わたしは価値を創る

わたしは価値を創る

May 23, 2010
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カテゴリ: 書籍の紹介
■前野隆司氏著。キャノン出身の慶応大学教授の方です。専門はシステムデザイン&マネジメント。

■固い題名の本ですが、私には非常に響きました。1年に何冊あるかという響き方です。


思考脳力のつくり方

■この本では、4つの思考法を紹介しています。

1.要素還元法。

2.システム思考。

3.ポスト・システム思考。

4.システム思想。

この名称だけではわけがわかりませんね。

■まず1の要素還元法。



限られた範囲なので、科学的論理的なアプローチを突き詰めることができて、高い効果を上げることができます。

日本が得意な改善アプローチはこれにあたります。例えば一連の流れをプロセスに分解して、それぞれのパーツごとに、最適な改善を施します。各部門の細かな改善を積み重ねることで、全体として大きな改善に至ります。

私が行う営業マネジメントの手法もこれにあたります。

ただし、この方法はしばしば、自分の範囲だけよければいいやという“たこつぼ思考”に陥ってしまいます。自分がよければいい。自分の家族がよければいい。自社がよければいい。自民族がよければいい。自国がよければいい。という考えです。

■これに対して、2のシステム思考は、全体像をシステムとして捉えて、全体最適を目指そうとする思考法です。(単なるIT系のシステム思考ではありません)

改善的手法が1つ1つの足し算による積み上げであるのに対して、システム思考は、違う要素を結びつけ、新たな価値を「創発」するという、掛け算のようなアプローチです。

社会にしろ、会社組織にしろ、あらゆるものは複数の要素が組み合わさってできているので、一つのことを究めればいいというわけではない。全体としての生産性を上げることが重要です。

システム思考のためのツールとして、この本では、ツリー型、マトリクス型、ネットワーク型のフレームワークを提示しています。

重要なのは、全体としての生産性を上げるための論理性、科学性であり、できる限り矛盾のない全体最適を目指します。

■ただし、この2つの思考法は、場面によって使い分ける必要があります。

全体戦略を作り上げるときは、システム思考です。日本の家電メーカーが各自の製品分野でしか思考できなかった時に、アップルはアイチューンズというネットワーク全体を設計することによって、巨大な価値を生み出しました。どうも現代の日本人は、システム思考に慣れていないのかも知れません。



■3のポスト・システム思考とは何か。

これは、システム思考の論理性の否定から始まります。

そもそも現実社会は複雑すぎて、単純な抽象化で描ききることができないはず。全体像をつかむということそのものが非論理的な作業なのではないか。

あるいは、全体とは何か?全体を本当に捉えることなど可能なのか?全体の中に、自分は含まれるのか?その場合、どのように整合性をとればいいのか?

論理を積み上げていくと、どこかで論理が破綻する場面に遭遇します。現代哲学では、論理はそもそも成り立たないということが証明されているそうですし^^;



組織は成果を上げるために存在していますが、その成果とは何か?

マーケティングは、よりよい社会を作ることを目指しますが、よりよい社会とは何か?

社会はわれわれが幸福になるためにあるはずですが、その幸福とは何か?

こうした問いには、精緻な論理で答えることは不可能です。コンセプト設定そのものは、論理の壁を飛び越える必要があるわけです。

この本の中では、アーキテクティング、アコモデーションという概念が述べられています。アーキテクティングとは、コンセプトを具体化していく作業のこと。アコモデーションとは、複数の異なる意見を合意に導くこと。いずれも、どこかで矛盾と折り合いをつけなければならない作業です。

そういえば、私もマーケティングの目的は何か?というところで、ベンサムやミルの「最大多数の最大幸福」で折り合いをつけた経緯がありました。

■4のシステム思想。

これは、思考のテクニックではなく、悟りのことをいうらしい。

分かりにくい概念でしょうが、学生時代にアルベール・カミュを読んだ者からすれば、なじみのある感覚です。

世界は複雑で矛盾に満ちている、正しいといえることなど一つもない。自分の行為が正当化であると言えないのと同時に、不当であるとも証明できない。「異邦人」の主人公は苛立ちますが、彼は最後に「そもそも意味などは人間の作り出したものだ。人間のすることに善も悪もない。すべては許されている」と気づいて、歓喜のままに死に至ります。

東洋では老荘思想というものがあります。もののあはれ、侘びさびなど日本人の心情は無常観を過去から受け入れています。形あるものは必ずなくなる。すべては無にはじまり、無に終わる。

悟りの境地に至ると、一所懸命になることや、こだわること、対立することなどばかばかしくなってしまうのではないかと思いますが、実際にはそうではないらしい。むしろ、こだわったり、対立したり、矛盾を解決できないことを楽しむ気持ちになるのだとか。

すべては無だ。論理など仮説にすぎないということを理解した上で、場面場面に応じた思考法を採用することがシステム思想に至った者の姿勢です。

■私はここ数年、システム思考の気質が強い人間でしたが、ポスト・システム思考やシステム思想の考え方も、文学青年だった時代に経験していたことを思い出しました。

ですから、この本の壮大な仮説はとても心に響いた次第です。

自分の思想(仮説)を整理することにとても役立ちます。





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Last updated  May 23, 2010 12:03:59 PM
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