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「このえびフライはフライというよりも、ジャンプだね」と、いつも昼どきの大衆食堂で顔をあわせる工事現場の男が言った。えびは確かに、皿の上で跳ねているのだが、巧すぎてつまらない冗談に、僕はわりばしをくわえて「うー」とうめきごえをもらした。えびはなおも跳ねている。横に添えてあるキャベツの千切りとレモンの輪切りとタルタルソースをそこらへんに撒き散らしている。紅いプラスチックボデーのテレビからは、二十一世紀の日本にふさわしい政治関係のニュースが流れているのに、僕にはそれがなぜか、あのころの万博の映像に見えて仕方がない。芸術はばくはつだっ!と僕の心がつぶやいたとたん、目の前に座って飯をもしゃもしゃ食っている工事現場の男の頭から、ヘルメットが吹き飛んだ。それを見たほかの客はとりあえず唖然としているが、厨房のアルバイト店員と女店主は知らんぷりしてネギ炒飯を作っている。「ネギ炒飯にワンタンいっちょぉお待ち!」 吹き飛んだヘルメットは「安全+第一」のマークをぴかりとさせながら、空を飛んで月面着陸し、つきのあばたをさらに細かく建設した。飯の上には月のかけらがぱらぱらぱらと降ってきたが、男はそれには無頓着で、黙々とかきこんでいる。ああ、無生物みたいな人間なんだなぁ、なぁんて思ってみたんだけど、僕のカツ丼の上にだって、それは降ってきている。横になったカツは、その仕打ちに少しむくれているのか、何も言わない。
January 27, 2008
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信号待ちで今日もみんなの平和を見守る押しボタンさん。 押しボタンさんはシャイなひとなので、 待っている人たちに、ふだんは話しかけてきませんが、 時々こっそりと、あるサービスをしてくれています。 さて、そのサービスとは一体、どんなものでしょうか? 次の文のかっこに当てはまる言葉を考えて答えなさい。 【解答欄】 待っている人の( )を( )してくれるサービス。 ※字数制限はありません。 ※誤字・脱字は1点減点です。嘘です。 ※解答はこの日記のコメント欄にどうぞ。
January 13, 2008
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タコスはすだこが嫌いだった。タコスはすだこが嫌いだった。タコスはすだこが嫌いだった。ちょっと違ってかなり同じ、ちびっと同じでだいぶ違う。あいつがとっても嫌いだった。ある日タコスはすだこを食べた。すだこはタコスに食べられた。あいつが失せないつもりなら、おれがぺろりと食ってやる。ってわけでそんなわけで、すだこはタコスに食べられた。ゴミバケツにはすだこの食べガラ。故郷のかあさん泣いたろう。けれど・けれど・けれけれけれど、もっと泣いたはタコスだった。どうしておれは知らなかった?どうしておれは知らなかった?あいつがあれほど、味のあるやつだって。・・・・・・いいやつだったねすだこさん!タコスはすだこが好きだった。タコスはすだこが好きだった。タコスはすだこが好きだった。なのに事態は後の祭。頭の中はドンちゃん騒ぎ。寝ても冷めても戻りやしない、ある日にあった、よくある出来事。
January 13, 2008
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みかんの命は短い。 二十日前に大量のみかんを箱入りで購入したT山さんは、どういうわけかその大量購入した時点で持っていた、みかんを食するという情熱を忘れてしまっていた。 彼は、みかんの存在を忘れていた。となると、どうなるか、みなさんはご存知だろう。二十日経って、みかんを買ってきたそのままで放置していたことに気が付いたT山さんも、みかんたちがどういう状態になってしまっているかということを想像した。しかも置いたのは、ストーブで暖かくなる茶の間だった。ああなってそうなってこうなっているんだろうなということが想像できた。しまったなぁ、やっちまったなぁ、どうしようかなぁと思った。 だが、T山さんは、ただの人ではなかった。極端に恐がりな人であった。T山さんは、箱の中のみかんが、ああなってそうなってこうなっているんだろうということは考えたが、二十日経った時点のああなってそうなってこうなった状態に恐怖を感じて、箱を開けることができなかった。まだ今は二十日だが、明日には二十一日経つことになるぞという二つの恐怖をてんびんにかけてみたが、今箱を開ける恐怖の方が勝った。明後日には二十二日経って、十日後には三十日経つぞ、ということも考えたが、今箱を開ける恐怖の方が勝った。 それから一年の月日が流れた。 T山さんは、どうしてもどうしても、みかんの箱を開けることができないまま、ひとつ歳をとってしまっていた。みかんの箱は一年前からずっと、おんなじところで、何ひとつ手を加えられないまま存在していた。その一年、T山さんがどれほどの恐怖を感じながら過ごしてきたか、筆舌に尽くし難い。だが、みかんをそのままにしておいたのは、T山さんの責任だ。だからみかんはT山さんを怒ってよい。 だが、T山さんはその日、ようやくちっぽけな勇気を奮い起こした。自宅の茶の間から、みかんの箱を排除することに決めた。T山さんは、そおっとみかんの箱を抱きかかえて持ち上げた。心配していたのとはうらはらに、箱の外には、何の変化もなかった。T山さんは、なにか怪しいものを隠滅しにいくかのように、その箱を車の後部座席に載せて、暗い夜道を走った。T山さんは、とある丘にやってきた。木のほとんど生えていない、人もあまりやってこない、小さな丘。彼は夜の闇にまぎれて、丘の頂上に箱を置き、そして去った。 夜はどんどん深くなった。星がぎらぎらしてきた。そうして、誰も知らない時間、ひとつの星が丘の頂上にぱりんと堕ちた。 それから数日。T山さんは自宅でぬくぬくとコタツにあたりながら、テレビを観ていた。すると、こんなニュースが流れてきた。「小さな丘に、突如森が出現!地域住民を騒がせている」 T山さんはびくーん!として、丘へ車を走らせた。丘に着くと、すでに沢山の人々が集まっていた。そして丘の上は、沢山の木々で茂り、グリーングリーンになっていた。そんなグリーングリーンな状態に恐々としながら、T山さんは森の中へ足を踏み入れた。森の中には、沢山の人がいる。親子連れも、老夫婦もいる。どんな人も、この森にやってきていた。そしてどんな人も、木に生っている果実に手を伸ばし、口に運んでいた。「これ、おいしいね!」「すばらしいね!」みな口々に言う。見ると、生っているのは、THEみかん。それも、この世のものとは思えないほど美しく輝き、そして甘い芳香を放つみかんだった。T山さんも、そのみかんに心奪われた。わたしも食べてみたい。衝動は、彼の恐怖心をすべて吹き飛ばした。T山さんはみかんをもぐ。皮をむく。そして食べる。なんとも形容しがたい味だった。空の雲が晴れて、さらに晴れて、晴れて晴れて、昼間なのに宇宙空間が透き通って見えてかつオーロラが全天で踊るようだった。ああ、なんと素晴らしい味!T山さんの頬を熱いものが伝った。 だが、みかんは彼を許してはいなかった。 その日からT山さんは、「カビッ!」としか話せなくなった。「おはよう」と言われても、「カビッ!」「今日は天気がいいですね」と言われても、「カビッ!」「今日の昼飯は何にする?」と言われても、「カビッ!」「あなた、夕食にする、おふろにする、それとも?」と言われても、「カビッ!」 だからT山さんは悔いて、その時以来、食後のデザートはすべてみかんにすることに決めた。夏でもみかん。冬でもみかん。T山さんの人生は、みかんのものとなってしまったのだった。ちゃんちゃん。
January 6, 2008
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放置しておりました。これで何度目になるのかもう、こらこらこら!!!!!!もう。友人のるってんさんが、リレー小説「桃太郎(番外編)」の続きを書いてくれたので、ふとんをけっとばして起きてきました。コメントを書いてくれているみなさんには、重ね重ね申し訳ないです。企業が何度も偽装問題で謝罪するみたいで、申し訳ないです。遅すぎですが、返信させていただきました。気づいた方は観てくださいね。掲示板はというと、人妻とか官能とか性欲とかいう言葉がうようよしてたんで、こんなにまでも荒れ果てたかと笑いました。消しました。しかし、ぐだぐだ言っていても仕方がないので、今まで書いた分の整理整頓から始めます。遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。みなさまに、幸ある一年が訪れますように!P.S.手始めに、フリーページの「notebook4 問題集」について。以前、BBSへ回答してくださった方々の文章を、各問題のページへ入れさせていただきました。ただし、BBSを遡って、確認することができた方のみです。ごめんなさい。そして感謝です。自分の回答を載せて欲しくないという方がおられましたら、書き込んでいただければ、すぐにもとに戻します。勝手なことで、申し訳ありません。そして今後、問題を出す場合、日記としてUPすることにしたいと思います。回答は、日記へのコメントとして書き込んでいただいたのでかまいません。そのほうが簡単ですよね。それでは。
January 2, 2008
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三丁目のすずきくんは、オトナといわれるお年ごろになっても、なかなか、恋をすることができなかった。だから、気の長いたちではなかったすずきくんは、世の中ではよくあるようにヒクツになって、恋というものをうらんじゃった。そんでもって、世界のありとあらゆる恋を、鯉にしてしまった。鯉してる人は、鯉のかっこうして、ヒレをふりふり街をかっぽする。街じゅう鯉がぴちぴちはねてて、縁日の金魚すくいみたい。ハヤリの歌はみんな、鯉のために歌われて、鯉についてみんな悩み、鯉焦がして、「あのぉー、鯉についての相談なんですけどぉ・・・」 って、ラジオの匿名希望さんはもじもじ話す。焦がしちゃったもんは仕方がないのに。こっけい、うこっけい。そんなふうに鯉たちがみちばたでぴちぴちしてるのを横目で見ながら通りすぎるすずきくんは、みんな鯉なんかで悩んでどうするんだよー。人生はもっと有意義に使おうよー。鯉ばっかの一生で終わりたいわけー。しししししー。なぁんて、笑ってやがった。ところが、ところが。しばらくたったある日、三丁目のすずきくん家のおとなりに、さよりちゃんて女の子が越してきた。「こんにちは、となりに引っ越してきたさよりといいます。よろしくお願いします」ってあいさつされて目が合ったしゅんかん、ドッキュン。すずきくん、鯉になっちゃった。そんなわけですずきくん、今は、三丁目の公園の池のなか。ゆらゆら泳いで顔だして、さよりちゃんが近くをとおらないかって、ぷかぷか。
March 23, 2007
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近頃見て覚えている夢をひとつ。 なぜかエジプト旅行に行けたわが家族。 ギザの3大ピラミッドがあるらしいところに行った。 そしたらそこにちゃんとピラミッドがあるわけで、 「あー、これがかの有名な・・・」 と思って眺めて、 ふとよそ見をしてまた視線を戻すと、 ピラミッドは頭のほうだけで、 その底辺は、 今にも壊れそうな、昔の日本の農村によくあった木造家屋に なっておりましたとさ。 つまりいうと、 アイ・アム・ジャパニーズってことですよ。
March 13, 2007
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ここはとある会議室。 ぱりりとスーツを着た役員たちが、 ひとつの大きな机のまわりに座っている。 役員たちは、こんな時間になるまで、議論に議論をつくした。 この議題は、決してないがしろにしてはならないものだからである。 だけれども、みなもう疲れがでていた。 なんてったって、いつまでたっても、 結論がでてこないのだから。 会議室の入り口とは正反対の場所にあるドアの向こうで、 結論は、もじもじしていた。 なんてったって、役員はたくさん並んですわっているのだ。 でたとたんに、するどい目つきでにらまれてしまうにちがいない。 それで、もじもじしていた。 役員たちは、腕組みをしたり、タバコをふかしたり、うーんとうなったりしながら、 結論がでてくるのを待っている。 そこで、今までころあいをみはからっていた役員のリーダーが、 「どうです、そろそろ結論をだしてみては」 と、皆に提案した。 「そうですね」 一人がそう答えた。 見まわすと皆、おなじ気持ちらしい。 結論は早くだしたい。 だけれども、なかなかだせなかったんだ。 ようしそれじゃあと、リーダーは席を立ち、入り口とは正反対のドアまでいって、 こんこんとノックした。 びっくりしたのは結論である。 結論としては、こんなに急に呼ばれるとは、 思ってもみなかったのだった。 だからあたふた部屋のなかを歩きまわって、 どうしようどうしようと頭をかかえた。 するとそのとき、 結論がじたばたしているのをみつけた新人の秘書が、 「もう、こいつうるさいわねえ」 えいっと、 ハエたたきでもって、叩きつぶしてしまった。 なんてったって、結論はそうぞうしすぎたからである。 秘書はそうしてすっきりすると、 街のカフェーにコーヒーを飲みにでかけた。 残されたのは会社の役員たちとそのリーダー。 リーダーは、いくらノックしても返事がないことに、 不審をいだきはじめた。 役員たちは、いくらノックしても結論を呼び出せないリーダーに、 不審をいだきはじめた。 そうして、不信任決議案が可決されて、 リーダーはリーダーではなくなり、 役員たちは席をたった。 それからしばらくの月日が流れたが、 結論はいまだ、 あの部屋の床にぺちゃんこにへばりついたままである。 いったい誰が、この結論を見つけるのだろうか。
