音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

音楽日記 ~ロックやジャズの名盤・名曲の紹介とその他の独り言~

2012年10月29日
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テーマ: Jazz(1978)
カテゴリ: ジャズ




 コアなジャズ・ファンに多い否定的評価の決まり文句の一つが“大衆迎合的でダメ”というもの。いやはや、ジャズのと言ったのはよくないかもしれない。音楽ファン全体にこの手の物言いはよくあると思う。ロックやポップスでも“このアルバムであの人は一般受け狙いに走ってしまった…”みたいなマイナス評価の仕方はわりとよく耳にする。

 でもこの盤を聴きながら、その“受け狙い”という評価の否定的側面を考え直してみたい気もする。“名盤”というのは、多くの人が聴く(聴いていいと思う)から名盤と呼ばれるわけである。“受け狙い”という場合には、それが発表された時点での流行という要素が加味されるので、厳密に言えばちょっと違うわけだけれども、聴き手の中にそれがいいと思う人がどれだけいるか(たくさんいるかいないか)とういう点では、実はそうかけ離れてはいないと言えるのかもしれない。

 つまり、何が言いたいかというと、“流行りの大衆迎合盤”と“多数の支持を得る名盤”は、実際のところ紙一重なのかもしれない、ということだ。前者が長期化すると後者に化ける可能性がある。前者の状態が短期間で終わった場合には、後世に“駄盤”扱いされたり、“一時の流行りものだったね”などと言われるようになるのだろう。

 それでもって、デイヴ・パイク(Dave Pike)の『ジャズ・フォー・ザ・ジェット・セット(Jazz For The Jet Set)』である。ファンキー・ジャズ、ジャズ・ロック系の曲を集めた1960年代半ばの録音盤。この頃から60年代後半にかけてのジャズ・シーンはちょうど移ろいゆく時期で、一旦は確立されたジャズ音楽が次のステージとしてどこへ行くのか、各レーベルとも模索していた(といえば聞こえはいいが、要はどうすれば売れるかいろんなスタイルを試していた)時期でもある。

 そんな中、世間では航空機での移動が広まり、ジェット機移動を頻繁に行う“ジェット族”が注目されたのもこの頃だった。この盤のジャケットに映っている妙な服装の女性は、ガッチャマンや科学特捜隊のコスプレ(笑)ではない。ジェット移動のビジネスマン獲得を狙った当時の航空会社のコスチュームである。そして、本盤の内容もまた、“航空機で飛び回るビジネスマンも気軽に聴ける軽音楽”というコンセプトの“ジャズ”だった。

 腹八分目でさりげなくフェイドアウトというのが繰り返されるのも、そうした“意図的な軽さ”の賜物(?)なのだろう。ノリがよくエイトビートでジャズづらをした曲が多いのも、軽く親しみやすそうなテーマを中心に曲が展開していくのも、今からしてみればなんとも意図的だと思う。デイヴ・パイクのマリンバが全編にわたって主であるが、“隠れた名手”のクラーク・テリー( 参考過去記事 )が意外と活躍しているのもいい。

 そうした制作側の意図を汲んであげるとすれば、本盤は“正座して聴いてはいけないアルバム”ということになるだろう。要するに、“真剣に聴いてはいけない盤”と言ってもいい。60年代当時の飛行機移動のビジネスマンにパソコンは存在しなかったが、今の時代、パソコンで仕事のメールを確認しつつ聞き流すような類の音楽。機上でブランデーか何かを片手に、ビジネスの企画書にいま一度目を通しつつ、ヘッドセットで流れているアルバム…。制作者の意図は、今風に言えばこんなイメージだったのだろう。そんなふうに考えてみると、半世紀近くたった今でもまだまだ実用に耐える盤のような気がする。次回の長時間飛行機移動の際には、太平洋上かどこかで、自分でも一度やってみようと思っている。俗に名盤を“一家に1枚”などと言うが、本盤は“働くビジネスマン1人に1枚”というと度が過ぎるだろうか(笑)。





1. Blind Man, Blind Man
2. Jet Set
3. Sunny
4. When I'm Gone
5. You've Got Your Troubles
6. Sweet Tater Pie
7. Just Say Goodbye
8. Devilette


[パーソネル、録音]
1.,5.,7.,8.: Dave Pike (marimba), Clark Terry (tp), Martin Sheller (tp), Billy Butler (g), Herbie Hancock (org), Bob Cranshaw (b), Bruno Carr (ds), 1965年10月26日録音。

2.,3.,4.,6.: Dave Pike (marimba), Clark Terry (tp), Melvin Lastie (tp), Billy Butler (g), Herbie Hancock (org), Jimmy Lewis (b), Grady Tate (ds), 1965年11月2日録音。





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Last updated  2012年10月29日 06時19分49秒 コメントを書く


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