キャロルはわんちゃんのパラダイス写真館
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下町のせいかそれとも母の人柄かとにもかくにもこの小さな長屋は人の出入りが激し
かった。学校に行っているときは見えなかったが、夏休みなどの長期休暇にになるとその
凄まじい我が家の一日のサイクルがわかったのである。近所の奥様連中、叔父の嫁、弟
の嫁、新興宗教の支部長、内職のオヤジ、町工場で働くにいちゃん・・・それも決して鉢合
わせすることなくうまく廻っている。おそらく相手側がうまく調節していたのだろうか、だいた
い来そうな時間が決まっているのだ。朝の8時頃には町工場で働くにいちゃんが自転車で
やってくる。町工場に入る前のわずか10分程度ながら我が家に寄り玄関先で座る。母の
出したインスタントコーヒーをうまそうに飲みながら世間話をするのである。それが日曜日
以外毎日のようにやって来る。何をそんなに毎日話すことがあるのか幼い自分には不思
議で仕方がなかった。母とにいちゃんの大きな笑い声が玄関から外に漏れていたのは間
違いない。ただこのにいちゃん、少し障害があったが非常に明るく、私も大好きな一人だ。
小さかった私を見つけてはポケットからビー玉やベッタンなどくれ、可愛がってもらった記
憶がある。母は不憫に思ったのかそれとも障害に負けず明るく働くにいちゃんを応援して
いたのか理由は解らない。にいちゃんはコーヒーを飲み干すと母に礼をいい元気に出勤
するのだ。次が来るであろう来客の合い間に家の掃除である。もちろん躾に厳しい母は私
を召し使いのように使う。言うことを聴かなかったら何が飛んでくるかわからない。掃除が
終りかけに時計で測ったように次の来客がやって来る。叔父の嫁である。私はこの嫁が
大嫌いであった。
