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2026.08.19
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笑いの臨界点 #42 階段の途中で景色を見たふり
夕方。
駅の階段を上っていた。
エスカレーターは少し混んでいたので、まあ階段でいいかと思った。こういう「まあ」が、最近あまり信用できない。
最初の十段くらいは普通だった。
足も動く。
息も乱れない。
まだいける。
そう思ったあたりで、急に来る。
太ももに、じわっと重さが出る。
息が少しだけ遅れる。
心臓が、今さら気づいたように働き始める。
あ、これは最後まで一気にはいけないやつだ。
途中の踊り場で止まった。
止まったのだが、止まった感じを出したくない。
なので、横を見た。
駅前の景色を見るふりをした。
別に見たい景色ではない。
バス停と、信号と、コンビニの看板が見えるだけだ。
でも私は、いかにも「ちょっと外を見ています」という顔をした。
街を見ているのだ。
誰に向けた言い訳なのかはわからない。
若い人が横を抜けていく。
軽い。
足音が軽い。
こちらは踊り場で、街の観察者になっている。
少し悔しい。
でも、まあ仕方ない。
50代の体は、突然、会議を始める。
膝、腰、息、心臓。
それぞれが勝手に発言する。
「このペースはどうなんですか」
「事前に聞いてません」
「階段は共有事項でしたか」
うるさい。
上るだけだ。
けれど、上るだけのことが、昔より少しだけ大きい。
私はもう一度、景色を見た。
信号が赤から青に変わった。
人が動き出す。
バスがゆっくり発車する。
その流れを見ていたら、自分だけ止まっている感じが少し薄まった。
止まっているんじゃない。
待っている。
何を。
自分を。
そんなことを思って、少し笑った。
階段の途中で自分待ち。
なかなか地味な待ち合わせだ。
息が落ち着いたので、また上り始めた。
今度は少しゆっくり。
無理に若いふりをしない。
でも年寄りのふりもしない。
ちょうどいい速度を探す。
これが意外と難しい。
上に着いた時、少しだけ息が上がっていた。
でも倒れてはいない。
誰にも迷惑はかけていない。
階段もちゃんと上りきった。
それだけで、今日の中ではまあまあの成果だった。
昔なら、気にも留めなかった踊り場。
今は、そこに少し助けられる。
途中で止まる場所があるというのは、案外ありがたい。
人生みたいに言うと大げさだけど。
でも、階段くらいなら言ってもいいか。
私は改札へ向かいながら、もう一度だけ後ろを見た。
さっきの踊り場が見えた。
何でもない場所だった。
でも、今日の私はそこで一回、生き延びた。
大げさだなと思いながら、少し笑った。
✨このような50代の身体、介護、ロスジェネの日常、
元FAX修理CEの視点を毎日書いています。
また読みに来ていただけたら嬉しいです✨





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最終更新日  2026.08.19 05:32:37 コメントを書く


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