患者が日常生活で何ができるかという観点からは、病気の進行は全体で20~30%遅くなった。ドナネマブに最も反応するだろうと研究チームが予想していた患者グループでは、症状侵攻を遅らせる効果は30~40%だった。 ドナネマブには大きな副作用があり、患者は治療のリスクを把握する必要がある ドナネマブを投与した患者の半数は、脳内に蓄積したアミロイドβが十分に除去されたため、1年後に治療を停めることができた 専門家らは、アミロイドβはアルツハイマー病の複雑な全容の一部でしかなく、長期間の治療がどれだけの違いをもたらすのかは不明だと警告している。 アルツハイマー病治療薬「ドナネマブ」の臨床試験に参加した患者の脳スキャンの比較 Presentational white space ドナネマブの効果は緩やかなものかもしれない。しかし今回の結果で、アミロイドβを脳内から除去することがアルツハイマー病の進行を変えるかもしれないことが、あらためて確認された。また、適切なタイミングで治療を行えば、この大変な病気にかかっている人々を助けられると専門家は言う。 英認知症研究所のジャイルズ・ハーディンガム教授は、「臨床試験の結果の全容が発表され、とてもうれしい」と話した。 「私たちはもう長いこと、アルツハイマー病治療薬を待ち続けていた。それだけに、この分野で具体的な進展が加速しているのは有望だ」 慈善団体「アルツハイマー・リサーチUK」のスーザン・コルハース医師は、「今回の発表は新たな一里塚だ」と述べた。 「何十年にもわたる研究の結果、認知症に対する見通しや、認知症が人々や社会に与える影響はようやく変わりつつある。我々は、アルツハイマー病が治療可能になるかもしれない新時代を迎えようとしている」 米製薬会社イーライリリーが開発したドナネマブは、日本のエーザイと米バイオジェンが開発した「レカネマブ」と同じ仕組みで働く。レカネマブは、世界で初めてアルツハイマー病の進行を遅らせる治療薬として注目を集めた。 どちらの薬も非常に期待されているが、治療にリスクがないわけではない。 ドナネマブの臨床試験では、参加者の3分の1に脳浮腫がみられた。多くの場合は何らかの症状に至ることなく解消されたが、これまでに少なくとも2人、あるいは3人が、危険な脳浮腫が原因で亡くなっている。 一方、欧州連合(EU)の医薬品規制当局は先に、別のアルツハイマー病治療薬「アデュカヌマブ」について、安全上の懸念と、効果の証拠が不足しているとの理由から、認可を拒否した。 「毎日どんどん自信が出てくる」 Mike Colley and his son Mark 画像説明, マイク・コリーさん(左)と息子のマイクさん 英ケント州在住のマイク・コリーさん(80)は、イギリスからこの臨床試験に参加したたった数十人の一人だ。今回、家族と共にBBCの独占取材を受けた。 コリーさんはロンドンのクリニックで1カ月に1回、ドナネマブの投与を受けた。自分は「あなたが出会う最も幸運な人間の一人だ」と、コリーさんは話した。 コリーさんと家族は、臨床試験の少し前から、コリーさんの記憶や意思決定に問題が出ていることに気付いていたという。 息子のマイクさんは、発症当初の頃はとてもつらかったと話した。「父が情報処理や問題解決に苦しんでいる姿を見るのはとてもつらかった。でも今は、(認知の)後退は停滞期に入ったと思う」。 コリーさんは、「毎日どんどん自信がついている」と話した。 80歳の誕生日には、40人の客を前で「マイ・ウェイ」を歌って家族を驚かせたという。 「今はそれくらい自信がついている。わずか12カ月前だったら、そんなことはできなかったはずだ」と、コリーさんは述べた。 マイクさんも、「父が人生を謳歌(おうか)しているところをまた見られるとは思っていなかった。素晴らしい瞬間だった」と語った。 アメリカではすでにレカネマブが認可されているが、1人あたり年間2万7500ドル(約380万円)以上の費用がかかる。ドナネマブの費用はまだ不明で、イギリスでの認可にかかる時間も分からないが、専門家らは、レカネマブとドナネマブが互いに価格競争を促進するものと予想している。 イギリスで医薬品や医療機器などの費用対効果を評価する国立保健医療研究所(NICE)は、軽度の認知障害とアルツハイマー型認知症について、すでにドナネマブの評価を開始しているとしている。 NICEの広報担当者は、「イギリスでの使用が承認された際にはできるだけ速やかに、NHSでの使用を勧告したい」と述べた。 (英語記事 New drugs for Alzheimer’s hailed as turning point)