文の文

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sarisari2060

sarisari2060

2006.08.30
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カテゴリ: エッセイ
今の住まいに越してきて三年がたつ。残念なことにわたしたちは決して地域に根付いた生活をしていない。

ご挨拶をするひとは何人かいるが、それ以上のことはない。おとな四人で住まうわたしたちは学校とも縁がないし、社交的でもないし。これといった特技もないので、住人のひとと接点がないのだ。

この地域の祭りもイベントもわたしたちにかかわりなく過ぎていく。さびしくもあり気楽でもあり、その気持ちがあい半ばする、というのが正直なところかもしれない。

そんななかでわたしは勝手になじみのひとを作っている。と言っても、そのひとと話すことはない。ただ一方的に観察させてもらっているだけだ。

そのひとたちのことは「くもりときどき思案」のほうに書いた。

進化するホームレス

物憂げなドイツ文学者

その後もこのふたりとは時々会う。いや、見かけることがある、というほうが正確かな。

ホームレスのひとのねぐらは変わるようだが、夏の間はうちの近くの公園のベンチで寝ているのをよく見かける。



その洗濯した服を着ている彼とコンビニで会うこともある。挨拶はしないが、気になってなんとなくちらちら見てしまう。

カップめんとパックの日本酒を買って帰ることが多いようだ。お湯を入れてもらって店の横手の地べたに座って食べていたりする。

通りですれ違うこともある。彼はきつい天然パーマなのですぐに見分けがついてしまう。このごろ左足をすこし引きずっている。なにか炎症を起こしているのかと思ったりする。

一昨日は駅前のベンチで彼を見かけた。なんだか見慣れない派手なシャツを着ていたので、一瞬彼とはわからなかったが、天然パーマで彼と知れる。

仲間とならんで座っていた。それなりに話が弾んでいるようだった。アルコールが入っていたのかもしれない。ちょっと彼が笑っていた。なんとなく彼の手の指に目が行った。彼の左手の小指に銀色の指輪がはまっていた。

おや、恋でもしましたか?なんてことをまた勝手に想像する。


そして、今日は汐留の明日の神話を見てきたのだが、その行きに駅で「物憂げなドイツ文学者」を見かけた。

彼はなんだかこぎれいで、黒いシャツにジーンズ姿だった。白髪交じりの髪もきちんと切りそろえてあった。そういう格好で彼は分別された新聞、雑誌用のゴミ箱をあさっていた。

ああ、相変わらず励んでいますね、と思ってみていると、ゴミ箱から出てきた彼の手には金属製のトンクのようなものがあった。それは真新しいように見えた。

彼はしかつめらしい顔をしてそのトンクでゴミ箱のなかの新聞をえり分け、はさんで引き上げ、おもむろに紙袋に入れる。その袋にはSOFMAPの文字があった。

それぞれの暮らしがそんなふうに変わっているのだなあと思った。ただそう思った。





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Last updated  2006.08.31 01:30:14
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読みごたえ、充分  
kinu さん
この観察力は尊敬に値するわ。
私が彼らとすれ違っても「なじみのひとたち」の人だとすぐに分かると思う。彼らの人生まで伝えているようだわ。
マンション住まいの醍醐味は徹底的に『個』が守られ、私は快適です。特別な仲良しはないけれど、意地悪もない。でも、知らずに顔見知り。笑顔と会釈ですれ違う。もしも夫に先立たれ、孤独死になったら、それはそれで構わない。生きているときの心地
よさの裏返しなのでしょうから、ね。
ところで「進化するホームレス」のコメントを見てびっくり。わたし、だったの。過去って、気恥ずかしいわね。
(2006.09.01 09:02:13)

kinuさん   
sarisari2060  さん
>もしも夫に先立たれ、孤独死になったら、それはそれで構わない。生きているときの心地
よさの裏返しなのでしょうから、ね。

この覚悟、すごいですね。
ひとは誰もいずれ死ぬし、その状況は選びようもないのだけれど、こんなふうに腹を括っていくのが生き方なのでしょうね。

仲良しというのはなかなかにむずかしい距離ですね。
仲良しといっても、等間隔であるはずはなく、するとその不等式はどちらかの思いのほうが深いのだと示しているわけで、その違いの分だけ片思いのようなもんかもしれんですね。
仲良しでありながらそんな片思いがつらくなったりするんですね。

不義理で社交的でない自分にちょっとカツを入れようかと思ったりする9月のはじまりであります。

いつもコメントありがとうございます。励みになりますです。
(2006.09.01 10:05:15)

変化をみのがさない力  
こーこ さん
すごいです、文さん。
私なんか、身近にいる夫の変化も(もしかして、進化、後退?)うかつに見逃して、
関心のあることにばかり、突っ走ってしまう日々。
近所のねこを識別するアンテナしか
持ちあわせてないような・・ (2006.09.06 23:27:47)

こーこさん  
sarisari2060  さん
ありがとうです。
やはり身近なひとはちょっと・・・ですね。
わたしの人間観察も自分の関心ごとでしかないんですよ。
感心のないことがからきしです。
お店の名前や商品の名前、ブランドの名前、鉄道の名前、温泉の名前、苦手なものは山ほどありますから・・・。

こーこさんのねこの識別!!おもしろそうです。
ねこってほんとに人間臭い顔をしますよね。
ねこを飼っていないから、そういうことが楽しめるのかもしれんな、と思ったりします。 (2006.09.07 00:35:40)

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