文の文

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sarisari2060

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2006.08.27
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カテゴリ: エッセイ
NHK教育の「からだであそぼ」という子供向け番組で森山開次というひとをはじめてみた。彼はダンサーである。

金髪の染めた長い髪を妙な按配に刈り上げた色の白いひとでちょっと得体のしれない感じがする。
(森山開次)


その番組で彼は、動物や昆虫や、機械や・・・いろんなものになりきる。つまり森羅万象を彼のからだで表現するのだ。

くるりくるくると転がってぴたっと止まって立ち上がって、両手を伸ばし片足を上げてポーズを取る。アシンメトリにデザインされた、ぴたっとからだに張り付くダンスウエアのしたで無駄のない筋肉が躍動する。

時にユーモラスに時に鬼気迫って森山開次のからだが画面に満ちる。その予想のつかない動きが印象深く記憶に残る。

今日のトップランナーに彼が出ていた。無言で舞う彼がしゃべった。思いのほか柔らかな声で静かな語り口調だった。

幼い頃はあまり外で遊ばない子で、家のなかでも、設計の仕事をする父親を気遣って静かに暮らしていたのだという。

それでも注目されたくて彼は宙返りを練習するようになる。粗大ゴミのマットを拾ってきてその上で練習する。それが嵩じて、体操を習いもする。が、交通事故にあって断念する。

中学ではバレーボールを始める。アタッカーの動きがかっこいいと思ったからだ。しかしパスの練習をしているうちにセッターをやらされることになってしまう。それがいやでやめて今度は軽音楽部に入り、ギターを始める。



ひとり暮らしをし、新聞配達のバイトをした。朝夕の配達をしていると疲れて学校へいかなくなった。

そんな21歳のときに森山開次はダンスに出会う。ダンサーとしてはとても遅いスタートだった。

なにしろ基本がない。体が硬い。開脚をしても、他のひとはぺたっと床に着くのに彼はかなり隙間ができる。他のひとたちを二階から見てるような感じでした、と振り返る。

それでも少しずつ柔かくなっていくのが実感できるのがうれしかった。そういう進歩があったから続けられたという。

ダンサーとして何を大切にしていますか?という質問に彼は足裏の感覚、と答えた。

ソロダンサーにパートナーはいない。床が自分を支えてくれる頼もしいパートナーであるから、その床をしっかり掴む足裏の感覚を大切にしています。彼はそう穏やかに言い添えた。

32歳の彼は振り返って思う。ダンスを始めたのは21歳で、遅いスタートかもしれないけれど、自分はバレーボールや新聞配達をしてきたその動きを通して自分の体とずっと向き合ってきたのだと。

新聞配達の動きっていい動きなんですよ、と言いながら彼がその手を動かしてみせた。前へ横へと動く腕は流れるようにしなやかに動き、優雅な雰囲気さえ醸すのだった。

ああ、ここにも人生のオセロがある。何をしていいのかわからないけれど、とりあえず学資を稼ぐために続けた新聞配達がこんなふうに意味があるものに変わっていく。


こういうインタビューのあいだに彼の「KATANA」というダンスのビデオが流れた。

上半身裸の彼の体の隅々にちからが行きわたる。

飛ぶ。回る。前へ後ろへ、右へ左へ。金髪が揺れる。
彼が止まる。エネルギーが貯められていく
。腕が動く。足が上がる。体が傾き、しなる。
横隔膜がせりあがり、胃のあたりがへこみ、体の線が鋭くなる。
静かなちからがみなぎる。


踊り終えた彼が観客の反応に感激しながら、静かに頭を下げる。そして顔を上げる。その額に大粒の汗が光っていた。







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Last updated  2006.08.28 01:52:26
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