あなたたちはがんばれば報われる、と思ってここまで来たはずです。ですが、冒頭で
不正入試に触れたとおり、がんばってもそれが公正に報われない社会が
あなたたちを待っています。
そしてがんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、
あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったこと忘れないようにしてください。
あなたたちが今日「がんばったら報われる」思えるのは、
これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、
やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。
世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、
がんばりすぎて心と体をこわしたひと...たちがいます。 がんばる前から、「しょせんおまえなんか」「どうせわたしなんて」とがんばる意欲を
くじかれるひとたちもいます。
あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。
恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、
そういうひとびとを助けるために使ってください。
そして強がらず、自分の弱さを認め、支え合って生きてください。
女性学を生んだのはフェミニズムという女性運動ですが、
フェミニズムはけっして女も男のようにふるまいたいとか、弱者が強者になりたいという
思想ではありません。フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です。
あなた方を待ち受けているのは、これまでのセオリーが当てはまらない、
予測不可能な未知の世界です。
これまであなた方は正解のある知を求めてきました。これからあなた方を待っているのは、 正解のない問いに満ちた世界です。
学内に多様性がなぜ必要かと言えば、新しい価値とはシステムとシステムのあいだ、
異文化が摩擦するところに生まれるからです。学内にとどまる必要はありません。 東大には海外留学や国際交流、国内の地域課題の解決に関わる活動をサポートする仕組みも
あります。
未知を求めて、よその世界にも飛び出してください。
異文化を怖れる必要はありません。人間が生きている所でなら、どこでも生きていけます。
あなた方には、東大ブランドがまったく通用しない世界でも、どんな環境でも、
どんな世界でも、たとえ難民になってでも、生きていける知を身につけてもらいたい。
大学で学ぶ価値とは、すでにある知を身につけることではなく、
これまで誰も見たことのない知を生み出すための知を身に付けることだと、 わたしは確信しています。知を生み出す知を、メタ知識といいます。
そのメタ知識を学生に身につけてもらうことこそが、大学の使命です。
ようこそ、東京大学へ。
平成31年4月12日
認定NPO法人 ウィメンズ アクション ネットワーク理事長
上野 千鶴子
~~~~~~~~~~~~~~~~以上、引用終わり~~~~
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