アオイネイロ

July 20, 2011
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カテゴリ: 小説
私の尊敬する人は、
パパでもママでもない。
パパもママも好きだけど、尊敬とはちょっと違う。

「紅亜!」
「嘩音? いつもいつもよく飽きないねぇ」

私の姿を見て、紅亜は呆れたようにそう言って苦笑する。
「ねえ紅亜! 私好きな人が居るの」
「……………へえ」
私の言葉に、紅亜は物凄く微妙な顔でこっちを見て、特に驚いた風も無くそう言った。

「びっくりって、……相手は綺砂ってトコ?」
私の言葉に、紅亜はあっさりとそう言う。
逆に私がびっくりした。
「何で? 何で分かるの!?」
「何でって……いっつも一緒にいるし、嘩音が綺砂以外の男の話ししてるのってアタシは聞いたコトないケド?」
勢い込んで尋ねると、あっさりと返ってくるその答え。

………確かに。

「意中の相手の話しを一回もしないのは、流石にナイでしょ。ましてやおしゃべりの嘩音が」
イスに背を預けて大きく伸びをしながら、紅亜はどうということも無く言う。
「うぅ……」
何も言い返せずにいる私を見て、紅亜はクスリと笑った。

「昔の?」
紅亜の声色が柔らかくなったのに気付いて、私は顔を上げた。
「ああ、ずっと昔ってワケでも無いから20~30年位前のコトだったかな」
思い出しながら語る紅亜は、どこか楽しそうで
でも、切なそうで



嘩音の身近の人達である両親や、そして疾斗と凜も、あとニンゲンの葵とかその他の人も、結婚している人や恋人が居る人は多い。
そんな中で紅亜の恋愛事情は、今まで一度も聞いたことが無かった。
「さあ、てね。したような、しなかったような」
紅亜は飄々とした顔ではぐらかす。
「えー、教えてよ」
「誰にも言わないって約束できるならね」
私の言葉に、紅亜は少し考えてそう言ってきた。
私は迷うことなくこくこくと頷く。
すると紅亜は悪戯っぽく笑って、
「疾風のコトが好きだったんだケドね」
と、そう言った。
「…………え?」
私の反応に、紅亜は余裕の笑み。
「それ、本当?」
「嘘じゃあ無いね」
いつも通りの表情で、声色でそう言う紅亜。
「でも、疾風は」
「そう。まあ、失恋ってコトかな?」
肩を竦めてそう言ってみせる。
「でも、まあ。アタシにはそれよりも好きな人が居たから」
「え? それって、えっと……」
浮気、とは違うけど
何と言っていいか分からずに、口をぱくぱくとさせる。

「んー、嘩音にはちょっと難しいかな」
「その人は?」

困ったように笑う紅亜に、問いかける。

「死んだよ。もっとずっと、50年くらい前に」
「………っ」

疾風は、その後に好きになった人。

「だけど、それは」
「さ、この話しはココまで」

言いかけた私の声を遮って、紅亜は立ち上がった。
「アタシはこの後出かけるから、その“好きな人”と遊んでいらっしゃい」
ニヤリと笑って、紅亜は出て行ってしまった。
背中を見送った後、
私は止めていた息を一気に吐き出した。





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Last updated  July 21, 2011 03:00:48 AM
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