嘔吐112.

June 14, 2007
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カテゴリ: Lily



*

まだ僕らが同じ部屋で同じように想いを交わそうとし、彼の弾くピアノの音が部屋中に鳴り響いていた頃。父の横顔は、いつも何処か遠い場所に在った。まるでその空間だけを彼の美徳は愛しているようだった。切り離された僕と彼との空間。身体と心が分裂するようだ、とは言えないけれど。距離という言葉で片付けられるものではない。ただ、そういう精神的な何かだと言える。

(父の音楽を必死に思い出そうとする僕に、ただ悲痛な何かを贈りたく想う。僕は僕を虐げ、恍惚とし、私に揺らめく。)

滑稽にも年々歳を取りつつある僕にとって、最近父という存在は何よりも近い属性のように想い始めてきた。過去の記憶と夢とで現われる父の残像とを見つめて、僕は僕とこの余りにも簡素に纏まった現状とに恐れを感じている。着実と、事実という論証を重ねて。多くの人が分類するように、其れが人間の「属性」と呼ぶべきものなのかは定かではないけれど、通う血を見つめては僕は僕を軽蔑してしまう日々が続く。

遠い。遠いのだ。何処か、僕らの中の全てが噛み合わずにいる。空ろになっていく父の瞳は、何時しか母さんや僕だけでなく、彼の綺麗に洗練された音の多くを殺していく。音が、聴こえない。

打ち負かされた美徳の数々と、栄えを知った悪徳の美。模倣したそれらの多くは、不毛にも父から受けた言葉が反映されており、それらを思考すると同時に僕は天から足蹴にされたような気分に陥る。陥ってみる。まるで父の美と悪とは僕の美と悪であるようにさえ想う。それならば僕の美とは一体何なのだ。

ただ、そう思想しては口を歪める。

碧。





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Last updated  June 23, 2007 02:58:47 PM コメントを書く
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