南カリフォルニアの青い空

南カリフォルニアの青い空

2007.09.23
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カテゴリ: 私の電子本


〈続きです)

 当時の菊にとって、これが人生で一番辛い別れであった。何故なら、親きょうだいとは最後の別れとなるかもしれないからだった。目的地のサン・フランシスコまで何週間もかかるのである。菊には、理解も想像も出来ない気の遠くなる距離だった。日本を離れるに当たって悲しんでいる父母を、これ以上悲しませないことは菊にとって大切な事だったから気丈に作り笑顔でいたが、もう家族から絶対に見えない沖に来た時、富雄の両腕のなかに崩れ落ちた。まるで、大雨を支えきれなくなった堤防が破壊されてコントロールの効かなくなった洪水のように、菊は泣き続けた。
 一羽の鴎が、絶えず白い煙を吐き続ける一番背の高い煙突の周りを旋回しており、菊の目の前には見渡す限りの大海原だけであった。たくさん泣いた後は、体中のエネルギーが流れ出てしまったように、頭の中は空っぽになった。そして『日本での人生は終わった』と思った。

 寂しい・・・・・・むかし聞いた島流しの話が、急に身近に感じられた。出港前まで無邪気に空想していたティーンエジャーも、祖国が視界から消えた途端に、菊には世界から孤立したように感じられた。ある意味それは当たっていて、言い代えれば、船そのものが独立した動く島になったのである。水平線もあやふやな、空と海とが一体となった巨大な青の中に、ぽつんとその島があった。桟橋から見上げた時は巨大に感じた船も、この大海では木の葉のようであった。

 青い波のうねりをじっと眺めている内に、菊はある事に気づいた。『海が息づいている!母胎の中にいるような、神秘的な、あるリズムで息をしている』そのリズムには催眠術にかかる時のような、体中のエネルギーを吸い取られるような静かなパワーがあると菊は思った。
 休み無く回り続けるプロペラがあぶくの白い跡を海上に長く引きずっていて、それはまるで、もう見えない祖国と繋がっているように思えた。『まるで、へそのうのように、日本と繋がっているみたい。私は母胎に戻ったようなもので、新しい世界で生まれ変わるという事なのかもしれない。桜の花が散っては又咲きを繰り返すように、人間もこの世にいるうちに、何度も生まれ変わるのだろう』と、菊は考えて、潮の匂いのする新鮮な空気を深く吸った。

「もうちょっと、ここにいてもいいですか。キャビンで同室の人と顔をあわせるのに、涙顔を見せたくないので」
 船べりに両手をかけて今までその白いあぶくの線を眺めていた菊に答える代わりに、富雄は後ろに回って両腕でぎゅっと羽交い絞めにした。後ろからではあったが、菊にとって異性からきつく抱きしめられた始めての経験であったので、暖かな、何とも説明しがたい感覚のエネルギーが体中を駆け巡って鼻のへんがジーンとして、菊は一瞬「ハッ!」とした。
 もう殆どの船客がデッキから消え去っていたが、富雄は忍耐強く菊と一緒に海を見ていた。彼自身十三年前に一人で日本を離れた時、同じ思いをしたから、菊の気持ちがよく理解できた。
「お、何か浮いてる。わ~見てご覧!お化けイカだ」
 そう言うと、先ほどから抱きしめていた両腕を放し富雄が船の下の方を覗きこんだ。いかだのように大きな死んだイカが浮いていた。
「わあ、凄い!話しには聞いていたけど、本当にお化けイカっているんですね。大人が十人くらい乗れそう!」と、菊はやっと笑顔になった。
「その調子!笑うと、とっても可愛いよ。もう大丈夫じゃないの?」
「はい、もう大丈夫だと思います」

(続く)





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最終更新日  2007.09.23 22:29:36
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もっと読みたいな~。  
koyutan  さん
これから菊を待ち受けているものは・・?!
続きが読みたいですね~。
完成後はデジブックになるのでしょうね。楽しみです。 (2007.09.24 01:43:18)

Re:日本の菊・一章・2(09/23)  
先日、イカの加工場に「安全パトロール」に行って肉厚のイカを見ました。
「そうだね・・・うちに来るニュージーランド産のイカは・・1.5メートルくらいのイカだなあ」
思ったよりイカって大きいんですよね。 (2007.09.24 01:49:27)

Re:日本の菊・一章・2(09/23)  
富雄さんがいい人そうで安心しました♪
サンフランシスコで、菊がどんな人生を送るのか・・
早く1冊の本として読みたいです! (2007.09.24 02:25:54)

Re:もっと読みたいな~。(09/23)  
Hirokochan  さん
koyutanさん
>これから菊を待ち受けているものは・・?!
>続きが読みたいですね~。
>完成後はデジブックになるのでしょうね。楽しみです。
-----
ま、おもいもかけないようなことが次々におこりますが、さて、どうなるか。 (2007.09.24 06:33:18)

Re[1]:日本の菊・一章・2(09/23)  
Hirokochan  さん
ナイトサファリさん
>先日、イカの加工場に「安全パトロール」に行って肉厚のイカを見ました。
>「そうだね・・・うちに来るニュージーランド産のイカは・・1.5メートルくらいのイカだなあ」
>思ったよりイカって大きいんですよね。
-----
じつは、私も船で日本からハワイまで、二往復してるので、このイカは、その経験であって、移民の記録の本をよんだりで、、私の経験とミックスさせてます。
(2007.09.24 06:35:01)

Re[1]:日本の菊・一章・2(09/23)  
Hirokochan  さん
ジャスミンHAWAIIさん
>富雄さんがいい人そうで安心しました♪
>サンフランシスコで、菊がどんな人生を送るのか・・
>早く1冊の本として読みたいです!
-----
もう、この人が、ここまでやられても、まだ、前向きだった!って思う人です。モデルにしたのも、私、そこに引かれてしまったのですよ。 (2007.09.24 06:36:27)

Re:日本の菊・一章・2(09/23)  
mattun12da  さん
その続きがかなり気になるW (2007.09.24 07:30:09)

Re[1]:日本の菊・一章・2(09/23)  
Hirokochan  さん
mattun12daさん
>その続きがかなり気になるW
-----
明日も読みにきてね。 (2007.09.24 12:13:31)

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