February 28, 2007
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つまらないことを言ったら座布団をとられるのなら、自分は今までの人生で、どれくらい取られてきたのだろうか。 ということが気になって夜も眠れないT也くんは、今日も天井のしみの形を眺めながら、午前2時に目覚めていた。 自分が取られただろう座布団の数を、物心ついたころから丁寧に記憶の糸をたどって数えていたが、ちょうど高校2年生の5月に抱いた自覚の薄い淡い恋心のために口を滑らせた時代遅れのジョークに至ったとき、ふと思ったのだ。 ソモソモ、オモシロイッテナンナンダロウカ? と。 カタカナで考えてしまったのは、T也くんがとっても素朴にその疑問にたどりついたものの、あんまり考えすぎて、脳波が地球外生命体レベルになっちゃって、すっちゃかめちゃかこんがらがって、日常生活の思考パターンになじめなくなって、変換をミスッたからなのだった。 そうして決めた。 ヨウシ、アシタミンナニキイテミヨウ! そう決断したT也くんは、今までぎんぎらに眠れなかったのがほら吹きのように、ごとーっと眠りにおちたのである。 その明日になった。 T也くんは、2年前に晴れて雇われたバイト先で、先輩のI子ちゃんに聞いた。「センパイ、オモシロイッテナンナンデショウカ?」 するとI子先輩は言った。「それはね、尾も白いってことよ。だからつまり、全身が白いの」「マユゲモデスカ」「そうよ」「メンタマモデスカ」「そうよ」 それでT也は言った。「ソレハタイヘンデスネ、ニンゲンハオッポハナイシ、マッシロッテワケデモアリマセンカラ、ミンナオモシロクナイッテワケデスネ」 そうか、そういうことだったか、とT也はなんだかよくわからないけどちょっぴりの満足感を感じて、気が晴れた。それならぼくだけじゃなくて、みーんな座布団をとられっぱなしってわけだ。くしししし。 するとそのわきから50代半ばの店長さんがでてきて、「I子ちゃん、でたらめ言っちゃだめだよー。おもしろいってのは、そんな意味じゃないよー」 とからんできた。 そして話し始めた。「それはね、重石ロイってやつのことさ」「ヘエエエ~」「ロイはそいつの名前なんだけど、重石は本名じゃないんだよー。それがそいつ、いっつも首から漬物石ぶら下げて歩いててよー、声かけると、いつも、『重い、重いのさ。人生ってのは、重石をぶら下げて歩くようなもんなのさ。重石をぶらさげても、一歩一歩歩むのが美しい生き方というものなのさ』なんてぬかす。だから、重石ロイって渾名がついたんだよー。あはははは」「ヘエエエ~」「あいつの首から下がる重石、年々顔を見るたびに増えてるんだよー。この前会ったときに声かけたら、『重石がふえることで、私の人生に深みが出るのさ。私は深い人生を生きるよ。生きるのさ』って言いやがった。あはははは」「ヘエエエ~」「それから、あいつ、妻子持ちなんだけどよー。嫁さんと子供にも、重石つけさせてやんの。家族そろってひーこらひーこら言いながら、『日曜日は家族で遊園地に行ってくるのさ』なんておっしゃられる。あはははは」「ヘエエエ~」 T也とI子ちゃんはユニゾンしていた。 ケッキョク、ナンダカヨクワカラナイナ。 ユウエンチデツケモノイシジャ、じぇっとこーすたーニハノラナイホウガイイナ。 とT也くんは思った。 その帰り道。 いつもどおりの夜になっていた。今日は月が出ていたので、電柱のかげが道ばたに落ちていた。 自分の座布団は一体何枚とられてきたのか。 おもしろいってなんなんだろうか。 あーこりゃもー、わっくわんないなあー、お手上げしてどぶに放っちゃおう。 と、T也くんは思った。それで、わーっと両手を挙げて、どぶ川へと二つの疑問を放ってしまった。 ぐりりりり、ぐりりりりと、脳みそがぎこちない速度で回転する音が聞こえる。 今日も帰って風呂風呂、と、「たま」の歌を口ずさんでいると、目の前にしろねこが飛び出した。 しろねこはきょとんとした顔をして、道の真ん中に突っ立っているT也くんを見ていた。しろねこの尾っぽは、月明かりに照らされて、ぴんと立っていた。 T也はそれを見て、チラッと笑った。 おまえはいっつも、座布団山の上で眠れるんだな。 なーんて。
February 8, 2007
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「犬」から「てん」が逃走した。 画数で自分が最後だからって事が嫌にでもなったのかと思ったら、それは自由を求めての逃走だったようだ。『おいらは「犬」の「てん」で終わるような「てん」じゃぁねぇぜ』 てなわけで、「犬」は、必然的に「大」になってしまった。 「大」になった生き物は、毛むくじゃらだったりそうでなかったり、体格が良かったり良くなかったりする、暑い時には舌をべろべろ出して、電柱におしっこをひっかけて縄張りを主張するあの生き物、であることには変わりがなかった。当たり前に。 だけども困ったのが、ニンゲン様様様。「犬」から「てん」が逃げてしまったので、「大」が、以前からあった「大」と、新しくできた「大」のふたつになってしまった。だから、「大」の入った言葉は、どっちの「大」が使われているのかややこしくなって、混乱が起こった。 大人、柴大、大臣、大かき、巨大、大食い、大学、大好き、大恋愛、大小屋、大仏、土佐大、大根、大知恵、特大・・・・・・などなど。 だからニンゲンは、元「犬」の「大」に、逃げ出した「てん」を連れ戻すように頼んだ。 一方、そのころ。 逃げ出した「てん」は、「井」のところにやってきた。逃げてはみたものの、こころのどこかで、やっぱり一人ぼっちは寂しかった。だから「井」に、一緒にいてもいいかと聞いた。すると「井」は、『それはかまわないよ。実は、ボクの親戚に「丼」ってのがいるんだけど、そいつがいつも、おいしそうだって言われて人気者でね。ボクもそうなれたらいいなぁって思ったりしてたんだよ』『そうなのかい。それはよかった。ぜひそばにいさせてくれよ』『おいしいおいしいってみんなにちやほやされて、ばくばく食べられるんだから、嬉しいよなぁ』 その言葉を聞いて、「てん」は顔色を変えた。『食われるって、あの、口の中に放り込まれて、歯でがしがしかまれて、ごっくんってやつか?』『そうだよ?』 「てん」は、そんな恐いことはごめんだと思った。 だから、『残念ながら・・・』と口を濁して、「井」に別れを告げた。 その次に「てん」がやってきたのは、「王」のところだった。 「王」は威厳に満ちた姿で座していたので、「てん」はかしこまって申し上げた。『どうぞ、あなたのおそばに置いて下さい』 すると「王」は言った。『それはだめだ。お断りする』『なぜです?こんなに頼んでいるのに』 「てん」は、断られるという経験をしていなかったので、ショックで上ずった声を上げた。『それは明白なこと』 王は自慢のひげをなでながら言った。『おぬしをそばに置いたら、わしは「王」ではなく「玉」になってしまう。それでは、国を統治するものはいなくなる。皆困るではないか。それに、わが息子は「王子」ではなく「玉子」になってしまう』 そんなこんなで、「てん」はしぶしぶ「王」のもとを去った。 心の中では、『「王」は、「王」でなくなってえばれなくなるから、おいらをそばに置きたくなかったんだい』と憤っていたが、『「王子」が「玉子」になるのはちょっとかわいそうだ。なんせ、食われてしまうのだから』とも思った。 その次にやってきたのは、「川」のところだった。『こんにちは』 「てん」がおそるおそる声をかけると、「川」は涼しげな笑みを浮かべて振り返った。『一緒にいさせてもらえますか?』 その言葉を聞くと「川」は、少し考えてからこう言った。『君、友達はいるかい? あと二人いれば、僕らは「州」になれるよ。さらに言うとあと五人いれば、「洲」にもなれるんだけど、どうだい?誰か、一緒に来てくれる友達はいるかな?』 しかし、「てん」には友達の「てん」はひとりもいなかったので、しゅんとして『いない』と答えた。すると「川」は、『それじゃあ、仕方がない。今は無理だよ。もっともっと友達を作ることを考えるか、それとも、自分の元いた場所に帰るべきかもしれないね。ちゃんと考えてみることだよ』 と言った。 それを聞いて、「てん」は、離れた「大」のことを思い出した。いまごろどうしているだろうか?『いやいやいや』 だけれども、と思った。おいらは自由を求めて旅に出たんだ。今さら後戻りなんてするものか! 口をきゅっと結んで、「てん」はまた別のところへ歩き出した。 ざあざあざあざあざあ・・・・・・ 「てん」は、何かの音のするところへとやってきた。 なんだろうと思って辺りを見回すと、そこには「雨」がいた。 「雨」は、昨日からずっと降り続いているところだと言った。なんでも、「犬」から逃走した「てん」が、今「川」のところからやってきた「てん」以外にも沢山いて、それがどっと押し寄せてきたからだという。『ほら、見たまえ、こんなことになっている』 「雨」は自分の足元を指した。 「てん」が指差されたほうを見ると、(↓反転してね) 雨 、、 、、 、、 、、 、、 、、 、、 、、 、、 、、 、、 、、 、、 、、 というふうになっていた。 「てん」は、こうやって大地に降り注ぐのも悪くない、とてもロマンあふれる役じゃあないか、と思った。だから、「雨」に頼んで、自分も集まった「てん」たちの仲間に入れてもらうことにした。そういえば、これで友達も沢山増える。とてもいいことじゃないか。 「てん」は「てん」たちの降り注ぐなかに、迷うことなくざぶんと飛び込んだ。 ところが、である。降り注ぐ「てん」は膨大な数で、「てん」は飛び込んですぐから、息ができなくなった。押し合いへしあい、身動きが取れない。だけれどもただ、怒涛のように下にむかって落下していくことだけははっきりしていた。なんてこった、こんなはずじゃ。そう思えども、どうしようもない。しまいには、まわりの「てん」と自分自身の見分けさえつかなくなって、目が回り始めた。 どうしよう、どうしよう、どうしよう。 するとそのとき、何かがとてつもない速さで走ってきて、「雨」が降らせる「てん」たちの中へととびこんできた。『あっぷあっぷ!なんてこった!』 「てん」は、「てん」たちの大波に飲み込まれて、気を失った。 それから、どれくらい経ったのか。 「てん」は、ようやく目を覚ました。 すると目の前には、「犬」であった「大」の顔があった。『起きたかい』 「犬」であった「大」は、ほっとして胸をなでおろしたようだった。 「てん」は、はじめには驚いたが、懐かしい「大」の顔を見ると、涙腺が潤んでしまった。『助けて・・・くれたのかい?こんなおいらを』 飛び出してしまった自分を助けてくれるなんて。間違っていたのかも知れない、自分のしたことは。「大」を困らせるようなことをして、胸が痛む。 おいらは戻ってきてもいいんだろうか?「大」は、許してくれるだろうか? そんな思いで胸がいっぱいになって、「てん」は「大」を見つめた。 しかし、そこにある「大」の表情は、浮かないものだった。「てん」に対しての怒りも、どこかにあるのかもしれないが、それ以外に、なにか申し訳ないと思っている節があった。だから、「てん」は気になって聞いた。すると、「大」はこう言った。『また会えたのに、ごめんよ、お前の居場所は、もうないんだ』 「てん」は息をのんだ。なにを言っているのか。 よく見ると「大」の後ろから、恥ずかしそうに、かわいらしい「てん」がひとつ、顔をのぞかせていた。 「てん」がぽかんとして「大」とかわいらしい「てん」とをかわりばんこに見ていると、「大」はもぞもぞと言った。『そういうことなんだよ』 「てん」と、相棒だった「大」との仲は、それ以来、決して戻らなかったそうな。 ひとりぼっちになった「てん」が、それからどうしたかって? 今、「てん」は、フリーで句読点をやっているのだった。 あっちの文章、こっちの文章と飛び回って、わかり易く読みやすい文章を作ることを目指して、さまざまな漢字ひらがなカタカナの間でもまれて、日夜働いているわけで。 だから、ほら、 その画面、 雑誌、 教科書、 新聞、 文庫本の中、 皆さんとも時々お会いしているかも、知れない、の、です。 もし出会うことがあれば、声をかけてあげて下さいね。
January 26, 2007
