落日

落日

2007年01月02日
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カテゴリ: 邦明
映画は、ハルの希望で、『めぐりあう時間たち』。
退屈なので時々、ハルの横顔を見ていた。ハルは、目を見開いて食い入るように画面を見つめていた。体が少し前のめりになっている。それから、彼女が緊張しているときの癖で、左手の人差し指で眉間を、中指の脇で小鼻を押さえていた。
「ふふ、わからなかったでしょう」
「うん。ぜんぜんわからなかった」
僕は正直に答えた。
「でしょう?男の人には、わからないわ」
ハルは断定的に言った。
「監督が男の人だなんて、信じられないわ」
彼女はもう一度語気を強めた。

あの日のデートを、僕らはその後もよく話題にした。ハルが、僕の好きなワンピースに、その日地下街で衝動買いしたミラ・ショーンの水色のジャケットを着て、僕らは腕を組んで本当の恋人らしく歩いた。僕が友人に会う時間が来て、駅の前で分かれるときまで、「どきどきしながら電車に乗っていたの」と、ハルは何度も言い、「完璧だわ」と興奮していた。

ハル。
僕は君の事を、一番理解しているつもりでいたよ。
僕は、ジョン・C・ライリーの演じたような、間抜けな亭主役でしかなかったのかい?





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最終更新日  2007年02月01日 01時44分07秒
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