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Dec 23, 2007
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この物語は 『クリスタルハートな恋人たち・彼編』
もしよろしかったら、そちらを先にお読みください。


私は今地下鉄の車内で足踏みをしている。そのたびに暗い窓に映るビーズのネックレスがキラリと光る。
今日は出勤だったんだけど、混んでいて定時にはなかなか上がれなかった。早番が早番ではなくなってしまった。でも、この時期はしかたない。
早く行きたいのに、地下鉄はノロノロとしてなかなか進まない。ううん、進んでいるんだけど、私の気持ちがもっと先に行ってしまっているだけ。彼へ…彼へ…と。

彼から今夜のクリスマスライブのチケットが届いたのが12月に入ってからだった。一ヶ月のシフトは前の月の半ばには決まってしまう。当然今日は休むつもりがなくて出勤にしていた。どうせ、今年は一人だし、彼のライブには行けない、行っちゃいけないと諦めていた。
チケットと一緒に「許してもらえるなら来てほしい。」と手紙が入っていた。
許すもなにも…それは私が彼に伝えたい言葉だった。私こそ彼に許してもらわななければならない。


普段のライブなら派手な格好でキメて行くんだけど、イブの夜のアコースティックライブだったからちょっと気取った格好にした。ライブ用にと買ったばかりのビーズのネックレス、彼の目にとまればいいなんてバカみたいに軽く考えていたよね。
ステージの上でラブソングを歌う彼にジ~ンとしたっけ。目を閉じて聴いていると、まるで彼が隣にいて私だけに囁きかけてくれているような気分だった。
少し猫背ぎみに前かがみでギターを弾く姿が好きだった。薄目を開けて周囲を見回しながら歌う優しい歌声も好きだった。特別な夜に、特別な人の歌声に包まれて、夢のような時間に私は酔いしれていた。

ライブの後に観客を見送る彼にネックレスがきれいだねと声をかけられて、息が止まるかと思った。そして、その時から私の恋は現実のものへとなっていった。
はじめはステージの上にいる人という意識が強くて夢の中にいるような気分で私は完璧に浮かれていたと思う。それでも回りの目を気にしては少しビクビクしていたかな。ライブにも行かないようにしていたし。でも、ステージの上の彼も良かったけど、素のままの彼は驚くほど自然体で、一緒に過ごすのが楽しかった。時を重ねれば重ねるだけ彼のことが好きになっていった。

春先ごろだったかな、彼が結婚をほのめかすような言葉を口にした。私は嬉しさよりも驚きの方が大きかった。
その頃は先のことはわからないけど、彼と一緒にいることが楽しくて結婚なんて考えもしなかった。彼はミュージシャンだったし、私のことは彼のなかでは遊びかも知れないと私自身割り切るようにしていたから。そうしないと、突然彼から別れを告げられた時、どうなってしまうか不安でしかたなかったから。大好きだったけど、彼に100%依存してしまうのが、私には怖かった。

その時と前後して、彼のバンドにメジャーデビューの話が持ち上がった。
彼は隠していたけど、そのことでバンド内でもめていることを私は知っていた。たとえ彼のバンドのライブに行かなくたって、彼の様子で分かる。他のファンの子から情報だって少しは入ってくる。
メジャーデビューしたいと思う彼の気持ちが私には手に取るようにわかった。でもわかってはいたけど彼が必死に隠しているから私は知らない顔をするしかない。
それと同時に彼が私に対して真剣なこともわかってきた。嬉しく思いながらも結構とまどってしまったっけ。彼との未来を思い描くなんてまだまだできなかった。



そうするうちに彼と彼のバンドの状況がいよいよ最悪なものへとなっていった。
私はもうこれ以上彼の邪魔をしてはいけない、私自身も彼なしでの生活をした方がいい。長い時間をかけて、私はやっと決意した。

そして、あれは夏の熱い夜、彼のアパートの近くの公園。私は彼に別れを告げようとした。でも、なかなか言い出せなくて、他愛もない話をしながら私はタイミングを見計らっていた。どうしよう、なかなか言い出せない。やっと心を決めて言おうとしたその時、彼が深くため息をついた。
その瞬間にわかった。
ダメだ!やっぱり彼が好き!ミュージシャンとしてではなくて一人の男の人として彼が好き!!彼のことが大好き!!


そして…私は別れの場に彼の部屋を選んだ。彼がいつも壁にもたれてギターを弾いて私に聞かせてくれた部屋。たくさんの思い出がつまった、彼の匂いが染みついた、私が一番幸せでいられた場所。
私から言えないなら、彼から言うように仕向ければいい。私はいつになく彼に突っかかりケンカを仕掛けた。精神的に疲れきっていた彼はすぐに反応をして口ゲンカになった。
激しい言葉のやりとり。辛かったけど彼から早く言って欲しくてさらに強い言葉を投げつけた。いつまでも続くきつい言葉の数々。
やっと。彼は振りしぼるようにやっと、言った。
「もう顔も見たくない!」…と。
そして私は泣きそうな顔をした彼を残して「ありがとう」と言って部屋を出た。
重くのしかかる罪悪感。涙さえ出てこなかった。

ジ・エンド。あっけない終焉。
私は彼が好きだった。彼のことが本当に、大切だった。でもそれ以上に彼には自分の将来を大事にして欲しかった。後悔はしていない。
しているとしたら…彼から言わせたことだけ。

でも、幾夜も眠れない夜を過ごした今ならわかる。
大切なものは簡単に手放しちゃいけない。話さなくても分かり合えるなんてことは決してない。後悔するかしないかは実際に後悔してみる前になんかは絶対に分からない。
彼が送ってきてくれたライブのチケット。これは彼の勇気がつまった大切なチケット。
私はコートのポケットの中でチケットを一度軽く撫でた。
そして再び暗い窓に映る自分の顔を見た。久しぶりに逢える彼のことを想って、少し緊張した面持ちだね。
大丈夫。今夜は彼が目を留めてくれたビーズのネックレスをしてきた。…だから、絶対に、どんなことがあっても、大丈夫。うまくいく。心配なんてしなくてもいいよ。
ガラスに映った不安そうな顔の私に話しかけた。

もうすぐ地下鉄は駅に到着する。
携帯電話をしまって!
上着を脱いで!!
チケットを出して!!!

改札を出てから私は走りだした。
間に合うかな?…間に合わないな。今頃ライブはもう終わっちゃっている。でもとにかく走ろう。全速力で。彼だけを目指して。
走りまくって、仕事の後で足はがくがくするけど彼のところまで走るしかない。
逢って彼になんて言おう?やり直したい?それとも、好き?
クリスマスイブの夜で街には人があふれていて走りにくい。でも走らなきゃ!
ライブハウスが見えてきた。彼がいる!!相変わらず細い。きちんと食べているのかな。
あ、私に気がついた!びっくりして見ている。優しい瞳で私を見ている!
急げ!頑張れ私!!頑張って私!!
私は息が上がりそうになりながら彼の胸に飛びこんで、かすれた声で叫んだ。

「もう離さない!!」


スワロハート.jpg


                                  eines Tages



一年前の二人はこちらから…
クリスタルハートな恋物語1(彼女の場合)
クリスタルハートな恋物語2(彼の場合)





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Last updated  Dec 23, 2007 12:57:07 PM コメント(2) | コメントを書く
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