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「邪念じゃ、邪念がある」 僕ははっとして振り返った。 自室でパソコンを打つ僕の後ろに、近所で時折散歩しているのを見かけるおじいちゃんが立っていた。 その瞬間、おじいちゃんは不思議な力を持っていて、それでいきなり現れたんだー!おじいちゃんは実は仙人様だったのだー!何もかもお見通しの千里眼を持っているけれども、ごく普通のとぼけたおじいちゃんを装っていたのかー!そうだったのかー!なんて微塵も考えることなく、僕は、僕のちょこっと頑固なプライドをぽかっと殴ってきたその言葉に反応して、声を出していた。「なんですか。邪念なんてあるわけないじゃないですか。なにをいきなり」 すると、灰色にオレンジのラインが2・3本入ったジャージ上下を着たおじいちゃんは、不敵な笑みを浮かべて僕の左の耳の穴から、するすると細長い邪念の帯を引っ張り出し始めた。「んあああ、なにするんですか!」 僕は慌てておじいちゃんの動きを制しようとしたが、おじいちゃんは僕の肘鉄をひらりとかわして、ベッドの上でバレリーナみたいに回転し始めた。みるみるうちに僕の邪念が僕の中から引っ張り出されていく。そしておじいちゃんは、出てきた僕の邪念を、いーとーまきまきして、両腕でくるくると巻き取っていく。 邪念は、弾力性に富む神経みたいな感じで、白い色をしていた。それは、耳たぶのピアスの穴からごく稀に出てくるという、引き抜くと失明してしまうらしい神経の繊維を連想させて、僕は気持ち悪くなった。「ちょっと待って!そんなに引っ張り出して、どうするんですか!?」 僕は恐くなって叫んだ。すると、そのときにはもう、おじいちゃんはいーとーまきまきをやめて、マイルドセブンをぷかぷかやっていた。それを見て僕は、人の部屋で煙草を吸うな、と思った。そんな僕の思いなどいざ知らず、おじいちゃんは煙草の灰を、僕の大事にしている観葉植物の土の上にぽんぽんと叩き落とすと、こう言った。「この邪念はな、流れを知るために使うんじゃよ」 その言葉を言ったときのおじいちゃんの目は、僕の家の窓ガラスを突き抜けて、ずっと遠くを見ていた。「流れ?」 僕は額にしわを寄せた。唐突に理解不能な言葉を臆面もなく述べる人間は、本当に何か大事なことを掴んだ人なのか、それともただの狂人なのか、僕には判断できなかった。そんな僕をよそにおじいちゃんは窓に向かうと、「青年よ、見よ!」と叫んで、アルミサッシごとガラス窓を蹴り落とした。2階の僕の部屋から落ちた窓は、家の庭だか道路だかでぐわっしゃん!という音を立ててばらばらになった。僕は、なんてことしてくれるんだ!絶対弁償してもらうからな!と思った。 そんな僕の激しい怒りをよそに、おじいちゃんは昭和の白黒映画に出てくる俳優みたいにかっこよく窓枠によりかかって、巻き取った邪念の端を外に向けた。「こうやっての、りりぃすしてやると、よーく分かるんじゃ」 おじいちゃんがそう言うが早いか、邪念の端は、するすると窓枠から空中へと伸びていった。まるで水が流れるかように、とどまることなく白い帯は空へ上がっていき、その先端はどんどん我が家から離れていく。僕は、その様子が、夕日に染まり始めた街を背景にして、妙に美しくて、よどんだ空気を口から吐き出すようで、何を考えることもできず、立ち尽くし見とれていた。 おじいちゃんの腕からは、しゅるしゅると小気味よい音を立てて、僕の邪念が解かれていく。数羽のカラスたちが、その帯に沿って飛んでいく。遠くのほうまで伸びた邪念は、まるでミシン糸のように細くて頼りなげな陰になって続いている。 邪念のもう一方の端が、おじいちゃんの手から離れた。「おしまい」 おじいちゃんは言った。僕は、僕の中にあったそれが去ってゆくのを、ただただ見つめていた。夕日の空が、ラズベリークリームのような雲を浮かべて地平線へと沈んでいく音が、じりじりと僕の胸の中で鳴っていた。 気がつくと、おじいちゃんは僕の家の前の道に降りていた。僕が、うなり声のような呼び声をかけると、おじいちゃんはこう言った。「あれはどこへ行ったかぁ知っとるかね。どこぞかははっきり分からんが、にんげんたちがいつか行き着く先じゃろうなぁ。あの流れが、わしらにんげんを運んでゆくんじゃよ」 僕は、神妙とは程遠い、ぽかんととぼけた顔をして聞いていた。おじいちゃんは続けた。「しかしなぁ、あの帯はぁ、悪くもなれば良くも使えるもんでなぁ。ないほうがいいと思っても、やっぱりあったほうがええもんなんじゃ。んで、取ったら消えて無くなるいうもんではないから、また機会が着たら、溜まった分を自分でりりぃすしてやることやなぁ」 そう言ったおじいちゃんの姿は、いつも見るとおりの猫背になっていた。そして、ゴム底の靴をアスファルトに擦り付けながら、とぼとぼとした背中で去っていった。 僕は、もう夕日で真っ赤っ赤に染まった空を見た。そして気がついた。無数の細い帯が、街の家々から天に上って、どこか遠くの同じところへ去っていく。それはまるで、巨大な潮の流れのようで、どこに連れて行かれるのか分からないけれども、自分の体ごと、魂ごとその流れに乗って流されていきたいような感覚にさせた。 僕は再び、パソコンの前に座った。 キーを打ちはじめると、ちっ、舌打ち。頭の前のほうから出てきて、肺の裏のほうに落ちて、何かがことんと溜まった気がした。これが邪念ってやつかな。 窓の外を見る。壊れた窓からどうっと風が流れ込んできた。また、いつか溜まりすぎたら、離せばいいのさ。りりぃす、りりぃす。僕はまた、キーを打ち始めた。
January 19, 2007
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250円といえば、わたしにとって、松山市駅高島屋前までバスで行く、片道の運賃。家からバス停までてこてこ歩いて、バスに乗ると、終点の松山市駅高島屋前まで、運んでくれる。バスを降りるときには、松山市駅高島屋前まで、この体を運んでもらうことと、この250円とを、交換する。2週間前くらいに、市街の地下で食べたデリーカレーは、500円。そうすると、デリーカレー一杯食べることと、松山市駅高島屋前まで来て、帰ることとは、同じ値段だってことらしい。デリーカレー一杯と、松山市駅高島屋前まで来て帰ることは、同じではないけれど、同じ値段。さて、今日のお昼に学食で食べたわかめうどんは、210円。210円では、我が家からバスで松山市駅高島屋前まで来ることはできない。けれど、このわかめうどんは、この文章を打って、4限目の授業を受けて、自転車で家まで帰る(寄り道もあるかもしれない)、だけのことを、私にさせてくれる、と、私は思っている。あったかいわかめうどんは、わたしの腹の中で溶けていく。210円か250円かどうかは関係なくなって、私の中で、溶けていく。
January 16, 2007
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「ところで、何話してたんだっけ?」 僕は友人との会話の途中で、今まで何を話していたのか、突拍子もなく忘れてしまった。「なんだよ、いきなり忘れんなって。モグラについてはなしてたんだろ?」 友人は僕の間抜け面を笑って言った。ところが急に不安そうな顔をして、「ところで、モグラってなんだったっけ?」 と聞いてきた。 僕は、普通そんなこと忘れるか、と笑って返したが、急に別のことが気になって聞き返した。「ところでお前、誰だっけ?」 するとそいつはいぶかしそうな怒ったような顔になって、どうかしちまったか、と言った。 しかしそいつはすぐに不安そうに目を泳がせて言った。「お前も誰だっけ?」 僕は苦笑した。あんたもわからないのかと笑った。そして、「そういえばここ、どこだっけ?」 と目の前の誰かに聞いた。 するとそいつはまじめな顔をして言った。「そんなこと俺に聞くなよ。ところで俺って誰だっけ?」 僕はそれを聞いて、あんた頭おかしいんじゃないのと引きつった笑いを浮かべたが、すぐ別のことが気になって聞いた。「俺も誰だっけ?」 しかしそいつはぽけーとした顔をして首をかしげただけだった。こいつしゃべれないのかとおもったしゅんかん、二人は立ち方を忘れた。 二人は何が起こったのかすら忘れて、自分が存在していることも忘れた。 考えることを忘れた。 瞬きすることを忘れた。 息をすることを忘れた。 心臓を鼓動させることも、忘れた。 ぽかーぁぁぁんと何もかもを忘れた二人の前に、一人の老人がやってきた。 老人は言った。「おまえさんがた、忘れてもいいものといかんものがあろうに」
January 11, 2007
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都会とはいえず、田舎ともいえないこの町で、近頃ウインナーが大発生してる。 ウインナーは、アスファルトで舗装された道路や、ブロック塀のかげや、植え込みの中や、駐車場のすみやなんかにひょっこり現れて、うねうねと這っている。どこかへ行きたいのだろうか、外敵がいるかどうかなど気にする様子もなく、道の真ん中にも平気で出てくる。 ウインナーは、ウインナーらしくじゅうじゅう炒められたようなやつが多い。溶けた油で光っていて、湯気の出ている、ほどよい焦げ目の付いたやつだ。そういうウインナーが近くにいると、香ばしいにおいがただよってくる。だけど中には、生っぽい脂肪の白いかたまりをくっつけている体の硬そうなやつや、黒焦げになってふうふう煙を吐いているやつもいる。焦げているやつがそばにいると、やっぱり焦げ臭いにおいがする。 僕はそいつらに興味を持って、幾度か指でつまんで眺めたり、においをかいだりしてみた。ごく稀に物好きな人の中には、そのウインナーをぱくっと食べたという人もいるらしいけれど、しかし、どうも僕は、スーパーで買ってきて冷蔵庫にのけているようなやつとは何かが違う感じがするので、とうとう食したことはない。 海に行ってもウインナーはいると、僕の友人が言っていた。砂浜では、町にいるようなのが這っていて、よくカニにさらわれていくらしい。そして海中のものは、タコ型をして浮遊しているらしい。だけどその水棲ウインナーたちは、水に潜っているにもかかわらず、湯気を立てて香ばしいにおいを撒き散らしているらしい。だから、ウインナーとはよっぽど強いやつらなんだなと、僕は思った。 だが、大発生と言っても、それはとても静かな大発生であるらしかった。テレビや新聞で特にニュースになるようなこともないので、忙しく生きる人たちのほとんどが気が付かないままでいた。従って、政府がウインナー対策特別措置法なんて法律を作ることだってない。誰も騒がない。だからある意味、小発生なのかもしれない。 今日も、出かける途中の道端で、僕はウインナーと出会った。ブロック塀の上と、柿の木の枝の上と、停められた車のボンネットと、それからそれから・・・・・・数え切れないほどのウインナーと、いろいろなところで出会った。ネコがくわえているのも見た。だが、僕はすべてのウインナーを通りすぎて、バス停でバスに乗った。 この町のウインナーは増えている。僕の日常はいつも通りに進む。町の流れもいつもどおり。ただそれだけ、なのだった。今のところ。
January 9, 2007
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ぼやっとしているうちに、新年も一週間以上経ってしまいました。もう七草粥の時期も過ぎ去ろうという勢いですが、明けましておめでとうございます。昨年はいろいろとありました。その集大成かなんか知りませんが、2006年12月25日クリスマスデー、父が、ブロークン・ヒズ・ボーンしました。つまり骨折ってわけで。右足の親指先っぽから数えて2番目の割りと太い骨複雑骨折という骨折です。もっと医学的な表現はありましたが、忘れました。なんてこったーおいさーん!手術かよおいさーん!入院かよおいさーん!全治1ヶ月以上かよおいさーん!我が家の生活どうなるんだよーおいさーん!というわけで年末・年始とも過ぎ去り過ぎ去り、今がやってきました。早いですねー。現在は、父、とりあえず落ち着いて、入院中。今日からは大学の冬休みが明けます。これから月末までは、卒業制作にみっちりみっちり取りくむ予定です。当ホームページですが、一昨年後半から昨年にかけて長くお休みしてしまったので、今年は更新ローペースなりにも続けて行けたらと思います。ですので、本年もどうぞよろしくお願いします。
January 9, 2007
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Oh、メリークリスマスです、みなさん。クリスマスだからかどうだか、テンションが通常より高いです。早速ですが、メリークリスマスといえば、メリーさんです。ちなみにメリーさんとは、ひつじではなく、執事でもなく、七時でもなく、六時でもなく、五時でもなく、ゴルゴでもなく、午後の紅茶シリーズのミルクティーでもなく、ひつじ飼いのメリーさんのことです。よぉく覚えて置きましょう。そのひつじ飼いのメリーさんは、よぉく電話をかけるひつじ飼いです。夜の校舎にひとり残っていると、突然、事務室前の電話が鳴りだして、出てみると、「わたし、メリーさん。今、3丁目のタバコ屋の前にいるの」がちゃ。プープープー(えー、なんだよー、間違い電話かなー)りりりんりりりんりりりんりりりん「もしもし?」「わたし、メリーさん。今、2丁目の交差点にいるの」がちゃ。プープープー(なんだよいたずら電話かよ)りりりんりりりんりりりんりりりん「もしもし?」「わたし、メリーさん。今、1丁目の公園にいるの」がちゃ。プープープー(なんだまたかよ)りりりんりりりんりりりんりりりん「おい、いいかげんに・・・」「わたし、メリーさん。今、小学校の前にいるの」がちゃ。プープープー(なんだ、だんだん近づいてる?)りりりんりりりんりりりんりりりん「はい?」「わたし、メリーさん。今、下駄箱のところにいるの」がちゃ。プープープー(なんだよ、なんなんだよ・・・)りりりんりりりんりりりんりりりん「もし、もし?(ごくり)」「わたし、メリーさん。今、職員室前の廊下にいるの」がちゃ。プープープー(なんだって?きょろきょろ、どこに・・・)りりりんりりりんりりりんりりりん「・・・はい?」「わたし、メリーさん。いま、あ な た の う し ろ に い る の」「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・――― 」プープープーという、非常に悪質極まりない嫌がらせ電話をかけるひつじ飼いが、メリーさんです。ひつじ飼いのくせに、電話という文明の力を多用するとは、あなどれませんね。緑の野山を、犬とひつじとともに駆け巡っているだけではないのです。全く、ひつじ飼いってやつは。ですが、こんな携帯電話が蔓延したご時世、メリーさん式通話方なんて誰でもできるじゃん、と、私は思うわけで。道を一歩歩くごとに、定額で通話し放題(※機種・時間帯にもよります)なんですから、いくらでもできます。ある人などは、トイレに入ってる時も、風呂に入ってるときも、携帯電話を手放さないそうです。どこでもいっしょの携帯電話たち。すると、こんなことも起こり得るわけで。ある日、あーよかった間に合ったとトイレに入っていると、ぷるるるぷるるるぷるるるぷるるる(えー、なんだよ、こんなときに・・・)「はい、もしもし」「アー,スミマセン,ワタクスィ,ソチラーデオセワー二ナル, リューガクセイノ,Merry・Christmasデース. イマ,Threeチョーメノ,タヴァコヤサンノマエデ, モゥスグ,ソチラニ,ウカガイマース」ぶつ。プープープー「え、は、なんだよー?留学生って? しかもこんなときに」ぷるるるぷるるるぷるるるぷるるる(えー、今度はなんだよ・・・)「もしもし」「アー,スミマセン, リューガクセイノ,Merry・Christmasデース,ガ, イマ,Threeチョーメノ,タヴァコヤサンノマエカラ, スコスィ,ススンダトコロデース」「スコスィって!そんなに何度もかけてこなくていいよー!」ぶつ。プープープー(なんだよ、誰なんだよ、留学生って、 ったくこんなときに・・・)ぷるるるぷるるるぷるるるぷるるる(またかよ!)「はい、もしもし!」「アー,スミマセン, リューガクセイノ,Merry・Christmasデース. イマ,アナタノヘヤノ,トイレノ,マエニイマース」「いきなりかよ!早ぇえよ! てかどうやって入ったんだよ! てかドア開けるな、開けるな・・・!!!」てなことも、起こり得るわけですね。そうなんですよ、うんうん。というわけで、携帯電話をお持ちのみなさん、ひつじ飼いをあなどってはいけません。ひつじ飼いの驚異的な適応能力をあなどってはいけません。くれぐれもご注意を。メリークリスマス。2006年12月25日午後1時35分結成、すぐ消滅予定ひつじ会会員ナンバー1:青井のーとぶっく
