楽しみのかけら

楽しみのかけら

Apr 22, 2008
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冬中着込んでいたあったかインナーを、思い切って着ないことにした。
なんだ、もういらなかったんだ。
少し前からハイネックの洋服じゃなくても、寒さを感じなかったけれど、
本格的な春は、とっくに来ていたらしい。

気がつくと、新緑がまぶしい季節に移りつつある。
買物にでかける車の窓から、くすのきの柔らかな緑が目に入る。

まだこの家を建てる前、知り合いの夫婦数組で昼間の食事にでかけた。
ちょうど今くらいの季節。
食事をする店の脇にはぽっかりと空き地があった。

「僕、くすのきって好きなんだよね。」
と、ポツリとつぶやいた。
店に入る直前の、ばたばたしたやりとりの中で、一瞬それに背を向け、
しみじみとくすのきを見て、つぶやいた彼に気がついたのは、
どうやら私だけのようだった。

彼は、他人のことをけなすことはめったになく、
初対面の人とでも誰とでも打ち解けるタイプだ。
それでいて、人の領域にずかずかとは踏み込まないデリカシーをも持ち合わせ、
平和そのものという印象を持つ人が多い。

そのとき、とくに相槌を打つこともしなかったけれど、
なんとなく心に残るできごとだった。


ふとそのときのことを思い出した。
「そういえば、Yさんはくすのきが好きだったよね?」
と私が言うと、ちょっと驚いて、
「うん、そう。何で知ってるの?」
と返事がきた。

「そうだったんだ、僕そんなこと言ってたんだねえ。
ちょっときざみたいで恥ずかしいなあ。」
と照れくさそうな顔をしていた。

あのときのつぶやきは、本当は誰に向けたものでもなく、
彼自身のものだったようだ。
なんだか、ちょっぴり悪かったな。
平和な彼とくすのきのイメージを、近いもの同士と感じるのは、
私の気のせいではないと思う。





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Last updated  Apr 22, 2008 06:51:20 PM
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