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4つのとげを持つバラ

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2007/03/25
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カテゴリ: つぶやき
花


いつの間にか転寝をしていたらしい。
風を孕んだ窓際のカーテンが行ったりきたりして私の頭を撫でていた。
あれは夢だったのか・・。
ぼんやりと外の日に当たって輝いている青葉を眺めていた。
夢にしては切ないような気がする・・。
青葉を眺めながら涙ぐんでいる自分に気がつき苦笑した。


「約束だからね、忘れたらいけないよ。」
にっこり微笑んだ優しい表情に私は、こくりと頷いた。
「うん、今度は3日後の金曜日ね。」

そんな会話をして私達は別れた。
バイバイと小さく手を振りながら私は、その姿が小さくなるまでじっと見送っていた。

オカアサン・・・。

小学校の校門の前の2本目の電柱が私達の待ち合わせの場所だった。
3日に一回の間隔で会っていた。
「杏ちゃん?」
そう呼びかけられ振り向くと母が立っていた。
母は私が5歳の時突然いなくなった。
「ちょっと買い物に行ってきます」
そう言って出かけたっきり帰って来なかった。
その母が今ここに立っている・・・。


そういわれて連れて行かれた小さな喫茶店。
しばらく話をして別れていく。
それがきっかけで何度か待ち合わせをするようになった。

お茶を飲みながら母は色んなことを喋った。
「ごめんね。急にいなくなって。仕方なかったの。お父さんに追い出されてね。」

私は小さく頷き、困ったように笑うしかできなかった。
「代わりにおもちゃ一杯買ってあげる!何でも買ってあげる。」
そういって母は笑った。
私はおもちゃもほしかったが、おもちゃを買ってくれるという母が家に帰ってきてほしいと思った。
「お母さん?もうお父さんと一緒に住めないの?」
そういうと母は困ったような顔をした。
「うん。」

あるとき母におもちゃを買ってもらった。
「ありがとう」
そういって母に笑いかけた。
私の顔を見ながら母はニコニコ笑い、私に訊いた。
「ねぇ、お母さんとお父さんどっちが好き?」
私は困った。
父の穏やかな顔を思い出したからだ。
母・・とはいえなかった。
おもちゃを買ってくれる母も好きだったが、「早く寝ろよ」と布団をかけてくれる父が恋しかった。
答えを逡巡していると母は言った。
「おもちゃを買ってもらって嬉しくないの、あっそう・・。」
私は言葉を失った。

校門の前での待ち合わせする約束が数ヶ月続いた頃だったか。
「じゃ、今度金曜日にね。」
そういって母は去っていった。
私はいつものように小さく手を振って、バイバイをした。
母の背中は心なしか曲がっているように感じた。


そして待ち合わせの日になった。
私は電柱の影で待っていた。
3時。
ランドセルのもち手の部分を握りながら待っていた。
4時。
まだ母は来なかった。
どうしたんだろう。
少し夕暮れの影がさして少し寂しくなった。
5時。
母は来ない。
来ないのだ、今日は・・・。
ようやく諦めて帰った。
自宅でテレビを見ながらぼんやりとしていた。

翌日もしかして金曜日と土曜日と言うのを聞き間違えたのかと思って同じ場所に言ってみた。
3時。
しかし母は来なかった。

もしかして来週の金曜日なのかもしれない。
そう思って待っていた。
その次の金曜日も。
その次の金曜日も。
ずっと待っていた。

しかし母は現れなかった。

5歳の時「ちょっと買い物にいってくるね」と言い置いて、突然消えてしまったあの時のように。

何にも言わずに消えてしまった・・・。


「杏ちゃん、あなたが好きよ」
「杏ちゃん、あなたと一緒に暮らしたいのよ」
「杏ちゃん」
「杏ちゃん」
・・・・・。

言葉を信じていた私は、あんなに優しい言葉をかけてくれた母がもう二度と現れないわけがない、また会いに来てくれる、そう思った。
小学校からの帰り道電柱の影を覗き込む癖がついた。
いないと分かっているのに・・・。
しかし母が立っているような気がしてならなかった。


そんな日が数日、数週間、数ヶ月たち・・学年の変わる頃になってようやく・・電柱を覗き込まなくなった。

もう母は来ないのだ。

そう思った。


大きくなって風の便りにあれからすぐに年下の男性と再婚したらしいと聞いた。
そうか、もう私は要らなくなったと思われたんだなあ・・そう思った。
高校生の時。



「約束」という言葉を聞くと昔のことが思い出される。
この年になって母も好きで約束を破ろうと思ったわけではないのだろうと考えられるようになった。
仕方のなかったことなんだと。
しかしその一方で「もうこれで来ないから頑張ってね」といってくれてたらなぁ、と思う。
子供にも「別れ」と言うのは分かる。
しっかり別れを意識させてほしかった、宙ぶらりんな状態で「待って」なんていってほしくなかった。
叶うことのない約束を待ち続けるのもしんどいものであるから。


転寝をしていたとき
「またね」
という約束をして母と別れる夢を見た。
夢から醒めて少し切なくなったのは・・。

まだあの時の寂しさを私は持っているからなのだろうか。

母に怒りも恨みもない。
あるのは寂しさだけだと思う。










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Last updated  2007/03/25 05:19:06 AM
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