Playmate theta

June 11, 2006
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カテゴリ: 超短編
亮一は図書館にいた。専門の講義でレポートが出たのだが、どうも大学に入って急激に数学的なところが難しいくなった気がする。しかしまぁ、そういうものなのだろうとも思う。高校までの物理は公式丸暗記だったりインチキ臭い説明だったりで正直まったく面白くなかった。大学に入ってだいぶその胡散臭さが減ったが、その代わりにそこを埋めたのが数学的なテクニックだった。亮一は数学も嫌いではないが初めはさすがに図書館で参考書を調べたりしないとかなり苦労した。今日も元々は調べモノのつもりで来たのだが、いつの間にか本を読む方にはまってしまっていた。

「佐々木君」斜め右前方から亮一に向かって呼びかける声がした。女性の声だった。

亮一は緩慢に顔をあげたが、目の前にいたのは見覚えのない、というか逆にどこかで見たけどきっと深く印象には残らないだろうな、と言う感じの量産型の美人な女性だった。よくできている。亮一は、関係ないけど、この子は一ヶ所でもすこしバランスを崩してやると印象に残る顔になるのにな、と思った。思い出そうという努力は彼女の顔を見て2秒で諦めた。こう言うときは、誰だか分からないままでも会話は成り立つものだと知っている。

「何やってるの?」

こう聞かれたら、もし相手が、街で偶然会った10年来の親友ならきっと職業を答えるのだろう。もし相手が、クラスの友人なら「大問3のこの計算が・・」と具体的に調べていた部分を詳しく答えるべきだろう。今目の前の女性は自分とはどれくらいの関係なのか、そもそも自分の現状をどれくらい把握しているのか。結局1秒考えてから「量子のレポート」と答えた。親友でもなければクラスの友達でもないと判断したのだ。万が一相手がクラスの人間であったときの為に科目だけは加えた。

「猟師?ふぅん、分からないや。最近サークル来ないけどどうしたの?」

量子のアクセントがおかしい。きっと訛っているのは彼女を思い出す手がかりになるかもしれない。それより、サークルか。サークルの人なのか。亮一は軽音楽サークルに入っていたのだ。ベースをやっている。確かにここ1週間は顔を出してなかったけど、他もみんな週一で来てるという話しだったのだが。今週はみんな暇だったのかもしれない。「今週は行く時間なくて。」

「そうなんだ。こないだの事で気を遣わせたのかと思って心配したんだよ」彼女は時計をチラッと見てから「今日はまだここにいるの?」と言った。

こないだ?何かされたっけ?それとも自分がしたのか??亮一は今度はさっきよりは少しだけ真剣に彼女を思い出そうとしたが、やはりダメだった。仕方ないので「うん」と、問いにだけ答えた。



亮一は彼女の後ろ姿を見送りながら手がかりを整理してみた。「サークル、返事、バイト」そしてアドレスを見ながら、どうしたモノかと考えた。覚えのない、しかも、何かした(された)相手に何と言ってメールを送ろうか。しかしすぐに考えても仕方がない気がしたので、亮一はまた本に目を戻した。





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Last updated  June 11, 2006 01:43:50 PM
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ぷりたん@ 超ラッキー!(* ̄ー ̄) 今まで風イ谷に金出してた俺って超バカスww…
鳥蘭丸@ うにゅぅぅぅぅ…… 可愛がってもらうだけ可愛がってもらって…
桜井心 @ Re:断髪(09/23) とりあえずお久しぶりです☆ あははっ、…
theta @ Re:難しい子ですね(09/05) ☆真雪☆さん >私はこういう女の子独特な…
☆真雪☆ @ 難しい子ですね 私はこういう女の子独特な性格?は持ち合…

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