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その3 ~昼の風景2~ 


「えーっとですね…。私はあまり辛くないのがいいですね。苦手なんですよ、辛いのって。
 でも、カレーは大好きですよ。王子様のやつとか…。」


って、おいっ! お前もお子ちゃまかよっ! しかも王子様のやつって…。

などと思ってみても突っ込みを入れたりなんかしない。

しないが、ショックだよな実際…。

どうしてそう刺激的情熱的ボディを持て余す美人OLがこうなんだ。世の中おかしいぜ。


「ふうん、そうなんだ。辛いだけじゃカレーじゃないよな。うん、わかるよ、その気持ち。
 辛さの中に甘さがあって、良い意味で裏切られるって感じかな?」




どうせ女の考えることなんて同じだ。人間でも人形でも…。

でもまてよ、そうなると大原さんは悪魔人形と好みが一緒か?

なんか一瞬でショックだな。やはり女はミステリーだ。


「はい。そーなんですよ。さすが高鷲(たかす)さん、食べ物に詳しいですよね。」


別に詳しいわけじゃないけどな…。まあいいか。

なんか良き理解者にめぐり合えたって顔をされるとこっちも嬉しくなるし。

そうなると、あそこの店か…。究極の選択は回避だが…。


「一応、これでも先輩ですから。少し長生きしている分、知識もあるわけなんでね。
 じゃあ、この近くの『欧州亭』って店に行ってみようか。
 カレーはもちろん、ランチについてくるデザートがお勧めだから。」


選択肢がまったくない状態に追い込まれたよな、俺。



オフィス街には珍しく、手作りケーキが評判の小さなレストランだ。

普通の英国風カレーは絶品といっていいほどの評価は認める。確かに美味い!


でも今の俺はそんな落ち着いた味じゃなくもっと情熱的な辛いカレーをだな喰いたい気分なんだ。

もっとも、その君の情熱的ボディを食わしてくれるのなら全然かまわないわけなんだが…。


いや、いかんいかん!



なんだか複雑な感情になりそうだな。まただ…。いや、落ち着け、俺。

ここはシンプルに職場の後輩と昼食を共にするってだけでOKだろ。贅沢しない!


それとつい言っちまったが、デザートか…。

んな甘いもんに興味はねぇけど、そういうのも確保しとかないといけないんだろうな。

以前の俺ならそこまで気を遣うことはしなかったはずだが、これもあの悪魔人形のせいだ。

食事の後のデザートは欠かせないときてやがる。ったく、手のかかる人形だな、ちくしょう。

不本意だがこういう時に役立つとは…。一応、感謝しておくべきなんだろうな。


「へぇーっ、行ってみたいです。デザートがついてくるなんて! 
 ケーキですか? アイスクリームですか?」


ああ…、人がせっかく決心して良き先輩でいようと思ってるのに…。

なんて破壊力のあるまぶしい笑顔を向けてくるんだ?

せっかく俺が苦労して奥底に封じ込めた欲望をこじ開けるような破壊力じゃないか。

そんなに少女のように目を輝かせて喜ばれるとまたドキドキしてしまう。


「確か…、パティシエが数種類のケーキを運んできて、その中から選ぶんだったよな。
 フランスの三ツ星レストランで修行したパティシエらしい。
 食べたことないけどアイスだってお好みのものをトッピングできたはずだけど。」


つい答えてしまったが、俺はそのケーキを食ったことはない。

昼休みにケーキなんか食ってらんないからな。甘いし…。

でもその光景はその店で良く目にするし、それがその店の売りだからだ。

さすがに若いOLがキャーキャー言ってるのを見るのは毒にならないが、正直苦手だ。


「すごーい! 早く行きましょうよ! 私、楽しみになりました。」


なんとまあ、綺麗な娘は驚く顔も綺麗なんだなと感心してしまった。

俺、仕事中でもここまでの笑顔は見たことないぞ。うん。

などと余裕をかましていられる場合ではない。


こいつは…。恋する女の顔だ。

やめてくれ! そういう顔はだな…、俺、免疫がないんだよ。やばいよ。

虚勢を張るのもここまでか…。


卑屈になっちまうじゃねぇか。いえ、なります。

正直、あなたの先輩でよかったです。隣の席で幸せです。だから、その…。

あの…。大原さん。デートに誘ってんじゃないんですから…。お昼ご飯だし…。

その羨望のまなざしは危険ですよ。っていうか勘弁してください。

俺、あなたの彼氏じゃないんですよ。いいんですか?

うわーっ、情けないけど、俺って気が小せぇ。


「あ…、は、はい。い、行こうか。」


またしてもしどろもどろだ。これで精一杯。


「やったー!」


なんでそんなに笑顔なんですか? なんでそんなに大喜びなんですか?

っていうか、俺の腕を引っ張っていくほどのことじゃないだろうって!

ほら、他の社員さんも見てるし…。


そ、それよりも胸が俺の腕に…、いや俺の腕が胸に当たってます! 当たってますって!


本当に勘弁してください。想像以上にやわらかいです。見た目以上に巨乳なんですねーって違う!

いえ、そうじゃなくて、一応、俺、男なんですけど。

セクハラで訴えられますよ、俺が。…なんで!?


「あの…。そ、そんなに慌てなくたってお店は、に、逃げないから…ね!?」


慌てて腕を引き抜こうとするとギュッと押さえ込まれた。

腰から崩れそうなくらいやわらかい感触が理性を壊そうとする。

って、どこ触らせてんですか!! そんなに強くしなくったって逃げませんから!

それより俺、歩けなくなっちゃいますって!


「でも早く行かないと、お店混んじゃいますよ。」


もてない男と言うものはどうしようもないと認めざるを得ない。

俺はそのまま引きずられるようにして店に連れて行った。

たぶんすげーにやけた顔をしてたんだろうな。こんなことってありえないし。

でも連れて行かれたって表現の方が正しい気がする。




程なく楽しかったランチタイムは終了し、再び平穏な午後が始まる。

彼女の行動に関して様々な憶測や甘い期待感があったのだが、なんというか…。




なんにせよたいした事はない。

彼女はケーキが食べたかっただけなのだ。まあ、ぬか喜びもはなはだしい。チェッ!

俺は正直、その店のパティシエの名前なんて知らなかったがかなり有名だったらしい。

大原さんはこの会社の近くにそのなんとかというパティシエがいることを知っていた。

ただ、どこの店までかは知らなかったがいつか探してみたいと思っていたそうだ。

なぜそんなに凄いのか理解に苦しむが、やっぱり凄いんだろうな。

カレーを食べ終えた後、ケーキを運んできた男にサインを求めていたぐらいだ。

普通、パティシエなんかにサインをもらうか? やっぱりわかんねぇな、女心は。


パティシエの名前って、児玉なんとか…だったっけ。やっぱり俺には興味がない。

目が合ったときになんか感じるものがあったが多分気のせいだ。

少年のように屈託のない笑顔にそう感じただけだ。

なんでそんなに爽やかな笑顔でいられるのか不思議な気もするが、あれだな。

たぶん…、かなり辛い過去でもあったんだろうよ。そんな感じだ。

困難な運命を乗り越えたものだけが見せる強さっていうか、そういうもんだな。

ちょっと悔しいが男ってそういうのは自然とわかってしまう。

奴はおそらく強い。力があるとか頭がいいとかじゃなくで、生きるってことに強い。

別に嫉妬しているわけじゃないんだが…。


いや、やっぱり男なんかに興味はない。ないったらない!

でもなんで俺は隣の席の美人OLなんかよりあの男が気にかかるんだろう。

あ~あ、せっかくの胸の感触すらもおかげですっかり忘れてしまった。

いやあ、もったいない…。実に不本意だ。


不本意と言えば、そうそう、店を出る前にケーキを注文しておいた。

悪魔人形にもらったメモにはケーキと書いてあったからなのだが、仕方がない。

これこそ不本意だ。その上、プレゼントか…。どうすりゃいいんだ?


今となれば、なんていうか…帰りにあの店に寄るのも少し気が引ける。

1日に2度もあの笑顔はまぶしすぎて嫌いだ。


噂どおりケーキはすげー美味かったけどな…。



                         …続く。





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最終更新日  2007/02/16 01:43:23 AM
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