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訪問診療の依頼がありました。患者さんは認知症の強い、85歳の男性です。一昨年の春に義歯の下の歯茎が痛むと言って来院されました。義歯が強く当たっているところが潰瘍になっていましたので義歯を削って調整しましたが潰瘍はなかなか小さくなりませんでした。2週間経っても潰瘍が消えませんでしたので、口腔癌の疑いで大学病院に紹介しました。結果、扁平上皮癌でしたが、高齢であることから、手術はせずに化学療法と放射線療法を受けて退院しました。その後大学病院で管理していただいているものとばかり思っていましたら、デイサービスに隣接する内科の主治医さんに見てもらっているということでした。今回も義歯の下の歯茎が痛むという主訴でした。訪問すると、大学病院で化学療法と放射線療法を受けた部分がニワトリの玉子ぐらいに大きくなって、義歯の床の部分が浮き上がっていました。本人も癌であることを知っていて、奥さんが私に何度も「癌があるからしゃあないけどなぁ・・・」と淡々と繰り返されます。本人も「そやそや」と・・・。以前、「呆けるということは神様からの贈り物だ」と何かの本で読んだことがあります。「十分呆けたら死ぬことが恐いと思わなくなる。」ということでした。ここ数年この言葉を思い出すことはなかったのですが、今日はふと、こんな考え方も良いのではないかと思いました。
2005.06.18
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グループホームの寮母長Fが訪問衛生士をしていた頃(と言っても5年ほど前)のお話しです。脳腫瘍の後遺症で遷延性意識障害のYさんは経口摂取ができなくなり経鼻経管栄養となりました。介護者である妹のTさんから「鼻のチューブを外して、もう一度口から食べさせたい。」と相談を受けて私と歯科衛生士のFが訪問しました。Yさんは体幹保持ができず、20度程度のギャッヂアップがやっとの状態でした。そこで、ケアマネジャーのMさんに口腔の保清、座位時間の確保と頚部の筋力増強、口腔機能の改善を加えたケアプランの組み直しを依頼しました。すると、Mさんは早速Yさんの摂食機能改善のための口腔ケアチームを作ってくれました。ホームヘルパーはYさんをベッドから車椅子へ移乗させて30分後に車椅子からベッドへ戻し、毎日2回、午前と午後に座位時間を確保しました。作業療法士は80キロを超えるYさんの移乗のためにリフターを導入しホームヘルパーに操作方法を指導するとともに頚椎の可動域訓練と身体障害者給付事業を使ってオーダーメイドの車椅子を導入しました。訪問看護師は口腔清掃とアイスマッサージの方法を見学に来て、日頃の訪問時に実施しました。歯科衛生士のFはバンケード法による口輪筋刺激訓練とスポンジブラシによる口腔清掃、歯ブラシによる舌のマッサージ、嚥下反射を引き出すためのアイスマッサージと“綿棒に様々な味をつけたアイス棒”を利用した舌運動訓練を実施しました。2週間後追視がみられるようになり、咬反射は弱くなりました。3週間後、座位に慣れて、訪問時には車椅子に座ってテレビの相撲を見るようになりました。咽頭雑音がなくなり、開口を指示しながら衛生士が口を開けると一緒に口を開けてくれるようになり、タベラックを使って少量のミキサー食を経口摂取することができました。1ケ月後タベラックで十分ミキサー食を摂取することができるようになったので主治医にマーゲンチューブを外してもらいました。これで一応初期の目的を達成することができましたが、今度は、タベラックを使わずにスプーンで食べさせたいという妹のTさんの希望がでました。そこで車椅子にテーブルを付けることになりました。作業療法士が車椅子にベルト固定したテーブルにYさんの前腕をつけました。車椅子の背板からYさんの背中が離れましたが、前腕をつけたままテーブルに顔から突っ伏してしまいました。しかし、鼻がテーブルに付きそうになると上半身を徐々に上腕で支え直しました。こんな力がYさんにあったのがとても頼もしく思えたとき、今度は顔を上げてもの珍しそうにキョロキョロと部屋の中を見回しました。Fが「Yさん、今日はこの夏みかんを食べてみましょうか?」と大きな夏みかんをYさんに持たせました。自分の手にのった夏みかんをじっと見ていたYさんの親指の先がじわじわ動き出しました。まさに皮をむく動作でした。意外な成り行きに作業療法士と顔を見合わせました。私はYさんが自分でむいたようにこっそり手を出し、ひと房をYさんに持たせました。すると次ぎにYさんは右手の親指と人さし指で綿皮をつまんではがそうとしました。こんどは作業療法士がさっと綿皮をはがしました。せっかくYさんがむいたみかんを取り上げるのも申しわけないので、喉に詰らせないか多少心配はありましたが、Yさんが手を口に持っていこうとしていたのを手伝いました。やっと夏みかんの房を口に入れたYさんは、突然「ヒェヒェヒェヒェ」と笑い声を立てました。妹のTさんは驚きながら、「姉さんの笑い声を聞いたのは何年ぶりやろ・・・」と、目頭を押えておられました。(しかし、なんでこの時Fが夏みかんを持っていたのか、未だに聞いた事はありません。)
2005.06.11
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強い物盗られ妄想のあるグループホームの利用者さんが歯科を受診されました。歯科衛生士のTちゃんはいつも丁寧な口腔ケアをしてくれます。今日も歯槽膿漏の処置と口腔ケアを終えて、「先生、虫歯の治療は終っています。次は義歯の型採りですね。」と型採りの用意をしています。私には思うところがあって、「F呼んできて・・・」とグループホームの寮母長を呼びに行ってもらいました。寮母長のFも元職は歯科衛生士です。私の在宅診療の相棒のひとりでした。私と組んで在宅を訪問していた頃は他の衛生士達に「どんくさい」「のろい」と言われ、本人もそう思っていました。しかし、彼女は戦場のような外来ではあまり(全くと言っていいほど)光りませんが、認知症や失語症・遷延性意識障害など重度のコミュニケーション障害の患者さんを前にすると周囲の空気がひとつにまとまるような、患者さんと同化してしまうような衛生士でした。そんな彼女は認知症介護では絶対に光ると思ったので、ショートステイを18床つくる予定でしたが、2階の9床はグループホームにしました。今でもFが音を上げて「自信がありません、もう辞めますから・・・」と言って来る度に「ええよ、辞めるのやったら2階のグループホーム切って持って行きや!!」と言うことにしています。訪問衛生士時代に比べると自信を付けて2倍も3倍も大きくなったFが診療室に来てくれました。「Tちゃんが、義歯作ったらって言うねんけど・・・F、どうする?」「義歯作ったら、枕の下に入ったり、盗まれたりする物が1つ増えますね。2歯欠損ですよね。無くても食べられますよね・・・」と、歯科医師と歯科衛生士の発言とは思えない会話となりました。私達の会話を聞いたTちゃんはキョトンとしています。もちろんTちゃんの考え方は正しいのですが・・・・・・。
2005.06.10
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昨日Hさんのエピソードを書いたらうちの施設長(私の旦那)が「ぼくにも書かせろ!!」と乱入してきました。しょがないなぁ、上手いこと書いてや!!******************やんちゃばあさんは、昨日1泊2日の予定で、自宅へ帰らはりました。朝、皆さんと一緒に食事してもらおうと、8時頃に起こすと、「ギエー」とか「コラーなにすんねん」とか大きな声が出ます。大きな声が出ないと大概熱発してはります。そうなると、体力の備蓄の少ないお年寄りの事、SPO2は下るわ、血圧は上がり下がりするわ。車椅子で、近所のお医者さんのところまで走ります。(ここのお医者さんにいつもお世話になっているので、よく把握してくださいます)待合室では、しなびた菜っ葉みたいになっているのですが、診察室で聴診しようと服を脱がせた途端、「なにすんねん、男が触らんといて」と大きな声。先生も看護師さんもワーカーも、つねられ、蹴られて、大騒ぎ。「これだけ大きな声が出て、動ければ大丈夫です」と、先生も、看護師さんもニコニコ。良い先生が近くにおられて、ありがたい事です。
2005.06.08
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Hさんはショートステイの常連というより居続け利用者。入院中の調査で要介護5・認定期間延長24ケ月なので特別な理由がなくても概ね12ケ月はショートステイを利用できます。30日利用しては、1日か2日帰って行く、やんちゃなおばあさんです。風呂に入ろうというと、「何で今ごろ風呂に入らんなんねん。」「そんなこと言わんともう3日も入ってないから今日は入ってください。」と頼んでも、「うるさいなぁ!!」と手がとんできました。「何でわしはこんな処にいんなんのや。帰る!!帰せ!!」と言って、職員をつねりました。「帰って何するの。ここで美味しいもの食べて泊まって行ったらええやん。」「牛に餌やらんなん。」「Hさん、そんなにヨロヨロでは、牛の餌やり大変やろ、私ら若い者が代わりにやっとくさかい、ご飯たべよう。」と言うと、「おまえなんかに世話できひん・・・うるさいわい。」と足がでました。お茶碗も飛んでいきました。職員全員があざだらけになって、気の長い相談員も「もうあきません。他の利用者さんが恐がって萎縮してます。今度は他所でお願いしようと思います。」と、言い出すほどスタッフ全体が弱気になっていました。そのHさんが急性疾患で入院しました。入院した翌日からショートステイは何処かに何かを忘れてきたような、気が抜けたような妙な静けさに包まれていました。1ケ月も経つとスタッフの誰からともなく「Hさんどうしてはるやろ。」「まだ退院できひんのやろか。」「家に帰えれへんのやったらうちに来るように言うてあげてください。」「お見舞いにいっても良いですか。」などの声が聞こえてきました。そしてHさんは皆の期待どおり2ケ月後、入院先からうちのショートステイに直行してきましたが、前回とは打って変わってシュンとした小さなおばあさんになっていました。そして1週間が経ったころ、パートのFちゃんが「先生!!見てください!!Hさんがつねりました。ほら、こんなに跡ができたんですよ。」と、ニコニコ嬉しそうに報告にきました。相談員は「今日はオムツ換えるとき3発なぐられて2回蹴られました。1発はまともに顔にとんできました。」と、笑っていました。スタッフがそれぞれ殴られた、蹴られた、つねられたと報告してくれますが、誰ひとり「痛かった」と言う者はいませんでした。Hさんお帰りなさい!!
