わんこでちゅ

2 ヤマダくんのまちこがれるもの










今日もみかちゃんの鼻にかかって甘ったるいくせに、大きな声が院内に響き渡る。

「ヤマダせ~んせい、いまねぇ電話で、須山さんとこの鈴(りん)ちゃんがくるってぇ~。」

「ふぁ~?すずちゃんね。」

「違いますよう、りんちゃんですよう。」

「ああ、ベルちゃんね。」

「はぁ?せ~んせい、やる気あんのう、りんちゃんですよう。」

やる気?実はない。どのペットもいいだけ甘やかされて、ぶくぶく太って、飼い主が病気にさせたくせに、嬉々として病院につれてくる。自分はペットにここまでつくしてんのよう、なんてかんじでいそいそ嬉しそうにここにやってくる、、、。そういうペットも飼い主も正直みあきてるのだ。まれに緊急を要する重病のペットがきたらきたで、とことん神経も体力もつかって、疲れはてるし、、、。こうなにかかわったことがないもんかなぁ。

そんなことを考えていたら、表のドアのあく音がした。

「せ~んせい、カークちゃんきましたよう。」

「なにっ!!!カーク君か♪?」

「せ~んせいなに嬉しそうな声だしてんのう。」

ふふっ、そうかぁカーク君かぁ。毎度来るたびに奇想天外いろいろあって、あの子をみるのって、実は楽しみなんだよなぁ。俺はなるべく平静をよそおって飼い主さんにきく。

「今日はどうしました?」

「先生、ひどいんです。このこったら公園の閉鎖されたトイレの前で、だれかまにあわなくってしていったげり便を、べろーーーっと食べちゃったんです。あれ絶対人間のですよ。紙がなかったらしくて、ブリーフでお尻ふいたのが、脱ぎ捨ててありましたから。そしたら、、、。」

ぶっははーーーっ!!!びっびりぶぺぺぺぺっ、、、。

飼い主さんが症状を説明し終える前に、なんとカーク君は床にはでなげりぴーをした。我慢しきれなかったらしい。その臭いたるや、、、。嗅いだことがない。俺は生まれてから今までにこんな強烈な臭いは嗅いだことがないぞ、、。そうか人間のげりぴーを食べて腹をこわすとこんな臭いのうんがでるのか、、。興味深い、実に興味深い。しかし飼い主さんは泣きそうな顔をしている。

「そうですかぁ、それでこうなっちゃったんですね。」

おれはすぐさま床にかがみこんで、げりぴーの始末をはじめた。するとカーク君が自分のお尻の穴を自分で舐めているのが、ふと目にとまった。以前からダックスの中でも特に胴が長いとおもっていたが、自分の尻の穴まで口が届くのか、、、。俺は驚嘆した。

「まえに腐った鳩の死骸たべたときと比べてどうです。」

カーク君の飼い主は恐縮しながらこういった。

「まえのときより、ひどい下痢なんです。どうしましょう。」

「じゃ今日は注射うっときましょうね。」

すばやく注射をすませてカーク君の頭をぽんぽんとたたくと、ぐりぐりの大きい目をさらにおおきくして、嬉しそうに尻尾をふった。いたずらしなきゃ、ハンサムでいい犬なんだがなぁとおもって顔をまじまじとみていたら、なんとカーク君に飛びつかれて、あついちゅ~をもらってしまった。その上口のまわりをぺろぺろと、、。色々問題があるので、犬とキスするのはお勧めできないが、犬ずきのおれとしては、犬のキスはきらいではない。むしろ嬉しい。

、、、、、キス、、、問題???俺の頭の中でなにかひっかかるものがあった。頭の中でなぜか警報がなっている。

「きゃ~せ~んせい、カーク君さっき自分のお尻なめてたんだよう。その口でちゅ~してんのう。ぐあはははっ」

みかちゃんのひときわ大きなわらい声がひびいた。しかし時すでに遅し。

毎度のことながら、カーク君の飼い主は肩をおとして、帰っていった。気苦労が絶えませんなぁ。

翌日の朝、俺はトイレで笑いころげた。実に愉快だ。そして強烈に腹が痛い。カーク君のキスのあと、あわてて口をうがいしたり、消毒したりしたが、いくらか唾といっしょにばい菌が俺にはいったのか、今日はものすごい下痢の俺である。間接的ではあるが、人間のげり便を口に入れると、こういうことになると立証したわけだ。実に興味深いし、なぜかなぜか笑いがこみ上げて愉快で愉快でならないのだ。生きているという実感がわいてくる。もしかして俺は狂っているのか、、、、それともマゾか?おーーーいカーク君、答えてくれ~!おーーーい、きれてるよう、だれか紙くれ~!

だが残念なことに、俺は一人暮らしだった。

「わはははっ、あはははっ、おれもブリーフでふくかぁ?!」

追伸、カークの人間の下痢P事件は本当にあった話ですが、獣医師のヤマダくんは実在しておりません。










カークとチャニ
カークとチャニ、夫婦仲良く


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