芦田晋作の三文レビュー

"十二人の怒れる男"ヘンリー・フォンダ

一枚ずつドミノが倒れていく。 次々と陪審員が理性的になっていくのに真実に近づいているのかは分からないのだ。 最後の一枚が同じ方向に倒れてもそれが真実でないとするなら何のためにドミノは倒れているのだ。

"メンズウェア100年史"

"逆襲のシャア"富野由悠季

殺し合いのさなかにも会話するかつての少年たち。感知し合えるのに理解し合えないかつての仇たち。「死人に引っ張られている」のがどちらか分からなくなってすれ違う男たち。

"ホワイト・フラジリティ"ロビン・ディアンジェロ

"ハンガリー狂詩曲"フジコ・ヘミング

フジコが弾くか、リスト自身が弾くか。 選択肢は他にない。 運命に翻弄される国家の姿が見えてこない。

"ワールド・イズ・ブルー"シルビア・アール

"攻殻機動隊　laughing man"神山健治

電脳にウィルスが入り込んだのか。 それともハックされたのか。 犯罪の泉が湧く源まで悪を断ちに草薙素子が行くから待っていればいい。

"三船敏郎の映画史"小林淳

"ボビー・フィッシャー　世界と闘った男"

資本主義のためではなく、国民のためでもなく、親のためでもなく、精神のバランスが狂おうとも。 ただチェックメイトを目指してきた。 敗者ですら立って拍手するような美しいチェックメイトを。

"ENDANGERED"ティム・フラック

"AIが神になる日"松本徹三

欲と恐怖を持つ人類は公平な分配もできずに共産主義もなせず、公平な裁判もできずに民族間の争いを生み続けている。少しずつ反省した人間たちは少しずつAIの判断に委ねていくのだ。それがAIによる支配だとも知らずに。

"独裁者のデザイン"松田行正

"こうしてベルリンの壁は崩壊した"NHKスペシャル

その夜は一発の銃声も聞かれなかった。 過去には1200人以上もの市民を撃ってきたというのに。 記者会見に不慣れなシャボウスキ政治局員が「東ドイツ国境を自由に越えることを許可する　今すぐ」と言い間違え、制御しきれないほどの群衆が押し寄せて国境警備隊は扉を開けるしかなくなったのだ。

"アート&メイキング・オブ・ダークナイト・トリロジー"

"阿修羅"梓澤要

古代インドでは天空の覇権を奪うため帝釈天との戦いの連続だったという。 仏教では争いの中で苦しみと怒りが絶えない世界のことをいう。 奈良時代の政治争いの中、ある少年が阿修羅像に選ばれた。

"シャネル CHANEL"川島ルミ子

"McQueen"アレキサンダー・マックイーン

絵が好きな無職の23歳だった。ファッション界を一変させるような服を作るようになった。　 隕石が落ちるのは地球人が油断している時である。

"切断ヴィーナス"越智貴雄

"孤高の暴君　小泉純一郎"岩見隆夫

「墓は建ててほしくない　私の墓は私の言葉であれば充分」と言ったのは詩人・寺山修司である。 「旧郵政省のわけのわからない論理は小泉内閣には通用しない」と原稿を見ずに国民を奮い立たせ、「私の内閣の方針に反対する勢力、これは全て抵抗勢力だ」と国会を沸かせ、「構造改革なくして成長なし」と国民を鼓舞して多数の支持を得た。墓をもつ政治家は珍しい。

"more enjoy fencing"Yuki Ota Project

"死とは"池田晶子

考え抜いた者だけが綺麗な文章を書く。 言葉まで到達した者だけが概念から解放される。  哲学者だけが死を前にして笑っている。

"盲導犬クイールの一生"秋元良平　石黒謙吾

"オリーブの林をぬけて"アッバス・キアロスタミ

長いプロポーズは続く。 彼女が振り向いてくれなくても。オリーブの林をぬけても。

"カバーズ"RCサクセション

"虎徹"司馬遼太郎

信じることは狂うということなのかもしれない。 斬れる、と信じた瞬間から贋作は本物の虎徹となり相手の体に吸い込まれるように斬れた。 近藤は狂い、また刀も本来の力以上のものに狂わされて斬った。

"仏像のひみつ"山本勉

"「私」という男の生涯"石原慎太郎

言葉の人らしくありきたりなものを名言に変えた。「死ぬのはやはりつまらない」 言葉で墓標を建てた。

"BALLERINE"草刈民代

"EARTHLING"Think the Earth

一度外に出ないといけないのかもしれない。  故郷のことは捨てないと分からないのかもしれない。  「宇宙船のなかでは、地球の夢ばかりみた」（ウラジミール・リャーホフ）

"世界の少数民族"イアゴ・コラッツァ　グレタ・ローパ

"閃光のハサウェイ"富野由悠季

静かな湖ほど波紋は大きく広がる。静かな性格に世の中を変えんとする確たる闘志を秘める。静かな宇宙の中でまっすぐに敵を撃つ。

"イヴ・サンローランへの手紙"ピエール・ベルジェ

"プリンセス・ダイアナ"朝日新聞社

美しい鳥を追う者に罪の意識はなく。 巣まで覗いても、亡骸まで覗いても、罪の意識はなく。 鳥の怯えに気づく者もなく。

"ネイマール"ネイマール&ネイマール・ジュニア

"桜桃の味"アッバス・キアロスタミ

決行の前の晩の月は美しい。 目を閉じるのが惜しいほどに。 たとえ昼間、自らの死の手伝いを探し回って疲れていたとしても。

"ソール・ライターのすべて"ソール・ライター

"21世紀の地政学アトラス"

まだ土地に縛られているのか。 インターネットは翼になるはずではなかったのか。 隣国に恐怖するという古い恐怖。

"新装版　いわさきちひろ画集"いわさきちひろ

"works on paper"マーク・ロスコ

無意識の世界の深みに入っていく。意味をなしていないところまで潜ると意味が見えそうになってくる。壁のように大きなこの絵の前に立つと意味に意味がないような気がしてくる。

"銀むつクライシス"G・ブルース・ネク

"エバの創造"ミケランジェロ

神のやり方はいつもまだるっこしい、とある神父は言った。 まず分離させ、そして愛させる。 「人が独りでいるのは良くない。彼に合う助ける者を造ろう」（創世記2:18）

"ニキータ"リュック・ベッソン

"伊勢神宮　式年遷宮のすべて"Kankan

誠の顕れに心を打たれる。 信の篤さに心が洗われる。 時の長さに心を奪われる。

"行ける工場夜景写真集"

"メリー・コルヴィンの瞳"

外部に声が漏れなければ人は内部にもっとひどいことをするだろう。 誰も取材に来てくれない場所にまで来てくれた。 「私はジャーナリストだ」と叫んだのに撃たれた。

"蝶コレクターの黒い欲望"ピーター・ラウファー

"北野武　神出鬼没"ジャン・ピエール・リモザン

色気とは知性を含むもの。 知性とは才気を含むもの。 才気とは色気を含むもの。

"TO:KY:OO"リアム・ウォン

"機動戦士Zガンダム"富野由悠季

カミーユに幸せは用意されていなかったのか。アムロが幸せになるのは難しいのか、フラウ・ボウは幸せなのか、シャアは誰を幸せにしたいのか。誰か幸せになったのか。

"アメリカ先住民"鎌田遵