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今回は小説のみですハレです■QUINTETTO 2モノクロの夢から鳴韵を引っ張り出したのは、目覚まし時計の聞きなれたやかましい電子音だった。時刻は午前七時。布団に包まった鳴韵は、鳴り止まない電子音を右手で止めると、スロー再生のように起き上がり、ぽりぽりと頭をかいた。ベットから降りて大きく伸びをすると、さっきまで見ていた色彩の失われた世界や、メッセージを持たないノイズは伸ばした手の指先から抜けていくような気がした。いや、実際に抜けていった。隙間を開けていた窓の風が夢の記憶をさらい、その風の温度で秋の近づきを肌で感じると、クローゼットからロングのTシャツを取り出し、その上から紺色のブレザーを着ていく。その着替えのスピードも時間的余裕からか、正確に時を刻む秒針より遅く、ナマケモノの行動速度より速い。ネクタイ緩く締め、着替えが終わると昨日の夜にセットしておいたカバンを取り、貴重品をポケットにしまい、ひとつ大きなあくびをしながら部屋を後にした。廊下を少し歩き、階段を下りる。その行為も傍から見たら苛立ちを覚えるほど遅く、着替えのときとまったく同じペースで歩いていた。しかし、彼の眠気眼は、チェックのスカートと深い緑のブレザー姿の女の子を、階段を上ってくる途中でゆっくり捉え、動きを止めて一声掛けた。「……おはよう、和音(かずね)……。」和音と呼ばれた女の子は赤縁メガネを鳴韵に向けた。「おはよう鳴(なる)にい。起こしに行こうと思ったけどいらなかったみたいね。……いつもそうだけど、今日はまたずいぶんと眠そうね?」「……低血圧。」「それはわかってる。それだけじゃないんでしょ?」「……徹夜。」「何?徹夜?いったい何してたのよ?」「……宿題。」「……単語だけでしゃべらないでよ、日本語覚えたての外国人みたい。」兄の言動にあきれた和音はため息をついた。「そんなにのそのそしていると、学校に遅れちゃうわよ。」「大丈夫。間に合うように計算して起きているから…。」「…まったく、源(げん)にいといい、鳴にいといい、何でこんなにマイペースなのよ……。そのせいでいつも私が苦労するんだから。」「ふぅ」と和音はまたため息をついた。『鳴にい』と呼ばれた彼は振り返って階段のすぐそばにある部屋に目をやった。その部屋のドアは開いていて、奥の窓から冷たい孟秋の風が吹いてくる。「兄貴は?今日はアイツの朝食当番じゃなかったっけ…?」「『講義に遅れる~!!!』って言って、私に押し付けて出て行ったわ。おかげでこっちは大変よ。今日は私も弁当を作る番なのに…。」和音はぶつぶつ文句を言いながら振り返り、セミロングの髪をなびかせながら階段を下りていく。鳴韵は彼女の跡を追って階段を下りて行き、リビングへと足を運んだ。そのリビングにはこの家唯一のテレビが置いてあり、他にもソファーや小さなちゃぶ台も置いてある。キッチンはその隅に設置されており、二つを仕切る白い壁には四角い窓が開いていて、そこから料理を渡していく。いつも食事をするテーブルは窓の手前に置いてあり、ちょうど二人ずつ向かい合って座れるように椅子が四つ置いてある。二人はすでに朝食の準備されているテーブルに向かい合わせになって座った。鳴韵はコーヒー(ブラック)をコーヒーメーカーのデカンタから自分のカップに入れ、今朝のシェフ、和音の自信作であるスクランブルエッグを口に入れた。卵のふわふわした食感とバターの風味がしっかりマッチしている。簡単な料理のはずなのに、どこか品を感じられた。さすがは自信作。「腕を上げたね。おいしいよ。」すでに皿を空にしている和音に、鳴韵は正直な感想を述べた。「何言ってるの。こんな簡単な料理で褒めないでよ。」和音はコーヒー(ミルクのみ)が入ったカップを左手に持って、鳴韵の言葉を遮るために一口飲んだ。その彼女の視線の先には英語の単語帳(手作り)があり、右手でを開いて一つ一つ記憶していく。「和音、もうすぐテストなのか?」鳴韵は時折ネイティブに発音する和音に話しかけた。「そうよ、来週から。これでも受験生だし、当たり前だけど定期テストの成績は内申に響くの。」和音は視線を単語帳に向けたまま返事を返す。「大変だな。受験生は。」「他人事みたいに言ってるけど、鳴にいももうすぐテストじゃないの?」鳴韵は少し考えて苦い顔をした。一口飲んだコーヒーに苦い顔をした。「あぁ、二週間前だよ。」「ちゃんと勉強は出来てるの?いつもマイペースだから心配。」「大丈夫、しっかりやってるよ。」合わせていない視線をそらすためにスクランブルエッグを口に運んでいく。しかし、それもすぐに胃袋の中に消えて、続いてトーストを口に含んだ。「そんな風に急いで食べたら消化に悪いわよ。」「…和音、母親みたい。」「そう?マイペースな兄弟を二人も持てば、自然とそうなると思うけど?いやでも母親みたいにしっかりしなきゃ、この家はだめになっちゃう。」「駄目な兄でもうしわけない。」「まぁ、鳴にいはまだましだけど、源にいには本当に悩まされるわ…。」和音はコーヒーを一口飲み、カップを置いて単語帳のページをめくる。簡単な中学生英語の発音が数回響いたあと、「そういえば、お父さんからエアメールがきてたわよ。」『外国』の発音で思い出し、流暢な日本語が鳴韵に向けられた。「…今度はドコだって?」「カナダ。その次は大西洋を渡ってノルウェー、スウェーデン、イングランド、だって。これでもう20カ国目。」和音はネイティブな日本語と流暢な英語のあとにため息をついた。「たまには日本にも顔出せよな…。」「当分ないわよ、お父さんの帰国なんて。」「まぁ、生活費を送ってくるだけましか。何の仕事してるかは知らないけれど。」「その代わり、生活は自分たちでやらなければならないけどね。」和音は単語帳を閉じて、立ち上がって少し伸びをする。成長期の胸がブレザーの下のブラウスを持ち上げ、息を吐くとしぼんでいく。目を逸らした鳴韵も朝食を全て食べ終え冷めてきたコーヒーを飲み干すと、空になった食器を片付け始めた。積み上げた食器をキッチンまで持っていき洗い始めるが、しばらくすると和音も自分の食器を持ってきた。「私の分まで洗ってね。朝から大変だったの。」と言い残すと、鳴韵の食器の上に積み上げ、単語帳を椅子の上に乗せたカバンに入れて、出かける用意をする。お弁当箱と細身の水筒を教科書の隙間に工夫をして入れ、それでも少し横幅が膨らんだカバンのチャックを無理やり閉めた。ふと顔を上げ、壁掛けのカレンダーに目をやった。多様なマーカーで色が付けられたカレンダーは、文房具店で売っているものではなく、酒屋のおじさんが「来年もよろしくお願いします」とひいきをしてもらうために持ってきたものでもない。第一、この家での飲酒は認められていない。三人中二人が未成年でもある。彩り豊かなカレンダーは鳴韵たちの手作りで、それぞれの家事の分担を三色のマーカーで見やすく分けている。和音は今日の日付に緑色の文字で『晩ごはん』と書かれた文字を、メガネを押し上げ、確認した。「今日の夕食当番は鳴にいだよ。わかってる?」食器をカチャカチャと音を立てながら、「あぁ。」言葉を返す。和音はリビングとキッチンを仕切る壁の窓に身を乗り出し、鳴韵に話しかけた。「だったら私、アレ、食べたいな。」「アレ?」「鳴にいの作る肉じゃが。昨日の夜は私の中華だったから、今日は鳴にいの和食が食べたいの。」制服を調えた和音が、流し台の食器の群れに固定された鳴韵の顔を覗き込み、上目遣いで答える。「作るの、得意でしょ?」鳴韵は思わず目を逸らした。「そうでもないと思うけど。」「でも、得意料理が肉じゃがなら、いいお嫁さんになれるよ?」「俺は性転換するつもりも、主夫になるつもりも無いぞ。」「いいじゃない。似合ってるよ?エプロン姿。」和音は黒い髪を揺らし、笑いながら振り返る。鳴韵はシャンプー(和音専用)の香りと食器用洗剤の匂いを鼻で小さく吸い込み、鼻でため息をつく。「それじゃあ、行ってきます。晩御飯楽しみにしてるよ。」和音はカバンを持たない右手を掲げ鳴韵に一礼すると、リビングを後にして、玄関でこの家で一番小さな靴を履き、扉を開けて学校へと向かう道を歩く。バタン、と扉の閉まる音がするまで和音の姿を目で追っていた鳴韵も、ついには二人分の食器を一言の文句も言わずに洗い終え、食器を拭きながらそばに設置してある冷蔵庫の中身を確認する。―――リクエストにお答えするには材料が足りないようだ。食器を全て棚に直し終えた後、冷蔵庫に備え付けてある束になった白紙のメモ用紙を一枚千切り取り、「ジャガイモ・にんじん・肉」とボールペンを走らせる。そのメモを制服の胸ポケットに入れ、テーブルの上においてある「和音特製」弁当を自分のカバンの教科書が許すスペースに入れた。ふと時計に目をやると、長針はアラビア数字の5を指していた。再びカバンに目を戻しチャックを閉めると、立ち上がりゆっくりと玄関へ向かった。(続く)
