でも買ってやれなくなった・・」いつかジェミンが寂しそうにスジョンに言ったことがある。そのときスジョンはこういった。「一番欲しいものを手に入れたから、もう欲しいものは何もないもの」スジョンにとっては、つましく暮らしていても何の不平もなく、優しいジェミンに愛されて本当に幸せな日々を送っていたのだった。しかし、スジョンは自分が幸せであればあるほど、心の奥に痛む傷があった。イヌクも幸せになっているだろうか・・どうか、イヌクにも幸せが訪れますように・・・そう願わない日はなかった。
Jan 3, 2008
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愛再び~序曲ジェミンはベッドに横たわるイヌクとスジョンを冷たく見下ろすと、イヌクに向かってなんのためらいもなく引き金を引いた。イヌクの命が一瞬に消えうせると、驚いてジェミンを見つめるスジョンにも銃口を向けて、ためらうことなく引き金を引いたのだった。乾いた銃声が部屋に響き渡ると、スジョンは大きく目を見開き涙を浮かべ、愛しいジェミンを必死で見つめつぶやいた。「あい・・・しているわ」それは、どうしてもジェミンに告げなければならない言葉だった。長い葛藤のすえ、やっと自分自身の心に気がついたスジョンのせめてもの告白だったのだ。その言葉を聞いたジェミンは、まるで悪夢から覚めたように必死でスジョンの手を握り、そしてその真実を知った。悔やんでも悔やみきれず・・恨んでも恨みきれず・・ジェミンは、スジョンが愛したクタの浜辺に一人たたずみ夕陽を見つめ、自らのこめかみに銃口を当てるのだった。「生まれ変わったら・・・今度は一緒になろう・・・待っていてくれ・・今・・俺も行く」そしてジェミンは静かに目を閉じ一気に指先に力を込めると、ジェミンの体が弧を描くように砂浜におちていった。その衝撃でジェミンの眠っている体が、びくっと大きく揺れ驚いて目を覚ました。「夢か・・・」額が汗でびっしょり濡れている。その汗をぬぐいながら、まもなく着陸するバリの島を眼下に見下ろすジェミンだった。「何としても探してみせるからな・・・」不吉な夢を心の奥にしまい込んで、ジェミンはデンパサールに降り立つのだった。乾いた風の中を、ジェミンは一人心当たりの街に向かった。ジェミンが探し出したホテルの大きな窓から見えたのは、海辺に向かうプールで泳ぐイヌクと、そのプールサイドにビーチチェアーで眠っているスジョンの姿だった。イヌクがプールから上がり、スジョンにそっと近づいて頬にキスをしている。眠っていたスジョンが驚いて目を覚まし、幸せそうに笑いあう二人の姿をジェミンはただじっと見つめ、再び街の中に消えていった。「正夢だったのか・・・」ジェミンの心はすでに決まっていた。やがてイヌクとスジョンはベッドにいた。イヌクの腕がスジョンの首を巻き込むように抱いていたたまま、暫く何も言わず考え込んでいる様子だった。「何を考えているの?」スジョンが訊くと「どうしてここまで来たのかと・・俺達の縁は、並大抵じゃないな。」と、静かに答えた。「ええ・・私もいつかジェミンにそう言ったことがあったわ。・・・本当にもう、帰らないの?」「帰りたいか?」「いいえ・・そうじゃないけど」「幸せか?」「・・・不安だわ・・」「どうして」「なんだか私とは関係のない世界に入ったような気がするの・・これこそ、パラダイスかと思ったのに・・」スジョンにはどうしてもイヌクに言えないことがあった。「違ったようだな・・残してきたものに未練があるのか?」「いいえ・・残してきたものなんて、なにもないもの・・」イヌクはいつまでも気付かないふりをすることが、辛くなって本心を話し始めた。「おまえの目には懐かしさや、空しさが映っている・・何故なのか・・・何が足りないのか・・・ずっと考えていた。そしてやっと気がついた。おまえは心を残してきたんだと・・・。」スジョンの頬には思いがけず、幾筋もの涙が流れていた。イヌクはスジョンの気持ちに気付きながら、今まで黙って自分を見守ってくれていたことを知った。地上の楽園を求めて来たはずだったが、心から幸せを感じることがなく、心から笑えることもなく、日に日にジェミンへの思いが強くなっていくことに、誰よりもスジョン自身がとまどっていたのだ。我が儘で自己中心で、しかしいつもまっすぐに自分に向かってきてくれたジェミンの心が、今はただ愛おしく感じられた。そしてイヌクに、心から申し訳ないと思うのだった。