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2007.06.19
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カテゴリ: ほん系


はっぱかな
はっぱじゃないよ かえるだよ
かえるじゃないよ あひるだよ
ろくがつむいかに
あめざーざー
さんかくじょうぎに ひびいって
おまめをみっつ くださいな
あんぱんふたつ くださいな

あっというまに あっというまに
かわいい こっくさん

ときは1993年ころ。奥村フクオさんは44歳である。とある商店街でささやかに電器店を営んでいる。ちょっと小柄、ふっくらと中年太りが始まっていて髪の毛も後退しつつある。要するにどこにでもいるおじさんだ。妻に子どもがひとり。子どもは大学合格が決まり、妻はその子どものアパート探しのために、泊まりがけで出かけている。そういうわけでこの日の昼、奥村さんはひとり、近くのそば屋でどんぶりものを掻き込んでいる。すると背中合わせに座っている、スーパーの店員さんか、喫茶店のウエイトレスさんのようなかっこうをした遠久田(とおくだ)さんに話しかけられる。

「1968年6月6日木曜日、お昼なにめしあがりました?」

「とっても遠くからきた」(たぶん未来とか地球外とか)遠久田さんにとっては、これはなんとしても確かめたい事柄である。でも、奥村フクオさんにとっては、20数年前の話、なにか特別の日だったわけじゃない。それまで生きてきた1万数千日分の1日のお昼ご飯のことに過ぎない、どうしてそんなこと思い出せる?って話だ。だけど物語はここから猛然ところがっていく。

通り過ぎた時間の、ある一点。1968年の6月6日。19歳の奥村さんが当時勤めていた石浜モータースの小さな社員食堂、窓から見渡せる小学校の先生と児童、さらにその向こうの小学校脇の道を通り過ぎる軽トラック、郵便屋さん、そしてポストに手紙を投函する女性…。
遠久田さんは言う。
「楽しくてうれしくてごはんなんかいらないよって時も
悲しくてせつなくてなんにも食べたくないよって時も
どっちも6月6日の続きなんですものね
ほとんど覚えていないような、あの茄子の


高野文子の漫画って不思議だ。圧倒的なデッサン力、伸縮自在、まるで自由に伸び縮みするかのような大胆にして繊細なコマ割。あるときはただただ美しく懐かしく、けれど安心して読んでいると鋭利な刃物を突きつけられていたりする。そうしてこの人が「たいしたものじゃないんだけどさ」とでも言うように提出してくる作品が(それがきっとこの人の好むスタイルだ)、実はものすごく考え込まれた作品だってことがしだいに身に沁みてわかってくる。

さて、この作品。「奥村さんのお茄子」という。解釈しても野暮なんだと思う。傑作というのはそんな気にさせるものだ(それを言ったらおしまいだけど)。
だが、どんな人にも日常があり、それらは大抵の場合、平凡で退屈で後から思い出せることなどほんのちょっとだとしても、かけがえのないことなのかもしれないということ。そうして誰かが生きているということはまた、ほかの誰かが生きていることと微妙に反応し合いそして…、あっ、まあいいか。

最初に挙げたのは「棒がいっぽん」という絵描き歌の歌詞。地方によって微妙に歌詞が違っていたりするだろうけれど、この歌が、この「奥村さんのお茄子」の言わばBGMとして流れている。そうして、この「奥村さんのお茄子」を収録した、ほとんど奇跡に近い高野文子作品集のそのまま表題となっている。
どうして「棒がいっぽん」なんだろう? 「ほとんど奇跡に近い」ってどういうことさ? それは言わない。ぼくらは考えてみる。1968年の6月6日のお昼ご飯、何を食べたっけ、とふと立ち止まる奥村さんみたいに。



『棒がいっぽん』所収
高野文子著 マガジンハウス
1995年 定価918円





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Last updated  2007.06.19 21:45:41 コメントを書く
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ウラガエル @ お久しぶりです。 suiさん どうされているのでしょう。 …
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