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2020.03.16
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残り2つの短編について。


タンギー爺さん

背景に浮世絵が使われている、ゴッホの有名な絵。

そのモデルとなった画材商「タンギー親父」の娘が、ポール・セザンヌに宛てた4通の手紙、という構成になっています。

タンギー親父は、第一回印象派展のあまりの衝撃に、これから出てくる芸術家たちを支えようと、それまで行商をしていた画材を商う店を開きました。

そして、絵の具の代金の代わりに、売れない芸術家たちの絵を受けとるようになりました。

そして、画材屋兼画廊になった店では、多くの芸術家たちが集まり芸術論を戦わせます。

その会話の中に出てきたのが、ルノワールの『陽光の中の裸婦』。



Wikipediaより。



絵は見たことがあるし、その話は聞いたことがあるはずなのに、やはりショックを受けてしまいます。

肌を描くのに緑や紫が使われているから…とのこと。

そういえば、小学校かどこかに飾られていた絵が、顔に緑や黒などの色が使われているのに、離れてみるときちんと顔として認識できるのが不思議だったのを思い出しました。

ルノワールの場合は、緑の中にいて陽の光などを受けた様子から、そんな色が使われたのですが。

チューブ式の絵の具ができる前は、シリンジに絵の具を充填して使用していたそうです。

チューブ絵の具のおかげで、アトリエから飛び出して戸外での製作が可能になった…

当たり前ですが、画家だけでは絵は描けないのですね。

タンギー親父の娘への、スザンヌからの返信が細かに描写はされていませんが、内容から交流はきちんとあったことがわかります。

最初の手紙では、セザンヌのツケを払ってもらわないと店にある絵を差し押さえられてしまう、と告げています。

2通は、セザンヌの父へのお悔やみと、ツケを全部返してもらった報告でした。

遺産で払えた、ということですが、そのような返し方は悲しみを誘います。



彼の作品である『製作』は、セザンヌをモデルにしたような内容でした。

新しい絵画表現にこだわり、行き詰まって自殺する画家の話です。

これにより、セザンヌはゾラと交流を絶ちます。

そのことも、タンギー親父の胸を痛めました。

3通めは、パリに帰るセザンヌのために、タンギー爺さんがアパルトマンを見繕った報告です。



ゴッホは絵の具代の代わりに、タンギー親父の絵を描きます。

それが、この話のタイトルでもある『タンギー爺さん』でした。

ベルナールやゴッホはセザンヌの絵を絶賛します。

他のたくさんの画家の絵もあるから、ぜひ店を訪ねるようにという内容でした。

4通めは、タンギー親父が亡くなり、店を閉めた報告です。

たくさんの絵画はオークションにかけられましたが、想定よりずっと安値にしかなりせんでした。

ピサロ、モネ、セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャン、スーラ、ベルナール。

まるで美術館に住んでいるようだ、というタンギー親父の言葉はまさにその通りで、今ならいくらになったことでしょう…。

描いた画家に、絵の具代として受け取った画商に、まったくその恩恵がいかなかったのが悲しいです。

店はその後雑貨屋になりましたが、若い画家がタンギー親父の店で絵の具を買おうとやってくるそうです。

画家の卵たちを優しく見守る、父親のような存在でした。

タンギー親父は、セザンヌのことを「ほんとうに特別」と話していました。

その言葉に対するセザンヌの感情表現がないところが、本当に上手だと思います。


ジヴェルニーの食卓

モネと義理の娘ブランシュの生活とその過去を描いた作品です。

ブランシュの父エルネストが百貨店を経営していたとき、絵の製作を依頼されたモネは、モンジュロンの邸に滞在します。

次女のブランシュは、パリの自宅にあった『印象 日の出』の作者と知り喜びます。

エルネストはモネのパトロンでした。

11歳のブランシュは、ささやかな手伝いをする「助手」となります。


母アリスが出産後、父の会社が倒産。

パリの自宅もモンジュロンの邸も、収集した数々の絵も競売にかけられました。

住む場所を失った一家は、これまで支援してきた貧しい画家モネの家に転がりこみます。

エルネストはすぐにいなくなってしまい、モネは方々に借金の申し込みを、病弱なモネの妻カミーユの分までアリスは家事をこなします。

カミーユが亡くなり、気力をなくしたモネにもう一度絵筆を取らせたのはブランシュでした。

セーヌ川の水面が凍結しているのを見て息を飲み、解氷を始めた川の一瞬を逃すまいと筆を走らせます。


ブランシュが16歳になった頃、モネの絵は少しずつ評判をあげ、作品の注文が入るようになります。

モネが広い借家へ引っ越すことを父エルネストに連絡したところ、長年家族をほったらかしにした父は、パリに戻るように母に手紙を寄越しました。

モネと離れたくないのはブランシュだけではありません。

しかし、元パトロンの妻子と同居しているというスキャンダルが、モネの未来を潰しかねないと、パリへ戻る決断をします。

最後の昼食を少し豪勢にすることにして、食後に乗る辻馬車を頼み、朝の仕事から戻ったモネを歓待します。

食卓につき、モネは辻馬車を帰したと告げます。

これからも一緒に暮らさないか、と。

モネを幸福な画家にするのに、自分たちが妨げになりたくないとブランシュは答えます。

それならば、私たち家族がこれからも一緒に暮らすことだ、とモネは微笑みます。


セーヌ沿いにスケッチの場所を探していて、偶然ジヴェルニーを通りかかり、そこに家を借りて、自分の夢をつぎ込んだ家と庭を作ります。

モネとアリスが再婚したのは、エルネストが亡くなった一年後でした。

モネの二人の息子が独立し、ブランシュを除くアリスの子供達が結婚や独立で家を離れ、とうとうブランシュもモネの長男のジャンと結婚します。

その十四年後に母アリスが、更に三年後に夫ジャンが亡くなり、ブランシュはモネの元に戻ります。

モネのマネージャーとして仕事を、女主人として家を取り仕切る日々。

後年、モネは白内障を患ったこともあり、『睡蓮装飾画』をなかなか完成させられず、長年支援してくれた元首相のクレマンソーをやきもきさせますが、彼やブランシュの励ましを受け、再び絵筆を取ります。



ただ漠然と、「素敵な絵」と見ることが多いですが、その絵を描くに至った経緯があり、それを支えた人たちがいて、その絵を泣く泣く手放した人たちがいるんですよね…。

絵よりは文を好む場合、この本のような背景を知ってから観賞する方が、もっとじっくりと絵と向き合えるように思いました。

この『ジヴェルニーの食卓』、アリスが残したレシピを元にブランシュが心づくしの料理を振る舞うのを、モネもクレマンソーも楽しみにしているところからきたのでしょう。

モネから去ろうとするシーン、モネが辻馬車を帰したところ、読みながら泣いて、ブログを書きながら泣いて…

現実にはどうだったかわかりませんが、作中では、モネとアリスは緩やかに愛を育んでいたように感じました。

絵を検索しようとして、今作の感想を書いたブログをいくつか見ましたが…

「不倫をきれいに描きすぎている」「エルネストが不憫」などと書いてあるものがありました。

まぁ、そうですけど…。

自分の子供5人、モネの子供2人を育てるというのは並大抵のことではないです。

3年間ほったらかし、というのは、連絡も送金もなかったということでは。

この頃の婚姻システムにもよるでしょうから、「さっさと離婚すれば…」というのは早計なところもあると思います。

感想は自由なので、難しいですね。

なるべく読んだ人を不快にしない書き方を心がけなければ。


久しぶりにちゃんとした本を読んだ感じがしました。





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最終更新日  2020.03.16 14:38:46
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