記憶の記録

2009.06.25
XML
カテゴリ: 住宅革命
再開

 週末の上野駅から出る在来線は、なんとなく旅のムードが漂っている。
だからというわけではないが、なけなしのポケットマネーをはたいてグリーン車に乗った。土曜と日曜のグリーン料金は750円なのだ。
環境建築研究所は休業日だが、あえて休日出勤で前橋に行くことにしたのは、田村京子の仕事も休みだからである。
 僕のデイパックには七つ道具のほかに、手土産の東京バナナと今回の調査報告書が収まっている。しかし、その報告書は未完成なのだ。書き込まれている内容は問題ない、書き換えるつもりもない。ただ・・、もう一度現地で確認しなければならない事が一つだけあった。ここ数日その事が頭から離れない。
 赤い十字架が何だったのか、現れた原因とメカニズムはどうであったのか、全て説明することが出来たのだけれど、たった一つの謎が僕をもう一度、前橋へ向かわせた。
 いや、前橋へ行く理由は、たった一つではなかった。
 前橋には田村京子がいる。彼女といる時、なぜか自分が浄化されていくような気持ちになる。
 おだやかで、素直な自分がそこにいる。助けられているのは僕で、だからこそ何かしてあげたいという衝動に駆られる。田村京子は、そんな存在だった。


 珍しいことに、一度も居眠りをせず、僕は前橋に到着した。
改札の向こう側には田村京子が立っていて、満面の笑みで手を振っている。 

 「こんにちは」
 「こんにちは」
と、そっけないほど短い挨拶だったけれど、それ以上に何を言う必要があるのか。
 今ここに自分がいる。波動のような感動に包み込まれたように感じているのは僕だけなのだろうか?
たぶんそうだ。
目の前に立っている田村京子は、すばらしい笑顔を見せてくれているけれど、とても冷静そうに見える。熱くなっているのは僕だけなのに違いない。

 相変わらず彼女の運転は軽快だ。
白のプリウスは北に向かい、前方には雄大な赤城山が青い裾野を広げて僕を迎えてくれている。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2009.06.25 18:11:09
コメント(6) | コメントを書く
[住宅革命] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Profile

フライングシード

フライングシード

Calendar

Archives

2025.11
2025.10
2025.09
2025.08
2025.07
2025.06
2025.05
2025.04
2025.03
2025.02

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: