文の文

文の文

PR

Profile

sarisari2060

sarisari2060

2007.01.17
XML
カテゴリ: エッセイ
京浜急行の普通に乗っていた。

前に座った男性はジーンズをはいた足のあいだに
大きなカバンを置いていた。

男性は電車が止まるたびに
白髪交じりの頭をめぐらして駅名を確かめ
手元に目を落とす。

この線の各駅停車は小刻みに止まる。
そのたびに男性は同じことを繰り返す。

その視線が落ちた先にあるのは

でか字マップというタイトルがついたそれは
新書版の大きさで1センチの厚みがある。

わたしも同じものを持っている。
エリアごとに番号が打ってあって探しやすく、
東京のどこにも土地勘のない地方出身者にはありがたい。
そして老眼の身にはその字の大きさもありがたい。

男性の手のなかの地図は古びていた。
表紙の角はすれて色あせ手垢がついているように見えた。
ページのあいだに黄ばんだプリントが何枚も挟まれていて
分厚くふくらんでいる。

平日の午前中にくだけた格好の痩せた男性が電車のなかで

少し伸びた髪、ヒゲもはやしている。
遠い日には反体制なんて言葉を口にしたようなにおいがする。

地図はこのひとの人生の相棒だったのかもしれないと思う。
いつの日も身のそばにあったものかもしれない、と。

地図は見知らぬ土地を案内してくれる。

23区内のどれだけの場所に案内したのだろう。
何丁目何番地まで記入されたこの地図に助けられて
このひとはどんな場所に足を運び
そして去っていったのだろう。

今日もまた新しい場所へ向う。
耳慣れない駅名を地図で確かめながら目的地へむかう。

海沿いの駅で降りたそのひとは重そうなカバンを肩にかけて
真っ直ぐ前を向いて歩いていった。
右手には地図があった。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2007.01.17 11:24:54
コメント(8) | コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


Re:地図(01/17)  
 こういうモデルの男性と一献傾けたい気持ちがしました♪ (2007.01.17 10:37:11)

しぐれ茶屋おりくさん   
sarisari2060  さん
きっといろんな経験談がきけることでしょうね。 (2007.01.17 13:25:24)

東京地図  
ヘキサ さん
地図を片手の男性の気持ち分かるような気がします。私なら地図を見ても電車一人で乗り降りできません。そんな私が 明日 妹に連れられて東京へ出発しますが 広い東京ドームの中で 迷バアになったらどうしょうと 今晩 眠れそうにありません。
(2007.01.18 19:25:34)

ヘキサさん   
sarisari2060  さん
明日ドームへ行かれるんですか?
何時ごろでしょう?
お会いできならいいなあ。

(2007.01.18 23:20:42)

各駅停車  
kinu さん
15日に私は『ババ』になりました。
長い時間のお産に付き添い、ようやく終電に間に合う時間に生まれてくれました。小さな赤ちゃん(2666g)と対面したとき、いままでとは異質な『命』を感じたものでした。
文さんのこのエッセーを読ませていただいて、無垢な赤ちゃんも、知らない地図を伴っていきていくのだろうなと、感じています。
各駅停車でいいです、丁寧に生きていって欲しいと思っています。
(2007.01.20 09:36:29)

Re:地図(01/17)  
ヘキサ さん
只今 戻ってきました。
広い東京ドームは 人人人の波で 自分の作品をやっとこ見つけて 人に酔い すっかり疲れて 今日の
午前中のBSでのテレビ中継が終わりましてから 戻ってきました。 お逢いしたかったのですが 残念でした。 (2007.01.21 21:50:54)

kinuさん   
sarisari2060  さん
お孫さんのお誕生おめでとうございます。
さぞかしおかわいいことでしょうね。

>知らない地図を伴っていきていくのだろうなと、感じています。

ああ、なるほどそうですね。
自分自身の地図をどんどんと広げていくのでしょうね。

どの道を行けばいいのかわからなくなったとき、地図はその手助けをしてくれますが
どこへいくのかは自分が決めることなんですね。

お孫さんのたくさんの未来に乾杯! (2007.01.21 22:28:08)

ヘキサさん   
sarisari2060  さん
えー、今日ドームにいらっしゃったんですか?
わたしもいました。
中継を客席のテレビで見てました。
ヘキサゴンさんの作品が紹介されててうれしくてなりませんでした。

今年の作品も凄い!!
バスケットというくくりで集められた作品のなかで
籠目はひときわその個性が光っておりました。
いつもながらの点描のような細密なパッチワークにその前に立ったひとがみな一様にため息をついていました。
「いったいどんなひとが作ったのかしら?会ってみたい」というひとがいましたので
わたしはちょっと得意げにヘキサゴンさんのご紹介をしてしまいました。
(2007.01.21 22:33:08)

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: