加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

加藤浩子の La bella vita(美しき人生)

February 25, 2011
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 同時代に生まれてよかった、という歌手は、私の場合まず2人います。

 最近それに、ナタリー デセイが加わりつつあります。

 昨年の4月、ウィーンの国立オペラ座で「夢遊病の娘」を聴いたとき、劇場総裁のホーレンダー氏から「宮廷歌手」の称号の授与式があり、その際ホーレンダー氏が彼女を表現するのに引用したある批評家の言葉が、「デセイは音符ではなく魂を歌う」でした。
 それが、彼女のオペラに接し始めてから、ステージごとにつくづく実感できるようになりました。
 昨夏の日本での『椿姫」もすばらしかった。

 そして今回、デセイの十八番のひとつである「ルチア」が聴けるとわかり、ずっと楽しみにしていました。

 果たして期待通り、いえそれ以上といってもいいできばえでした。
 「乙女」ルチアの非情な運命が、これほどひしひしと迫ってきた「ルチア」の公演ははじめてでした。


 最後の決断を迫られたら、声より演技をとる、というような話も聴くのですが、いえいえやはり「声」の迫力も素晴らしいものです。
 彼女のオペラは、「声」も「演技」もぎりぎりいっぱい、がけっぷちに立っているような印象を受けます。それだけ賭けているということなのでしょう。だからこそ、引き込まれてしまう。
 狂乱の場で、階段から転がり落ちたり、もみくちゃになりながらも魂の震えるような高音を通したり、かといえば、呆然として静止しているだけで内面の悲しみが伝わってきたり。
 声も含めて表現のひとつひとつに、電流のような衝撃と、恐ろしいまでの密度があるのです。 

 幕間に今回ご一緒した方といろいろお話ししていて、デセイという歌手が今回少し見えてきたかな、と思う部分もありました。

 たとえば、NY在住のあるジャーナリストで、デセイにインタビューもした方の話ですと、役柄の選定にそれは慎重なのです。
 自分の「声」にあった、かつドラマ的に共感できる演目、という選択を、考え抜いてやっているようでした。

 彼女は本当はドラマティックな役柄(たとえばトスカのような)が好きなようで、けれど自分の声にはあわない、やりたいものと声が違うのが辛い、ようなのですが、いくらやりたくとも、踏みとどまる賢明さがあるようです。それだけ自分と自分の「芸」を大事にしている、ということなのでしょう。
 「声」があっているが、ドラマ的には共感しにくい役柄も、いくつかレパートリーにはしているようですが、その場合、「音楽がとびきり美しい」とか、「演出がありきたりでない」など、何かドラマ以外の理由があって、やっているようでした。

 「声」という面で言えば、今は十八番の「ルチア」も、「椿姫」のヒロインも、当初は自分の声でできるとは思っていなかったようです。
 けれど、長い時間をかけて近づいていった。


 出るオペラはとてもしぼっていますが、それだけリハーサルも徹底的にやるようですし、細かい演技も、繰り返すたびに磨き抜かれていくようでした。

 (ちなみに演目を選ぶという点は、フローレスも同じ。この2人のコンビは絶妙です。今後もどんどん共演してほしいものです。)

 デセイの熱演に刺激されたのか、共演者たちも次第に盛り上がりました。
 悪役でありながら人間的なルチアの兄を、バス バリトンに近い美声で聴かせたテジエ、

 いずれも聴きごたえ十分で、盛んな拍手を浴びていました。

 ジマーマンの演出したプロダクションは、2007年のシーズンオープニングに制作されたもので、当時の主演もデセイだったそうですが、舞台をドニゼッティと同時代の19世紀前半に設定。
 当時の流行だったロマン派の趣味を強調し、森の雰囲気を強調したり、幽霊を登場させていましたが、いわゆる読み替えではないので分かりやすいし、美しいものでした。
 ただ、第3幕に巨大な階段と廊下を作るために、休憩を40分!もとっており、終演が12時近くなってしまったのは(開演は8時)ちょっと問題かもしれません。
 日本ではちょっと変えて、休憩が適当な時間に収まるようにする、という話をききましたけれど。

 日本でルチアを歌うのはダムラウ。テクニックという点では、あるいはダムラウの方が上かもしれません。ほんとは、2人一緒に聴けたら、なんて思うのは贅沢すぎますね。













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最終更新日  February 25, 2011 05:30:36 PM


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