ちほの転び屋さん日記

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2007年08月03日
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カテゴリ: こわれてく民法
(前回の続き)

○長い余談(なんちゃって要件事実論)

 たとえば、事例3に事実を付け加えて、兄弟姉妹E(Aの実子)がいたとして、DがEに対して相続分確認訴訟を起こしたとします(訴えの利益とかそういうのは省略)。
 で、Dが自己がBの相続人であることをいうためにはいかなる事実を主張しなければならないのかってことなんですが、
 1 B死亡
 2 Bの親AがBより前に死亡
 3 Bの兄弟姉妹CがBより前に死亡
まではいいとして(「Bに子がいない」ってのも請求原因ですか)、Dはさらに、
 4 DはCの子

 で、但書については、Eが抗弁として主張することになると。そして、Eの抗弁は、上記いずれの説を採用するかによって異なると。
 5 DはBの直系卑属でない(甲説)
 5 抗弁無し(乙説)
 5 DはBの傍系卑属でない(丙説)

 但書を抗弁にまわしたことで、Eが訴訟で主張しない限りは、DがBの直系卑属(傍系卑属)でないことが裁判所に明らかであっても、裁判所はDが相続人であると認定してもよいと考えるならば、甲説も決して奇妙な見解ではなくなるんじゃないですか。本文と但書の主張立証責任を両当事者に割り振ることにより、889条2項で準用する887条2項は、初めから死んじゃっているのではなく、Eから但書の抗弁が出されて初めてお亡くなりになるということ。
 条文作成者が、このような「要件事実的思考」に基づいて、887条2項をそのまま889条2項で準用したというならば、やるなあと思いますけどね。

 私としては、上に書いた「Bに子がいない」とかEの抗弁にまわしたことも、すべてDの側で主張すべきじゃないかと思うんですが、特に根拠はありません。
 Eの抗弁を請求原因にまわすとすると、
・ 甲説では、「DはBの直系卑属である」ことが請求原因となるが、DはBの直系卑属であることを主張できないから、主張自体失当(あるいは、主張はできるが立証できずに請求棄却?)
・ 乙説では、但書は空文だから、結論変わらず。

となると。

 要件事実的思考を極端な形で突き詰めると、たとえば、CがBの相続人であることを主張するという通常の兄弟姉妹の相続の場合でいうと、Cの請求原因は、
 1 B死亡
 2 CはBの兄弟姉妹
だけで足り、これに対して他の兄弟姉妹であるEが、

と抗弁をだし、これに対してCが
 4 Aは死亡した
と再抗弁をだすとかいったことになるんですかね。まあ、3は当たり前のことだから主張する必要はなくって、結局、4の再抗弁が請求原因に繰り上がることになりますか。
 あるいは、
 3 Bには直系尊属Aがいる
とAが生存していることも抗弁に含めるのかどうか。

 これとは別系列の抗弁として、Eは、
 3 Bには子Fがいた
と抗弁を出し、これに対してCが
 4 Fは死亡した
と再抗弁を出すってのもありえますか。こっちの3は当たり前とはいえないから、繰り上がるってことはないんでしょう。
 ただ、こちらでも
 3 Bには子Fがいる
とFが生存することを抗弁に含めることもありえるんでしょう。

 直系尊属の抗弁と子の抗弁が別系統だってのは、質の悪いジョークにしか聞こえないですか。

 これは単なる要件事実遊戯なので、この辺の話をあまり真面目に読まないように。全部請求原因に突っ込むってのが、おそらくまともな見解なんだと思いますよ。
 ただそうすると、文言解釈による甲説では、889条2項で準用する887条2項但書の生きる道が初めから閉ざされてしまって可哀想なので、要件事実を無理矢理分断して両当事者に主張立証責任を割り振ることで、生きる道を与えてあげてみたかっただけのことです。終わりのほうに書いたことは明らかにやりすぎです。
 ただ、たとえば売買契約を締結したことと弁済したことが請求原因/抗弁に分かれるならば、兄弟姉妹であることと子・直系尊属がいることを請求原因/抗弁に分けたっていいんじゃないのか、少なくとも、これらにどれだけ本質的な違いがあるのか、ってことは疑ってもいいんじゃないですか。

追記:上であげた例ですが、時列がずれる契約締結と弁済よりも、契約締結と錯誤のほうがいいかもしれません。これは権利根拠事実と権利消滅事実は区別できても、権利根拠事実と権利障害事実の区別は明確でない、という証明責任論の問題に絡んだ話。





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最終更新日  2007年08月24日 22時54分10秒
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