ブドウ畑の空に乾杯

ブドウ畑の空に乾杯

July 6, 2006
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カテゴリ: タダの日記
一人で過ごしている夜に限ってこの男から電話があるのは、ただの偶然なのだろうけれど、まるでタイミングを見計らっているかのように、いつもこちらがのんべんだらりとしている隙をついてくる。

「よう。何してる?」
「別に。寝転んで本読んで、怠惰な生活してるだけ。」
「そうか。君は俺の知ってる唯一の怠惰な日本人だ。日本人ったら働きすぎでさ。」
「あなた日本人の友達何人いるわけ?」
「2人。」
「ずいぶんと少ないサンプルね。」
「そうだな。」
「なんか疲れてるみたいね、どうしたの?」

「今日は何の電話?」
「俺はね、時々こうやって世界中の誰かに電話をかけるわけ。ある時はカナダに、ある時はイタリアに、チェコに、それぞれの土地に住んでる友人に電話して、皆からなんて国際派なの!って思ってもらおう、というわけ」
「ああ、そう。」

ずいぶん前になるけれど、そういえばチェコのお酒をこの男と一緒に飲んだことがあったなあ、と思い出した。それはクリスマスみたいな味がして、チェコ語で乾杯をしたっけ。

「明日、朝食を食べないか、一緒に。」
「悪いけど無理よ。」
「パンケーキ作って、紅茶も淹れるぜ。」

いつもの誘いをいつものように断る。まったくこのお誘いだって、一緒に寝て起きた後の朝食なのか、それとも早起きの苦手な私に早朝集合させるつもりなのか、よく分からない。数年前の私だったら、いそいそと出掛けて何か間違いを起こしたかもしれない。だが、私には今、自分の軽々しい行動で傷つけたくないものがある。それにね、バイクでしょっちゅう一人旅に出掛けてしまうような男を待つのも、御免なの。そういうことの出来る強さはね、私にはないのよ。

伊達男よ、私たちはあまりにも似通いすぎていて、近付いたって結局二人とも孤独を抱えて破滅するだけ。飲む酒も、聴く音楽も、趣味も、辛口のユーモアも、何もかも話が合うのはきっと錯覚で、このしがない田舎町を出て行きさえすれば、きっとあなたにふさわしい人に出会えるわよ。

それでなくとも君はたまらなくセクシーなのだから。気づかない女は馬鹿ってもんよ。





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Last updated  August 17, 2006 11:01:11 AM


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