加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

May 2, 2005
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カテゴリ: 音楽
 ドレスデンにある有名なオペラハウス、ゼンパーオパーに行ってきた。

 華麗な内部、抜群の音響で、劇場それ自体も人気が高い。ドイツの憧れの劇場のひとつ、といったところか。
 演目はヴェルディの「ファルスタッフ」。久しぶり(たぶん)のヴェルディ・オペラである。

 ヴェルディのオペラはどれも好きだけれど、「ファルスタッフ」はちょっと別格だ。ヴェルディがとても楽しんで書いていることが伝わってくるのだ。悲劇の帝王が、最晩年になって、ほぼ初めて手をつけた喜劇オペラ。大笑いするのではなく、頬をゆるめてずっと見ていられるオペラ。耳を傾けながら、「よくここまで来たなあ」という感慨に、私も浸ってしまう。

 私の尊敬している評論家の国土潤一氏は、「ファルスタッフ」をしめくくる最後のフーガを聴くと、いつも涙が出てしまうと言っていた。ヴェルディの人生を考えて、ということも作用するらしい。私もまったく同感である。

 音楽も、とっつきにくいと言うけれど、よく聴いているときれいなメロディがいっぱい出てくる。派手に歌い上げたりしないので、わかりにくいような気がしてしまうのだけれど、品がいい、ということもできる。

 で、その「ファルスタッフ」をゼンパーオパーで、というので張りきって出かけた。



 ところが、最後の最後、国土氏が涙する有名なフーガ形式の合唱に来て、驚倒させられる出来事に遭遇してしまった。
 この合唱、終わる直前で、全体がいったん休止する。そしてまた主役のファルスタッフから歌いだすのだが、その休符のところで、演出なのだろうと思うけれど、客席の照明が点灯した。そしたら、聴衆が一斉に拍手を始めてしまつたのである。

 ちょっと待ってよ!まだ終わってないよ!

 心のなかでそう叫びながら、私は「しーっ!」と言い続けた。たぶんすごい形相をしていたと思う。
 けれど拍手はなかなか止まない。舞台上の歌手も呆然状態。
 2分も続いただろうか。私にとっては気が遠くなるくらいの時間のあとに、ようやく最後の1分足らずが始まった。このまま終わるんじゃないかと思ったほどだった。
 最後の拍手も、なんだか拍子抜けしたみたいだった。

 拍手しながら、ふと思った。
 このひとたちは、「ファルスタッフ」っていうオペラをあまり知らないんじゃないだろうか。
 日本の新国あたりでこんなことが起こるとは、ちょっと想像しづらい。休符のところで拍手が起こったら、たちまち「しーっ!」の声にかき消されてしまうと思う。
 「ファルスタッフ」は決してマイナーなオペラじゃない。この間だって、ウィーンやチューリヒあたりで上演していた。そんなオペラを、日本人からみたらおそらく「オペラ通」に見えるドレスデンの聴衆が、知らないとは考えにくいけれど、今日の反応を考えると、そのようにしか思えない。


 ウィーンにしても、ワーグナーなどの重いオペラは人気がなく、いわゆる有名な、スタンダードなオペラが人気が高いそうだ。ワーグナー熱がかなり高まっている日本では、考えにくいことである。

 バッハのコンサートに来る聴衆もそうだけれど、今、日本人の聴衆のレベル(というか熱心さ)は世界でも有数なのではないだろうか。
 そんな気がした、ゼンパオーパーの「ファルスタッフ」でした。





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最終更新日  May 6, 2005 12:32:50 AM


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