2005.06.07
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特養からショートステイ利用者さんの入れ歯を紛失したので、できるだけ早く作って欲しいと依頼されました。これは利用者さんも特養もお困りだろうと思い、昼休みに連日訪問して4日間で義歯を仕上げたことがあります。患者さんは伝い歩き5m程度、認知症はかなり強く、自分の名前も言ってくれません。息子さんの顔だけは何とか解っていそうな方でした。私は訪問に白衣は着て行きません。普段着の方が患者さんに言いたいことを言ってもらえますし、介護者さんも医療に限らず生活全般について話しやすいだろうと思います。しかし、白衣の力を借りることもたまにはあります。特に認知症の強い方には制服は視覚に訴えて理解をしていただきやすいものです。そんな時はお宅に着いてから白衣を着させていただきます。入れ歯の型採りはミラー・ピンセットや型を採るトレーなどを並べ、問題もなく口を開けていただけました。噛んでくださいという指示を通すのが一番難しいのですが、薄いビニールを「ちょっと失礼します」と噛みあわせの場所におくと、自然に噛んでもらえて誘導できます。これも何とか成功しました。ところが、でき上がった入れ歯を口の中に装着した後で、微調整するために外そうとした時、患者さんが私の手を払おうと叩いてきます。ここは叩かれながらも得意の早業で入れ歯を外させていただきました。しかし、入れ歯を盗まれたと思った患者さんは小さな歯茎で私の腕にがぶっと噛みつきました。驚いた介護者さんが患者さんを大声で叱りながら羽交い絞めにしました。患者さんは羽交い絞めにされながら手をバタバタさせて泣きだしました。今度は私が、「そんなことしないで!!」と介護者さんの手を振り解いて患者さんを奪い取りました。患者さんの悲壮な気持ちが乗移り、涙が出てきました。同行していた技工士さんが磨いてくれた入れ歯を患者さんの口に戻してあげると、腕の中の患者さんがぐっと私に寄りかかって、先ほど自分が噛んだ私の腕をなでてくれました。「大丈夫!ぜんぜん痛くないですよ。入れ歯盗ってごめんね。」と言うと、両手を合せて、にっこり笑ってくれました。まずい!!また涙腺のゆるむ瞬間を技工士さんに見られてしまった。
2005.06.05
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以前、歯科訪問診療の患者さんに認知症の末期で全く意思疎通もできず、痛み刺激にも反応せず、目の焦点は合わず、耳も聴こえていないであろうと思われるCさんがおられました。しかし、食事時間には家族2人がかりで、ちゃぶ台の前の座椅子に座らせてもらい、義歯を入れてもらって5種類も6種類もある軟菜と粥食を全介助で食べさせてもらっていました。唇にスプーンや箸が触れると口を開けてくれます。口の中に食べ物が入ると下顎が動き出し咀嚼運動がおこります。時間がかかり、時々むせたりしますがなんとか嚥下されていました。ところが、時々、パタッと咀嚼運動が止まることがあります。すると、娘さんが下顎の義歯の前歯を箸でカンカンとたたきます。するとまた咀嚼運動がよみがえりました。これは下顎反射が起こって咀嚼運動に結びついているのです。それでもちゃんと食べられていました。このご家族は食事の時は必ず義歯を装着してもらうことと座って食べることを実行されていたので、ほとんど植物状態であっても義歯を使って口から食べられていたのだろうと思います。
2005.06.03
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