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February 16, 2006
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 相手は、若い女性。僕が交差点を曲がろうとしたとき、急いでいた彼女は、車が来ないと思って横断歩道を渡り始めたところだった。僕はその姿を見ていなかった。彼女の驚いた顔が急に僕の目の前に飛び込んできて、咄嗟に僕はハンドルを切ってよけようとした。だが、もう遅くて、彼女の体が僕の車にぶつかる音がして、僕の車は、近くにあった電柱に衝突した。

 彼女は病院へ運ばれた。ひどい怪我で、血が出ていて、顔を見ることも出来なかった。救急車に付き添った僕は病院へ着き、彼女が乗っている台車と共に走り、手術室のドアの前で締め出された。
 僕が手術室のランプを眺めながら待っている間に、彼女の親族がやってきた。どうしようもなさに挨拶をしたが、蒼白の顔の彼らは、僕にかまっている場合ではなく、沈黙を返した。
 なんてことをしてしまったんだろう。僕は、その場にいることが出来なくなって、待合室まで逃げ出した。

 夜の暗さが、幾つも長いいすの並んだ待合室を被っている。非常ベルの上の赤いランプと、非常階段サインの緑の光が、ぼうっとなってあたりを照らしていた。僕は、一つの長いすの端に腰掛けた。
 僕は、人を殺してしまうかも知れない。僕の運転していた車が、人をはねてしまうなんて、全く思ったこともなかった。そんな恐ろしいこと、あってはならなかった。全身の血が引いているのが分かる。体中の神経がおそろしくぴりぴりしている。どうしよう。僕は、なんてことをしてしまったんだ。彼女が助かってくれなかったら、僕はどうしたら・・・。頭を抱え込んだ。
 気が付くと、少し離れたところに、一人の女の人が座っていた。彼女も、なにか思いつめたような表情をして、僕と同じように座っていた。もしかしたら、僕がはねた女性の親族のかも知れない。
 僕は勇気を出して、彼女に声をかけた。

「ええ」
 彼女は震えるような声で、わずかに唇を上げて笑ってみせたが、それは、力なかった。
「あなたも、ですか?」
「ええ。僕、事故を起こしてしまって、それで・・・」
「そう、なんですか・・・。私も、同じような事情で・・・。待ってるんです」
 2人は黙り込んだ。
 彼女はしばらくうつむいていたが、どうしよう、わたしのせいだわとつぶやいて、涙を流し始めた。僕は、彼女の背中をなでた。僕と彼女には同じ空気が流れていて、辛くなって、僕も涙を流した。
 手術室の方から、人の声が聞こえた。僕は急いで走った。着くと、そこにはさきほどから待っていた親族の人々と、手術着のままの医師が一人。僕は、固唾を呑んで彼らの話を聞く。
 医師が口を開いた。
「残念です」
 それを聞いて、母親と思われる女性が声を上げて泣き崩れる。僕は、そこに存在している心地がしなかった。恐ろしかった。

 僕は凍りついた。
 僕は退いて、彼女が運ばれていくのを見送った。
 その顔は、さっき待合室にいた女性の顔だった。
 一体、これはどうしたことだろう。もしかして、双子だったのだろうか? あるいは、まさか幽霊とでも? 僕はすぐさま、辺りを見回して彼女を探したが、親族の人々に混じっている様子はない。僕は、待合室へとかけだそうとした。
 すると、僕がいた手術室の隣の、別の手術室から、誰かが運び出されるのが見えた。見ると、運び出された周りに集まった人々の中に、あの待合室の女性がいる。反射的に、僕は彼女に駆け寄った。

 彼女は振り返る。
 彼女も、驚いた様子で僕を見ている。震えていた。
 彼女は、僕が尋ねるより前に言った。
「あなたは・・・・・・あの人、ですか?」
 彼女の指差した方を、僕は見る。そこには、台車の上の遺体。
 それは、まぎれもなく、僕だった。
 僕は立ち尽くしていた。
 言葉もなく、そうしていると、彼女が言った。
「あなた、ですよね・・・・・?」
 僕は、宙を見つめたままうなずく。そして、理解したすべてを言った。
「僕たちは、死にました」








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Last updated  February 17, 2006 12:43:32 AM コメント(4) | コメントを書く
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