「俺はもう帰れないし、そのつもりもない。でもおまえは自由だ。いつでも自由にしてやりたい・・・鳥のように・・。帰りたければ帰っても良い。俺はいつでもここにいるから・・。」イヌクの頬にも幾筋も涙が伝った。「ごめんなさい・・本当に、ごめんなさい。どうして・・・心だけは許さないつもりだったのに・・・それが最後のプライドだったのに・・・。」スジョンは、とめどなく涙が溢れた。やっと気付いた自分の本当に気持ちを、イヌクに申し訳ないと思いつつ素直に受け止めることができた。イヌクに肩を抱かれながら泣いていると、ふと人影が目に入った。何とそこには手にしたピストルで、イヌクを狙うジェミンが立っていたのだった。スジョンは慌ててイヌクの前に身を出した。「そこをどけ」ジェミンは声を殺して冷たく言った。スジョンは大きく見開いた瞳に涙を一杯ためながら、首を横に振った。「撃つなら撃て・・・どうせ・・おまえの勝ちだ・・。」イヌクはスジョンを押し戻しながら力無く言った。「なんのことだ」ジェミンはそれでもイヌクを狙ったまま、動こうとしなかった。「何が俺の勝ちなんだ」イヌクがじっとジェミンを見つめて言った。「俺は金を手に入れたが、愛する人を失った。おまえは財産を失ったが、愛する人を手に入れた・・・そう言うことだ」ジェミンは静かに視線を動かしスジョンを見た。するとスジョンは泣きながら小さく頷いて「ごめんなさい・・本当に・・ごめんなさい・・」と言った。ジェミンの体から力が抜けていき、構えていた腕を降ろした途端ピストルが床にすべり落ちた。「ここは地上最後の楽園だ。愛を見つけたものが幸せになれ。」イヌクは静かに天井を見つめて言った。ジェミンはスジョンにシーツを巻き付け、「身支度をしてこい」と言って、ベッドから降ろした。スジョンを抱いていたイヌクの腕が寂しそうにベッドに伸びていた。「おまえ・・本当にスジョンを幸せにできるのか?」イヌクが伸ばした腕を見ながら言った。「言ったはずだ・・スジョンは俺の女だ。」ジェミンが答えると、フッとイヌクは寂しげに笑い「ああ・・・結局おまえの言うとおりだったな。」と、ぽつりと言った。「ひとつ頼みがある・・」「何だ」「もう二度と俺の前に姿を現さないでくれ・・」「それはこっちも同じだ・・」ジェミンが答えた。スジョンが着替えて出てくると、ジェミンはスジョンの腕をとりドアを開けた。そのとき、スジョンが立ち止まってイヌクを振り返った。「ごめんなさい・・本当に・・・。」イヌクは涙をこらえて声にならず、手で行けと合図をした。ジェミンはその姿を見て見ぬ振りをし、スジョンを連れ出した。ジェミンが宿泊しているホテルにスジョンを連れ帰ると、狂ったようにスジョンにキスをし、強く抱きしめた。まるでイヌクの残り香を消そうとするかのように、激しく抱いた。そして静かに言った。「おまえは馬鹿か・・」スジョンは照れくさそうに笑った。「俺があれほど待っていろと言っただろ。おまえのために俺は殺人者になるところだったんだぞ。」やっといつものジェミンに戻っていたのが、スジョンには嬉しかった。やがてソファに腰掛けスジョンを膝に抱きながら、ジェミンは言った。「イヌクとの約束だ。二度とあいつには会わない・・・俺達がバリを出よう。」スジョンはうなずいた。「韓国にも帰らない。」「何処へ行くの?」「さぁな。ただ地上最後の楽園からはおさらばだ」「ええ」「本当は、バリに住みたかったのか?」「いいえ・・・私のパラダイスはあなただと気がついたから、あなたと一緒なら何処でも良いわ。」ジェミンは照れながらも、心から嬉しそうに優しく笑って言った。「ようこそ、おれの楽園へ」そして、スジョンを強く抱きしめた。
Jan 2, 2008
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長期間にわたりブログを放置してきましたが、とある方から携帯でも『愛再び』を読めるようにして欲しいと要望がありました。フリーページは携帯から見ることが出来ないので日記にコピーさせてもらいます。PCのページをそのままコピーさせてもらいますので、携帯からだと少し読みにくくなりますが、ご了承ください。ではyumehanabiさんのバリでの出来事続編『愛再び』は次の日の日記からどうぞ。
Jan 1, 2008
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