アオイネイロ

July 21, 2011
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カテゴリ: 小説
幸せに、


この二人のキャラが安定しないのよ。


「ね、綺砂」
「……………」
話しかけても返事は無く、嘩音は内心ひっそりとため息をつく。
「そういう所、すごく似てるよね」
「誰に?」
聞えていないと思って呟いた言葉に、返事がきて嘩音は思わず顔を上げた。
綺砂はさっきまで読んでいた本を閉じて、こちらを見ている。

「いや、あと少しだけど……。もしかして嘩音も読みたかったの?」
嘩音の問いかけに、綺砂が首を傾げてそう聞いてきた。
「別にぃー。どんな内容なのか少し気になっただけ」
昔一度だけ、話題作りの為に綺砂が読んでいた本を借りた事があった。
3ページで眠くなって断念したが

「今回の話は、大竜(ドラゴン)に攫われたお姫様と、それを助ける剣士の話だよ」
瞼を閉じてそう語る綺砂の横顔を眺めながら、嘩音はぼんやりとその話しの内容を想像する。
「この話は“ノーテ・フロウ”の書く物語にしては珍しくハッピーエンドじゃないんだけど」
「ハッピーエンドじゃないの?」
綺砂の言葉に、思わず問い返す。

大竜に攫われたお姫様と剣士の話。


「うん、そうだね。お姫様は最後、大竜と仲良くなるんだ。だけど何も知らない剣士がお姫様を助けに来て、大竜を殺してしまう」

綺砂の言葉を聞きながら、嘩音は複雑な顔をする。

もしも、私だったら……

綺砂が助けに来てくれるだろうか、
そしたら


「剣士は?」

静かに語る綺砂の声を心地よく感じながらも、気になって問いかける。
「大竜を倒した時の傷によって、瀕死の状態になる。それを、近くの村娘に助けられる」

やがて傷の回復した剣士は、村娘に別れを告げて再びお姫様の元へ
時間の経過により落ち着いたお姫様は、剣士に謝り、自分はこの大竜の城に残るといことを告げる。
剣士は一度王国に戻り、王様にその旨を伝える。
王様は最初納得しなかったものの、剣士の働きによって徐々に理解を示した。
剣士は王国とお姫様を繋ぐ者として、その間を行き来してはお姫様の生活に必要なものを運んだり、話し相手となったりする。

「剣士はお姫様が好きだった」

だからそんな生活に満足していたし、お姫様も剣士に惹かれている所があった。

けれど、

「それをよく思わない者もいた」

剣士を助けた村娘。
その娘は剣士に恋をしていた。
助けた日から、お姫様に会う為に頻繁にその村を訪れるようになった剣士に
村娘はますます惹かれていっていた。
けれどある日、村娘は剣士がこの村に訪れる理由を知ってしまう。

嫉妬に狂った村娘は、剣士が王国に帰っている間にお姫様を殺してしまった。
何も知らずに戻ってきた剣士は、お姫様が死んでいるのを見つけて、悲しみにくれた。
王国に戻ってその事を国王に知らせるが、
剣士はお姫様を殺した罪人とされてしまい、国を追われることとなる。

「お姫様のこと、好きだったのに?」
「好きだったから、身分違いの恋に狂って殺したと思われたんだ」

綺砂は何を考えているのか分からない表情で、淡々と語る。
「行くあての無くなった剣士はお姫様の住んでいた、大竜のお城に行くんだ」
そこで、城の中にいる村娘を見つけ
同時に、村娘がお姫様を殺した事実を、その城に住みついていた悪魔から知らされる。

「最初、剣士は信じなかった」

けれど、村娘の言動が段々と怪しくなり
ある日村娘が、教会の裏でそのことを懺悔しているのを聞いてしまう。

「剣士は村娘を殺し、そして……二人の女性を殺したという罪で、死刑になる」

嘩音は息を呑んだ。
「でも、お姫様は……」
「そう。御姫様を殺したのは村娘だよ。けれど、目撃者も居ないし、当人を剣士が殺してしまったから」
証拠は何も無くなってしまった。

「何だか、釈然としないお話だね」
「そうだね。けれど」

嘩音の言葉に、綺砂は何か言いかけて止める。

けれど……

きっとこれで良かったんだよ

そう、言ったような気がした。

「私は、もっと幸せになれる未来があったと思う」

小さく、聞えないぐらいの声で、そう呟いた。

私が変えて見せる。
悲劇じゃない物語に






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Last updated  July 22, 2011 03:07:26 AM
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