December 25, 2006
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レポートに時間を食われた。そりゃもうばくばく食われた。あらかた食われた後で、ごっくんされた。なんだってもう、こんな酷いことをするんだと爆発して、私はレポートに食ってかかった。そうしたらレポートは、歯型が付くからやめろと言って、ぴょんと一寸飛びして私の手の届かないところまで逃げた。このやろう逃げるのか、根性無しめ、と罵ったら、レポートはこう返した。お前の時間は旨くない。全くもって旨くない。なんてかすかすな時間なんだ。お前の時間はひどく骨粗鬆症だぞ。それを聞いて私は応えた。お前なんかに関わってるから、骨粗鬆症になるんだ。そうでなければ・・・・・・・・・ だけれどもその次の言葉が続かなかった。はたと考えてみると、私は、レポートになんか関わらなくても、いつも骨粗鬆症な時間の中で暮らしていたのではないか。自分と同じ空間の中に、宇宙空間に漂う微量の原子程度の数の人間が、線的にではなく点として、ぱらぱらっとしか存在していない、そんな時間、というか空間、というか時空で。不覚にも、ペシミスティックな若者になってしまった。私があまりにも唐突にペシミスティックでニヒリズムに満ちた若者になってしまったので、レポートはちょっとうろたえたらしい。まあそこに座って少し休めと、私にイスをすすめ、コーヒーを出してくれた。レポートの入れてくれたコーヒーは、レポートが入れただけに、不味かったが、私の気持ちは少し楽になった。 レポートと私は、それからしばらく、自分たちの仕事以外のことについて会話を交わした。好きな音楽のこととか、昨日観たテレビ番組のこととか、たわいもないお話をした。レポートは、意外に気さくなやつだった。私はちょっぴり、好感を持った。 しかし、終わらせなければならないものは、終わらせなくてはならない。私たちは、中断して座礁させかかっていた仕事を再開した。あのたわいもない話が良かったのか、仕事は順調に進んだ。ああ、一生分かり合えないと思っていたやつと、仲良くなれることもあるのかもしれないな、と、私は少し、平和な心模様になっていた。 だがしかし、突発的な悲劇が訪れる。 レポートが、消えた。 突然のことだった。仕事があとわずかで終わりをむかえる、といったころ、レポートが、はー、ようやくあと少しか。一生懸命仕事して流す汗も、いいもんだろう。と微笑を浮かべて汗をぬぐったその時、やつは、跡形もなく消えうせた。私の頭蓋骨の中は、本当に空洞になった。 レポートが消えてしまった。消えてしまったのだ。いくらさがしても、どこにも見つからない。 私は、やぶきじょうのようにまっしろになった。 そのしばらく後、私はぽかんとした頭のままで、教授の部屋の前に立っていた。無意識のまま、目の前のドアを条件反射でノックした。すると、はいはーいと言って、教授が出てきた。すいません、せんせい、と、私は言った。レポートが、消えていなくなってしまったんです。教授はそれを聞いて驚きの声をもらしたが、しばしの沈黙の後、私の肩をたたいた。大丈夫。ちょっと中に入りなさい。私はうなだれて、教授の部屋に入った。教授は、とても優しい声で言った。とてもショックなことだったろうが、大丈夫だよ。人生にはいろんなことがある。今は深い悲しみの中にいるかもしれないが、時がたてば、いつか立ち直れる。さあ、顔をあげてごらん。私は、目に涙を溜めて顔をあげた。すると、そうだ、君に、元気の出る話がある。教授が微笑んで言った。そこに座っている人を見てごらん。彼は、部屋の窓際にある机の方を指差した。私はそのほうを見て、はっとした。教授は言った。こちら、新しいレポート君だ。君の事、よく見てくれるように言っておくよ。 あああ。 脳みその存在しない頭で、私は何かを思った。
December 20, 2006
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ある南方の小さな島に、探検隊が着いた。 その島は火山島で、島の中央には巨大な火山があった。 探検隊は到着するとすぐ、目的地である火山へと向かう準備をはじめた。 が、そこで火山が噴火した。 今から冒険が始まるのだというわくわくしたシチュエーションを無視して、 火山が噴火した。 探検隊の探検の目的がなんだったのかなんて、容赦なく吹き飛ばして、 火山が噴火した。 なぜって、 火山は噴火したいときに噴火するから、 話の山場なんて、まったく考えていないからだ。 大洪水に見舞われた街で、 たった一人家の中に取り残された美女を、勇敢な消防士が、 家が鉄砲水に飲み込まれる直前、 すばらしい機転を利かせてぎりぎりセーフで、 かっこよく救出する、 なんていうタイミングのよさなんて、 まったく考えてないからだ。 だけれども、世界ってやつはよくできている。 このひとつの噴火からめぐりめぐって、 世界経済が上向きになり、 サンマが大量に捕れて、 月面に宇宙基地を作るめどがついたらしい。「いやー、参った。あんなタイミングで噴火するとは! 何にもできずに帰ってきちゃったよ」 と頭をかきながら苦笑いを浮かべる僕を、「ニュースを聞いたときは、あなた、もう死んじゃったかと思った…」 と言って涙ぐむ妻が、港で迎えてくれた。 探検隊は、島の奥へ入る前だったので、みんな生き残った。 生き残った僕は家に帰り、妻と夕食をとる。 テレビには、NASAが月面基地建設に着手したいうニュースが流れ、 テーブルの上には、サンマの塩焼きが乗っている。
December 15, 2006
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December 12, 2006
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ある晴れた日曜日といえば、何事も起こらないような穏やかさを装って、結局何か起こってしまうものなのだが、実際のところ、本当に何にも起こらないままで、アナログ時計の短い針が3時のところを追い越してしまったので、T助はなんとなく焦りを感じていた。「なんにも起こらない日々が、 善良な一人のホモ・サピエンス・サピエンスを、 混乱と虚無に陥れることを知っているのか!」と、緑色の芝の上で手綱を惹かれて歩いている数等の馬が、競馬場のゲートに詰め込まれていくのをブラウン管を通してぼんやりと眺めながら、T助は無意識に近い状態でもって叫んでいた。 近所のキジ猫が、すました顔をして、T助ん家の庭を通り抜けていった。 T助はそこで、ふとした面白い計画を、自分ではもうめちゃくちゃ、世の中の大半の人からちやほやされるだろうと思われてやまない計画を、急に思い出したがてら実行に移すことにした。 それは、T助の家の、なんとなく広くつくられた庭を使って行うものだった。 T助はまず、竹箒を持ってくると、草木の植わって緑になっている端のほうとは対照的に黄色い地面むき出しの庭の真ん中を、丁寧に掃いた。 そして、数ヶ月前に封を切った、おつまみのナッツ類を台所から持ってきて、そのきれいに掃いた地面にばらまけた。 そうしたらすぐにT助は、家の中に戻った。 そして、庭の真ん中がきれいに見えて、かつ、外からはヒトがいることが全くわからない場所に隠れた。 それから、待った。 とりあえず、しばらくしないと、「面白い計画」の「ターゲット」となるやつは、現れない。(忍耐は、いつの時代、何をしても大切なのだ) T助は、困難な事柄を成功させようとする偉人かなにかになったつもりでそんなことを考えていた。 時間は過ぎ、ポテトチップス九州しょうゆ味を一袋空け、一人有名人しりとりを3べんほど終えた。 一向にターゲットは現れないので、さすがのT助も、もうそろそろやめて、またテレビでもみようかなと、計画への情熱を失いかけていた。 だがそのとき、ナッツ類の散らばったあたりの庭に、何かが現れた。 T助はその気配を察して、ホフク前進の体勢で身構えた。 庭を見つめる。 そこには、一匹の黒いカラスがいた。 T助は目を見張った。 念願のターゲットが現れたのだ。 カラスは、太い針金みたいな両脚で立って、きょろきょろとあたりを見渡し、そしてしばらくして、T助の撒いたナッツ類にくちばしを伸ばした。(いいぞ!そうだ!) T助の面白い計画は順調だった。 カラスは、ひとつナッツをくわえて、用心深く飲み込んだ。 いける味だったらしい。カラスは続けて、別のナッツをつついた。(よし、いいぞ!そうやって、食っていけ!) T助は一人で、夕日の落ちかけたフローリングの上で、わくわくしていた。 彼は仕込んでいた。 何を仕込んでいたか。 さあね。 なにヲ。 しゃべるお豆さんを。 ばら撒いたナッツのほとんどは、本物の、味のあるナッツだが、ほんの2・3粒、偽者を仕込んでおいたのだ。 しゃべるお豆さんとは、見た目は全く持って、豆としか見えないが、全くもって、豆ではないもので、軽く刺激を与えると、「ぇくすきゅぅずみぇぃ? ぁあ・ゅぅ・はぴぃ?」と、声を出すのだった。 それはまあ、近くの文具店かどこかで一般的に手に入るものなのだが、T助は、それを動物が飲み込んだら、どんなふうになるだろうかということに、興味を持っていた。 いつか実験してやろうと、小学生のころから、10数年ばかり計画していたことなのである。 その、長年温めていた計画が実行され、しかも目の前で、いままさにその結果が実現しようとしているのを見て、T助は興奮していた。 カラスは、なおも気がつくことなくナッツをついばんでいる。(いいぞいいぞ) T助はにんまりと、そのときを待った。 しかし、そのとき、カラスが動きを止めた。 何事かと、T助も動きを止めた。 カラスは、よくみると、止まっているのでなく、何かに耳を傾けているようだった。 いぶかしい出来事だ。 カラスが何かに耳を傾けるなんて。 しかし、T助も気になった。 カラスは何を聴いているのか。 カラスが、何から、何を、聴いているのか。 するとそのとき、カラスが、羽をおいでおいでさせて、T助を呼んだ。 丁度、学校の先生が、別のクラスメイトから話を聞いて、その後にT助を呼ぶように。 T助は眉毛を八の字にしながら、裸足で庭に降りた。 そのままカラスのところまで行くと、カラスはとっても背が低かったが、T助と、ちょっと前からフツウに知り合いだったみたいに目を合わせた。「な、に、さ?」 T助は、何を言われるのかと緊張していた。 回らない舌でたずねると、カラスが、地面を指差した。 そこにはまだ、2・3粒、ナッツ類が残っていた。 一粒の豆が言った。「おれ、全部食べきられんらしいから、食べてくれんか?」 とってもフレンドリーに、親切に。 やさしかった親戚のおじさんみたいな顔して笑った。 カラスもにこやかに笑ってくれた。 しかもわざわざT助のために、くちばしでもって、彼の手のひらまで、のこりの豆を全部運んでくれた。「あぁ…」 T助はうめいた。 住宅街の中に西日がさして、夕暮れの影がもやっと地面に堕ちた。 T助は、一思いに、ぱくっと、手のひらの豆を全部飲み込んだ。 そうしてばったりと、庭の真ん中に大の字になって倒れた。 カラスは飛び去った。 T助は、思った。 空はなんて透明なんだろうな。なんて。 なんて。なんて。なんて。なんて。 なんて。なんて。なんてなぁぁ。 そして言った。「ぇ…ぇくすきゅぅずみぇぃ? ぁあ・ゅぅ・はぴぃ?」 腹の中で、第2・第3のT助がエコーした、みたいだった。
December 5, 2006
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かぜひいた。ぐずぐず。
December 3, 2006
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さかなさかなさかなーさかなーをーたべーるとーあたまあたまあたまーあたまがーよくーなるーちかごろ、さかなをよく食べます。日曜日の夕飯はさかなでした。月曜日もさかなでした。火曜日もさかなでした。水曜日もさかなでした。今日もさかなです。嗚呼、素晴らしきさかな週間かな。実に健康的ですな。前に焼肉食ったのはいつだったか思い出せもせんですな。あっっ、そういえば、水曜日は肉でした。牛肉たっぷりすき焼きでした。つい昨日の夜……。助けて~ドコサヘキサエンサ~ン!
November 23, 2006
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おひさしぶりです。今日からまた、不定期ぼちぼち更新を再開します。心配してくれた皆さん、すいませんでした。そして、ありがとう。なんだか、去りゆく人の言葉みたいになっちゃいましたが、実際は去りませんので、あしからず。どうぞよろしくお願いします。
November 21, 2006
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こんにちは。 初めての方には、はじめまして。 すでにご存知の方には、お久しぶりです。 更新をやめてだいぶ経つのに、 数日前に書き込んでくださった方がらしたので、びっくりしました。 こんなページでも楽しみにしてくださっている方がいるのだなぁと、 うれしいやら、申し訳ないやら、 これは放っておくわけにはいかんなと思い、 書き始めた次第です。 いつから書いていないのか、だいぶ書いてないですね。 記憶力の弱い管理人はもう思い出せなくなっております。 久々に書くので、どう書いていいのやらもわからない始末です。 更新できなくなっていた理由は、 外的条件 ・就職活動のため(一般企業ではないですが)、時間がなくなった。 ・ケータイ電話を手に入れてしまい、電話代がかかりすぎるようになったので自粛。 ・ケータイ電話を手に入れてしまい、パソコンを使う機会が減った。 内的条件 ・未来への悶々 ・自分という人間に対しての悶々 ・家族内での悶々 ・その他悶々 といった感じでありまして、ネットの世界から遠のいておりました。 以前は不定期更新と掲げつつも、わりと更新していました。 が、それをぱたっと止めてしまった(たぶん)ので、 「あれっ」と思われた方もいらっしゃったかもしれませんね。 まだコメントを返せていない方々には申し訳ないと思いつつ、 忙しさとテンションの低さにまかせ、怠惰全開で過ごしておりました。 書き込んでくださって、まだ返信できていないみなさん、 ごめんなさい。 そして、更新が止まっても見に来てくださった皆さん、 ありがとうございます。 ほんとありがとうございます。 元気が出ます。 しばらく前よりかは、内も外も楽な状況になってきましたが、 まだ余裕がないのでしばらく休みは続くかもしれません。 書き込みへの返信も、もうしばらくかかりそうです。 ですが、このページを閉じる予定は全くないので、 今後とも温かい目で見守ってやってください。 よろしくお願いします。
May 24, 2006
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これはびっくり仰天。あなた、目の速い人ですね。
March 7, 2006
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子持ち昆布の子が、すべて孵化してしまった。 だから私は仕方なく、踊り食いをやった。 まめしぼりを頭に巻いて、本格的な阿波踊りを踊った。 しかし、ステップを踏み間違えたので、誤って、昆布のあいだを泳ぐ魚の群れに飛び込んでしまった。 私は泳ぎに泳いだが、魚たちの泳ぐ速さに比べれば、棒っきれが浮かんでいるようなものだった。 鰯が群れて泳いできて、私のTシャツの中を這い回ったかと思うと、とびうおが空中からタックルしてきたりした。 サヨリとダツがどっちが速いか競争しているのに巻き込まれて蜂の巣にされなかったのは幸い。 だが、昆布のぬるぬるに捕まって、全く出られそうにない。 助けて、助けてと、あらん限り声を上げてみた。 すると、冷蔵庫の中に横たわっていたブタばら肉とさんま三尾がしゅるりの頭上に現れて、溺れる私を観覧し始めたのだ。 うぬ!この、食料の分際で何をしていやがるんだ!こら!眺めてないでさっさと助けろ! 私は怒鳴った。 しかしブタばら肉とさんま三尾はひそひそと何か内輪で話し合うだけで、助けてはくれなかった。 なんてことだ。これから食べるはずのものにさえ、愛想をつかされたのだ。 私は昆布と魚たちの間でぐったりうなだれた。 ところがそんなとき、昆布の間の水が急激な速度で干上がって、魚たちがぴちぴちなりはじめた。 これは天の助け!私は昆布のヌルつきをものともせず、もうすでに子持ち昆布ではなくなった物体の中から這い出した。 やった、助かったぞ。 ふと見れば、ブタばら肉とさんま三尾は私の母親に連れられて、熱されたフライパンの上とグリルの中へ放り込まれたところだった。 私はようやくしがらみから解き放たれた思いで、本日の夕飯の献立を聞こうとした。 だが、まだ終わってはいなかった。 私の背後で冷蔵庫の扉が開き、タマゴポケットの中に並んでいたタマゴどもが、一斉に孵化しはじめたのだった。 私はザルを持って身構えた。
March 7, 2006
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日記を登録したら、変な日に登録されてしまいました。February 26, 2006の日記「底抜け」は、March 02, 2006の日記です。あしからず。。。
March 2, 2006
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物質観。こんな形状になる骨格を持つ動物は地球上にはいないので、あるお笑い芸人は一本の骨の周りにミンチを付けてそれらしいものをつくっていましたとさ。
March 1, 2006
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これは、私が高校時分にある先生から聞いた話を、思い出して書いたものである。 その当時定年近くなっていたT先生が、まだ若かったころ、あるクラスの担任をしたときのことである。そのクラスには、一人の女子生徒がいた。彼女は勉強もできるし、明るい性格で友達関係も悪くなく、T先生や他の先生から見ても、何の問題もないと思われていた子だった。 そんな彼女の母親が、あるとき、T先生のもとへ娘のことについて相談をしにきた。 受験を控えた高校生がよくやるように、娘も夜遅くまで勉強に励んでいるという。だが、2階にある彼女の勉強部屋からは、毎夜毎夜、すさまじい騒音がするらしい。とても大きな音なので、下の階にいる家族は心配で気が気でないという。 どんな理由でそのような音がするのですか、と、T先生はたずねたが、しかし母親はそれについてすぐには口を開かず、まずは娘の部屋を見てくれと言った。T先生は言われるままに、その教え子の家へと向った。 こちらです、と、母親が娘の部屋へとT先生を案内した。部屋に入り中を見回すと、整った、何の変哲もないこの年頃の女の子の部屋だった。彼女自身が選んだのか、柔らかくおとなしい雰囲気で統一されている。 しばらくながめていると、先生、これがあの子の机です、と言って、母親が指をさした。目がとまったのは、彼女の使っているらしい勉強机だった。その机は、よく見ると、部屋の雰囲気とは少し違った印象を持っていた。とてもしっかりしたつくりの、飾りの少ない機能的なデザインであり、長い年月がつける黒褐色の風合いを帯びた、木製のものであった。おそらくは、彼女がこれを使う以前から、誰かによって長く使われてきたのだろう。 これがどうしたのですか、と、T先生はたずねた。すると母親はゆっくりと、机の上に敷かれている、透明と緑色が二重重ねになったゴムのシートに手をやった。そして、これを見てください、と言って、シートをめくりあげた。 シートの下を見たT先生は、はっとしたという。そのシートの下、机の上面をなす広い木の一面には、おびただしい数の傷があった。まだ付けられて新しいと思われるその傷口からは、木が持っている本来の生々しい色が現れていた。あらゆる方向へと走った跡は、荒くささくれ立って、交わった点で深く板をえぐっている。床を見ると、削りかすと思われる木のくずがほんのわず、転がっているのが分かった。 T先生がそれを見下ろしたまま突っ立っていると、母親が言った。「あの子、勉強をしていて、間違ったところがあったり、うまくできなかったりすると、こうやって、カッターナイフや小刀で傷をつけるんですよ。叩きつけるようにするものですから、ものすごく大きな音がするんです」 そこから先の話は、先生が語らなかったのか、それとも、なんらかのかたちで終わりになってしまったのか、私の記憶には残っていない。しかし、ときおり思い出されてならない話だ。
March 1, 2006
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再び。こんなこと口走ってるひとに、どう言ってやったらいいものか・・・。
February 27, 2006
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ストーブにかけておいたやかんが、急にじゅうじゅう言い始めた。 沸騰しているわけでもないのに、変なことを言い始めた。 興味が湧いたので、全世界料理道具語に精通した妻に、通訳をしてもらった。 わたしは言う。「なんだい、なにを言っているんだい?言いたいことでもあるのかい?」 妻が訳す。「じゅうじゅうじゅううううう・う?じゅじゅう・じゅううう・じゅう・う?」 やかんが答える。 じゅううう・じゅうう・しゅぴゅるるううう・じゅうう 妻は言った。「あ、あ、あ、あす・・・・あす、そこ、が・・・・・・ぬ・・・ける・・・・・・。だそうよ」 私はそれを聞いて、面白くなって言った。「へえ、またそれは困ったことだな。やかん君、一体、何の底が抜けるんだい?」 妻は訳す。「じゅぶじゅじゅ・じゅぶじゅ・じゅう・しゅぴゅるる・るるう・しゅぴるるぺ・じゅう・う?」 やかんは答える。 じゅぺ・ぺ・るぴゅうううう・しゅぷるうう・うれ・ううう・ぷきゅう・しゅぴゅるるるううっぺ・ぺぺう 妻が答える。「世界の底が抜けるそうよ」 ますます面白くなって、僕はまたたずねる。「へえ、そうなのかい。それは大変だね。世界って、どこのことだい?この家のことかい?」 妻はまた、やかんに問う。「しゅぷるっぺ・しゅぴう・ぷひゅひゅひゅひゅひゅう・しゅぷるっぺ・しゅぷるっぺ・ぷひょん・じゅう・う?」 やかんは答えるが、少し苦しそうである。 ぷひょん・ひゅるるっぺ・ぴゅしゅしゅ・ぱきゅーーーぺりっぽ・ぷしゅしゅるしゅうしゅう・じゅうじゃじゅじょじぇきゅやー・ぴゅしゅしゅっぺ 妻が、やかんの言葉をそっくりそのまま伝える。「たいへん、な、のさ、よ・・・く、きく、よ・・・うに。そ、こ、が、ぬけて、し、まうん、だ」「それは分かったよ。だからどこのことなんだい?」 僕が割り込む。「最後まで聞いて」 妻が言う。「せ、かいさ、せ、かい、の・・・・・・そ、こ、ぬけ、さ。ぬけ・・・・・・っち、まうのさ」「うーん、分からないなぁ」 わたしと妻は顔を見合わせて首をかしげる。 するとそのとき、 んピューーーーーーーーーーーーーーーーーー、んぴゅーーーーーーーるるるるるるるりりりりりるらるらあっは!んぴゅーーーーーーーーーーぴゅーーーーーーーーーーーピりーーーーーーーーーーーーーーきゃーーーーーーーーーーーーーーるりーーーーーーーーーーーーーーぺーーーーーーーーーーぽきょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!「いけない、沸騰してしまったわ」 妻は冷静な顔でそう言って、やかんをストーブからおろし、ポットに入れにいく。「うーん、それじゃあ仕方がない。なんのことかさっぱりだったが、今日はやめておこう」 そうしてわたしたちは床に就いた。 次の朝、わたしは、妻の叫び声で目が覚めた。 一階へ降りてみると、妻は台所でやかんを持ったまま、ぼうぜんと立ち尽くしていた。「底がないの」 妻が上ずった声で言う。 見ると、やかんは底抜けだ。「あー、これのことだったんだね、昨日、これが言っていたことは」 わたしはしょうもなさそうな笑みを浮かべて、やかんを撫でてやった。「違うの」 妻はなお、困惑した表情で言う。「どうしたの」 私はたずねる。「全部、抜けてるのよ」 わたしはおそるおそる、台所からリビングから玄関からトイレから風呂場まで、すべての場所に置いてある、「底」のあるものすべてを見た。 妻の言葉どおり、すべて、底なしだった。「あー、このことだったのかあ」 わたしもぼうぜんとした顔で言う。 しかし妻は返す。「それだけじゃなさそうよ」 するととたん、 ばきこん、めりっ! 家の床が全部抜けた。 近所の人々によくよく聞いて回ると、どこも我が家と同じ状態だそうだ。 ははん、これのことだったのか、とわたしが庭で納得していると、妻が心配そうな声で言う。「また・・・・これでも終わらないかも知れないわ・・・・・・」 数週間後、日本列島は底なし沼のようになった太平洋に沈んでいった。 そしてそのまた数ヶ月後、世界の大陸はすべて、海の底へ沈んだ。 そしてそのまた、また・・・・・・・・・
February 26, 2006
