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2005.12.07
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カテゴリ: 独り言
羊飼いが杖を高く上げ牧羊を集める合図を送る。

朝早くから図書館が開くのを待つ人々はそんな印象を僕に与えた。
AがBでありBがCであるように、羊飼いの指示に従い僕も、羊の群れに混じりながら開け放たれた入口へ吸い込まれてゆくことにした。
入るとすぐ目の前に貸し出しカウンターがあり、二、三人の司書が忙しくパソコンを叩いていた。入口に備いつけられた盗難防止センサーを抜けながら視点を定めるわけでもなくこれら司書をぼぉっと見つめる。
ふと気付くとカウンターテーブルの上にCDがのっていた。散乱していた注意力を喚起させ、何のCDが確かめてみる。
ロキシーミュージック。肌の透けたワンピースを着た女がジャケットの奥に佇んでいる。なんだって朝一番の図書館カウンターにロキシーミュージックがあるんだ。忙しく働く司書達はCDに目も配らない。この異質な二極構造は僕を酷く失わさせた。


呼吸を整え気持ちを切り替える。
まぁいい。



入口から一番奥、ちょうど四隅の一辺にあたるところが海外図書の棚になっている。ドイツ、アメリカ、イギリス、スペイン。沈黙の鎧を見にまとった数々の名書がその背景にある重く鋭利な歴史を深海のまだ見ぬ生物のように溜め込んでいた。
フランスの棚に並んでいたカミュの本が目にとまる。アルベール・カミュと題された適当な本を手に取り、棚の隣に備え付けられた旅行カバンのような椅子へ腰かける。

何よりもこのあってないような朝の時間が僕は大好きだ。学校へ行く前の一時を適当な本を見つけ、それなりに要約して読む。意味はないのかもしれない。ただ一日を動かすはじめの歯車としては僕にとって何よりにも変え難いものである。

本の中でのカミュの人生は暗く淀んだ籠の底にある泥のようだった。
フランス植民地に生まれ、学校の先生が見つけだした非凡な才能を幼いころから発揮していた。それと背反するように彼は社会の不合理さを憎み、父の死が覆う際限ない暗闇に苦しんでいた。


精神と肉体が崩壊し、魂が帰すること無い〈どうしようもない〉不条理に対し彼は........


コロンカコロン、コロンカコロン
これは・・・ローファーの踵部分に石が入った音だ。靴底が削れクッション部分の空洞が現れそこに歩いているとき石が紛れ込む。高校時代よくあった。足を進めるごとにカランカコロンと小気味良い音が鳴り、不思議な快感が走ったのを覚えている。また、その小石を取り出す作業も楽しかった。捲れ上がった靴底をさらに力を加えて押し広げ、慎重に摘み出す。しばしば一体どうやって侵入したのだろうという大物もいて、苦労して取ったものだ。

どこからか聞こえてくる小石のダンスは滲んだカミュの人生と共感し始めた気がした。

カラン・・・・精神と肉た・・・・カコロン・・・・崩壊し、魂が帰す・・・・
カラン・・・・






なんてこともない落ち葉を凝縮させたような夢だ。
僕はベッドに横たわり目を開けている。写る景色は寝る前と同じだ。唯一違うのは、目線と同じ高さにあるテレビの電源がついたまま無音の砂嵐を映し出していることだけだろう。映し出された画面とそのまわりとは、はっきりと区別され、画面の淵には闇を構成する黒い粒が凝縮され、よりコントラストを際立たせている。砂嵐だけが支配する画面を見つめているとそこにも黒い粒が無数いることがわかる。次第にぼんやりと黒い粒子群が中央へ固まりだす。

起きなくては。

見ると黒い人物が上半身をブラウン管から身を乗り出していた。
いや、それがこちら側にいるのかあちら側にいるのか、立体を形作る影が見当たらないのではっきりしない。

恐怖心はない。ただ単に起きなくてはいけないという自己使命を帯びているだけだ。起きる?僕は眠っているのだろうか。

「箸をお譲りいただけないか」

その人物が語る。

「いいですよ。」

これが僕の言葉なのか。
まるで筆記箱の中にいつも入れられている判子を押したような会話だ。

目を思いっきり瞑る。そして再び開ける。

よくある話だ。





本を読み終え、図書館を出て喫煙所へ向かう。
喫煙テーブルに肘をつきタバコを口に咥える。
キーポケットを中指と薬指で擦っていつもの感触を確かめる。
四角い感触を指に残しつつ、キーポケットからジッポを下から押し上げ取り出す。

あの子はどうしているだろう。
もう届かぬ過去への思いを発火石に託し、フリントホイールを今の自分と共に親指の弾きにのせて回転させる。








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最終更新日  2005.12.07 23:55:41
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