記憶の記録

2009.06.19
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カテゴリ: 住宅革命
「さてこまったぞ」僕はツナギをデイパックにしまいながら独り言を言った。

このカウンターをデスク代わりに使っていたのだろう、とても使いやすそうな書斎だ。調べものをするときなどは、長いカウンターに資料を並べ比較検討したり読みかけの本をカウンターの片隅に置いたまま別の仕事をしたりと、生前の氏の姿がうかがえる。
目の前の書架には図鑑や百科事典が隙間なく収められ、書架のうえに窓が二つシンメトリックに配置されている。北向きの部屋だがこの窓のおかげで明るく、昼間なら照明を点けなくても本を読むことが出来ただろう。
窓と窓の間も書架で、僕の目の高さには植物図鑑が収められていた。
カウンターの下には中心付近に本が横積みになっていた。床からカウンターまでぎっしりと。なぜ本をこんなふうに置いたのだろう?と疑問に思ったが、すぐに理由がわかった。カウンターが長くて、重い本を上に置くと下へたわんでしまうのだ。たわみを止めるために氏が本を積み上げて支えたのだろう。詰まれた本は雑誌などがほとんどだった。
 念のため室内の写真も10枚ほど撮り、もう一度書架に目を戻す。氏の蔵書には図鑑類が多い。赤い十字架の正体が苔だったとしたら確かめることが出来るかもしれない。僕は苔類図鑑なるものがないかと探してみたが、残念ながら見当たらなかった。代わりに目に留まったのは藻類図鑑だった。「「も」か、藻といえば水の中に生える植物だから関連は無いか」と手に取った図鑑をカウンターに置き、まずは、植物図鑑から見ることにして、田村次郎氏の愛用だった座り心地の良い椅子に腰を下ろす。メッシュで仕立てられた背もたれはしっかりとして張りがあり、しかも柔軟に僕の体を受け止めた。(これじゃ、また寝てしまいそうだ)と感じながらパラパラと植物図鑑をめくっていくと、(あった!)<苔類>というジャンルがまとめられていた。図鑑は全ての植物が写真入で解説されていて、どんな所に自生しているのかも紹介されている。僕は、(赤い苔)の記述が無いかと一ページづつ丁寧に見ていった。もしかしたら苔にも紅葉があって緑の苔が赤く色づくことがあるかもしれない。季節ごとにいろ変わることがあっても不思議じゃない。などと想像しながら注意深く調べたが残念ながら赤い苔も紅葉する苔もあったがその姿はまるで別物だった。しかも、図鑑で見る苔たちは僕が持っていた苔のイメージは違っていた。茎があり、葉があり、生き生きとした緑のものが多く、岩にこびりついている青海苔のような苔は紹介されていない。
(うん?青海苔?)
あおのりは青海苔と書くけれど、あれは海草で苔(コケ)ではない。どちらかといえば昆布や若布や藻に近いのじゃないだろうか。

今は夏だから干からびて、こすると粉になってしまったけれど、みずみずしい状態ならばまさに海苔なんじゃないか!しかし、陸上に、しかも壁の表面に藻が生えるのだろうか。僕は赤い十字架がある壁を内側からぼんやり眺めた。頭の中では、水生植物の藻を何とか壁面に群生させようとイメージしていたが、それはどうしても無理なように思えた。視線が移動しカウンターの上を見たその時、ついさっき自分で置いた「藻類図鑑」に目が留まった。「あっ!!!あるじゃないか!」思わず大きな声を出してしまった。飛びつくように藻類図鑑を開き、写真だけを確認しながらパラパラとページをめくる。
しばらく見ていくとオレンジ色の写真が現れた。
<「スミレモ」オレンジ色で陸上に群生する。>
そのページには。オレンジ色の美しい顕微鏡写真が掲載されていた。


つづく











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Last updated  2009.06.19 05:42:19
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