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化けた。そう表現するのが一番ふさわしい気がする。就任から2週間あまり。高市早苗首相の型破りな外交デビューと自信にあふれる笑顔は、よく知るはずの自民党議員たちをも驚かせた。
どんな首脳会談も冒頭の表情やせりふは、もちろん練られている。河野太郎元外相は、当時の韓国外相が初めに笑顔で握手したら韓国メディアにたたかれたため、その後は事前に携帯電話で「今日どうする? 握手する? 笑う? 握手はするけど仏頂面で」と打ち合わせていたと明かしている。
高市氏と中国・習近平国家主席の初顔合わせも互いの態度は「計算されていたはず」だが、同じ河野氏が、米原子力空母ジョージ・ワシントン艦内で、右手を突き上げながら小躍りした高市氏の振る舞いには「自然に出たんじゃないか」とコメントした。
安倍晋三、石破茂両元首相も米英空母に乗艦したが、仮に同じ挙動を演じたら滑稽(こっけい)なだけだ。
でも、キャップ帽のトランプ米大統領から「この女性が勝者だ」と紹介されて、高市氏は何度も跳びはね、取り囲む米兵や日本の若い世代は「アイドルになっても人気が出そう」と喝采した。
「はしゃいだ、と言われるが、私の知る高市さんってこういうことをされる人じゃない」(田村憲久元厚生労働相)。ベテラン外交官も「まるでロックスターだ」と目を丸くしたという。さればこそとっさの仕草は、秘めていた本性が開花する瞬間を、私たちが目撃したと考えるべきなのだろう。
外交は芸能か。その側面はある。だが、国運や時に人の生死も左右する重い現実が、表層の演技や仕掛けに随伴してくる。パフォーマンスと見える首脳の一挙手一投足には、単なるキャラを超えて、それぞれが背負う国と民の願望や運命が投影されている。
トランプ氏は米国、いや今や世界中から「王様になりたがっている」と憂慮されている。ホワイトハウスは木製基調のクラシックな調度が、独裁者好みの「金ぴかインテリア」に一変した。
そのトランプ氏と黄金時代をうたう日米関係も、往年の同盟とは明らかに変質した。防衛費増額の前倒しを実質強要され、巨額の対米投資先を指図される日本の姿は、体のいい現金自動支払機、理不尽な納品を押し付けられる下請け企業とダブって見える。
自民党総裁選や首相指名選挙まで硬かった高市氏の笑顔は、今や万能感に満ちている。意外な変身も、観客民主主義には好まれやすい。私たちは、また未知の権力者を生みだした。
(専門編集委員)
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