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プロフィール

白詰 四葉

白詰 四葉

2007年02月11日
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カテゴリ: 歌人随筆

-ふっ、と空を見上げると、今にも降り出しそうな鉛色の雲が目に入る-


口から漏れた吐息が寒さに触れ雲よりも白くなり、大気に溶けていった。

別に空に何があると言うわけではなかった。

私は空を見上げることが癖になっているのだ。

春先ならば二羽の雲雀(ヒバリ)がお互いを追いかけているものだが、冬なら雀がいい所だ。

ましてや街中、送電線が道路に沿って走っているような場所ではそのような風流は期待できない。

特に意味の無い一連の動作を終え、私はまた歩き出そうとした。

するとコツンと、何かが私の膝に触れる感覚がある。

また道路のパイロンにでもぶつかったかと、自分の不注意さを思いながら膝を確認すると艶やかな髪が視界に飛び込んで来た。

しまった、と私は後ずさった。

ぶつかったのは無機質なプラスチックではなく、私の腰ほどの身長しかない少女だったのだ。

「ごめんね、怪我してないかい」

上の空とはまさにこの事 古人はよく言ったものだ。

少女は目をつむっていたが、顔を上げると何も言わず頷いた。

白い肌とファーのジャケットにおかっぱの黒髪がよく映えている。

日本人の外見的美しさ、とはこういうことなのだろう。

私の同年代の間では暫く見られない容姿だ。

少女はあわてることもなく、ぶつかった私の膝と顔を見比べていた。

何か詫びを言いたかったのだが、この歳の少女がここまで落ち着き払っているとどう接すればいいのか迷ってしまう。

口を金魚のようにしている私を少女は立ったまま不思議そうに見つめている。

ここで何か口にするのもひょっとしたら無粋な事なのかもしれない、と私は思った。

別にこの少女に風流を求める訳ではないし、ましてや感傷が欲しい訳でもない。

ただ私がこの瞬間感じたのは、言葉を発してもそれがただの音になってしまうのではないかということだった。

私は少女の前にしゃがみこんで、正面から彼女を見据えた。

少女は首をすくめて私を訝しげに見返した。

じっと顔を見つめるのは女性に対して失礼だが、長い睫毛に護られたその目はとても魅力的で私は視線を奪われつつあった。

彼女の瞳は黒真珠と喩える他に表現が無いほど深く、煌き、私を強く引き込んでいたのだ。

結局、私は黙ったままポケットの中から飴玉を一つ取り出し、彼女に差し出した。

梅の飴玉は大きめで、それは少々不親切だったかもしれない。

少女はその小さな手に飴玉を掴むと、ほっ、と頬をほころばせた。

やはり言葉は要らなかったようだ。

少女のほんのり桃色の頬がこの日の寒さを今一度感じさせた。

私がすくと立ち上がると、少女は会釈し顔を見ないまま、私の脇を走り去って行った。

私は歩き出す前にもう一度少女の姿を見ようと振り返った。

少女は歩みを止めることなく、民家の続く路地へと入っていく。

最後に私が眼に焼きつけたのは、やはりあの黒い髪と白い頬であった。


ふっ、と空を見上げると、今にも降り出しそうな鉛色の雲が目に入る

まばたきに目を閉じたとき、私の目蓋に映ったのは雪の色だった







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最終更新日  2007年02月11日 23時49分03秒
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