Running&Climbing

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第22回サロマ湖100kmウルトラマラソン4

第22回サロマ湖100kmウルトラマラソン4


『苦しくも楽しいワッカ』


しばらく足を進めると突如林が消え失せて視界が一気に広がるところがあります。ついにワッカです。ワッカ原生花園を一望できるところまで来たのです。

ワッカ(提供:NO.71さん)


なだらかな起伏が延々続き右側にはオホーツク海、左側にはサロマ湖が見通せます。そしてそれらいずれの起伏にもランナーの姿が。とうとうここまで辿り着きました。しかし内心(この先どれだけ走れば折り返せるのだろう)と言いようのない不安にも襲われました。無意識に下り坂途中にあるむこう向きの看板を振り返って目をやると『96km』と書かれています。ついさっき80km地点を通過したばかりなので復路でここに至るまで残り16km。折り返しまでまだ8kmもあることを知らされます。

(ワッカまで来ればゴールは約束されたも同然)と聞かされていたワッカ・・・。しかし思ったよりも長いワッカ・・・。片道で8kmもあるのかワッカ・・・。ソーメンエイドから79kmのエイドまでが約6km。それよりも長い距離を走らなければ折り返すことができないワッカ・・・。
私の心の中の(なんとしてもゴールする気)に一瞬陰りが生じました。それまでどうにかこうにか維持し続けてきた6分/kmのラップが苦痛に感じてきました。当然ガクンとスピードが衰えます。何故すれ違う人達はこうも元気なんだろう。それにひきかえ俺のこの有り様は。苦しい苦しい苦しい苦しい。つらいつらいつらいつらい。キツいキツいキツいキツい。意識が朦朧となり始めます。

そんな私の目に一人のベテランウルトラランナーが飛び込んできます。ヨーイチさんです。ニコリと微笑みハイタッチをして「ガンバ!」 続いてはやと丸さん。苦しげな表情を一瞬緩めて手を挙げてくれます。我が走友会と友好関係にある会のY崎さんの姿も。高速ランナーのY崎さん、さすがにシンドそう。昨夜ホテルの部屋をお訪ねした敬愛する走太郎さん。去年のサロマ後にこの方の「早くサロマを一緒に走りましょう」とのお誘いもが今日の参加を後押ししてくれました。走太郎さん、私のこの粘りの走りを見てください。

トイレで用を足し水だけのエイドに立ち寄ります。スポット的に走路を行く人並みが途切れました。私はついにしゃがみ込んでしまいます。首・肩・両腕・大胸筋・太腿の前面後面・足先。そして(なんとしてもゴールする気)がいよいよ限界に達したようです。自問自答します。弱気と強気、悪魔と天使とがせめぎあっています。

弱気な悪魔 : 「ダメか? ダメなのか? 俺はここでリタイヤするのか? せっかくここまで頑張ってきたのに俺はダメなのか・・・? ゴールは来年以降の目標でいいじゃないか」   
強気な天使 : 「イヤだ! 絶対にイヤだ! 絶対に、そしてなんとしても常呂まで辿り着くんだ!」
弱気な悪魔 : 「で、でも・・・、もうダメだよ・・・」

ここで私の目の前を颯爽と快調に走り去っていくのはアスリートの風のパーソナリティーHITOMIさん。先方は私を知る由もありませんが有名人のこの人を私は知っています。自分自身の惨状を棚に上げて思わず「HITOMIさん、ガンバ!」と声をかけてしまいました。HITOMIさんは軽く頷きながら私が目指すのとは逆方向に走り去っていきます。その姿を見て私の身体の奥底から沸き起こった叫びとは、

「クッソ~ッ! こんなところでリタイヤしてたまるかぁ~っ!」 

私は顔を歪めて立ち上がりヨタヨタと走り始めました。かなり前で抜き去った高齢の50km参加者は私の前にいます。その姿には頭が下がる思いでした。走り出した直後は固まりかけている足のせいで苦痛に包まれていましたが徐々に解れてきたよう。しかしそれでも6分30秒/kmがいいところだったことでしょう。もしかするとそれ以上遅いペースだったかも。気持ちに身体がついてこないジレンマをイヤというほど思い知らされています。

