May 30, 2006
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カテゴリ: なし
あなたは



誰が何を聞いても



どんなふうに工夫してみても



いつでも口癖のように「なんで?」って聞き返す人だった。



あなたの深いとこを知りたいのに



聞きたいのに



いつも、うまくはぐらかす。



そうやって



自分のことには何一つ触れさせてくれないくせに







知ってる人だったから



たぶん悔しかった。



でも、不思議なことに



そんなあなたの言葉一つ一つが僕にとっては心地よかった。







あなたは



お団子みたいに結った髪型がいつも印象的で



決して美人という部類に入る訳じゃないけど



元気という言葉がよく似合う。



たんぽぽみたいなかわいい笑顔をふりまくくせに



自分に関係ない人には屈託の無い明るい笑顔を振りまくくせに



いざ自分に深く関わることには







本当の自分は見せない人だった。







元気で明るいその表情からは



全く想像のつかないほどの大きな影を持っていたのだろう。



こっそりと



僕があなたの気持ちをのぞこうとしても







少しだけ。



僕にみんなとは微妙に違う表情を見せてくれるようになって



ほんの少しだけ。



あなたの心を見せてくれたときは



跳び箱くらい何段でも跳べる気がして



嬉しかった。







あじさいがもう枯れてしまったころ。



真っ暗な天井を見つめていても



もうカエルの歌声が聞こえなくなったころ。







僕は



あなたの心の一番近くで座ることができた。



ちょっとづつでも



僕はあなたの心に居場所を作ることができた。



テレビに写るねずみでさえも2人の話題にして



いっぱい話ができるくらい。







あなたは、まるで飼育係の小学生が



アヒルにえさをやるように



無邪気に僕に笑いかけてくれた。







ゾウみたいに寛大な気持ちで



かたつむりみたいにゆっくりとした早さで



僕はそっとあなたの心に近づいていった。







気がついてみれば



歯ブラシ片手に電話でずっと話していたいほどに



僕はあなたのすぐ近くにいて



あれほど強そうに見えたその元気な表情も



たまに



触れれば壊れるんじゃないかって思うくらい



か弱くて、寂しげな表情も見せてくれたから



僕はきっと満足してた。




今になって思えば



水を少し注げばあふれてしまいそうな



そんな小さなコップにも似たあなたの心には



ほんの少しだって



誰かがいていいような場所が



あったのかわからない。



僕は



あなたの一番近くにいるんだと過信して



慣れてしまっていたことに気がついてなかった。







カメラで撮ったのとは違う。



遠くから見てたのとも違う。



目の前にいたのに。



あんなにそばで見た少し細い目も



触れると紅く染まるやわらかいほっぺも



今、もう僕の目に写すことができない。







きれいに掃除機をかけた僕の部屋。



少し散らかしたくらいが好きだったって言ってたな。



棚の本をばらまけば



ベッドの上に服を放り投げれば



あなたは戻ってくるのかな。







どんなに思い出したって



そこはもう



窓からただ風が吹いてくるだけ。



まだあなたが



強そうに見えるもろい笑顔を



誰にでも振りまいていたころの匂いを一緒に部屋に運ぶだけ。







短かった僕の思い出を



この部屋を背景に



まぶたに映すだけになってしまっていた。







今あなたはどうしてますか。



僕が



あなたと



描いていた未来は



無邪気な笑顔でバカにしたかもしれないけど



密かに描いていた未来は



ずっと止まったままです。







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Last updated  May 30, 2006 03:28:22 PM
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