フリーページ

2006年07月28日
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
cont...

海は足の下に光る。
遮ぎる雲の一片(ひとひら)さえ持たぬ春の日影は、普(あま)ねく水の上を照らして、いつの間にかほとぼりは波の底まで浸(し)み渡ったと思わるるほど暖かに見える。
色は一刷毛(ひとはけ)の紺青(こんじょう)を平らに流したる所々に、しろかねの細鱗(さいりん)を畳んで濃(こま)やかに動いている。
春の日は限り無き天(あめ)が下(した)を照らして、天が下は限りなき水を湛(たた)えたる間には、白き帆が小指の爪(つめ)ほどに見えるのみである。
しかもその帆は全く動かない。
往昔入貢(そのかみにゅうこう)の高麗船(こまぶね)が遠くから渡ってくるときには、あんなに見えたであろう。
そのほかは大千(だいせん)世界を極(きわ)めて、照らす日の世、照らさるる海の世のみである。


帽子が額(ひたい)をすべって、やけに"阿弥陀"(あみだ)となる。

******************
Whst's a "阿弥陀"??

"阿弥陀被り"(あみだ-かぶり)

帽子などを、後ろ下がりにかぶること。
あみだ。

******************

所々の草を一二尺抽(ぬ)いて、木瓜(ぼけ)の小株が茂っている。
余が顔はちょうどその一つの前に落ちた。
木瓜(ぼけ)は面白い花である。
枝は頑固(がんこ)で、かつて曲(まが)った事がない。

ただ真直な短かい枝に、真直な短かい枝が、ある角度で衝突して、斜(しゃ)に構えつつ全体が出来上っている。
そこへ、紅(べに)だか白だか要領を得ぬ花が安閑(あんかん)と咲く。
柔(やわら)かい葉さえちらちら着ける。
評して見ると木瓜は花のうちで、愚(おろ)かにして悟(さと)ったものであろう。
世間には拙(せつ)を守ると云う人がある。

余も"木瓜"になりたい。

*********************

What's a "木瓜"??

"木瓜"(ぼけ)
(1)
バラ科の落葉低木。中国原産。庭木とする。高さ約2メートル。
小枝はときにとげとなる。葉は楕円形。
春、五弁花が前年枝に数個ずつつく。
花は紅・白のほか咲き分け、絞りなどがある。
果実は楕円形で黄熟し、香りが良い。
「木瓜の花」は [季]春
(2)
クサボケの別名。

********************* 

小供のうち花の咲いた、葉のついた木瓜(ぼけ)を切って、面白く枝振(えだぶり)を作って、筆架(ひつか)をこしらえた事がある。
それへ二銭五厘の水筆(すいひつ)を立てかけて、白い穂が花と葉の間から、隠見(いんけん)するのを机へ載(の)せて楽んだ。
その日は木瓜(ぼけ)の筆架(ひつか)ばかり気にして寝た。
あくる日、眼が覚(さ)めるや否(いな)や、飛び起きて、机の前へ行って見ると、花は萎(な)え葉は枯れて、白い穂だけが元のごとく光っている。
あんなに奇麗なものが、どうして、こう一晩のうちに、枯れるだろうと、その時は不審(ふしん)の念に堪(た)えなかった。
今思うとその時分の方がよほど出世間的(しゅっせけんてき)である。

寝(ね)るや否や眼についた木瓜は二十年来の旧知己である。
見詰めているとしだいに気が遠くなって、いい心持ちになる。
また詩興が浮ぶ。

寝ながら考える。
一句を得るごとに写生帖に記(しる)して行く。
しばらくして出来上ったようだ。
始めから読み直して見る。

出門多所思。春風吹吾衣。芳草生車轍。
廃道入霞微。停而矚目。万象帯晴暉。
聴黄鳥宛転。観落英紛霏。行尽平蕪遠。
題詩古寺扉。孤愁高雲際。大空断鴻帰。
寸心何窈窕。縹緲忘是非。三十我欲老。
韶光猶依々。逍遥随物化。悠然対芬菲。

ああ出来た、出来た。
これで出来た。
寝ながら木瓜を観(み)て、世の中を忘れている感じがよく出た。
木瓜が出なくっても、海が出なくっても、感じさえ出ればそれで結構である。
と唸(うな)りながら、喜んでいると、エヘンと云う人間の咳払(せきばらい)が聞えた。
こいつは驚いた。

寝返(ねがえ)りをして、声の響いた方を見ると、山の出鼻を回って、雑木(ぞうき)の間から、一人の男があらわれた。

茶の中折(なかお)れを被(かぶ)っている。
中折れの形は崩(くず)れて、傾(かたむ)く縁(へり)の下から眼が見える。
眼の恰好(かっこう)はわからんが、たしかにきょろきょろときょろつくようだ。
藍(あい)の縞物(しまもの)の尻を端折(はしょ)って、素足(すあし)に下駄がけの出(い)で立(た)ちは、何だか鑑定がつかない。
野生(やせい)の髯(ひげ)だけで判断するとまさに野武士(のぶし)の価値はある。

男は岨道(そばみち)を下りるかと思いのほか、曲り角からまた引き返した。
もと来た路へ姿をかくすかと思うと、そうでもない。
またあるき直してくる。
この草原を、散歩する人のほかに、こんなに行きつ戻りつするものはないはずだ。
しかしあれが散歩の姿であろうか。
またあんな男がこの近辺(きんぺん)に住んでいるとも考えられない。
男は時々立ち留(どま)る。
首を傾ける。
または四方を見廻わす。
大に考え込むようにもある。
人を待ち合せる風にも取られる。
何だかわからない。

余はこの物騒(ぶっそう)な男から、ついに吾眼をはなす事ができなかった。
別に恐しいでもない、また画(え)にしようと云う気も出ない。
ただ眼をはなす事ができなかった。
右から左、左りから右と、男に添うて、眼を働かせているうちに、男ははたと留った。
留ると共に、またひとりの人物が、余が視界に点出(てんしゅつ)された。

二人は双方(そうほう)で互に認識したように、しだいに双方から近づいて来る。
余が視界はだんだん縮(ちぢ)まって、原の真中で一点の狭(せま)き間に畳(たた)まれてしまう。
二人は春の山を背(せ)に、春の海を前に、ぴたりと向き合った。

男は無論例の野武士(のぶし)である。
相手は? 相手は女である。
那美(なみ)さんである。

cont....





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2006年07月28日 06時17分05秒
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

さんとうか7722

さんとうか7722

お気に入りブログ

一日一冊:読書日記… 本のソムリエさん
30歳で結婚したOL… 美恵子12385さん
ザ・支離滅裂 山下 洋之輔さん
Margin tempogiustoさん
遙かなる悠久の古典… 美歩鈴さん

コメント新着

乗らない騎手@ ちょっとは木馬隠せw あのー、三 角 木 馬が家にあるってどん…
開放感@ 最近の大学生は凄いんですね。。 竿も玉もア○ルも全部隅々まで見られてガ…
まさーしー@ なんぞコレなんぞぉ!! ぬオォォーーー!! w(゜д゜;w(゜д゜)w…
バーサーカー@ ヌォォオオ!!!!!! http://bite.bnpnstore.com/m9n4wb0/ お…
ニキビ侍@ ありがとう!!!!!!! 顔見てるだけでもギンギンでミルク発射し…

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: