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Feb 14, 2005
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カテゴリ: カテゴリ未分類
ひともまばらな、まちの小さな公園。夏
の終わりの空は秋をもうそこまで呼んで
感傷の気をそそる。なんだか知らないけれど
ひとは生きるほかないんだよなぁ。
            みなわ ひとし
ひとりで
穏かな陽射しが、フロントガラスから
やさしく入り込んでいる。
正月2日とあって、普段はにぎやかな
繁華街もしんと静まりかえり、

同じようにならんでいるのが
目に入る。

「左に寄りすぎだよ」
「あ、右、寄りすぎ」
助手席に乗った喜一さんは
私の運転にハラハラどきどきといった感じで
細かい指示を出す。
「そんな心配しないで。これでも
だいぶ慣れてきたのよ」
「だめ。よそ見しないで。
ほら、右折」

そのうえ運動オンチだからって、
教官みたいに横で言われたんじゃ
実力なんて発揮できないわ。
喜一さんがこんなにうるさいひと
だとは思わなかったわ。


沈黙のしじまにいた。
元は、窓にもたれかかるようにしながら、
走る景色を眺めていた。
風祭さんは、くしゃくしゃになったあごひげを
大きくてやわらかそうな手で
ふわりふわりとなでている。
閉じた目を時折開いて、気持ちを整理しかねるように
まばたきを何度か繰り返す。そしてまた
静かに目を閉じ、あごひげに手をやる。
桃子は、そんな風祭さんと元を交互に
見つめて、声にならないため息をつく。

「あ、また右に寄ってるよ」
喜一さんは、あー、とか、えー、とか
本当にウルサイ、なぜ?
(疲れてるんじゃない。少しやすんだら?)
「寝てられないよ、心配で」
(まあ、失礼しちゃうわ。
ほんとに教官みたい)
ああ、とうとう口に出してしまった。
「赤、だよ。止まって」
喜一さんの顔がゆがんでいる。
もう、あなたがごちゃごちゃ横で
うるさいからじゃない、あわてて
ブレーキを踏みながら、喜一さんを
うらめしく思っている。

思いのほか早く郊外に出て、最初の山
の麓に着いたのが、午後2時ころだった。
「この先の森林公園で飯にしませんか」
喜一さんが、後ろを向いて話しかけた。
「そうしましょう」
私と喜一さんの一触即発の会話を
聞いていたのか、風祭さんが
心配そうに言った。
元さんもうなづいた。
桃子ちゃんが目をぱっと見開いて
「私、何も食べなくていいの!」
と真剣な表情。
「桃子!」
わがまま言うな、と喜一さんの声が
とがっている。
「桃子ちゃん、ちょっと休んで
腹ごしらえしたほうがいいと思うんだよ。
みんな疲れているから」
風祭さんが、やさしい声音で
桃子ちゃんに話しかけた。
桃子ちゃんが、素直にうなずくのが、
ミラー越しに見えて、
なんだかいじらしい。

公園のキャンプ施設に車を寄せる。
「ひえー、ちょっと風がつめたすぎるね」
と風祭さんが、おどけた声を出した。
「よし、窓ガラスが曇るかもしれないけど、
ワゴンの後ろで食べようか」
喜一さんが、いつもの穏かな声
に戻っていた。

狭い空間に身を寄せ合って
黙々と準備してきた鍋をつついていると、
いつのまにか、心までほぐれてきて、
みんなの顔に笑顔をもどってきたみたい。
「少し飲んだほうがいいよ」
喜一さんが、元さんに酒を勧めている。
「アッチチ」。風祭さんがズボンの膝に
落っことしたつみれをつまみあげて、
何事もなかったように自分の口に
ほうりこんだ。
本当に食欲のなかった桃子ちゃんが
それを見て、クスクスっと笑う。
元さんが、すかさず桃子ちゃんの手から
小鉢をとって、エビとつみれと春菊を
いれてあげてた。
桃子ちゃんはそれを受け取りながら
ぱっと頬を輝かせたの。
そしてきゅうに元気になって
ぱくぱくっと平らげると、
「おかわり」
甘えるように元さんに小鉢を押し遣ったの。
「自分でやれば」なんて
いつもの元さんの憎まれ口。
そう言いながら、またよそってあげている。
ま、青春している。

「道路が空いているから、この分じゃあと3時間
ぐらいで着くね」
喜一さんがまた助手席に乗り込んできた。
「ボク、少し寝かせてもらうよ」
まあ、大歓迎よ、私は思わずにんまりしてしまう。

元さんたちは、後ろでトランプを始めた。
やわらかな空気がふくらんでいく。
ハハハヒヒヒ、元さんのいつもの笑い顔が
聞こえてくる。
(私、安全運転してお父さんのところへ
無事届けてあげる)
まっすぐに見つめる道の先に
待ちわびる魂に向けて
アクセルを一歩踏み込んだ。(続く)
        楠田レモン





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最終更新日  Feb 15, 2005 03:32:36 AM
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