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・4.15.日
僕も周囲を観察していて、全くそう思っていたところである。
「その人物の性格と人間性、頭脳などは、その人が生まれ育った環境や、家庭や学校の教育はそんなに大きく影響せず、やはり何と言っても親から、もしくは先祖代々からのDNAがものを言う」と。
学校の成績について、もちろん努力でやりこなす人もいるだろう。
だがほとんどの場合、遺伝によって決定されるように僕には思える。
親の学校での成績と、子供の成績を照らし合わせて統計を取るというような実験を、誰か行なわないものだろうか。
それから言うと、生れ落ちた家によって成績が悪く親に罵倒され続けても、一計を転じるには相当の工夫と努力が必要ということになる。
その反面、受け継がれたDNAによってさほど影で努力せずとも、学校の授業だけで一番の成績をとり続ける人もいる。
そのような人は「皆なぜそんなに一生懸命勉強するのだろう」と思うだろう。

そう言っている親は、自分の学校時代の成績のことはすっかり棚の上に上げてしまって、まさか遺伝がほとんどのことを決定してしまうとは夢にも思っていない。

僕の見立てでは、親が自分の隠れた才能に気がつかず、子供がそのDNAを開花させるという例もあるようである。
永山 則夫死刑囚が一つのその例ではないだろうか。
彼の父親は、毎日酒を飲んで暴れて働きもしないようなどうしようもない男だった。
母親も、貧苦の生活とは言え子供を捨て、心の暖かみを子に示すことすらできない人だった。
子供たちは屑拾いをして何とかその日をしのいでいたという。
永山氏は著書の中で「私は母に二度も捨てられた」と述べている。
物心ついてからも、永山氏はきつい労働や、飲み屋のバーテンなどで労苦を余儀なくされ、窃盗などの事件を起こしながらも職を転々とした。
彼は四人の人間を殺めた原因として「悲しい無知がそれを引き起こした」と言っている。
だが入牢してからの彼のDNAは別の開花を見せる。
初めて文字を勉強し、あらゆる本を読み漁り、自分が育った環境をバックに思想のようなものを抱き、毎日牢の中で書く日記に独自の哲学を見い出した。

彼は文字を覚え、本を読むことを覚えてからほんの1年ほどでその能力を発揮し始めている。
おそらく普通の家庭に生まれれば、優秀な成績で学問に打ち込み、国にとって有益な論文を発表するか、優れた小説家に成り得ただろう。
環境も教育もない中で、親に開花出来なかったDNAの能力を子供が開花させた一つの例ではないだろうか。
ただ悲しいのは、開花した場所が死を約束された牢の中であったということだ。

ーーーーーー

科学、それも基礎科学を長くやっていると、自分の判断力や自分が正しいと思ってい
ることがいかにいい加減なものか、たたき込まれます。そんなことは当たり前と言え
ば当たり前で、科学の研究は「今、正しいと考えられていることを覆す」のが主たる
仕事ですから、自分が判断したり正しいと思ったことが間違っている方がむしろ研究
の意味があるので、良いのです。
でも、このようなことは科学ばかりではなく、日常的な生活の中にも多く見られます
。その一つが家庭の教育です。「家庭の教育が子供の人格に影響を及ぼす」と言うこ
とはかなり頻繁に言われていて、多くの人がそれを信じています。
特に小さい子供を育てているお母さんは、一所懸命、子供を立派にしようとして怒り
すぎたり、褒めすぎたりして失敗し、悔やむことが多いようです。確かに「親の教育
が子供に大きな影響を与える」というのはわかりやすい話ですが、最近の研究ではど
うもそうでもないようなのです。
犯罪などの社会的な問題を起こした人や、反対に社会的に尊敬されるようになった人
の小さい頃の家庭教育との関係を調べた研究を見ると、最近の研究になるに従って、
子供の正確に及ぼす親の教育の影響がかなり小さいと指摘されています。その子供の
人格を決めるのは、一にも二にも遺伝的影響が強く、それも小さいときばかりではな
く、その人の全人生に大きな影響を与えるようです。
どうやら、親の責任は「良い環境を作ること」、「何か習慣として身につくことをさ
せること」ぐらいしかなく、「良い人柄にする」などの人格に影響のあることは、親
の教育と言うより遺伝的素質や、その子供を取り巻く全体の環境によるもののようで
す。
つまり小さい頃、よく本を読んであげたとか、スポーツする習慣をつけさせたという
ような具体的なことは身につくのですが、性格自体はなかなか家庭環境や学校の教育
では変えられないということです。
「子供の性質は親の責任」というような誤解が蔓延するのは、それがわかりやすい話
であることと、教育関係者にとっては「教育は意味がある」と言うことはとても聞き
やすいことであり、その方向の話を多くの人が同意しやすいと言うことのようです。
教育関係者がどのぐらい「損得勘定」を旨に持っているかは別にして、自分の職業の
影響を大きく見積もりたいというのは自然の勢いです。
つまりここでも「空気的事実」がいつの間にか常識になっている傾向があります。
また、「遺伝的気質が多くの正確を支配する」という結論はあまりにも夢がなく、が
っかりしてしまいます。つまり「教育で改善される」というのは多くの人の希望であ
り、「遺伝だけ」とすると夢も希望もなくなると言うことでも空気的事実が形成され
やすいのでしょう。
最近の研究によると、遺伝的影響は歳を取るとともにむしろ強くなっているという報
告もあります。「考えやすい方」は「小さい頃は遺伝的気質が強く影響し、経験を積
むとともに大脳の影響が増え、遺伝的影響は小さくなる」と考えがちですが、そうで
はない、反対だ。むしろ80歳ぐらいになってもまだ遺伝的影響が増えているというの
です。
一度、そういう結論が得られると、「その通りだ。遺伝子の活動は、遺伝子にどのよ
うに指令があると言うだけではなく、その遺伝的影響が出るためにはスイッチが入ら
なければならない。だから歳を取ってスイッチが入るものが多ければ、不思議では無
い」などという解説をつけられると、今度はそっちが本当になってしまいます。
人間は直感的に「これだ!」と思うことがありますが、私のような科学者で長い間自
分の直感が間違っていて痛い目に遭っている人から見ると、人間の直感ほど当てにな
らないものは無いと思ってもいます。
(平成24年4月8日(日))
「educationtdyno.13-(5:11).mp3」をダウンロード
武田邦彦





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最終更新日  2012.04.15 16:38:54
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