December 25, 2006
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「カカオ100%」ってあるのかな、と考えると、「それってカカオそのままじゃん」って結論に至った今日この頃ハレです■近況報告その一:久しぶりにサイト内のコンテンツを増やしました花言葉の詩を16点(!?)UPいたしました実はですね、ずっと前からとあるサイトに書き込んでいた分を、このたびUPさせたしだいです最近そういう創作活動に熱が入ってきていて、この間の小説もそうですけど、今、色々創っています例えば…小説:「暗闇のダンデライオン」を書き直し中 新作を一つ(長編)執筆中、もう一つ(長編)構成中詩:花言葉を始めとして、徒然なるままに執筆中(出来次第UP)台本:構成途中の作品を改変しつつ、完成へと執筆中 と、色々やっておりますそのうちに、順を追ってUPしていくので、またお時間があれば、暇つぶしにでもどうぞでは、完成をもうしばらくお待ちください^^(受験はどうした)■新作:QUINTETTO(仮)例えば、目の前に自分よりも大きなキャンバスがあるとする。まだまっさらで染み一つ付いていない。そこに何かを描くとしたら、いったい人は何を描くだろうか。さまざまな形、多種多様の色彩。あるいは人に宛てた文字を書くのかもしれない。ある、一人の男は、その真っ白の板に、小さな文字を書き込んでいる。書かれている文字は彼にとって母国語で、しっかりとした明朝体で、黒い文字で、多少小さいが読めないはずが無い。の、だが。どうしても音に出せない。頭に残らない。ここは音のない世界、何がどこから発生するなんて、どうでもよくなっている。それでも彼は何かに突き動かされるように文字を書き込んでいく。それはそれは、キャンバスの大きさに似合わず、小さな文字で。大きな文字でキャンバスを埋め尽くしても、それはきっと意味のないものだ。枝の大きく広がる樹木を数本集めて上空から見ると、一つの森のように見ることができる。上辺だけの大きな文字を並べたところで、一つでも崩されれば、その森は一気に林に変わる。小さな木々を敷き詰めた彼の森は、多少傷つけられても、その形は変わることが無い。それは彼の砦であり、同時に『逃げ』でもある。築きあげるまで多大な時間を要した強靭な理論武装。そんな黒い要塞を彼はキャンパスに書き続ける。自分自身、理解出来ていないものなのに。でも。だからこそ、彼の小さな隠れ処は、あの風に吹き飛ばされ、彼自身のその身をさらけ出した。大きな文字で書かれた、とっても重い、暖かい、優しい、そして激しい『びゅおぅ』って音の風。彼女の大きな風は、彼のキャンバスの文字を笑って吹き飛ばした。理解出来なかった。それは自分自身、書いていた文字を理解していないからでもあるが、それ以前にどこから吹いてきたのか、何故音が聞こえたのか、と知らぬうちに大きな風に理由を求めていた。まるで、それが自分が求め、描こうとしていた答えであるように。その風は彼のほほを撫ぜ、その体を包み込む。空に浮いているような、海に沈んでいるような。再び、どうでもよくなっていた。大きなキャンバスも、小さな文字の砦も、今、体を包んでいる不明な風も。そしていつしか、風の音も聞こえなくなり、かろうじて感覚のあった五感の一つである視界も、その白のキャンバスと、残った文字をぼんやりと捉えていたが、それさえもいつしか奪われていく。気付けば闇の中に、彼の、鳴韵(なおと)の意識は溶け込んでいった。(続く)
December 12, 2006
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