文の文

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sarisari2060

sarisari2060

2004.05.26
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カテゴリ: エッセイ
おおよそブランド品に縁のないわたしが、シャネルのバッグをひとつ持っている。黒い皮のキルティングされたもので、金色の重たい鎖と背中合わせのCが重なるトレードマークの飾りがついている。その価格は6桁に及ぶという。

もちろんいただき物である。「わたしには派手になってしまったから、あなたに使っていただきたいの」という言葉とともに十数歳年上の女性から手渡されたお下がりのシャネルである。「おいや?」と問われて「いや」とは言えなかった。

6桁のバッグがわたしに買える訳がない。が、たとえ、そのおかねがを持っていても買わないかもしれない。シャネルという商標が持つ高級なイメージが自分には似合わないということもあるが、バッグだけが6桁で、他は特売品というバランスの悪さがはずかしい。ベンツの路上駐車のような感じがする。

その女性はそのころはルイ・ビィトンのバッグを数多く持っておられた。こだわるようだか、6桁のバッグだ。

横浜元町にビィトンの専門店があり、そのひとが用があるというので、ついていったことがあった。そのお金があれば海外旅行にでもいけそうな価格がつけられたバッグが、博物館の一点ものの展示品のように独立したショーケースのなかでスポットライトを浴びていた。

そのひとは慣れた感じで階段をのぼり、係りのひとにビィトンのメモ帳の差し替え用のものをいただきたい、と告げた。メモ帳の隅っこにビィトンのロゴがプリントされているものだ。

ビィトンの茶色の濃淡四角デザインのカバーに装着するのだが、そのシートの値段が3000円だった。ものの値段はすぐに忘れてしまうのに、これだけは妙に鮮明に覚えている。ここまでいかないとバランスはとれないなと思っていた。

いただくときにバッグの手入れ法も教わった。使用後は必ずクリームを刷り込んで専用の袋に入れてしまう。バッグも生きているから栄養を補給してやらねばならないそうだ。なるほどうなづき、おしいただいたのだが、ちょっと気が重かった。自分の顔のお手入れも面倒だなと思ったりするわたしだから、ついついしまいこんだままになっている。

上等なものを丁寧に手入れして長く十年単位で使うから、6桁もそう高くないとそのひとは言われたが、わたしは特売品も長く使う。大学時代のはいていたバックスキンのショートブーツを去年も履いていた。物持ちのよいことだが、好きだから捨てられないのだ。そういえば、あれもこれも10年選手だあと気付く。さすがに赤のタータンのパンツをはくとちょっとはずかしいが・・・。



原因を辿っていけば、きりきりと痛む思いもあるのだが、それにしても、自分の手元に6桁のシャネルバッグがあることに、気が引けている。だからといって目くじらたてて返すのも心苦しい。

牙をむきあうことはないけれど、おとなとおとなの齟齬は時間がたつにつれてカチッと固まってしまうように思う。きちんと挨拶を交わしながら、しまいこんだバッグとともに、溶かしようのないわだかまりを抱えている。





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Last updated  2004.05.27 08:51:39
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