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slowlysheepさん
これまでの経緯は 拙ブログ
カールスバーグ、ハイネケンと連合で敵対的買収に! 10/25
カールスバーグ&ハイネケン、英国S&Nの「友好的な」買収が成立か? 1/22
をご参照ください
ついにS&Nはカールスバーグ連合の買収提案を1株800ペンスで承諾した、と一斉に報じられました。買収総額約1.67兆円です(株式ベース)。ほぼキリンホールディングスと同じ時価総額です。
簡単な経緯をおさらいしますと、
10月17日にカールスバーグ・ハイネケン連合側から「買収提案をするかもしれない」というコメントがあり、その後S&Nは「Unwelcome、Unsolicited」(歓迎しないし頼んでもいない)とコメントしたことにより、この時点では敵対的でした。
連合側は、「S&N取締役会の承諾、限定的なデューデリジェンス、S&N英国年金基金への追加支出がないことの確認」を前提にS&N取締役会に提案を承諾するようにしつこく迫りました。
そして、取締役会の承認、株主への推薦・デューデリジェンスの後に「友好的にTOB」をする算段です。
10月25日 、連合側は720ペンスでファーストアプローチ。S&Nは、「話にならないほどの低い金額だ」と返答。
11月15日 、同じく750ペンスに引き上げ。S&Nは「過小評価されている」と即日回答。
1月10日 、今度は780ペンスに再引き上げ。S&Nは「まだ安い。800ペンスでなければ交渉しない」。
1月17日 、800ペンスに再々引き上げを条件に、3社は「テーブルに着いた」と報道される。
1月25日 、ついに3社合意が成立。
今回はS&Nの買収防衛戦術と、連合側の買収戦術を中心に分析。
S&N の買収防衛戦術について。
S&Nがとった防衛策は以下の3つに集約されます。
1はビール業界世界2位のサブミラー(南ア)と同3位のアンバイザー・ブッシュ(米)に秘かに打診したと報道されましたが、不発のような気配です。本件は、当ディールのクラウン・ジュエルでもある、BBH(バルティック・ビバレッジ・ホールディングス;旧ソ連圏のビール会社の持ち株会社。S&Nとカールスバーグが50対50で出資し、共同経営している)をS&Nとカールスバーグで奪い合う構図というのが理由のようです。
たとえS&Nの全株式を取得しても、BBHの50%しか支配できなければ意味がありません。 (注:ロンドンタイムズ紙は、TOB段階で、カウンタービットの可能性も少なからずあると言及、ただし、かなり高いと言及)
2、3はS&Nは 「法の力」 に訴えます。すなわち、カールスバーグはBBHの株主間協定に違反していると。したがって調停に持ち込み、より良い値段を出した方にBBHを支配できる権利を勝ち取れるような手順を踏むというものです。ちなみに、S&Nが訴えた「違反事項」は、
A:BBHは08年~10年の中期事業計画を策定。これはJVの経営のためのものであって、S&Nの許可なく当該情報をM&Aの価格算定に活用し、かつ、オファー金額は、この計画のもたらす価値を正確に反映せず、BBHを過小評価している。これはBBHの50%を保有するS&N株主に損害を与えるものである。さらに、JV2社間の守秘情報を間接的にハイネケンにも伝えたことになり、守秘義務違反である( これが権利の乱用・濫用ならば、日本では「濫用的買収者」となるのだろうか ??? )
B:は今回のような出し抜いた買収劇は明らかにBBHおよびそのステークホルダーに損害を与えるものである。ブランドイメージに損害を与え、仕入先、従業員、顧客その他契約者にも影響を与える。
C:2050年まで、相手側の了解なしに50%株式の処分を独善的な決定が出来ない、と協定を結んでいるにもかかわらず、これは自動解約条項に抵触する。したがって、S&Nにもカールスバーグ持分50%を「フェア・バリュー」で買う権利がある。
専門家によると、調停の決着がつくには、1年程度かかる見通しであること、仮に勝訴した場合には、S&Nがカールスバーグ持分の50%の全株を買収する、または25%を買収ファンドなどに買ってもらうなどの策があるといわれていました。→ これはパックマンディフェンスに相当
仮に勝訴の後、カールスバーグがよりよい「フェア・バリュー」を提示した場合、S&Nは自分の50%をオークションに掛けるだろう、といわれていました。→ これは、焦土化戦術に該当
このうち、当然ながら後者はS&N株主の評判が悪く、S&Nが取りうる選択肢はパックマンディフェンスのみといっても良かったでしょう。
ただし、この場合においてもアナリスト等はS&Nに50%を保有できる資金調達力がない、と見ていたことと、買収ファンドも昨今の株式市場では、手を挙げるのが難しいだろう、という意見が支配的でした(恨めしや、サブプライム)。
S&N株主の反応は、12月中旬ごろまでは「800ペンス未満ではダメ、自力でBBHを100%支配できても株価が現状以上にならない」という意見が圧倒的でしたが、1月に入り、市場の大暴落を受け、「いい加減に交渉テーブルに着いたらどうだ」 とS&N取締役会にプレッシャーをかけました。したがってS&Nも「800ペンスだったら交渉してもいい」というコメントを渋々出さざるを得ない状況となりました。
ちなみに被買収者側が価格を提示することは稀だそうです。一種の賭けに出ました。
合意が決まると大株主(機関投資家が大半)は「よくやった」と取締役会を称えたそうです。
仮にS&Nが拒否をし続けると、連合側が「Walk Away;提案撤回」するというリスクが生じ、S&Nの株価暴落が予想されました。現在の株価は買収期待がこめられた価格形成であるからです。
「Put Up Or Shut Up」(正式な提案する気がないのなら、出て行け)という英国のルールにのっとり、1月24日正午がその期限でした。24日に、一時カールスバーグが買収資金の調達が出来ないため、ディールが流れる、という観測が株式市場で流れました。そのとたん、株価は暴落し、24日の締め切り30分前になり、「期限を24時間延長する」と発表され、S&Nの株価は元通りとなりました。以下をご参照ください。

カールスバーグ(デンマーク)の買収戦術
買収サイドは、安く買収し、かつ、自社の将来株価を考えなければなりません。
カールスバーグはBBHの将来情報を出したがりませんでした。S&Nからは、過小評価だといわれ続け、その原因がBBHの将来見通しを知っているくせに、その価値を反映しないからだ、と大きく非難され続けていました。
11月の07年3Qの決算発表時点で、カールスバーグは、BBHは今期、売上・利益とも絶好調だ、と発表しましたが、来期以降はマイルドな成長にとどまり、原油高などもあり、利益率もコンサバな見通しを口にしました。アナリストは当然詳細な情報開示を求めましたが、会社側は逃げ腰でした。
( これは、利益相反?でしょうね。日本におけるMBO時の取締役のコンフリ論争に近いですね。 S&N はその情報(BBHの将来計画)をすべて知っているので、余計に複雑ですね)
最後にはS&Nと2社で開示しました(ただし、 市場では予想より低い計画値との評価です )。
また、調達資金を増資と借入金で賄う予定だったので、昨今の株価暴落は借入金比率の増加という頭の痛い問題を生じさせました。アナリストあたりは「800ペンスは高すぎる」というコメントもあります。
ただし、なぜ「取締役会の推薦」(つまり友好的買収)にこだわったか、というと以下の理由がありました。
主にハイネケン側のリクエストとして、デューデリジェンスの必要性があったからです。
1:英国事業の年金基金の状況の確認
2:インドのJV事業(インド企業とS&Nが共同出資するビール会社があり、業界では「第二のBBH」の可能性があると将来嘱望されるビジネス)の財務状況の確認
3:フランス事業と英国事業には利益が一部、英→仏に付け替えているものがあるといううわさがあった
4:私見ながら、上記3つに加え、カールスバーグ側でも調停にもつれ込んで長引かせたり、予想外の事態を避けたかった(追記)
これらの確認の必要性があったとFT紙では記載されています。しかし、私見ながらもう一つ見逃してはならないのは、既述の「Put Up Or Shut Up」期限の存在です。 連合側は再三再四、「 S&N 取締役会の推薦」 が必要だ、と述べていました。この期限までに「友好的に」買収合意が出来ない場合、連合は買収提案を引っ込める、と言っているため、S&N としては、限りなく敵対的に近い提案を仕方なく友好的に受け入れざるをえなくなってしまっています(そうでなければ上記株価推移のような暴落間違いなし)。
したがって、非買収者側が「思わせぶりな提案なら、いい加減にしてよ」という主旨で設定されるはずの、「Put Up Or Shut Up」期限が実は、非買収者側にも足かせになってしまったのです。
これでFTSE100(ロンドンの日経平均のような株式指標)銘柄の最後のスコットランド企業だったS&Nも消滅します。その約270年の歴史に幕を閉じようとしています。英国シェア27%の国産リーダーを失った英ビール業界は、中堅企業の再編がうわさされています。
英国では15年以上にわたる好景気のなか、ポンド高となり売却される製造業が目立っています(日本板硝子-ピルキンストン、JT-ガラハー等の日本勢もいますね)。こういった「製造業のウィンブルドン現象」化について、国内では「株主の国籍なんて関係ない。海外からの投資が増え、優秀な経営者の参入は経済活性化をもたらす」という意見と、これでは英国の製造業がなくなってしまう、という意見があるようです。
また英国は金融市場がかなりフェアなルールで運営されていますが、日本、フランスまたは米国ですら英国よりは規制が存在し、 自国より規制のある国の企業が規制のない英国企業を買収することが「アンフェア」だ、という意見も出ているようです (かつての日米貿易摩擦と同じロジックですね)。
買収される英国企業(英国大使館) をご参照。
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