文の文

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sarisari2060

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2004.09.02
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カテゴリ: 未分類
あつこちゃんはいくつ年上だったのか忘れてしまった。6つか7つ上だったろうか。いつも長い髪を三つ編みにしていたなあと思い出す。ひっそりとそこにいるという感じのするひとだった。

いわたさんちと接するところは、こちら側ではお地蔵さんが祀ってあり、向こう側は小さな洗い場になっていた。

あつこちゃんはその洗い場にたらいを持ってきて、洗濯板で靴下や下着を洗っていた。薄茶の四角い固形石鹸をごしごしと擦り付けると、その揺れで水面に日差しが踊った。

わたしはシャボン玉を吹きながら、時々、あつこちゃんの白い柔らかな腕が何度もあがりさがりするさまを見ていた。

指先に石鹸の付いた手の甲の部分で汗ばんだひろい形のよい額の掻きながら、あつこちゃんがゆっくりとした口調でいう。

「あんな、うちのおねえちゃんな、水虫やねんで」
「みずむしてなに?」
「知らんのん?あんな、足の指がかゆかゆなるねん。ほんで皮がめくれるねん」
「そのむしが噛むのん?」

幼いわたしとのそんな会話をいつまでも気長にしてくれた。

ある日、あつこちゃんに呼ばれていくと、畳の上に夏物の洋服が並んでいた。見覚えのあるものもあった。「これ、よかったら、着てんか」とあつこちゃんが言った。

ピンクと水色の矢車草の花模様のワンピースがあった。ノースリーブで、腰のところで切り替えが入っていた。あつこちゃんに似合っていたものだ。

それがわたしのものになるのがうれしかった。夏になるといつもそれを着ていた。つるつるてんになるまで何年も着た。

矢車草が好きなのも、花柄の布を見ると気持ちが動くもの、このワンピースがその思いの底にあるのだと今になって気づく。

そののちあつこちゃんを見かけなくなった。呼ばれなくもなった。あつこちゃんは病気になったのだった。

(もうちょっと続けるつもりです)





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Last updated  2004.09.03 00:49:09
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