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ある山あいの小さな村に、ひとりのおばあさんが住んでいました。おばあさんの家には、おばあさんひとりだけで、ほかには、飼っているにわとりが何羽かいるだけでした。 おばあさんは、そのにわとりたちに毎日せっせとえさをやって、せっせと世話をしました。にわとりたちはよくえさを食べて、おばあさんのために卵を産みました。 ところが、その中の一羽に、鳴くことができないにわとりがいました。どういうわけかわからないのですが、生まれてから全くいちども、鳴いたことがないのです。 おばあさんは、そのにわとりに向かって言いました。「おったまげた。おまえ、こっここっここけこっこーいうて鳴くこともできんのやったら、 にわとりじゃなかろうがな」 それを聞いて、にわとりはとり小屋へいそいそと隠れてしまいました。 しかし、にわとりはおばあさんのことが大好きでした。おばあさんが畑に出て、ミニトマトの世話をしたり、ほうれん草を取ったりしているときも、ちょこちょこと後ろをついてまわるのでした。 おばあさんはにわとりをからかいながらも、かわいいにわとりだと思って、「こっここっこ、けっこーけっこー、こりゃけっこー」 と、いつも声をかけてやりました。 おばあさんの畑には、春の草花が芽吹き花を咲かせ、雨が降りカタツムリが這い回り、クマゼミが飛んできたり、あかとんぼがやってきたり、粉雪が舞ったりして、季節は幾度かめぐりました。 ある日おばあさんは、遠くの町に住んでいる娘のところへ電話をしていました。元気にしているか、かぜはひいていないか、孫は大きくなったか、話は弾んで、ついおばあさんは話すぎてしまいました。電話を切ったあと、おばあさんは、頭がくらくら、気分が悪くなり、土間に続く茶の間に突っ伏てしまいました。 おばあさんのまわりには、誰もいません。 にわとり小屋のちかくではこべをつついていたにわとりたちも、おばあさんが倒れてしまったことに気がつきません。しかしそのとき、今日は畑に行かないのかなと思った、あの鳴けないにわとりが、おばあさんの家の中へ入っていきました。そして、ああ、大変だ、おばあさんが倒れているのを見つけました。 どうしよう、どうしよう。にわとりはうろうろうろうろ歩き回りました。動かないおばあさんをつついて起こそうとしましたが、だめでした。ああ、どうしたらいいんだろう、どうしたら、おばあさんを助けられるんだろう、どうしたら、どうしたらどうしたら・・・。 にわとりは外へ飛び出してあらんかぎり、その辺りにあるもので騒がしい音を立てました。転がっていたやかんを蹴り飛ばし、がらんがらんがらん! 柿の木の枝に登って、みしみしぼきっ! 石をくわえてあたりかまわず投げ飛ばし、べっこんぼっこんがしゃんがしゃぱりん! そのにわとりの狂ったような騒ぎに驚いて、他のにわとりたちも騒ぎ始めました。「なにやっとんの、ばあちゃんちのにわとりは?」 それに気がついた近所の人が、おばあさんのところへかけつけ、そして、救急車が呼ばれました。 今日もおばあさんちのにわとりたちは、こっここっこはこべをつついています。 えさは、近所の人がときどきやりにきてくれます。救急車に運ばれてから、おばあさんは、このうちへ帰ってきていません。 にわとりたちはときどきおばあさんの畑へ降りて、ちょこちょこ歩きまわります。おばあさん、いつ帰ってくるのかな。 にわとりたちは知らない話ですが、体の不自由になったおじいさんおばあさんがたくさんいる病院の、ベットの上で、おばあさんは、いつか体がよくなって帰れる日を待っているそうです。 おばあさんの枕元には、ふわふわしたにわとりのぬいぐるみが置いてあります。おばあさんはときどき、動かない両手でそれを持って言うそうです。「お前、鳴かんといかんじゃないか、そら、 こっここっここっここっこ、けっこー、けっこー、ありがとうございます、いうてな」
February 26, 2006
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いそげ。ああ、待ってよ!服を着替えなきゃそれじゃ・・・・・・。
February 24, 2006
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僕は、花粉症に悩む人間の一人だ。だから、春先になるととてもつらい。今日も、鼻水・くしゃみ・目のかゆみに襲われ続け、何もする気力が出なかった。寝ていることくらいしかできないが、起きた時に一気に症状が強くなってしまうことを考えると、寝るとしても当分起きないようにしよう、などと思ってしまう。 しかし今年は、花粉症人間に力強い味方が現れた。それが何なのかというと、花粉を、鼻の穴に入らないくらい巨大化させてしまうことのできる薬品である。それは、全国の杉林に散布され、絶大な効果を発揮している。薬の効果をテレビでリポートする様子を見ると、林の地面には無数の、野球ボール大の黄色い物体がごろごろと転がっていた。 それでも、完璧に花粉を駆除することはできないようすで、一部の小さなまま空気中に飛び出した花粉もまだ存在する。それに対しては、例の薬をファ●リーズのようにスプレーで散布して、その場で巨大化させ撃退するという手を取る。そんなわけで、スーパーに並んだ例の薬のボトルは、飛ぶように売れた。 しかし、そんな素晴らしい発明には問題も付きまとう。巨大化した花粉は、大きくなったとはいえその重さはそれほどない。よってまだ、空気中を漂うくらいのことはできる。日々増え続ける花粉は、風によってごろごろと運ばれ、道路に転がって車の通行を邪魔するようになった。おかげで、何度か大きな交通事故が起きていて、これからも増えることになるだろう。 まだ問題はある。巨大化する薬は、花粉だけにしか効かないというわけではなかった。薬を散布した先にいた生物は、ある条件の下それに触れると大きくなってしまう。お陰で体長3メートルの猫や、身長5メートルの幼稚園児ができてしまった。だから、この薬は非常に細心の注意を払って使われなくてはならないのである。 僕も、その薬を手に入れてきたところだ。部屋の中に散布してみる。ああすごい、黄色いボールがころころ現れた。やや、カビ・ダニまで大きくなって、もぞもぞ徘徊しはじめた。後ろを振り向く。なんと、ゴキブリが・・・・・・! このままではやられてしまう。ゴキブリには恨まれ放題恨まれているんだ。なんとかしないと身の危険が。そうだ、これをかければいい。自分にかけて・・・・・・。ぐんぐんぐんぐん・・・・。僕はそうして、ゴキブリと対峙する。 日本列島には、巨大化した人間たちが増えていったという。そうして、はっくしょん! 僕らの花粉症の悩みは、再び続くのであった。
February 24, 2006
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問い。きみは、えーと、きみでしょう。それ以外に何があるって?
February 23, 2006
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ミノムシがケムシに言った。「寒くないのか」 ケムシは言った。「寒い」 それを聞いてミノムシは言った。「だったらミノを作れよ」 ケムシは答えた。「そんなに器用じゃない」 ミノムシは返した。「簡単だよ」「じゃあ、作ってみる」 ケムシは自分の口から糸を吐いて、ミノ作りを始めた。しかし、甘かった。 先祖代々ミノなんて作ったことのない体には、細かい仕事は疲れた。 なので、すぐにやめてしまった。「あきらめるな」 それを見ていたミノムシは言った。「うるせえ」 ふてくされて毛虫は言った。「だったら、おれのをやるよ」 友人思いのミノムシは言った。「ありがたい」 ケムシはそれを、有難く頂戴することにした。 しかし、自慢の長い毛が引っかかって、中に入れない。「あかん」 ケムシは言った。「お前関西のケムシか」 ミノムシは言った。「どこでもいるケムシだ」 ケムシは口を尖らせた。 そこで、「毛を切れ」 ミノムシは言った。「おれは毛が命のケムシだぞ」 ケムシは怒鳴った。「かまうものか、切れ」 ミノムシは言った。 そこでケムシは、しぶしぶハサミムシのところへいって、からだじゅう、丸刈りにしてもらってきた。「これでいいか」 ケムシは言った。「ああ、いいぞ」 ミノムシは言った。 そうして、ミノムシがケムシにミノを着せてやろうと、ミノを脱ぎだしたとき、 かあ かあ かあ かあ カラスが飛んできて、裸のケムシをさらっていった。「よくやったぞミノムシ」 カラスは満足して言った。「ほら、嫁さんは返してやる」 そう言って、ひとじちのミノムシの嫁さんを投げて返した。「なんてことしやがった!」 ケムシは泣く泣く叫んだ。「この、裏切り者!」「悪く思うな!」 ミノムシはうなだれて呟いた。 カラスは、ケムシをくわえて、どこか遠くへ飛んでいってしまった。 それからというものミノムシは、 ミノの中にじっとこもっている時間が多くなり、 ケムシやカラスや、そのほかどんな生き物がやってきても、 すぐ隠れてしまうのでした。
February 22, 2006
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誤解するのは禁物です。
February 21, 2006
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沢がには、もっと大きなハサミが欲しかったのでした。そこで、物知りのなまずに相談してみると、「お前のよりザリガニの持ってるほうが大きいぞ」と言われ、さっそく沢がには、ハサミを取り替えてくれるようザリガニに頼みに行きました。 すると案の定、「お前なんかにくれてやるか。ちびすけが」 と、追い返されました。 なまずのところに戻って報告すると、「けちょんけちょんにされなかっただけよかったな」 と笑われました。 でも沢がには、やっぱり大きなハサミが欲しかったので、ほかに大きなハサミを持っているものはいないかと、もういちどなまずにたずねました。するとなまずは、「人間の子供が、大きなハサミを持ったやつを持って遊んでいたことがあるぞ」 と言いました。 だったらそいつに頼んでみようと、沢がには人間の子供がいる家へ忍び込みました。そして、なまずが言った、大きなハサミを持ったやつを見つけて、ハサミを取り替えてくれるよう頼みました。 しかし、大きなハサミを持ったそいつは、いくら話しかけても返事をしません。沢がにはそいつの体をちょんとこづいてみましたが、ぱたんとたおれてそれっきり、全く動かないので、気味が悪くなって帰ってきました。 またなまずのところに戻って報告すると、「人間に見つかってぺちゃんこにされなくてよかったな」 と笑われました。 それは、のちに聞いたところによると、バルタン星人という名前の宇宙人の人形だったそうです。 2度もはさみ探しに失敗して、2度もなまずに馬鹿にされたので、沢がにはふてくされて道端をずんがずんが歩いていました。 すると、沢がにの目に、あるものが飛び込んできました。(これこそ、ぼくが求めていたハサミ!) 沢がには小躍りしてそのハサミに近づきました。 それは、人間が使うもののようですが、近くに人の気配はありません。沢がにはそれを、かにのくせにネコババすることにしました。(これで、ぼくも胸を張っていられるぞ) 沢がには有頂天でした。 ――――しばらくして ある珍事件が、人間の新聞に取り上げられました。その記事の見出しは、以下の通り。『高枝切りバサミを背負った沢がに発見』 人間はびっくり仰天驚いて、おもしろおかしく、沢がにの写真を撮り、しかも沢がにを拉致して、「とても珍しい沢がに」として地元の水族館へ送り、見世物にしてしまいました。 沢がには(なんてこった!) と思いましたが、もう遅いのでした。 しずかな川の底で、なまずが笑っています。「焼いて食われないだけよかったな」 と。
February 20, 2006
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のぞいたら、猛獣登場。がおー
February 20, 2006
