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今になって、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウの古い録音を聴いてみることが多くなって来た。
僕が好んで聴くのは、彼が40歳を迎えるまでの録音である。
その中でもモノラル録音の時代の物が一番興味深い。
それ以後の録音には、彼の横柄さや押し付けがましさが音楽に出て、いやらしさばかりが耳に付く。

しかし今になって気付くことだが、彼の演奏の中には他の人が誰も目を向けていないものがあるように僕には思える。
一言で言えば、文章と歌声の調和である。
彼が初めから目を向けていた場所、それは声でもなく、音量でもなく、音程でもないそれはドイツ歌曲ですらない、またはそれこそがドイツ歌曲なのかもしれない。
それは彼以前にも、彼以後にも誰も目を向けていない場所ではないのだろうか。
だとすると、戦後それまでに存在しなかったドイツ歌曲を確立して、彼が引退した後それを誰も引き継がなかったということになる。

そういう意味では彼は怖ろしく孤独な歌い手である。
一人ぼっちで、他の国のどの音楽とも違うドイツ歌曲を探し続けた。
おそらく彼がやろうとしたことを引き継ぐ者は、これから先にも現れないであろう。
そして誰の興味も引かないまま、ドイツ歌曲はこの世から少しずつ消えて行く。

彼は今80代半ばを過ぎ、何処かで静かに余生を過ごしているのだろう。
自分の部屋の中で、自分自身の録音を聴くこともあるかもしれない。
そんな時、彼の胸の中には何が渦巻き、どんな情熱が火を絶やさぬまま燃え続けているだろう。





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最終更新日  2009.10.02 00:48:03
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