山口小夜の不思議遊戯

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2005年10月08日
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 ある時、豊がまだ寝返りもうてない赤ん坊のおり、だれもいない屋敷でその母が土間で昼餉を作っていると、引き戸を閉めた向こう側から、カリカリカリカリと小さな音がするのに気がついた。
 何かの小動物かと思って戸を思い切り引くと、そこにはにこにこ笑いながら桟を小さな爪で引っかいている豊の姿があって、母は思わず声を上げたという。

 豊を寝かせていたのは、二間も離れた、しかも猫などを避けるための高い柵に囲まれた揺りかごの中であったはずなのだ。

 また、その生後八ヶ月の頃、母が抱いていると、いきなり小さな指で壁を指さして、
 ──おんどけい。(←なぜ?)
 とだけ一言はっきりと言ったという。これが豊のはじめての言葉で、以降、彼は三歳になるまでまったく言葉を話さなかった。

 物心がついてからというもの、豊の心には自分だけが知っていることがたくさんしまってあるようになった。

 彼は何時間も前から人や家畜の出産の時刻を寸刻たがわずぴたりと感じ取ることができた。


 豊の口からこれらのことが漏れることはなかったが、それでも豊がふいに訪ねた翌日に人が死んだりすることが重なったために、人々から薄気味悪がられたりしたこともあった。

 だが、むかし神童いま唯(ただ)の人とはよく言ったもので、これらの伝説は、今となっては豊が横着者で通っている性質からすれば、人々から二の次三の次に思い出されることであって、もはや囁きかわされることも絶えてひさしい噂話のたぐいと成り果てていた。

 それゆえに今、自分の身体に竜骨が発現した意味については、それは彼の想像の域を超えていた。



 本日の日記--------------------------------------------------------

 突然ですが、古事記には名に「耳」の字を含む人物がくり返しあらわれます。それが何故なのかはわかっていません。‘耳’という不思議な語感だけが、現代に伝えられています。

 私は中国語が読めません。

 中国留学を経て、現地で死なない程度には話すことができますが、自分が今話している言葉を紙に書けといわれれば、書けないのです。それが、「ムダムダ」「びっくりした」などの簡単な表現であっても、です。

 自慢にもならないんだから、そのくらい勉強しろよとも自分で思いますが、留学当初は語学習得にかけては、自分の耳だけが頼りだったのです。
 日本で出回っているような語学教材なんてどこにも売っていません。テープやCDに入った会話文をくり返し聞いて練習することもできないのです。

 そこで私が考えついたこと。

 私は彼女の言葉に耳をそばだて、できるかぎり会話になるように努力します。

 彼女「あーあ。喉渇いちゃった」
 私「冷蔵庫に、コーラが住んでるよ」
 彼女「住んでるんじゃないよ(笑)。コーラが入ってるよ、だよ!」

 私「このあいだ、ニンジン大学の構内を散歩して・・・」


 私「トイレ、欲しい?」
 彼女「トイレ、行きたい? でしょ???」

 そんな具合で、この五時間後、私の心づくしの手料理を食べたというのに、彼女はへとへとになって帰るのです。
 おかげで、私は留学が始まって三週間後から以来、会話した中国人に日本人と気づかれたことはただの一度もありませんでした。

 これは、鳥取時代に私自身が会得した、語学習得のノウハウを中国語に応用したものです。
 すなわち、方言は外国語学以上に教材がありません。

 鳥取弁を理解し、自分も話せるようになるために、私は当時、友達の言葉を一言も聞き逃すまいと必死でした。

 私のブログへのコメントを下さる鳥取の方々の書き方に、‘ぁ’、‘―’などの言葉を伸ばす表現が多いことに気づかれると思います。鳥取弁はとにかく言葉を‘伸ばす’のです。語尾は‘だの’一語だけでも\_/と三段階にイントネーションが上下するのです。

 そして、私が鳥取弁をしゃべれるようになった時に思ったこと。
「相手が‘おまいにならしゃべってもええだっちゃ’という義侠心ほどの気持ちを抱くまで、本物の鳥取弁は聞き出せない」

 明日は●神々の隠す子●です。
 人々が手放しで讃える豊の声とは?
 タイムスリップして、このお話の最終章に立会いにきなんせ。






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最終更新日  2006年02月10日 12時49分04秒 コメント(6) | コメントを書く


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