ここで前方から登場したのは50kmに参加のNO.71さん。デジカメを手にこちらへ向かっています。「アザラシさ~ん!」の声に懸命に笑顔とVサインを作ります。後日送っていただいた画像では楽しげな姿が写っていますがシンドかった。後方に消え去って間もなくNO.71さんの声が再度聞こえます。「※▼#£□△$§¢◎◆★~~~!」 なんだなんだ!と振り返ると後方4~50m先にtanさんの姿が見えています。79km地点のエイドの長休みとワッカに入ってからペースがガタ落ちしたことで急激に追い上げられたよう。ここで私の負けじ魂が点火し、一気にペースアップして追い抜かれるのを阻止にかかります。初参加で号泣ゴールを果たした2004北海道マラソンと同様に一度失いかけた『気』を呼び戻してくれたのはやはり同志の姿だったのです。

今日数回目のジュンジュン登場。大きな声援を送ってくれますが私はもう声が出ません。軽く頷くだけで颯爽?とその前を走り去ります。体感では5分4~50秒/kmペース。ここに至ってこのペースで疾走することは前走者をごぼう抜きすることを意味します。続いてCHOCORUNさんが前方から。ハイタッチをしながら「大丈夫!絶対イケますよ!」 しかしここでも私は声が出ません。その後も前方より50kmレースに参加の走友会メンバーが続々。声が出ないので手だけを振ってエールを送ります。皆一様に爽やかな笑顔を返してくれます。yagiさん、いづみさんとエールを交換し竜宮台折り返し直後と54kmのレストステーションで出逢ったpuaさんを交わします。「○さん、ガンバ!」

それまでの舗装路が小さな橋を渡る辺りで砂利道に変わります。その先にはここが見えています。

おりかえし1(提供:NO.71さん)


ようやくワッカ折り返し。長かった。とても長かった。だけど今度は俺が後方の参加者へエールを送る番だ。

まもなくpuaさんとtanさん。続いてsibaさん登場。お互いの気合と意欲を表すかのように盛大なハイタッチ。今度はカメKAYOさん。「KAYOさん!」の声に反応してくれます。そしてトン子さんとmamikさん。その横を走るのがカナダさんだと後日初めて知りました。

「ゴールで待ってるよ~っ!」

「は~いっ!」

私はもう絶叫口調になっています。大型エイドでエネルギー補給。再び梅干とレモンを頬張ります。見知らぬランナー同士が「塩が足りなくなってるからスイカに塩をかけて食べると良いよ」とアドバイスをしていますが私は×。再三書くように私は小豆とスイカが大の苦手なので。


90km地点通過:9時間59分29秒。この10kmのラップ:1時間02分45秒。途中でへたり込んだ割りに見事?なラップを記録していますね(笑)
時刻は14時59分29秒。関門制限は16時30分。1時間30分31秒の貯金。


相変わらず快調に体感で6分/kmペースを維持してごぼう抜き。別世界にでもいるかのよう。足の疲労もほとんど感じず味噌ニンニク効果は絶大です。もしかするとその時ワッカ内で一番元気な参加者は私だったかもしれません(笑)
50km以降は1kmごとに立てられている距離表示の看板。それが92kmを指し示したところで私はついに禁断の掟を破ってしまいます。それはゴール予想タイムの計算。大会後5週間を経過した今でもハッキリと記憶しています。92km地点を通過したときの時刻は15時12分でした。ボンヤリした頭で懸命に計算します。

(残り8kmまで来たぞ。11時間を切るためには残り48分。48分÷8km=6分/km。な~んだ、そうか。このペースを維持すればいいだけのことじゃないか。初参加で10時間台なんてカッコいいなぁ・・・)

愚かですねぇ。たちまち私の心に油断が生じました。集中して足を進めていた私の身体が言うことを聞いてくれなくなります。ガクンとペースダウン。その先では心の中で再びせめぎ合いが繰り返されます。「歩いちゃえ」「ダメだ」「歩いたら楽になるぞ」「ダメだって」
そして前者が勝利を収めます。ここでついに『エイドとトイレ以外は走り続ける』テーマにピリオドが打たれ、私はとうとう速いウォーキング状態に陥ります。どれぐらいでしょう。2~300mはウォーキングをしたでしょうか。しかしここでも私の弱気の虫を追いやってくれたのは連綿たるランナーの列。老若男女を問わずただただひたすらにゴールを目指す参加者の帯。私の背筋がシャンとなり、意欲と気合と気力とが再度充填されました。苦悶に顔を歪め走り出します。前から来る後続者(妙な表現だが)に目をやる余裕はありません。真っ直ぐ前をというよりも走路に目を落としながら走っていると「オオ~イ」 カントクさんです。続いて手を振る人が。Beanさんです。とどめはOgamanさん。私はすっかり元気を与えられました。苦しいのは俺だけじゃない。俺だけが苦しいのじゃないんだ。

振り返ればワッカを望むことのできる坂を懸命に上ります。その途中に96kmの看板が立っていました。あと4km。あと4kmでゴールだ。森の中を走っていると私の前方3mに同じラップを刻む女性ランナーがいます。とてもキレイなフォーム。迷惑にならない程度にストーカーランをさせてもらうことにしました。『溺れる者は藁をも掴む』でとにかく何でも良いから拠りどころ、目安になる何かが私は欲しかったのです。最終ランナーはとうの昔にすれ違い済み。80km地点のポイントも撤去されています。ここで封鎖をされた人も多くいることでしょう。その無念に比べればこの程度の疲労なんて・・・。だからあともう少しだけ頑張ろう。

キツい下りを過ぎるとラストのエイドが右側に。しかしここはパスしてこの女性に胸中でお礼を言いながら抜き去ります。ありがとう、どうもありがとう。本当に貴女のおかげで救われました。左折手前で幼子を連れた男性が熱血応援をしてくれています。その先には2時間前にうらやましく私の目に映った『残り2km』の看板が立っています。2km、あと2kmだ。ようやくこの苦しくもあり楽しくもあるサロマの終焉だ。



『ヴィクトリーロード』


右に軽くカーブする国道を横目に直進する走路。歩道から車道に降り立つ衝撃が足に堪えます。ジュンジュンの姿が左側に見えています。「二代目~、59(号泣)~。59だよ~」 しかし私にはそれに呼応するパワーが残されていません。心の中で手を合わせ、

(ジュンジュン度々どうもありがとう。貴女の応援があってこそここまで辿り着けました。これからも仲の良いご近所走友でいてくださいね。本当にどうもありがとう)

小雨がそぼ降る下を懸命に最後の踏ん張り。

(確かあそこだ、確かあの木々が生い茂っているところを右に曲がればゴールだったはずだ。もう少し。あともう少しだ)

左側からURCのメンバーが「○○○-○○、頑張れ~!」と走友会の名称で声援をかけてくれています。私は身体中に鳥肌が立ちました。

(良かった。頑張ってきて本当に良かった。54kmのレストステーションでこのランシャツを着替えるべきか否かを迷ったが、結果的に着替えずにおいて正解だった)

みっちぃさんの姿が右側に見えています。sibaさんの参加完走をただひたすらに願っての同道。温かい応援を私にまで再三送ってくれたみっちぃさん。そのみっちぃさんは携帯電話に目を落としています。最後の気力を振り絞って、