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私とTとは、計画通り、ある青年に声をかけた。 彼は今、本屋から出てきたところである。先ほどまで2時間ほどずっと、雑誌・漫画等を立ち読みし続けていた。 このようなときこそが、私たちが仕事をするには丁度よい状態なのだ。例えば他にも、ゲームセンターで長時間ゲームをした後、ネットカフェでヴァーチャルの世界に浸っていた後等、都合が良い。特に、本人が一人だけで楽しんでいた場合が有効である。そういうときには、その人の中に頑強に固定されているはずの「ゲンジツ」がわずかにめくれ上がっており、私たちが行う仕事を成功に導いてくれる。 青年は、崩れ始めた天候の空を見上げ、足早に路地へと入っていった。私たちは後を追う。 彼が、道の脇に駐輪していた自転車のロックを外し、それに乗ろうとしたとき、私たちは声をかけた。「こんばんは、ちょっとよろしいですか」 青年はよくあるように、突然声をかけた顔見知りでない私たちに、それ相応の反応を示した。しかし、私たちには彼の目の中に、本屋の中で大量にインプットした空想の類が渦巻いているのを見て取った。これでいい。Tが話を始めた。「君は、現実って何だと思う?」「は?」「君はこの場に、自分がどういう状態で存在しているか、分かるかい?」「・・・・・・」 青年は私たちを無視して、自転車を無造作に動かし始めた。「待って」 私は、彼の進行方向を塞ぐ。「なんだよ、あんたら!」 青年は事の異様さを感じて、声を荒げる。が、内心は50%以上怯えが支配している。私とTとが取り囲んで、動けないようにしてしまう。「ちょ、ちょっと、なんだよ・・・・・」「大丈夫、心配する必要はない。ただ、君に知ってもらいたいことがあるんだ。そう時間はかからない。我々の質問に答えてくれ」「あなたは、今目の前にあることが、現実に起こっていることだと思う?」「・・・・・・は?」「私たちがここにいて、話していて、息をしていて、つまり、いろんな情報が入ってくる中で存在しているはずね。それをあなたはどう感じるか。あなた、現実というものをリアルに感じてる?」「なんかの、宗教ですか・・・・・・?」「いいや、そうじゃないさ」「ただ聞きたいの」 私たちは、沈黙を持って彼の答えを引き出そうとする。その間も、彼に逃げる隙は与えない。「って、え・・・・・・よく分かんないんスけど・・・・・・」 彼にはまだ、「ゲンジツ」がちゃんとはりついている。それを証拠に、この状況を何らかの形で解釈し、どんな行動を取るべきか考えている。いくら、驚きと緊張に支配されてはいても、彼にとっての「ゲンジツ」は有効性を持っている。しかし、落せない程度ではない。私は言った。「今自分が見たり感じたりしていることが、本当に現実なのか、それとも夢なのか、と、考えたことはない?」「えー・・・、それは、なくはないけど・・・・・・。誰もがあること、でしょ、当たり前に」「そうね」「確かにそう。なら、君は、今この時が夢なのか現実なのか、分かるかい?」「そりゃ、現実だろ」「どうして?」「寝て、ないし・・・。ねー、もういいでしょ!いいかげんにしてよ!」 青年は苛立ちを隠さない。Tを押しのけて去ろうとする。己の「ゲンジツ」が侵されているのを感じた人間が取る行動。私たちには分かっている。もう幾度か押せば、事はすむことも。「ゲンジツ」を受け入れて生きる期間が短ければ短いほど、私たちの仕事は楽だ。事前の家庭環境・思想・興味関心の方向を調査した結果によると、この青年には、私たちのすることを否定しきるほどの「ゲンジツ」に対する信頼は存在しない。 そのとき、この路地にともる街灯が音を立てて明滅し、消えた。青年は動きを止める。私は再び口を開く。「あなたは、ほら、今自転車を掴んでいるでしょ。鉄でできたフレームと、ハンドルのゴムの部分。それを掴んでいることは、感じているのよね、その手を通して。電灯が消えたことも、目で見て分かった。だけど、どれだけその五感というものは、信頼に価するかしら?」「何言ってんのか分かんないよ」「夢の中だって、ものは見えているし、触覚やにおいを感じることさえある」「どうしたいのさ!」「君にもっと「ゲンジツ」というものを知ってもらいたいのさ」「あなたなら分かるはずよ」「はぁ?」 抗体ができ始めている。私たちには分かった。 自分の肉体や内面が侵食されそうになったとき、人は、自動的に己をバリアーで被う。物理的な場合には攻撃や逃避というかたちとなって表われるが、精神的には、自らの思考をある混乱状態に陥れ、外界から入ってくるものをシャットダウンし始めるのだ。それが、抗体。強くなりすぎれば、いくら落しやすい人間であってもうまくはいかない。 そこでTは強行に出た。いきなり青年の肩を掴むと自転車から引き剥がして、建物の壁に激しく押し付けた。自転車が便りを失くしてアスファルトに倒れこむ。その急激な動きに、青年は目を丸くして声も出せない。Tは間髪入れず、声を荒げて言う。「どうして本当のことを言わないんだ!君の感覚は、常に何かによって騙されているんだぞ!君は、「ゲンジツ」がなんなのか分かるのか?手に持って、これだと見せてやることができるのか?」 青年は怯えきった目で、Tを見上げる。予感のない衝撃に、抗体は効かない場合があるのだ。今、彼の目の前にあるのは、ただの恐怖、だけになりつつある。しかしまだ、助かりたいという希望はあるようだ。彼はちらりと、路地の出口を見た。誰か来ないか願っているのだ。 私は、2人からすこし離れた所から、落ち着いた声で言う。「あなた、誰か来てくれって、思ったのね」 彼の目を見る。うなずかないが、そうだと思っていたのは、手に取るように分かる。「そして、どうして誰も来ないんだって、思ったのね」 青年は私を見ている。私は淡々と続ける。「もしかしたら、あの出口の向こうには、誰もいないかもしれないわ。そんな馬鹿なって思うでしょ。だけど、どう、この状況を見て。私たちがあなたのそばに来て、誰がこの路地に入ってきたり、覗き込んだりした?考えてみれば、車の音だって、聞こえないようね」 青年は動揺して、辺りを見回す。彼の耳には、路地の外からの静寂しか聞こえない。「え・・・・・・」 とても小さな声で、青年がつぶやく。疑問のような、絶望のような声色で。青年の瞳孔の色の変化を見て取ったTは、彼の体を自由にする。しかし、青年は動かない。 そんな彼に、私は言う。「「ゲンジツ」とは、脆いものよ。あなたは今、「ゲンジツ」にぽっかり空いた、穴の中にいるわ」 青年は口をぽかんと開けたまま、私の目を見ている。私は、動かないまなざしを返す。彼は、Tの方を見上げる。そして同じ動かない視線を受けて、わずかに震え始める。「・・・・あ・・な・・・・・・?」「そう、穴よ」 青年は再び、私たち2人を交互に眺める。じりじりと、彼は体をTから離していく。彼は逃げるだろう。この路地から、物凄い勢いで飛び出すだろう。しかしもう、十分。「あなたは、「ゲンジツ」の穴に落ちたわ。そこから出たとしても、もう、あなたの前に、今までどおりの「ゲンジツ」は存在しないわ」 それが彼の耳に届いたか否か、彼は、地面に転がる自転車には見向きもしないで、路地の出口へと走り去った。しばらくして、すこし離れたところから叫び声が上がったが、声はそのまま遠ざかっていった。 私とTは、何も無かったかのようにその場にたたずんでいる。「行こうか」 ようやくTがそう言って、私たちは路肩に止めてあった車に乗り込む。 私は助手席でシートベルトを締めながら、Tに言う。「彼からの「ゲンジツ」の剥離は、75%というところね」「思いのほか低いな」「だけど、彼の今までの生活からすると、放っておいても1ヵ月後には100%になる」「そうだな。一応、監視役に経過報告を頼もう」「そうね」 車が走り出すと、窓の向こうを電飾が彩った建物が流れていく。人々が、何事もないように歩道を行き交っている。 私が「ゲンジツ」を失って、どれくらいか経った。見るもの触れるものはすべて目の前を通りすぎ、なにひとつ、私に痕跡を残しはしない。己が「生きている」ということさえ、当に感じなくなってしまった。「生きる」ということを追求する問いさえ、もう必要とはしなくなった。私にはもう、「ゲンジツ」などないのだから。 Tはラジオをつけることもなく、ハンドルを握っている。彼と私が同じ世界に存在している、なんてことも、お互い全く信じてはいないだろう。彼は以前に言った。何もかもが、実体を持たない影なのだから、と。窓の外には、相変わらず平板な絵が流れていく。 わたしはふとコートの袖に目をとめる。雫が落ちそうなほどに湿っている。 雨が降っていたなんて、気づきもしなかった。
February 19, 2006
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ぼくはコンビニで、本日の夕飯を買おうとしていた。今日も夜遅い。適当なものでいいから腹に入れてしまおうと思って、カップラーメンの棚の前に立った。 さて、どれにしようか。日清カップヌードルでもいいが、UFO焼きそばでもいいし、金ちゃんヌードルでもいいが、きつねうどんでもいい。あ、でもやっぱ、ラーメンがいいかな。ぼくは、何を選ぶにしても時間がかかる。今日も、候補を二つにしぼったあとからが時間がかかった。 醤油ラーメンと、塩ラーメン。パッケージの写真を眺めたが、どちらもそれなりに旨そうな顔をしている。どっちでもいいのだが、どっちかに決めなくてはならない。今日の気分は、さてどっち? ぼくがそういうふうに迷っていると、急にそばから声がした。「もしもし、お兄さん」「あ、・・・はい?」 ぼくのことだった。ぼくの左手に、得体の知れない男が立っていた。男は黒ずくめで、教会の神父みたいな格好をしていた。しかし、変な形のサングラスをかけているので、怪しいやつとしか言いようがなかった。 ぼくはもちろん、怪訝な顔で男を見た。「なんですか」「選んでいるんですね」「え、はぁ」 男は口元に笑みを浮かべて、ただぼくの様子をじっと眺めている。なんですかと言っても、答えない。「選んでいるんですね」以降、全く口を開く様子がないので、ぼくは気味悪くなって、さっさと店を出ることにした。 まあこれでいいかと、醤油ラーメンの方へ手を伸ばしたところ、男は再び口を開いた。「これはとても重要な選択ですよ」 ぼくはびくっとして動きを止めた。「非常に重要な選択です。それで、いいんですね」「いいんだよ!」 弱った。ヘンなやつに捕まった。ラーメン選ぶのに重要も何もあるか。ぼくはどうしようもなくて、不機嫌な声でちょっと返事をすると、醤油ラーメンを棚から取った。重要なんて言われたからか、一瞬、塩ラーメンが脳裏をよぎったのだが。男は、表情を変えることなく立っている。 ぼくはレジへ行く。店員に醤油ラーメンを差し出して、会計を待った。すると、ぼくの後ろを通って、さっきの男が出口へ向った。そして去り際、こんな風につぶやいた。「君の選んだほうは、最悪の結果です。選ばなかったほうは、最善の結果でしたが。選択は、それ以外にも沢山あったのですよ」 振り向くと、そこにはもう男の姿はなかった。 ぼくは首をかしげて、しかし何事もなかったかのように店員からラーメンを受け取ってお金を払うと、店を出た。「うー、寒いっ!」 ぼくは、変な気分を紛らわせるように、声を出した。 商店街を歩いて、自分の部屋へ帰る。人通りは少ない。 空には、火星かなにかの星が、明るく光っていた。 部屋に帰って、カップラーメンにお湯を入れ、テレビを点ける。もうそろそろ3分経ったかな、と、ぼくが割り箸を割ってふたを開けたとき、テレビのニュースキャスターが言う。「日本時間の本日午前0時、地球に非常に接近した軌道を通るとみられる彗星が発見され―――――」 ぼくはブラウン管に映る映像をのんびり眺めながら、ラーメンをすすった。 こんなこと、もちろんよくあることだが。
February 18, 2006
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申し上げ候。拙者、ぐっぴいと申し上げ候。
February 18, 2006
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地球人が土手を散歩していると、前から宇宙人がジョギングしてやってきた。「やあこんにちは」「やあこんにちは」 2人は挨拶をして通りすぎようとしたが、地球の重力磁場がホモ・サピエンスの苦行のお陰で異常をきたしてしまったので、その場から動けなくなった。2人はびっくりしてマイケルジャクソンみたいな格好をしていたが、飛ぶように月日は流れ、一億年という途方もない年月が経ってしまった。だから、生命体である彼らは、重力磁場に固定されたまま、微生物に分解されて骨になってしまった。 ある、一億年後と少し経ったころのよく晴れた日に、一匹のトカゲが川泳ぎから上がってきて、固まったまんまの2人の人類に声をかけた。「やあこんにちは、いい天気ですね。地球はどこも晴天だそうですよ。ナトリウムの雲も出ないし、酸素濃度が正常値よりも高いらしいから、とっても快適ですよ。うーん、おいしい空気だな」 トカゲは挨拶代わりに2人の人類の大腿骨をこんこんと鳴らして、陽気な鼻歌を歌いながら去っていった。しかし、弱肉強食の掟はいまだにご健在で、トカゲはすぐに、ヴェロキラプトルの追跡に遭ってロストした。 それからすぐに、もう一億年が経った。2人の人類の骨はリン酸の結晶に置き換わり、その後、プラチナ化されて、風雨落雷にも動じないようになっていた。そこに、一匹のインド象がやってきた。「やあこんにちは。今日も好いお天気で。紫外線の降線確率は100%ですって。でも私は、コカ・コーラ社製のステルス皮膜を付けているから、全く問題はないは。しかし、どうしたものかしら。大陸移動説が高精度で実証されて、インドが山に登ってしまったというのに、私はまだインド象なのよ。宇宙が収縮しても、インド象のままなんでしょうね」 インド象は大またで歩きながら、空を横切るジェット機の引く線を眺めていた。そう、それはまるでバクテリアの伸ばす細長い体のようだった。 それからまた一億年が経った。2人の人類の体は地熱の作用によってα化し、彼らは、かの有名なアメーバーになった。 地球人が、久しぶりに口を開いた。「全く、体の節々が痛んでしまうよ、こんなに長く立っていちゃあ」「全くそうだ。僕の骨なんかぽきぽき言って、テレビショーを観たみたいに笑っていたよ」 宇宙人も、久しぶりに口を開いた。 あんまり長く2人とも黙っていたので、久しぶりに声を交わすと、お互いの思っていることが本当の本当に通じ合ったような心持になった。本当の本当に、通じ合ったように。 しかし、ふと2人は、ほぼ同時に同じことに気づいて、空を見上げた。晴れた空の天頂には、アンドロメダ銀河が巨大な両腕を回しながら旋回している姿が浮かんでいた。 その虚空に浮かんだ星のゆりかごは、途方もない時間の流れを彼らに照射して、2人は足が触れ合うほど近くにいるのに、ブラックホールでも突き破ることのできない空間の隔たりが互いの間に絶対的に存在してしまっていることを感じさせた。2人は、黙って空を見上げた。「また、長い年月が過ぎるね」「また、そうだろうだね」 ヘールボップ彗星と百武彗星がかち合って、クリスタルグラスのはじける音を立てた。 長い長い時間と、広い広い空間の中にいる僕らの、そんな、ちょっぴり悲しいおはなし。
February 17, 2006
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じゅわじゅわじゅわじゅわじゅわ・・・・・からからからからからからから・・・・・ぴちぴちぴちぴちぴち・・・・・・天ぷら。か?
