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空はまだ冬の名残を引きずったまま、風だけが確かに春の匂いを運んでくる。増上寺の石畳を抜けると、芝公園の桜がちょうど三分咲きで、花びらの縁だけがほんのり紅く染まっていた。満開でも散り際でもないその曖昧さが、却って胸を締め付けた。
東京タワーは、いつもそこにある。
どんな季節も、どんな夜も、あの赤橙色の鉄塔だけは変わらずそびえている。建てられた頃にはまだ生まれていなかった人間が老いて死んでも、タワーは黙って立ち続ける。人間の時間など、鉄にとっては瞬きほどのものかもしれない。
彼女がその公園を去ったのも、三月だった。
特別な別れではなかった、と今ならそう思う。怒鳴り合いもなく、泣き崩れることもなく、ただ「もうここには戻らない」と静かに告げて、彼女はコートの襟を立てて歩き去った。振り返らなかった。それが一番、堪えた。
あれから三年が経つ。
桜は毎年咲く。タワーは毎年ライトアップされる。世界はひどく律儀に同じことを繰り返す。そのたびに人は、記憶を引き出しの奥から無断で引っ張り出される。
夜風に吹かれて花びらが一枚、肩に落ちた。
払いのけようとして、やめた。少しだけそのままにしていた。
東京タワーの灯りが、花びらの白をほんのり橙色に染めている。
綺麗だと思った。それと同時に、綺麗だと思えるようになった自分を、どこか遠くから眺めていた。
三月はいつだって、終わる前に何かを置いていく。
(文:Claudeによる)
サクラと東京タワー(写真1+fotor1)
サクラと東京タワー(写真1+fotor2)
サクラと東京タワー(写真1)
サクラと東京タワー(写真2+Artguru)
サクラと東京タワー(写真)
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