はにわきみこの「解毒生活」

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2005.05.12
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「いいお店じゃない! マイって旅慣れてるのね」


 私はバックパッカーズロッジからマイを連れ出すと、お洒落なレストランでの夕食に誘った。いつも突然で強引なのね、と笑いながらマイは相手をしてくれる。
 私は今、女友達との気楽な会話を楽しんでいた。私の心を囲っていた壁は、がれきの山となって、一輪車でせっせと運び出されているところなのだ。

「実は私、マイの恋愛観について知りたいのよ」
「ひゃあー。照れるー。でも私、けっこうサッパリしてるからなあ。全然、ドラマチックな話なんてないよ」

「たとえばね、自分の親友とか…姉妹とか、身近な人の彼を好きになったら、どうする?」
「おお。ありがち。ただ、アレだねえ、成就させるのは難しいシチュエーションだよね。どーしても、比べられてる気がするしね。でも参考になることは言えないな。 そんな相手は見ないようにするから



「つまりさあ。接する時間が長くなると、その人のことが見えてくるじゃない? 身近な人の彼っていうのは、話にも出てくるし見る機会も多いから、自然と親しみを感じちゃうもんなのよ。 だから、できるだけ見ないようにする。惚れないように

 接する時間が長いと惚れやすい。単純だけど真理かも。私は、生まれたときからのつきあいに等しい龍一のことを思い浮かべた。

「じゃあ、恋は先着順てこと? ある男性がいて、二人ともその人のことが好きだったらさ。先にくっついた方に優先権があって、それに出遅れたら、いさぎよく忘れる、と」
「先着順て言ったってアンタ。人には好みってもんがあるんだし。先にアタックした方がフラれる可能性だってあるじゃない?」

「とにかく! ここぞっていうタイミングを逃すと、もやもやするのよ。不完全燃焼。どうせダメでも、ちゃんと告白してフラれたかったって。
黙ってるだけで土俵にのれなかったのって、悔しいじゃない

「アナン、それって昔の話でしょ? 過ぎたことにこだわりすぎると、今を見失うよ。失敗したっていいのさ、それで勉強になったんだから」

 鋭い。この人は鋭すぎる。マイこそ占い師のようだ。

「じゃあ、話を変える。
 結婚って恋愛のゴールだと思う? 私ね、結婚にいいイメージが無いのよ。契約をむすんで、お互いの利用方法を決めたって感じがして」


 そうか、さすが発想がグローバル。私は日本の常識にガチガチに縛られていた。
 人との会話には発見が多い。一人で考えているだけでは手に入らない視野が開けるものなのだ。
 黙り込んだ私をみて、マイは言葉を続けた。

「でもさあ、結婚なんてしたい人はすればいいし、したくなければしなくていいじゃん。日本ではまだ、年頃なのに独身だと肩身が狭いわけ? だいたい、一緒に住みたいと思える人ができたときに考えればいいじゃない?  結婚ってのは生活なんだからさ


 恋愛と結婚は違う。あの時の私も、うすうす気づいてはいた。ドラマのような激しい恋が、日常的な落ち着き先を持てるわけがないと。
 私を夢中にさせた危険な香りは、非日常的な異国のスパイスだった。時々ならば刺激だが、毎日食べても飽きない味噌やしょうゆには成りえなかったのだ。

「いいこと言うね。生活のリズムって確かにある。私は誰かのためにそれを乱されるのがすごくイヤだわ。あと、女なんだから当然って顔で家事を要求されるのもイヤ」

「じゃ、結婚なんてしなきゃいい。 恋に落ちたら必ず結婚しなきゃいけない、なんてルールがあるわけじゃないんだから

 胸の中に稲妻が光った。一瞬にして、真理が照らし出された感じ。
 私は、恋とは結婚相手を捜すための入り口だと思っていたのだ。別々の存在としてとらえたことがなかった。

 奈々と私の二人分がまざりあった意識の中で、ただよっていた言葉、「結婚」。
 必要ないなら放って置けばいい。無理やり自分の人生に採用する必要なんかないのだ。
 笑いがこみ上げてきた。

 私ったら、なんて律儀で大まじめだったんだろう。
 これまでは他人の価値観で囲まれた檻の中にいたのだ、と始めて気づいた。最初の結婚は相手の口車に乗せられた、という要素が大きいけれど。あれからもう10年たつ。
 私だって成長してきたはず。自分なりの考え方で歩いていいのだ。

「ほんと、マイの言うとおりだわ。やりたいことはやる。やりたくないことは、やらない。それが自分を解放するってことなのね!」

 いやはや。これまでの私はいったいどれくらいの重石を使って、素直な欲求をを押しつぶしてきたんだろう! ここへきてようやく、答えが見えてきた。
選択肢は「どっちをとるか」だけじゃない。「どっちもいらない」もアリだってことに。





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最終更新日  2005.05.12 12:39:59


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