February 17, 2006
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僕は、交通事故を起こしてしまった。 相手は、若い女性。僕が交差点を曲がろうとしたとき、急いでいた彼女は、車が来ないと思って横断歩道を渡り始めたところだった。僕はその姿を見ていなかった。彼女の驚いた顔が急に僕の目の前に飛び込んできて、咄嗟に僕はハンドルを切ってよけようとした。だが、もう遅くて、彼女の体が僕の車にぶつかる音がして、僕の車は、近くにあった電柱に衝突した。 彼女は病院へ運ばれた。ひどい怪我で、血が出ていて、顔を見ることも出来なかった。救急車に付き添った僕は病院へ着き、彼女が乗っている台車と共に走り、手術室のドアの前で締め出された。 僕が手術室のランプを眺めながら待っている間に、彼女の親族がやってきた。どうしようもなさに挨拶をしたが、蒼白の顔の彼らは、僕にかまっている場合ではなく、沈黙を返した。 なんてことをしてしまったんだろう。僕は、その場にいることが出来なくなって、待合室まで逃げ出した。 夜の暗さが、幾つも長いいすの並んだ待合室を被っている。非常ベルの上の赤いランプと、非常階段サインの緑の光が、ぼうっとなってあたりを照らしていた。僕は、一つの長いすの端に腰掛けた。 僕は、人を殺してしまうかも知れない。僕の運転していた車が、人をはねてしまうなんて、全く思ったこともなかった。そんな恐ろしいこと、あってはならなかった。全身の血が引いているのが分かる。体中の神経がおそろしくぴりぴりしている。どうしよう。僕は、なんてことをしてしまったんだ。彼女が助かってくれなかったら、僕はどうしたら・・・。頭を抱え込んだ。 気が付くと、少し離れたところに、一人の女の人が座っていた。彼女も、なにか思いつめたような表情をして、僕と同じように座っていた。もしかしたら、僕がはねた女性の親族のかも知れない。 僕は勇気を出して、彼女に声をかけた。「手術を、待たれているんですか?」「ええ」 彼女は震えるような声で、わずかに唇を上げて笑ってみせたが、それは、力なかった。「あなたも、ですか?」「ええ。僕、事故を起こしてしまって、それで・・・」「そう、なんですか・・・。私も、同じような事情で・・・。待ってるんです」 2人は黙り込んだ。 彼女はしばらくうつむいていたが、どうしよう、わたしのせいだわとつぶやいて、涙を流し始めた。僕は、彼女の背中をなでた。僕と彼女には同じ空気が流れていて、辛くなって、僕も涙を流した。 手術室の方から、人の声が聞こえた。僕は急いで走った。着くと、そこにはさきほどから待っていた親族の人々と、手術着のままの医師が一人。僕は、固唾を呑んで彼らの話を聞く。 医師が口を開いた。「残念です」 それを聞いて、母親と思われる女性が声を上げて泣き崩れる。僕は、そこに存在している心地がしなかった。恐ろしかった。 しばらくして、冷たくなったあの女性が、手術室の扉を抜けて、運ばれていく。僕は自分を責めた。あんなに若い人を、僕は殺してしまった・・・。僕は、彼女の顔を見ようと、台車のそばへ寄った。 僕は凍りついた。 僕は退いて、彼女が運ばれていくのを見送った。 その顔は、さっき待合室にいた女性の顔だった。 一体、これはどうしたことだろう。もしかして、双子だったのだろうか? あるいは、まさか幽霊とでも? 僕はすぐさま、辺りを見回して彼女を探したが、親族の人々に混じっている様子はない。僕は、待合室へとかけだそうとした。 すると、僕がいた手術室の隣の、別の手術室から、誰かが運び出されるのが見えた。見ると、運び出された周りに集まった人々の中に、あの待合室の女性がいる。反射的に、僕は彼女に駆け寄った。「き、君は・・・・・・?」 彼女は振り返る。 彼女も、驚いた様子で僕を見ている。震えていた。 彼女は、僕が尋ねるより前に言った。「あなたは・・・・・・あの人、ですか?」 彼女の指差した方を、僕は見る。そこには、台車の上の遺体。 それは、まぎれもなく、僕だった。 僕は立ち尽くしていた。 言葉もなく、そうしていると、彼女が言った。「あなた、ですよね・・・・・?」 僕は、宙を見つめたままうなずく。そして、理解したすべてを言った。「僕たちは、死にました」
February 16, 2006
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お手伝いしてください。一人では、歩きづらくって。
February 16, 2006
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世の中には、キケンなことが大好きな人がいるわけで、当然、転がるのが大好きなナマタマゴもいるわけである。T中さんの家の冷蔵庫にいるタマゴも、そういうタマゴの一つで、T中さんが目玉焼きを作ろうと、取り出したとたん、T中さんの体をうまく伝って転がり落ちた。T中さんは不意を突かれたので、非常に驚いて、ペットのおかめインコにタマゴの捕獲を命じた。しかしおかめインコは極度の倦怠感にさいなまれていたところだったので、「アンタコソイケヨ」と、T中さんに命じた。T中さんはそれに素直に従って、家の外まで飛び出したタマゴを追っかけた。タマゴは、自分の殻の弱さをよーく心得ていたので、なるべく硬くない場所を選んで転がった。だから途中で、犬猫の背中を上り下りするのはよくあることだった。T中さんはというと、あまり足の速いほうではなかったので、これは自分ひとりではだめだと、鳥類学者とスキーヤーと、公園にいつも座っているおじさんを途中仲間にして、追跡を続けた。鳥類学者は言った。「鳥の卵がどうして球の形をしていないかというと、巣から落ちたとき、転がって遠くに行ってしまわないためなのだ。しかし、あんたのタマゴはそれに反している!定説を崩すのはやめたまえ!」スキーヤーは言った。「僕は転がるのは好きじゃない。滑るんだよ。転がるんじゃなくて滑るんだよ。鳥のように滑るんだよ。ああ、まるで鳥のようにさ」T中さんは、「はあ、そうですか」と、誰かに話しかけられるたび相槌を打っておいた。どんなに追いかけても、一向にタマゴが捕まらないのは、どうしたことなのだろうか。町の中の大きな公園へ1個と3人は入っていった。タマゴは、噴水で吹き上げられて、毛皮のコート姿の夫人がゴールデン・レトリーバーを散歩させている、その、犬のほうの背中に着地した。「おい、いいかげんに待て待て」T中さんは半べそをかきながら嘆願した。そんなとき、公園にいつも座っているおじさんがT中さんの肩をたたいて言った。「あんた、このなかで一番カラスを見た時間が長いのは俺なんだよ。カラスはなぁ、朝早く町へ出て、夕方に森へ帰っていくんだ。だけども、こんなところに森はないから、結局町に住まなきゃならなくなっちまった」T中さんは、それどころではないと思ったが、どうすることもできなかったので、おとなしくおじさんの話を聞いていた。そんなとき、タマゴは、公園の滑り台の上に立って、チョモランマを制覇したような雄たけびを上げていた。が、それが空を仰いだ瞬間、一羽のカラスがタマゴの頭のてっぺんをちょんとつついて、つるんと白身と黄身を吸ってしまった。T中さんはそれを見て、ああと嘆いて、頭を垂れて家路についた。タマゴはタマゴだったわけだ。それから、T中さんはタマゴを買ってくる度に、「おまえはどこにも行ってはいけないよ」と諭してから、冷蔵庫に入れることにした。そのかいあってか、幸いにも、転がるのが好きなタマゴは、T中さんの家から出ることはなかった。
February 15, 2006
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寝ぼけていますが、おはようございます。
February 15, 2006
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ある国で、この世のものとは思えないほど素晴らしく美しく、まばゆい光をたたえた、今後世界に二つと生まれることはないだろう、みかんができた。そのみかんは大切に大切に、通気性が良く絶妙な温度を保つことの出来る箱に入れられて、国の元首が住む邸宅へ保管されていた。元首は、密かに手に入れたその至宝に満足していた。 しかし、その話を裏の情報筋から仕入れたある有名な窃盗団が、みかんを元首の手元から奪おうと計画を立てていた。その計画は、元首が国を留守にする何ヶ月ものあいだ綿密に練られ、そうとうな準備を必要とした。 そして、計画実行の当日。準備の甲斐あって、窃盗団はわけもなく元首の邸宅へ侵入し、みかんの入れられている箱の前へとやってきた。さて、警備員はやってくる気配も見せない。窃盗団のボスが、箱のふたを開けた。だが、とたん、箱の中から緑色の煙がもうもうと立ち上った!「なんてこった!こ、これは・・・」 その煙を吸って気絶してしまった窃盗団は、あえなく捕まり、刑務所送りとなった。 その後元首は、自分のみかんが緑の粉に変わってしまったことを嘆いたが、高純度のペニシリンの原料を提供した人物として、歴史に名を残すことになった。
February 14, 2006
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5階建てのアパートに住むT氏のもとへ、一通の手紙が届いた。彼が封筒を開けると、とたん、中から大ぶりのシャケが飛び出してきた。シャケは生きが良すぎたので、T氏の書斎を飛び出すと、リビングとキッチンを跳び越して、玄関からはじけ出てしまった。T氏は慌ててシャケの後を追ったが、シャケはすでに、アパートの住人たちに見つかってしまっていた。T氏の向いに住んでいる夫人がナイトキャップとネグリジェ姿のまま飛び起きた様子で、金切り声を上げた。4階の工場労働者も騒ぎを聞きつけて上の階をのぞいたが、すぐに興味が尽きた様子で顔を引っ込めた。T氏は、この事態を収拾しようと、この騒ぎの中でも深い眠りにいるままのT夫人を起こしに行った。しかし、T氏が夫人を目覚めさせることに失敗し、枕元にあった睡眠薬を持って廊下へ出てみると、そこには、隣の部屋から出てきた3人兄弟がバケツで激しく水をぶちまけた跡があり、階段を伝って流れる水の中で、シャケが遡上しようとしていた。T氏はそんな溌剌としたシャケを捕獲するべく、向いの夫人から木彫りの熊人形を借りて、シャケの小さな眉間めがけて投げつけた。しかしとたん、シャケは透明なゼリーと化し、木彫りの熊はその体を通過した。ああ、なんてこった。せめてあれがブリキで出来ていればよかったのに、と、T氏は思った。T氏は再び部屋に戻ると、大切な株券をタンスから持ち出して、これでどうにか事態を収めてくれまいか、と、奔流を遡るシャケに懇願した。しかし、シャケは言った。そんな見込みのない株は受け取れない。向いのパン屋の犬にでもやってくれ。これで命運尽きたと思ったT氏は、シャケの昇っている流れを下って、1階の管理人質へ行き、いままでどうもありがとうございました。これからも体にお気をつけてお過ごしください、と、述べたなり、アパートを出て行った。これで、T氏の帰るべき場所はなくなった。T氏は石畳の歩道を歩いて、川にかかった橋へとやってきた。橋の上には、自動車の立てるノイズがはびこっている。水面に目を釘付けにして、今後の自身の人生についてよからぬことを考えていたところ、彼の背中を何者かが叩いた。T氏が振り返ると、そこにはさっきのシャケが、満面の笑みを浮かべて立っていた。どうした。T氏は言った。あんたこそどうしたんだ。シャケは言った。T氏はシャケのうろこだらけの顔を見ながら、橋の欄干に手を置いて、ぼんやりと何かを考えていた。しかししばらくして、シャケはT氏にねぎらいの言葉をかけて、橋の下の水面に飛び込んだ。まあ、気楽にやんな。T氏は、一寸びっくりした表情で、シャケの飛び込んだ水面を見た。シャケは、何食わぬ顔で尾っぽをひるがえすと、流れを昇っていった。
February 13, 2006
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