「みっちぃさん! みっちぃさん!」

「キャ~ッ! お疲れさま~。もう少しだよ~」

「ハイッ!」

みっちぃさん、本当にありがとうございました。


右折する手前でスタッフの男性が繰り返し叫んでいます。

「100kmは右側。50kmは左側がゴールです」

(そうか。そうなのか。俺は右側がゴールなんだな)


右折すると60~70m先にこれが見えています。

ゴール地点3


いろんなことが走馬灯のように脳裏を過ぎります。


(走友にポンと背中を押してもらい2007年1月30日午後7時54分にエイヤッ!とクリックしてこの大会にエントリーしてからいろんなことがあったなぁ。エントリーした直後に腸脛靱帯炎発症。そして3月にはインフルエンザ。思うように走れずヤケを起こしかけた時季もあった。K先生の教え「サロマのスタート時刻に合わせた練習をしておきなさい」を守って良かった。K先生ありがとう。休みの日もほとんど家にいない俺を責めるでもなく応援してくれる家族に感謝しよう。初参加で行程が全くわかっていない俺を安心してスタートラインに立たせるべく車の手配をしてくれたOgamanさんとyagiさんにも感謝しよう。ジュンジュンとみっちぃさん、熱烈声援ありがとうございました。そして今行程をご一緒させていただいた大切な走友全員にも感謝しよう。そして温かくも手厚い運営をしてくれた大会関係者とボランティアにも感謝しよう)


(20km付近と30km手前のなんともいえない意欲減退はつらかった。「まだ○○kmもあるのかよ。ゴールなんてできっこないじゃないか」という悪魔の囁きから耳を塞ぐのは容易じゃなかった。小用が近いのもつらかった。54kmのレストステーションのパイプ椅子から立ち上がるのもつらかった。65kmの魔女の森のヒンヤリ感とその後のギャップもつらかった。ソーメンで腹を満たしてから先のワッカまでもつらかった。79kmのエイドから走り出すのもつらかった。ワッカのエイドでへたり込んでしまってからまた走り出すのもつらかった。ついにウォーキング状態になってしまってから走り出すのもつらかった)


帽子とサングラスを取りバンザイをしながらヴィクトリーロードを走ります。右側から私の名前を呼ぶ声が聞こえます。走友会の人でしょうか。私の前方約10mに走者がいるので被写体として重ならないよう注意して走ります。その走者がゴールテープを切りました。次は私の番。これは生涯でピンネシリ登山マラソンに次いで2度目のこと。スタッフがゴールテープを持ち直すに充分な時間がありそうです。しかしスタッフはそれを持ち直してくれません。内心(さもしいな)と思いつつゴールテープを持ち直すようスタッフに求めます。ようやくゴールテープが張られました。験担ぎで昨日この緩やかな傾斜を上ることを控えた青い色のスロープ。機は熟しました。バンザイした手をさらに高く突き上げゴールテープを切ります。



やった~~~っ!



夢が現実のものとなりました。


100K一般総合男子(部門別通過順位)

10km:1時間03分17秒。(1183)

20km:2時間03分46秒。   ラップ:1時間00分29秒。(1108)

30km:3時間04分24秒。   ラップ:1時間00分38秒。(997)

40km:4時間05分33秒。   ラップ:1時間01分09秒。(872)

42.195km:4時間18分33秒。(852)

50km:5時間06分47秒。   ラップ:1時間01分14秒。(763)

60km:6時間30分06秒。   ラップ:1時間23分19秒。(776)

70km:7時間41分22秒。   ラップ:1時間11分16秒。(684)

80km:8時間56分44秒。   ラップ:1時間15分22秒。(617)

90km:9時間59分29秒。   ラップ:1時間02分45秒。(532)

100km:11時間09分03秒。 ラップ:1時間09分34秒。(491)


~50km:5時間06分47秒。

50km~100km:6時間02分16秒。


総合順位:605位(1617人中)

部門別順位:491位(1450人中)

年代別順位:149位(401人中)


トイレ10回。唾吐き、手鼻0回。



名誉の勲章





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