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『堪ヘ難キヲ堪ヘ、忍ヒ難キヲ忍ヒ』だけ分ったので、これからもこの我慢の状態を続けていって欲しいと
言うのだと思った。天皇陛下が、自ら国民に呼びかけたのだから、生半可な我慢では済まされないことに
なったのだと思った。『太平ヲ開カムト欲ス』と続いていたことは、後になって知った。よく聞き取れなかったし、
聞き取れていたとしても、その言葉の意味が、戦争を止めることだは四年生の私の理解の域を越えていた。
八月も半ばを過ぎると、夕方は涼風が立つ。父が迎えにやってきた。祖父母は、昼間の放送は何だったのかと、真っ先に訊いた。「日本は戦争に負けたんです。戦争は終わったんです」淡々と言った。新聞は取っていないし、滅多にラジオも聴かない祖父母のもとで、私はその時まで、原爆投下も知らなかった。「広島と長崎に
『新型爆弾』を落とされて、軍人もさすがに『もうアメリカには敵わない』と思ったんでしょう」この先どうなるのかと、
尋ねる祖父母に「日本は、アメリカに占領されるでしょう。それから先、どういうことになるのか、私にも
分りません。何かあったら知らせに来ます」
「アメリカ軍は、来ると思いますが、戦争をしに来る訳では
ないですから、家を焼かれたり、殺されたりすることはないでしょう」祖父母はホッと安堵の表情を浮かべた。
「とにかく、もう空襲はないですから、今夜から明るく電気をつけて大丈夫ですよ」
祖父母が納得したところで、私に、「そろそろ帰ろうか」と言った。自転車の荷台で、父の背に掴まりながら、
心の中の『田舎』が遠ざかっていく気がした。その時、私から『田舎』が消え、訪れることも無くなった。
れんげ たんぽぽ すみれ 山百合 雑木林 暗い樫の木の森 竹林の葉音・・・
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